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完璧な失恋がどうしても欲しくて、夜空から星を、全部、落としてしまった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:長谷川 賀子(ライティング・ゼミ)

「あっ、見て! かわいい!」

がしゃがしゃとした、慌ただしい人混みの中に、
ふわっと、かわいらしい声が、浮かんだ。

一年の最後のこの季節は、なんだかとっても不思議だ。
正反対の世界が、一緒に住んでいるような、
矛盾する世界が、隣り合わせで、私たちを見ているような、
そんな季節に感じる。

街を、ふらっと、歩いていると、
冷たい風に混ざって、
陽気な音楽が聞こえてきて。

燃え尽きた最後の葉を、土に返した木の枝には、
カラフルな電球が付けられる。

愉快な街の通りから、一歩外れると、
一年のすべての寂しさを集めたような、冷たい世界が、広がっていて。

ご機嫌にイベントを楽しむ人たちを、見下ろすビルの中では、
スーツを着た人たちが、せわしなく最後の仕事をしている。

厚い雲を夜の闇で隠したような空の下には、
ごちゃごちゃと飾り付けられたアーチが、街の明かりに照らされ光っていて。

そして、
その下を、ぼんやりとひとりで歩く私の前には、
かわいらしいカップルが歩いていた。

男の子の隣を歩く女の子は、
パステルカラーのファーのコートに、茶色の巻き髪が揺れている。
かわいらしい前髪の隙間から、くるんとカールしたまつげが、ぱちぱちしていた。
冬なのに、
まるで春の野原に咲いている、お花みたいだ。

お花がそよそよと、風に身体を預けるみたいに、
右にちょっとだけ、傾いている。

繋いだ右手は、きっと、あったかいんだろうな。
そんなふうに、ぼんやり思いながら、私は自分のポッケに、手を入れた。

自分の手の体温が、ポッケの中で膨らんで、
ぽかぽかしてきた。

でも、右の頬が、少し冷たい。

ふっと見上げた先にある、
愉快なトナカイのオブジェが、
憎らしい。

陽気な音楽と、にぎやかな色が溢れる街の中で、
私の心には、一瞬、北風が吹いたみたいだった。

ナンダカ、セツナイ、ナ。

そんなふうに、クリスマスを待ちわびる街の中で、わたしは、思った。

でも、そう思わせるものは、
自分のポッケで、自分の手をあっためていたからじゃなくって、
右の頬が、冷たかったからじゃなくって、
もっと、別のところに、あった。

もっと、その向こう側に、気が付きたくなかった自分の気持ちを、知ってしまって、
わたしを、いっそう、セツナク、したんだ。

だって、きっと、まっすぐだと思っていた、わたしのこころの中にも、
まるで、12月の空気みたいに、
矛盾した世界が広がっていたことに、
気がついてしまったから。

お花みたいな女の子を、
羨ましく思いながら、そして若干、わたしは違うと意地を張りながら、
自分の中に潜んでいる矛盾と、哀しい現実に、
気がついてしまった。

記憶が数年前に、とんでいく。

教室の後ろの方に、座っていた、男の子。

わたしはその時、人見知りだったから、
その人のことをたくさん知ってたわけじゃないけど、

たぶん、知らなかったから、
話してみたいなって、思っていたんだと、思う。

たぶん、いわゆる「いい人」ではないけど、
でも、「彼の」優しさの基準は、どこか、すーっと、まっすぐで、
それは、たぶんみんなに平等で、
時々、ちょっぴり言葉が痛くって、
時々、そこまで心配しなくてもってくらい、優しいところが、

なんだか、不思議で、
彼の頭の中を、覗いてみたかった。

片方の肘をついて、数学の問題を解いている彼の方を、
わたしは肩の隙間から、気づかれないように覗いていた。

話しかけるなんて、できないから、
彼の背景に見える、窓の外の、枯葉をつけた木々を見ながら、
若い緑の方が、きっと似合うのにな、なんて、
ぼんやり一人で、考えていた。

だけど、
やっぱり、
お話ししたいな。

きっと、
数年後のわたしが街で見かけた、お花みたいな女の子だったら、
楽しげに話しかけに行くんだろう。

でも、わたしは、今の自分を知られるのが、怖くって、
話しかけて、つまらないな、って、思われたくなくって、

彼にじゃなくって、
なぜか、教科書に、話しかけていた。

好きな人は、自分より、ずっと遠いところにいるみたいに感じる。
好きになると、急に遠くにいるみたいに、なってしまう。

もう少し、近づけたら、話しかけよう。

自分磨きの方向も、
彼と仲良くなる方法も、
全然、間違っていることは、心のどこかでわかっていたけど、
私には、これしか、できなかった。

ノートに放物線を描くたびに、
わたしと彼との間に、波が広がるみたいに、
距離が離れていくのを感じながら、

この方法しか、駄目だったんだ。

もしかしたら、こころのどこかで、
こういう自分でいたかったのかもしれない。

届くかどうかは、別として、
ちゃんと自分が、自分にならなきゃ、
相手に好きだって、言いたくなかった。

ちゃんと、自信をもって、自分で立っているわたしを、
好きになって欲しかったから。

なにより、ただのかわいい子になんて、なりたくなかったから。

でも、そんな方法で、彼に好きなんて伝わるはずもなくって、
わたしの中に「彼のことが好きだった」という記憶だけが残って、
過ぎていく時間に紛れて、はじめから何もないみたいに、消えてしまう。

そして、完璧な片思いが、できあがる。

ひとりで誰かを好きになって、
わたしの気持ちは知られないまま、
時間がどこかにさらっていって、

まるでこの世界に、この気持ちが存在しなかったみたいになるのに、

わたしの中に、好きだった人の記憶だけが、はっきりとした輪郭をもって、残ってしまう。

私の中にたまった恋の記憶は、どれもこれも、完璧な片思いだった。

大好きだった仲良しの人に彼女ができても、
一粒だって泣かなくって、今まで通り平気でにこにこ話していた。
憧れの人が、遠くに行ってしまうのをわかりながら、
今はそんなこと考えている場合じゃないって、冷静にプレゼンの準備をしていた。

「わたし」がどこにも存在しない出来事たちは、どこか出来事の終わりを曖昧にして、
「わたし」がいた時間だけが、やさしく浮き上がってくる。

その、記憶の、ひとつひとつが、
まるでプレゼントみたいに、丁寧に包まれて、残っていた。

クリスマスの街中で、わたしは、そっと、自分で包んだ、記憶を開けた。

どれもこれも、輪郭ははっきりしていて、
おまけに、きらきらしている。
恨めしいほどに、輝いていて、優しい。

そのきらきらは、もうわたしが立っているところには、存在していないのに、
今と過去との区別がつかないくらい、はっきりしていた。

その時、わたしは、気がついたんだ。

自分が大切だと思っていた記憶達が、わたしのこころを寂しくしていることに。
そして、わたしが、強くなりたくて、していたことが、
本当は、とっても、弱かったんだって、ことに。

そして、片思いなんて、きらきらさせたら、とっても寂しいんだってことに。

気がついた。

結局、わたしは、失恋をする、覚悟が、なかったんだ。

好きだって、言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。
泣かなかったんじゃない。泣けなかったんだ。

目の前にあるものが、変わってしまうのが、嫌で、
わたしの中にあるものが、無くなってしまうのが、怖くて、

何も得ない代わりに、
全部を、変えないことを、
選んだんだ。

セツナクなった理由は、こういうことだったんだ。

強くなりたかった自分が、どんどん弱虫になっていって、
一生懸命生きていた方法が、逃げ道をつくっていただけだったから。

相手のためでも、周りのためでもなくって、
ただ、自分が傷つきたくなかった、それだけだったんだ。

アア、カンペキナ、失恋、ガ、ホシイ。

完璧な失恋を手に入れられたら、
きっと、
幸せと哀しさが滲んだ記憶に捉われることも、
弱い自分に、悲観することも、
そして、現実から逃げることも、
きっと、ない。
そんなことは、もう、しない。

きっと、次は、前に進める。

ああ、どうしても、完璧な失恋が、欲しい。

クリスマスの街に包まれて、幸せそうに歩く恋人たちの隅っこで、
わたしは、失恋が、欲しくて、欲しくて、たまらなくなった。

でも、願ったって、あの日に戻れるわけじゃないし、

頭上に見えるトナカイのひくソリに乗って、サンタさんが運んできてくれるわけもない。

哀しいな。

わたしは、恋もできなければ、失うこともできないんだ。

見上げた視界が、うっすら滲んだ。
街の明かりが混ざり合って、わたしのセツナサとは裏腹に、目の前がキラキラしている。

このまま下を向いたら、全部、流れていくのかな。

街の明かりと、素敵な記憶が溶け込んで、宇宙みたいな瞳から、
そこに溢れる星みたいな光を、全部、落としてしまったら、

失恋は、

わたしのもとに、

やってきてくれるのかな。

目の淵から、そっと、すべてを、流そうとしたとき、

わたしは、全てを思い出したように、

瞳で、滴を、飲み込んだ。

だから、弱虫は、駄目なんだって!

可笑しい。本当に、可笑しい。

強くなりたくて、失恋が欲しかったのに、
ただの泣き虫になるところだった。

やーめたっ!

もう、やめた!

滴は、瞳に吸い込まれて、
ぐちゃぐちゃに滲んだ景色は、もとの位置に戻っていった。

わたしは、前を、向く。

大丈夫。

わたしは、もう、わかったんだから。
自分が歩いてきた道がどんなものだったのか、目をそらさずに、向き合えたんだから。

完璧な失恋を手に入れるのは、
優しい恋が、やってきてからでも、いいじゃないか。

そんなふうに思ったら、
全部、なんでもないようなことに思えた。

鈴の音みたいに、こころが、軽い。

街は、楽しい音楽と、素敵なもので溢れている。

わたしは、背筋を伸ばして、
わたしの心と同じ、軽やかな世界を、歩き始めた。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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