メディアグランプリ

大吉男に振られた凶女


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:紗那(ライティング・ゼミ)

 

 

これは、とある女の話である。

2016年の幕開け。女は大好きな彼氏と初詣に行った。今年もよろしくと彼氏と笑い合い、じゃれあい、おみくじを引いた。

残念なことに凶だった。

「げー。凶だよ! 嫌だ!」

「どれどれ! 本当だ! お! 俺は大吉だ! やった!」

彼氏は笑いながら女の凶をちゃかし、自分はちゃっかり大吉を引いていた。

怪しい雲行きもなく、ただ普通のありきたりな恋愛ドラマの1シーンみたいな1コマだった。女はこのささやかな日常が来年も再来年も続くと思っていた。

 

だけど、その数週間後、その女は呆気なくフラれた。

 

ガラガラガッシャーンと女の恋愛は幕を閉じた。恋愛における強制終了ボタンが発動されてしまったのだ。

おかしなことに大吉を引いた男に凶を引いた女はフラれたのだ。こんな最悪な話があるだろうか。女は凶で男は大吉だったのだ! あの、おみくじで一番最悪な凶と最高な大吉である。年の初めになんと最悪なことか。大吉を引いた男がこの後、益々いいことがあったりして、凶を引いた女に益々嫌なことがあったりするのだろうか。

 

なんとも不憫な話だ。

 

大吉の男が一人で幸せになるなんて許せん! と女は腹が立ち、なんともバカなことにフラれた数週間後、もう一度おみくじを引きに行った。

 

結果は「小吉」だった。

 

「ん? ちょっとましになってるぞ!」

対して変わらない結果にも関わらず、アホな女はちょっとだけポジティブになった。

 

「だって、凶より怖いものないもん!」

女は友達にそう言いふらしていた。

だけど、なんだかんだいって30歳目前での失恋というのは、結構痛いものらしい。

一応、世間体とかを気にして、安住の地、結婚方面行きという金ピカの切符が頭にチラついていたんだろう。女は意外と落ち込んでいた。

真面目に人生はもう終わりだと思っていた。そんな彼女を救ったのは昔からの友達だった。いつもはそんなに泣き言を言わない女がひどく落ち込んでいることを心配して、色々なところに連れ出してくれた。カラオケや、飲み会や、愚痴に飽きずに付き合ってくれた心優しい友人達に女は大いに救われた。

大きなモノを失った代わりに、自分が今持っている大切なものたちがくっきり浮き出てくるようだった。

 

フラれてぽっかり穴が開いてしまった女は、その隙間を埋めるように、まぁ、簡単にいうと暇だったから、今まではあまり好きじゃなかったことをあえてしてみることにした。本当はこたつでミカンが好きだけど、そんなことをしていたらそのまま、冬眠してしまいそうな心境だったので、とにかく外に出た。人見知りのくせに色々な新しい人に会ってみたくなった。新しい場所に足を運んで、今までの人生とは全く違う選択をしてみたくなった。

 

今までの自分が見たことのない世界や、見たことのない人や考えに触れたくなってしまったのだ。会社以外の人とたくさん会う機会を作った。そうして、自分がいかに狭い世界でうじうじ悩み、生きていたかということに気づいた。

 

また、一年でびっくりするくらい感情が豊かになった。

失恋映画を見て自分と重ねて大号泣したり、笑える映画を見て大笑いしたり、何回も同じ映画を見て思わぬ発見をしたり。悲しい歌を歌いながら泣いたり、元気が出る歌で踊ったり。そうしている内に心がコロコロと音を立てて動くようになった。誰かの創った歌のワンフレーズが、小説の一文が、映画のワンシーンが、こんなにも人の胸に突き刺さり、勇気を与えてくれるものなのかと感動した。世の中に落ちているものが実はキラキラしていることに気づいた。

 

 

さらには、とっても怪しい書店の扉を開けてしまった。本屋なのにこたつがあるとか、真夜中に写真を撮る謎のイベントをやっているとか、書くことで人生を変えるとか言っちゃっている怪しい書店である。しかも、その店主の人はバリバリフルスロットルといつも言ってメチャクチャ働いている。おかげで最近、女も気合いを入れるときにバリバリフルスロットルと言いたくなってきているらしい。この変な本屋に女は騙されているのかもしれない。だけど、今のところ、変な壺は売られていないようだから、もう少し信じて「書くこと」を真面目にやってみようと思っている。

女は「書くこと」をもっともっとやってみたいと思っている。もし「書くこと」で読んでくれる誰かのほんの少しでも力になれるのであれば、それはなんとも幸せなことだ。

女はどん底の凶の下で自分が一番やりたいことを見つけたのだ。

 

2016年の終わりが近づいた今。

女は心底思った。

 

友達の大切さに気づけた一年

色々なことに興味が持てた一年

感情が豊かになった一年

そして何より「書くこと」に目覚めた一年
なんだ! 振り返ったら全然「凶」じゃないじゃん!
むしろ、「最強」だったじゃん今年!

と、女はくだらないダジャレを思いつくくらいに元気になっていた。

 

もし来年おみくじで凶を引いてしまった人がいたら、

思いがけず大好きな人に振られてしまった人がいたら、

もうダメかもしれないと思うことがあったら、

その時は慌てず騒がず、こういう女もいたなぁという話をちょっとだけ思い出してほしい。

 

凶だってたぶんそんなに悪くない!

*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-12-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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