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プロフェッショナル・ゼミ

私たちはいつからセックスをしなくなったのだろう《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永井里枝(プロフェッショナル・ゼミ)

これは本当に残念なことなのだが、最後にセックスをしたのがいつなのか、私は思い出すことができない。
30歳、独身。
彼氏なし、ではない。彼氏はいる。少なくとは私はその人のことを恋人だと思っているし、その人も私のことをそう思っているはずだ。この前ちょっと不安になって確認したから、間違いない。
しかし、世間でいうところのいわゆる「セックスレス」とはちょっと違うような気がする。きっかけがないわけでもないし、恥ずかしいわけでもない。面倒だなんて思ってもいない。それに関しても、おそらく同じ認識でいると思う。これは確認してないから、間違いかもしれないが。

なんでセックスをしなくなったんだろう、と思い返してみる。彼と出会ってから、もう9年が経とうとしている。あの頃、今の私たちが、もうセックスもしなくなってしまったなんて、想像ができただろうか? タイムトラベルができるのなら、あの頃の私に会いに行って伝えたいけれど、きっとその意味なんてわかりはしないからやめておいた方がいいのかもしれない。

彼と出会った頃、私は彼のファンだった。地元バンドのギタリストだった彼に一目惚れならぬ「一耳惚れ」をし、通い始めたのがきっかけだった。これは私の偏見なのかもしれないが、当時のちょっとイケてるロックバンドなんてものはファンの女の子に手を出すのが当たり前みたいになっていた。見にいく方も、ライブが目的というよりは、終わった後に話したり、構ってもらったり、運よく打ち上げなんかに参加できればそのままお持ち帰りしてもらえるかもしれない。誘う方も、誘われる方も、なんとなくそれを了承しているような雰囲気があり、終演後のフロアの空気は欲の文字で息苦しいほどに感じていた。
私はというと、ライブハウスには場違いな、清楚な、いや、質素な、違うな、素朴な感じの服装で、そのギタリストの演奏を見るためだけに一人で参戦していた。周りのお姉様方とできるだけ視線を合わせぬようにし、喫煙所にはできるだけ近づかないように隅っこの方で膝を抱えて出番を待っていた。
前のバンドが終わると、上手の最前列を誰にも渡さぬように、一目散に走ってステージ前へと向かった。オープニングのSEがなる。タオルを回しながら入ってくる彼。ああ、生きてるわ、私。そうして30分間、私は恍惚の眼差しで彼を見続けるのである。
ライブが終わると、他の女の子たちとは違い、すぐに帰るようにしていた。本当に好きな人の前になると一言も話すことができなくなるのである。後になって「俺、絶対嫌われてるんだと思ってた」と彼に言われた。
その誤解が解けてから、徐々に話をするようになり、バンドの打ち上げにも誘われるようになった。相変わらず場違いな雰囲気を醸し出していたはずだったが、そんな私にも彼は優しかった。
他のメンバーももちろんいい人たちだったのだが、見るからに「女好き」といった感じで、どうにも馴染めなかった。しかし彼はその様子を遠巻きに見て「みんなよくやるなー」と感心しているような節があった。
この人は、バンドマンだけどきっと真面目なんだわ。
そう信じて疑わなかった。

まさか次の朝、彼と一緒にホテルで目覚めることになるなんて、思ってもみなかった。
前日の打ち上げで他のメンバーにからかわれた私は、少しヤケになって飲んでいた。お酒は強い方なのに、なぜか周りが早く、ベロンベロンに酔っ払ってしまったのだ。そしてあろうことか「私は今日はお家に帰りません」だの「ギターの人にお持ち帰りされます」だのと大声で駄々をこねたのだそうだ。
「だからね、お持ち帰りしてあげたよ」
ニコっと笑う彼も、その隣の私も、もちろん服は着ていなかった。
昨晩の記憶がないことを伝え、詫びた。
「永井ちゃんね、ベッドの上ですごい綺麗だったよ」
酔っていたことなんてどうでもいい、といった感じで、彼は言った。それから、気持ち良かったとか、上手だねとか、その他諸々の今まで聞いたことのないセリフをたくさん言ってくれた。
冷静に考えれば、それはただの社交辞令のようなものだったのかもしれないが、純粋に自分の体を褒められるということがこんなにも嬉しいものか、とその時は思った。

その日から、時間を見つけては会うようになった。
家も少し離れていたし、昼夜逆転の生活を送る彼と会う時間を作るのは、簡単なことではなかった。
だから、少しでも会いに来やすいように、と彼に合鍵を渡したのは自然な流れだったと思う。家で待っていてくれるかもしれないと思うだけで、帰り道の足取りは軽かった。

「付き合おう」という言葉がないと、恋人にはなれないのだろうか?
この頃、私はいつも思っていた。そんなに間を開けることなく会ってはいるものの、私たちの関係に名前をつけることができずにいたからだ。今となって考えればただのセックスフレンドだとわかるのだが、当時は「自分に限ってそんなことはない」と妙に自信を持っていたのだからタチが悪い。
帰ってくると彼が家にいる。喜びで叫び出したい気持ちを悟られないように、奥歯を噛み締めながら「来てたんだ」とだけ言う。荷物を下ろすとそのまま服を脱ぎ、下着姿でベッドへ潜り込む。時間がないので余計な会話などしない。私の家にいるということは、つまり私を抱きたいということなのだ。
恋愛に関してかなり奥手だった私は、彼と出会う前に知っていた男は1人だけだった。その1人も、残念ながら私が初めての女だった。ままごとのようなセックスしかしたことのなかった私に、彼は少々刺激が強すぎた。これをこうするといい、とか、もっと口をこうした方がいいとか、この体位の時は足をこっちに抜いた方が気持ちいいらしいよ、とか、もうありとあらゆることを教わった。大人とは、こんなにも色々なことを知っているのか、と、既に年齢だけで言えば十分大人の私は、感心しっぱなしだった。

薄々、勘づいてはいたことなのだが、彼には私以外にも女がいた。それも1人ではない。本命の彼女の他に、2番目として何年もキープにしている人と、よくライブにもくる女の子と、その他はたまに連絡して、返事があれば居酒屋経由でホテルに行くような単発の子まで、どこまで数えていいのかわからないくらいたくさんの女の子と遊んでいた。
でも、当時の私は「俺いま彼女いないんだ」という嘘を信じられるくらいには頭が悪かったし、定期的に会ってくれるようになってからは、本当のことを知るのが怖くて、余計なことは聞かないようにしていた。
だから、その事実を知った時にはショックだった。
あまりのショックに、直近の半年分くらいの記憶がぶっ飛んだ。

ここまでで、「もう彼とは別れなさい」という声が聞こえて来そうだ。
実際、当時友達に彼の話をすると、10人が10人「別れた方がいい」と言った。特にバンド関係の友達は、私の知らないところでの女の噂も仕入れていた。
「永井ちゃんが傷つくだけやけん、言わんどく」と苦悶の表情で言葉を飲み込む友人に、なんだか申し訳なさを感じていた。

それでも、別れられないものは別れられない。
文字で書くと淡白なものだが、「体が離れられない」というのを身を以て知ることになる。
頭では離れようと思っていても、こちらから連絡をせずに3日、5日、1週間、10日も過ぎると指先が震えてくる。
ああ、私の寂しい窪みはもうあの人で満たされることがないんだ。
二つ突き出た膨らみも、あの人を包み込むことはないんだ。
そう思うと、生きていることの意味すら疑わしくなってくるのである。
体が離れられないのではない。体を求められることがないという寂しさに、耐えきれないのだ。
別れると決めても、しばらくするとやはり連絡してしまう。そして、何事もなかったかのように元の関係に戻る。
いや、元通りではない。彼に抱かれる度に、他の女のことが頭をよぎった。
この手で、あの子に触れて、同じ手で、いま私の胸を掴んでいる。セックスが気持ちよければ良いほど、あの子のこともこんな風に愛したのかと悲しみが深くなった。

そんな日々が何年か続き、私は浮気をした。
正直なところ、特に好きな相手でもなかった。もっと正確に言えば、誰でもよかった。
口が硬そうで、優しそうで、ちょっと良い匂いがする人なら都合が良かった。
私は彼に知って欲しかったのだ。自分以外の誰かに恋人を抱かれる感覚を。だからわざとバレるようにした。彼からの連絡に返信せず、何か聞かれても不自然に話を濁した。
「この前電話出なかったけど、何してたの?」
「友達と遊んでた」
「友達って、誰?」
「言っても知らないよ、きっと」
「いいから言ってよ」
私は浮気相手の名を告げる。「知ってる人じゃん」と追及が始まる。
「そうだよ、だから言わなかったの」と拗ねたように言い放ち、「セックスしたよ」と付け加える。
長い沈黙の後「そっか」とだけ彼は言った。
そして服を脱ぎ、私をお姫様抱っこしてベッドに運んだ。
てっきり怒られると思っていた私は、拍子抜けして身を任せた。いつも懸命に奉仕するのは私だったが、その日は逆だった。これまでにないくらいたっぷりと時間をかけて、体の隅々まで愛してもらった。彼はその怒りを、私の寂しい窪みに押し付けた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
「泣いてるよ」
「泣いてるさ」
何度私が果てても、彼はやめなかった。
どのくらい経っただろうか。ようやく怒りを吐き出した彼は、ベッドにごろんと寝転んだ。
「ごめん」
「ううん、私がごめん」
何を謝っているんだろう、この男は私の何倍も浮気をして、他の女を抱いているというのに。私はたった一度、この男の嫉妬心を煽るために浮気をしただけだ。
それなのに、悪さの絶対値でいったら彼の方がはるかに上なのに、自分の方が悪いことをしてしまった気がしたのだ。
浮気の件について、それ以降責められることは一切なかった。セックスの時に、ふと思い返したように動きが止まる、なんてこともなかった。そしてまた何事もなかったかのように、彼は浮気を繰り返した。

私はそれに見て見ぬ振りをしつつ、時々「他に女の人がいるなら、バレないうちに別れてね」と釘をさし、いつの日か自分だけを彼女としてくれると信じて待っていた。

3年待って、その日は来なかった。
本当に、本当に別れることにした。
所詮、彼はステージの上の人、私には届かぬ存在だったのだ。それが、たった一晩のアクシデントで彼は私を抱くようになり、彼を独り占めできるんじゃないかと錯覚していただけだ。
そうだ。そもそも私には無理だったのだ。彼は優しいのではない、人がいいだけだ。誰かに何かを頼まれたら断りきれないだけだ。だから私の誘いも、他の女の人の誘いも、断ることができないだけだ。そこに愛だとか、そんなものはきっとない。私も彼の体に依存してただけで、彼を愛してなんかいなかった。そうだ、愛してなんてなかったんだ。自分を認めてくれる存在が欲しくて、それが、私と彼にとっては体だったんだ。だから離れられないんだ。
でも、彼は私を一番にしてはくれない。
ならば、やはり別れるしかない。

「好きな人、できたから」
まるで今日はハンバーグだよ、とでもいうように、できるだけ軽いテンションでそう言った。
「仕方ないね」
それは「君だけのものにはなれない」という意味だった。
思ったよりもすんなりと別れを受け入れた彼に、怒りとも悲しみとも呆れともつかない感情が溢れてきた。もう何も言わないでおこう。そう心に決めて彼の元を去った。

それからほどなくして、私には新しい恋人ができた。
嘘がつけない正直者で、周りから好かれるとてもいい人だった。
しかし、「一緒に住んだらバイト探す」と言って実家から私の家に転がり込んだものの、働かなまま1ヶ月がすぎ、2ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ、気がつくと違う女の家に転がり込んでいた。

虚しさだけが部屋に残った。
私は誰からも愛されない人間なのか、と途方にくれた。
泣いている余裕なんてなかった。2人で生活していた時に切り崩した貯金は、ほとんど底をついていた。

そんなとき、彼から連絡が入った。
私がまた一人に戻ったと、誰かから聞いたようだった。

「別れたんだって?」
「そ、逃げられたって方が正しいかな」
できるだけ明るくそう言った。
つもりだった。
一人でも全然大丈夫、そう強がっていたかったのに、再会したファミレスで、人目もはばからず大泣きしてしまった。
それを、ただ黙って見ている。運ばれてきたハンバーグが冷めるのも気にせず、私が泣き止むまでずっとニコニコと笑って見ているのだ。

「あのね、別れたんだ、俺も」
少し得意げに、彼は言った。
「みんな、一緒に住んでた人も、浮気してた女の子も、みーんな別れちゃったの。なんかね、永井さんみたいな変わり者と一回付き合うとね、他の人じゃ全然面白くなくってさ。おかしいよね、散々浮気してたのに。ああ、本当にいなくなっちゃうんだと思ったら、会いたい人なんて誰もいなくて。それで、みんな別れちゃったの」
「私は変わり者ではありません」
おかしくなって私は言った。そして彼は続けた。
「だから、一緒に帰ろう」

ああ、ダメだ。彼には勝てない。
いつもそうなのだ。私が甘えられるのは彼だけなのだ。
思い通りにいかず悶々としている時も、頑張りすぎて体調を崩す時も、八つ当たりするときでさえ、何も言わずに見守ってくれる。そして、ひとしきり発散して疲れて眠っている私の髪を、そっと撫でてくれるのである。私に聞こえるか聞こえないか、そんな微かな声で「いい子だね」と言っておでこにキスをする。そんな彼は、やはり人がいいのではなくて優しいと思ってしまうのだ。

こうして、私は彼の元へ戻ってしまった。
一緒にいたいと思ってくれる、それだけでもう十分だ。彼が私を変わり者だというのだから、きっとそうなのだろう。そんな変わり者をここまで愛してくれる人が、この先現れるなんて保証はない。いや、現れたとしても、もういいや。私だって、彼のような変わり者と一度付き合ってしまうと、普通のいい人で満足できるはずなんてないのだ。
正直、もう浮気をしていようがしていまいが、どっちでもいい。セックスだって、してもいいし、しなくてもいい。実際、よりを戻してから何回か抱かれたはずなのに、それがいつのことだったか記憶が定かではない。
あの頃、二人でいてもどこか寂しくて、それを埋めたくてセックスばかりしていた。すればするほど傷つくとわかっているのに、どうしてもやめられなかった。
でも、今は違う。以前に比べて会う頻度は低くなったが、会えない時も寂しさを感じることはなくなった。お互いに何かを押し付けあうこともなくなったし、喧嘩なんてどうやってしたらいいのかわからないくらいだ。

「ねえ、久しぶりに、しない?」
「どうしたの? 急に」
驚いた表情の後に、嬉しそうな笑みが浮かんだ。
久しぶりのセックスは、ベッドの上でもぞもぞと絡み合うだけだった。
「もう、やり方忘れちゃったね」
「リハビリが必要かも」
おじいちゃんとおばあちゃんがセックスしたら、こんな感じかもね、なんて笑い合う日が来ることを、やっぱり9年前の私に教えてあげたくなった。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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