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メディアグランプリ

壊れた器が繋いでくれた女の友情


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:かのこ(ライティング・ゼミ)

我が家にはひとつだけとても大事にしている器がある。
陶芸サークルに入っていた親友の亜耶が、大学生の頃に焼いてくれた白いお茶碗サイズのころんとした器。
多分、私のことをイメージしながら成形してくれたのだろう。
他のどの器よりも手になじんで、使いやすい。

その器でご飯やスープを食べると、とても美味しく感じた。
ごしごしと洗っても、傷があまり付かない頑丈さも好みだった。
家でご飯を食べるときには必ず、亜耶の器はわたしの食卓を彩ってくれていた。

ところが、ある日事件は起こった。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、洗い物をしていた時のことだ。
綺麗にしようと、洗剤をたっぷり付けたのが良くなかったのかもしれない。
亜耶の器はつるっと滑って、シンクに勢いよく落下した。落ちた先には、グラスが幾つか並んでおり、ゴツンとぶつかって器の縁に欠けが出来てしまったのだ。
グラスの方なら、まだよかったのに。
こともあろうに大事な器の方に欠けが出来てしまった。

「どうしよう……」

欠けたまま使うのは、かえってそこから傷が大きくなってしまうのでは、と手作りなだけに不安だった。かと言ってこの世に一つしかない大事な器だ、捨てることなんて絶対に出来ない。鼻歌を歌いながら呑気に食器洗いをしていた30秒前の自分を呪った。

欠けた器を前に何か策はないか、と悶々としていると、ふと以前SNSで見た記事を思い出した。
室町時代に生まれた、割れてしまった器を金色の漆で修復する技術が、いま海外で話題になっているらしい。ただ修復するのではなく、繋いだ場所を金色で際立たせて新たな美しさを生み出す、日本人の伝統的な美的センスが外国の人々から高い評価を得ている。その手法を“金継ぎ”という――

「これだ」
藁をもつかむ思いでネット検索をすると、金継ぎをやらせてくれる場所が都内にもいくつかあることが分かった。いそいそと申し込みのメールをし、欠けてしまった器は保護材できれいにくるみ、私はその日を心待ちにした。

金継ぎ当日。
会場に着いて、自己紹介を聞いていると実に様々な人がいた。
からあげを食べようとしていたら彼女のお皿を落として割ってしまって、まだバレていないけれど、どうせなら金継ぎして渡そうと思ってきた人、江戸時代から伝わる骨董品のお皿を持ってきた人、私のように、大事な知り合いから貰った器に欠けを見つけて直しに来た人。

何だか、聞いてみるとみんなそれぞれにドラマがあって面白いな。
でも、ここにいる人に共通しているのは皆それぞれに大事な器があって、綺麗に直して大切にしていきたい、と思っていることなんだな、と思うと何だか一つの目標に向かって進む同志のような気がして、わくわくしてきた。

そんな風に思っていると、早速講師の先生から材料が配布された。
ガムのような白とグレーのパテを混ぜて色が1色になるまで、ひたすらこねる。何だか、幼い頃紙粘土で工作をしていた頃を思い出す。
そして、パテを器の欠けた部分に付けて、乾くまでしばらく待つ。

乾かしている間、他に何もすることがないので器を隅々まで眺めてみた。すると、器の裏に“A”とイニシャルが入っていたことに気付く。あんなに毎日使っていたのに、気付かなかったなぁ。亜耶らしい、しっかりとした一文字の刻印に思わずにやりとしてしまう。

次に紙ヤスリに水を付けて、パテの表面を平らに削っていく。
ヤスリで磨いている時間が、一番長かったかもしれない。修行僧のように無心でごしごしと削っていると、ようやく先生のOKが出て、金色に輝く新漆の入ったパレットと筆が与えられた。

「まっすぐに線を書くというよりも、パテの上に色を置いていく、とイメージしてください」

教えられた通り、ちょんちょんと筆をのせていく。
先生いわく、心が乱れている時は漆が上手くのらないらしいが、あたたかな環境で無心になってヤスリをかけていたことで、私はすっかり心の軋みがとれ、子供が塗り絵を楽しむように嬉々として、あっという間にパテの上を黄金色に埋め尽くしてしまった。

あとは持って帰れるくらいに乾くのを待つだけ。
新しく出来た金色のワンポイントが入った器を撫でていると、隣で作業をしていた人が声を掛けてくれた。

「素敵な器ですね」
「あっ、ありがとうございます! むかし友人が、焼いてくれたものなんです。大事にしていたのに、私の不注意で割ってしまって」
「そんなに大切にして貰えて、お友達も幸せですね」

そう言われるまで、自然と器と自分に意識が向いていたが、そうか、亜耶も喜んでくれているのかもしれない――、と思った瞬間、私の中で様々な感情が洪水のように溢れ出していた。

亜耶は昔から自分の気持ちに正直な人だった。仕事であれ恋愛であれ、気持ちが向かっている先であれば、変化を厭わない人だった。
一方、私は変化することが苦手だった。自分の意志で転職や引っ越しをしたことは1回もないし、人間関係を自分から遮断したこともほとんどない。変化に労力を使うよりは、我慢してそこに居続けることの方がずっと楽だった。

亜耶が結婚して神戸に引っ越してからは、会う機会も次第に少なくなっていった。
かつて机を並べて共に学んでいた親友は妻になり、母となり、その姿はキラキラと光って見えた。
何も変わらない私は何だか置いて行かれたような気がしていた。
深夜まで残業することもあるし、子育てがある亜耶とは生活リズムも全然違うし、仕方ない――。そう言い聞かせて、以前のように頻繁に自分から会いに行かなくなってしまっていた。

けれど、季節の折にも、何気ない時にもいつも亜耶はメッセージをくれた。
あれは仕事でくたびれている私を元気付けるためだとばかり思っていたが、本当は違ったのではないか。
彼女のほうだって、夫以外誰も知らない場所で、ひとり不安だったんじゃないだろうか。
気の置けない友人に話を聞いて、悩みを笑い飛ばして貰いたかったんじゃないだろうか。

今まで私は、同じような環境や立場の人でなければ悩みは分かり合えないとずっと思っていた。
だから私の仕事の悩みを聞いてもらっても、愚痴になるだけだし、子育ての悩みは理解してあげることが出来ないと思っていた。

でも、立場や環境が違うからこそ、気軽に話せたり、的確にアドバイス出来ることもあるのかもしれない。
亜耶がかつて私の為に作ってくれた器は、変われない自分への苛立ちや、変わっていく親友への羨望、そんな私の自意識でいっぱいになってしまっていた。だから重たくなった器は、あの日私の手から滑り落ちてしまったのではないか。

私達の立場だって環境だって、目まぐるしく変わっていく。
そんな中で、ずっと少女の頃のような関係でいることは出来ない。

この金継ぎされた器のように変えていけばいいのだ、友情の形だって。

「今日はありがとうございました! 一度は壊れてしまった器が、こんなに素敵に生まれ変わって嬉しいです!」
「それは良かった。壊してしまっても、気に病むことはないんですよ。何度だって作り直せるのが、金継ぎの良いところなんですから」

先生にお礼を言って、お店を後にする。駅に向かう途中、私はある人にLINEを打った。

「久しぶり! 亜耶が作ってくれた器、欠けちゃったんだけど金継ぎして復活させたよ。金継ぎっていうのはね……」
なんて返事がくるかな。
真冬だというのに、私の心はそこだけ春の太陽に照らされたみたいにぽかぽかとしていた。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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