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ふるさとグランプリ

ありがとう、ふるさとグランプリ。東京出身の私の、ふるさと劣等感が消えた理由。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:リコ(ライティング・ゼミ)

「島には信号が一個しかないんよ」
ある飲み会の席で、そう友人はいった。
彼は、島根県にある、小さな島の出身者である。
信号が一個? まじで!?
場は盛り上がり、彼に注目が集まる。
彼の住んでいた島は、車の行き来が少ないので、信号が必要ないそうだ。
一台だけある信号は、教育のために設置されたらしい。
島で生まれて育った子どもたちが、将来島の外にでたときに、生まれて初めて信号というものを見るというのでは困るから、子どもたちに信号というものを教えるために作ったそうだ。
島の子どもたちは、島にたった1つのその信号で、赤信号は止まれ、青信号は進む、を学ぶのだ。
飲み会の場では、ハッとするような「ふるさとの話」が飛び出す。
私は東京生まれ、東京育ちだ。
私はみんなのふるさとの話しを聞くとき、いつも一抹の寂しさを感じていた。
高校生までは、自分に「ふるさと」がないことについて、特に何も感じていなかった。
「ふるさと」がないことに、気付いてもいなかった。
まわりの友達もみな、東京生まれ、東京育ちだったからだ。
ところが大学に入るとまわりに地方出身者が増えた。
社会人になった今、同じ職場の同僚は東京出身者よりも地方出身者のほうが多い。
飲み会や雑談はふるさとの話で盛り上がる。
大人になるにつれて、私はふるさとを持たないことに対して、劣等感を感じるようになっていた。
でも、大人になってしまってから、ふるさとを持つことはできない。
私は、自分の「ふるさと劣等感」を引き出しの奥深くにしまい込んでいた。
そんな私の「ふるさと劣等感」をひっぱり出してしまったのは、同じ職場の恵美子さんだった。

数年前、私は恵美子さんがいる職場に異動になった。
お互い入社して結構たっていたが、同じ職場になるのは初めてだった。
名前は知っていたが、話をしたことはなかった。
恵美子さんは、すごく気が利く。
年配の上司のコートの肩に糸くずがついていると、すぐに気づいて、
「ちょっと失礼しますね」
と、とってあげる。
「どこでついちゃったんでしょうね、おうちからつけていらしたのかしら?」
と、糸くずを取る間の会話も自然だ。
恵美子さんは年配のおじさまと、とても上手に雑談する。
行き交うのは会話だけではない。
出張のおみやげや、実家から送られてきた珍しい野菜が行き来する。
恵美子さんは、色んな人に物を頼んだり、頼まれたりするのが上手だ。
私のいる職場は男性社会だ。
その職場に恵美子さんと私、2人だけ女性がいる。
片方の恵美子さんはすごく気がきくし、周りと仲良しだ。
もう片方の女性である私は、異動して早々に劣等感の固まりとなった。

恵美子さんの最大の持ちネタはふるさとの話であった。
恵美子さんの実家は山の中にある。
恵美子さんのお父さんはイノシシだってさばけるし、土用の丑の日には川からとってきた天然のウナギを食べる。
野菜はすべて自給自足で、まだ汲み取り式のトイレも残っている。
恵美子さんは、ふるさとネタをあふれんばかりに持っている。
しかもその一つ一つが、素晴らしいネタだ。
職場の人はいつも、彼女の話に驚きと感心を示す。
私も彼女の話をきき、「まじで?」と思っていた。
でも、気が利くスキルもなく、おじさまと仲良くなるスキルもなく、「ふるさと劣等感」まで引き出されてしまった私は、彼女のふるさと話を、素直な気持ちできくことができなかった。

そんなある日のことだった
仕事中に、恵美子さんが携帯電話を持って席を離れた。
プライベートな電話かな、と思った。
恵美子さんは、すぐに戻ってきた。
またしばらくすると携帯電話を持って席を離れた。
そんなことが何回か続いた。
恵美子さんは気が利くだけでなく仕事にも熱心だ。
いつもほとんど離席することなく、真剣にデスクのパソコンに向かっている。
普段そんな恵美子さんを見ているだけに、その日の離席の多さが、私は気になった。

その日の帰り道、たまたま恵美子さんと一緒になった。
恵美子さんは、やはり携帯を持っていた。
気になった私は聞いてみた。
「今日は何かあったんですか?」
恵美子さんは私が異変に気付いていたことに少々びっくりしたようすだったが、答えてくれた。
「今日は母が手術だったの。それで、手術が終わったらメールをくれるって父と約束していて、一日メールを待っていたの」
なんと返していいのかわからなかった。
確かに、今日一日恵美子さんはちょっと落ち着かない様子ではあったが、仕事は普段通りにこなしていた。いつものように気持ちよく電話の対応をしていた。
「まだ、メール来てないんですか?」
「そうなの。昨日、だいだい何時くらいに終わるのか聞いておけばよかった。今日一日気になってしまって」
「それは……。心配ですね」
本当なら、病院に付き添いたかったにちがいない。
でも、恵美子さんの実家は東京から遠い。
半日では着かないだろう。
家族の中でお父さん1人が、付き添っているという。
1人で付き添っているお父さんは、さぞかし心細いだろう。
もし、自分の母が今日手術だったら。
そう思うと、私も居ても立っても居られない気持ちになった。
着信音がなった。
話している間に恵美子さんの携帯にメールが来たのだ。
恵美子さんはすぐに携帯電話を開いた。
そして、安堵のため息をついた。
手術は無事、終わったとのことであった。
私もそれを見て心からほっとした。
恵美子さんの様子を見ていた私は思った。
「ふるさと」という言葉をちょっと勘違いしていたかもしれない、と。

私は「ふるさと」は「東京からちょっとはなれた、自然豊かな土地」でなければならないと思っていた。
でも、きっと「ふるさと」という言葉は土地だけを示すものではなくて、大切な人と過ごしたストーリーをも含む言葉なのだ。
思えば、私が本当にいいなと思ったふるさと話は、いつもその人の大切な人が登場人物に出てくるお話しだった。
「ふるさと話」が劇だとすると、土地は舞台だ。
舞台も大事だけれど、本当にスポットライトがあたっているのは、その人とその周りの人とのストーリーだ。
私の「ふるさと劣等感」の根っこは、「ふるさと」と呼べる土地を持たないことにあるのではない。
自分には語るべきストーリーがない、という想いだ。
でも、私はライティングゼミに参加して文章を書き始めてから気づいた。
何の変哲もない人生を送ってきた私だけど、ストーリーは私の中に眠っていた。
だとすれば、別に、舞台は「東京からちょっとはなれた、自然豊かな土地」でなくてもよい。
私は私なりのストーリーを紡ぎだせばよいのだ。
そう思うと、私の「ふるさと劣等感」は徐々に和らいでいった。

昨日子どもにこう聞かれた。
「ママー。あのね、ききたいことがあるんだけどね」
「なに?」
「僕のふるさとってどこ?」
「ここだよ」
「ここ?」
そう、彼のふるさとはここ。
彼が大人になってから、素直にそう思えるように、私は毎日を丁寧に紡ごうと心に決めた。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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