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プロフェッショナル・ゼミ

法律という名の生物《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:和智弘子 (ライティングゼミ・プロフェッショナル)

「あぁー、どうしようかなぁ。受講してみたいけど……でもなぁ」

2016年10月下旬、わたしは天狼院書店より発表された、ある記事を目にして、猛烈に悩んでいた。
それは11月から開始される、「法学ゼミ」の案内を見たからだ。

法律を学ぶなんて、おもしろそうだ。
だけど、わたしは同じく天狼院書店で行われている「ライティング・ゼミ」という文章を書く講座を10月に受講して、スタートしたばかり。仕事に役立つといいな、と軽い気持ちで参加してみたのはいいけれど、いざ始まってみると、毎週締め切りに追われ、どうにかこうにか記事を提出する始末。2000文字を書く、ということに慣れておらず、これが4ヶ月も続くなんて先が思いやられるなあ、とすこし目の前が暗くなっていたばかりだ。おもしろそうだからと言ってあんまり欲張って、あれもこれも学ばない方がいいかな? とぐずぐず悩んでいた。

法律はおもしろそう、実際に学んでみたい、という想いには理由があるのだ。

今から10数年ほど前、わたしは郵便局に務めていた。その頃の郵便局はまだ民営化しておらず、「日本郵政公社」という民営化一歩手前、の段階。職場は民営化に向けて、少しずつ準備を進めているところだった。

保険課に配属されたわたしは、郵便局が販売している保険、いわゆる「かんぽ」と呼ばれている簡易生命保険を担当することになった。いくつかの簡単な研修を受けた後、実際に郵便局の「窓口係」として働き始めた。当時20代前半で、生命保険についてこれまでに考えたこともなかったため、簡単な研修を受けただけでは生命保険の仕組みなど十分に理解できるはずもない。あたふたと先輩のうしろについてまわるばかりだった。

生命保険の手続きで一番頭を悩ませたのは「相続」がからむものだった。保険を契約していた本人が亡くなった場合、保険金の受取人が誰か、ということなのだけれど、ほとんどの場合、受取人は決まっている。なぜなら生命保険は、「もしも私が死んでしまったら」という前提のもとに加入することが多いからだ。しかし、ここからが問題となる。

仮にサザエさん一家を想像してもらいたい。あの国民的父親である磯野波平が亡くなったとしよう。遺品を整理していた時に、生命保険証書が見つかった。その保険の受取人は波平の妻、フネが指定されていたけれど、フネもすでに他界していたとする。
さて受取人は誰になるだろうか。この時、一番スムーズな受取方法は波平とフネに子どもがいる場合。皆さんご存知の通り三人いる。サザエ、カツオ、ワカメ。この三人で協力し合って死亡保険金を受け取らなければならない。三人の署名捺印や必要な書類、波平の子どもであると証明するための戸籍謄本などが必要となる。
一番スムーズなパターンでも言葉で表すとややこしい。しかし、さらにややこしくなると、サザエもすでに他界していた場合。愛すべき国民的アニメのキャラクターをどんどん故人にしてしまって申し訳ないけれど、モデルケースとして分かりやすいので、今しばらくお付き合いいただきたい。
サザエが死んでしまっていると、サザエの夫マスオが受取人になるのかといえば、そうではない。波平の血縁であるタラオ(タラちゃん)が受取人になるのだ。カツオとワカメ、そしてタラちゃんの三人で手続きすることになる。タラちゃんが成人していなければ、タラちゃんの父親であるマスオも関与してくるけれど、これはまた別の法律がからんでくることになる。

磯野家のように、みんな仲良しで、一致団結した家族であれば相続の案内をするのは、それほど問題ではない。だけど、家族や兄弟は年を重ねれば重ねるほどに、なにかと難しい問題が生じてくるものだ。相続の難しさは手続きの複雑さだけではなく、受け取る人々の感情が入り込んでくることも、相続を難しくさせる一因となる。

もしもサザエが教育ママで、タラちゃんに様々な習い事や塾に通わせていてお金がたくさん必要だったとしたら? もしもカツオが新しく立ち上げた事業に失敗して、お金を必要としていたら? もしもワカメが悪い男にだまされていたら? 突然受け取ることになる、まとまったお金を目の前にすると、それまでは至って仲良く過ごしていたのに関係が悪化してしまうこともある。

人生経験をかさね、私生活でもいろいろと相続について考えることも増えてくると、ある程度相続の法律以外の難しさについても理解している。しかし郵便局の窓口にポンと出されてしまった20代半ばの新人には、太刀打ちできようもなかった。もつれにもつれきって、どこに糸口があるのかわからないようなケースはそれほど多くはないけれど、相続の手続き自体は一週間に四、五件ほど案内していた。

「ちょっと勉強すれば、一般的な相続の手続きはわかるようになるから、暇があったら民法の本でも読んでみたら。難しいやつは、今のところ悩むだけ無駄。とにかく数をこなすことだね。あと、一番大事なのは法律と感情は別々に考えること。法律は感情の部分はサポートできないから」とベテランの高橋先輩に言われたが、その時は法律の勉強どころか毎日が必死で、とにかく手続きの案内に慣れていこうと、磯野家のサザエさん死んでいないバージョンのような、比較的難しくない相続の手続きを受け付けたときに、先輩に教えてもらっていた。

さらにややこしい法律がわたしを困らせることになった。
それは、「性別を変えることができる」法律が平成16年7月16日に施行されたためだ。
正式名称は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」という。
この法律は名前の通り、自身の性別に違和感があり、生きていくこと自体が難しいとされる男性又は女性が、いくつかの規定項目をクリアすれば性別を変えることができる、というものだ。

性同一性障害の方にとっては、大きな変化をもたらした法律であるし、このような法律が施行に至るまでの困難な道のりは想像しがたいほどだ。

しかし、郵便局の保険課ではちょっとした混乱が巻き起こっていた。生命保険は、男性と女性では支払ってもらう保険料が異なるのだ。これは、簡易生命保険に限らず、おそらく世間一般的な生命保険で言えることだろう。もしも保険契約を交わした時の性別と、保険金を支払う時の性別がちがっているとしたら、支払う保険金の額が変わってしまうのだ。当時はまだ、「お役所」だった郵便局は、保険金の支払いに対して神経質な対応をとることになった。ある一定の契約条件の保険金の支払いのときに、「男女の証明がわかる本人確認書類を添付しろ」というお達しがでたのだ。

男女の証明がわかる本人確認書類。これが、ものすごく厄介だった。
いまどき、TSUTAYAのレンタルカードを更新するときも「本人確認書類」の提示は必要だし、本人であるかどうかの確認は窓口でこれまで通り行ってきた手続きなので健康保健証や運転免許証を提示してもらえば、なにも問題ない。

しかし、もしも今、お手元に運転免許証があるなら、一度見ていただきたい。写真はついているけれど、「男女」の区別は書かれていないのだ。おそらく写真で判別すれば良い、ということだろうし、そもそも車の運転に男も女も関係ない。健康保健証やパスポートには男又は女とはっきりとした記載はあるのだけれど、運転免許証には書かれていないのだ。そのために、手続きを行う際、運転免許証を提示されても、「こちらでは男性か女性か分かりかねますので、他のものを持ってきていただけますか?」と案内しなければいけなくなった。

先に断っておくけれど、現在の郵便局で保険金を受け取ることがあるなら、この「男女の証明」を聞かれることはない。簡略化されたようで、本当に関連があるお客様には、必要な書類を集めていただくことになっている。それならば、もっと早くに簡略化してくれよ、と思うけれど、時間が巻き戻ることはない。

この案内が、とにかくお客様を怒らせることになった。「新しい法律が施行されたので……」といったところで、目の前のお客様は、この法律が施行されたことを全く知らない。

「じゃあ、おねえちゃん、俺がここでズボン脱いでみせりゃあいいのか? え? 男か女か分からないなんて、郵便局は客を馬鹿にしてんのか!」

ものすごい剣幕でどなる、明らかに男性のお客様。実際にズボンを脱ぎかけて、職員に止められたお客様もいた。

「あなた、ちょっと失礼じゃない? もし仮によ、その法律に該当する方がいらっしゃったら、その方にとってもこの手続きは心を痛めるのじゃないかしら?」気難しそうなおばあさんが、まくし立ててわたしに詰め寄る。

「この手続きはセクハラになるんじゃないの? 案内の仕方を気を付けなきゃだめよ」と優しそうなおばさんに厳重注意されたことも少なくない。

さまざまなお客様から、「保険課の手続きで嫌な思いをした」というクレームの電話もあったようだが、いかんせんお役所であるため、本部が簡単に対応の変更を促すことは無い。わたしは日々、なんだか理不尽に思いながらも、ペコペコと頭を下げ続けていた。

「またお客様、めちゃくちゃ怒ってましたね」

となりの窓口で対応していた高橋先輩が、かなり怒鳴られていたため、そのお客様が帰られた後に話しかけた。

「まあ、しょうがないよ。俺だって、客なら怒るよ。せっかく『満期で保険金が受け取れる』ってルンルンで来てるのにさ、窓口で難癖付けられてお金を受け取れずに帰されるんだよ? 怒るに決まってるよ」
と、何事もなかったかのように先輩は平然としている。

「えぇー、でも、私たちだって別に払いたくないわけじゃないのに、新しい法律ができたから……」

「いや、もちろんそうだよ。ややこしい法律だけど、でも法律は人間の生活のためにあるんだから。その時、暮らしている人々にとって必要だと思う法律が新しくできているんだよ。法律だって生きているのと同じだよ。時代によって法律は形を変えていくものだよ」

「先輩、めちゃくちゃ悟り開いてませんか? わたしにはまだ、そんな風には考えられないんですけど……」

まあ、人生経験の違いだなと軽く言われ、実際に今後窓口で対応するときにお客様を怒らせないようにするにはどうすればいいのかと対策を二人で練り始めた。これは! という対策案は見つからなかったけれど、お客様に正直に「郵便局は、今はお役所で法律に柔軟に対応できない。近いうちに民営化するだろうから、その時にはもう少し柔軟になれると思う」といった、世相を味方につけて私たちが不甲斐ない、という自虐の姿勢をとる、というものが割と効果的だった。窓口にくるお客様には、「法律が施行されたからダメです」といったところで、「その法律、俺には関係ない」と言われてしまうことがほとんどだったので、こちらの対応の悪さを認め、でも、書類がそろわないと保険金は支払えません、という態度が一番お客様には理解してもらえた。

郵便局が完全に民営化する前に、わたしは郵便局を退職したのだけれど、このときの「人間のために法律が生まれている」といわれたことは忘れられなかった。

法律は人間のためのものであり、「法の下に平等」と言われてもいるけれど、法律がもつ力によって生み出される感情は、ときに喜ばしいものであり、ときには犯罪さえもおこしてしまう。法律を学べば、その法律をもとに巻き起こる様々な人間のドラマを垣間見ることができるだろう。

ふと、思う。これはもしかして、いまライティング・ゼミのネタ探しに悩んでいるけれど、天狼院の法学ゼミに参加すればネタ探しに苦労しなくなるんじゃないだろうか? テレビドラマだって、弁護士や、裁判所でのやり取りをテーマにした内容もかなり多いし、人気も高い。
法律ネタを書こうと中途半端に手をだすと、大ヤケドするのは分かっている。分かってはいるけれど、それにしても魅力的だ。

ぐずぐずと悩んでいるうちに、法学ゼミは開始されてしまい、わたしは受講せずにいる。だけど、当初悩んでいた「あれやこれやと欲張らないほうがいいのかな?」という気持ちはすでに破たんして、あれもこれもと欲張って勉強しているのだ。いまさら、悩んでも仕方がない。もし次回が開催されるならやっぱり学んでやろうかと、したたかに想いを巡らせるのであった。

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この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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