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プロフェッショナル・ゼミ

プライドの階段のくだりかた《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:稲生雅裕(ライティング:プロフェッショナルゼミ)

「自分が惨めで、惨めで、どうしようもないんです」
絞り出すような声で、涙と鼻水をすすりながら、彼女は訴えた。
彼女の声はとてもか細かったが、華金の居酒屋にいるとは思えないくらし、スッとまっすぐに僕の胸に届いてきた。

「就活のことというか、将来のこととか本当にやりたいことについて悩んでいて、どうしても先輩に話を聞いて欲しいんです」

11月の頭、大学時代の後輩から、そんなメッセージが送られてきた。正直言うと、就活とか将来についてアドバイスをするのは苦手だ。僕は世間の尺度で見ると、就活に失敗しているから、ろくなアドバイスができない。故に、無責任なことは言いたくないし、自分が就職していた時にかけられてきた「お前なら大丈夫!」なんて、口が裂けても言いたくない。だけど、何度かメッセージのやり取りを繰り返していると、その文面から、後輩の切羽詰まっている様子が伝わってきて、おこがましいけれど、手を差し伸べないとダメなんじゃないか、そんな気持ちになった。それに、その後輩は学生時代、結構色々なことを頑張っていた子だったから、何かのっぴきならならい事情があるかもしれないとも思い、会うことにした。

「それで、何を相談したいの?」
ビールジョッキで乾杯するや否や、僕は話を切り出した。彼女は「おお、いきなりきますね」と少し苦笑いしながら、ポツポツと話し始めた。
「あの、私、出版社にずっと行きたいって思ってて、でも受けたところ全部ダメで。一応、滑り止めというか、念のために自分の興味のない業界も受けて、そこからは内定を頂いたんです。それで、内定式も出て、この間の同期の飲み会にも行ってきたんですけど、どうしても自分が働いているイメージがわかなくて。このままだと絶対、自分はつまらない社会人になっちゃうて思ったんです」ぐいっと、ビールを飲んで、一呼吸置き、彼女は話を続けた。
「だから、公式に社員を募集していない出版社とかにも、手紙を書いて会ってくださいってお願いしたりしてて。まぁ、なかなか会ってくれる出版社なんて少ないんですけど、やらないよりはやった方がいいかなって。それで、運よく会えた時は、必死にお願いして、頭下げるんですけど、正社員は難しいと言われることが多くて…」

「正社員は難しい」
その言葉が焼き魚の小骨のように、僕の心に引っかかった。
小雨だった彼女の言葉が、次第に大雨へと変わっていく。

「私のサークルの同期とか、みんな金融とか保険ばっかりで、出版とか行きたいって行ってるの私くらいで。しかも手紙まで書いてるのに、全然うまくいかなくて。でも、同期の人たちと同じ道に進んだら、中学生の頃電車の中で見た、くたびれたスーツを着たつまらなそうな人になりそうって思えて」
大雨を遮るようにして、僕は一つ、気になったことを聞いてみた。
「ところで、どうして出版社にそんなに行きたいの? 何かやりたいことがあるの?」
もちろんです、と言うがはやいか、彼女は再び口を開く。
「実は、私中学生の頃に、携帯小説を書いていたことがあったんです。当時、ちょっと流行ってたじゃないですか。それで、私も恋愛ものを書いてみようと思って。そしたら、結構それがいろんな人に見られてて、自慢ではないんですが、ある出版社の方に声をかけて頂いたことがあったんです。結局、その時は色々あって、お断りしたんですけど。でも、私みたいな素人が書いた小説でも声がかかるんだって思ったのと、やっぱり恋愛系の小説は万人受けするんだと思ったんです。それで、恋愛ものだけを集めた雑誌の企画とかやって、世の中にインパクト与える編集者になりたいと思ったんです」

「世の中にインパクトを与える」
すごい。まるで、3年前の自分が過去からやってきて、自分に向かって話している、そんな気持ちになった。もし、もっと深い部分で、彼女と僕がリンクしているならば、それは非常にまずい。

「その企画って、出版社に正社員として入らないと難しいのかな。さっき、正社員は厳しいって言っていたけど、アルバイトとかなら入れるところがあったってこと?」
「はい…。アルバイトか、契約社員ならってところはあったんですけど、それだとなんか納得できなくて」

ーどうして?

質問しながら、僕は彼女の答えがわかっていた。

「だって、有名私立大学まで出て、卒業したらアルバイトなんて…。周りの同期はみんな正社員として就職するのに。こんなに沢山手紙とか書いて努力してるのに。もう、自分が惨めで惨めでどうしようもなくて…。ごめんさない。泣くつもりなんて無かったんですけど」
アルコールが回って、若干赤くなった頰に、アイラインがにじんだ涙が、黒い線を作る。
「あのさ」
僕は、彼女を自分と同じような道に進ませないために、あえて突き放すような言葉をかける。
「君は、ヒットする企画を作りたいんじゃなくて、本当は出版社に入りたいだけなんじゃないのかな。出版社に入って、自分は周りの同期と違うんだって、言われたいだけなんじゃないのかな。だって、本当にその企画がやりたいなら、例えば自分が声をかけられたみたいに、ネットで小説を調べて集めて、面接に行くとか、色々やりようがあったんじゃないのかな。アルバイトとか、契約社員だとしても、やりたいことをやるためなら、雇用形態とかそんなに関係ないんじゃない?」
きっと、彼女が言われたい言葉はそんなことじゃない。そんな現実、彼女が昔の自分と同じような思考回路だとしたら、絶対にわかっている。彼女が言われたい言葉は「君はみんなと違うから、絶対大丈夫」そんな感じの慰めだっただろう。ヒットする企画を生み出したいという思いも嘘じゃないはずだ。でも、今、彼女が一番求めているのは「出版社に入った自分」。それ以外が見えなくなってしまっている。笑ってしまうくらい、昔の自分とそっくりだった。

自分が就職活動をしている時、入りたい会社は「広告代理店」で、やりたいことは「コピーライターになって、世の中にインパクトを与えること」だった。彼女と同じように、「金融系」や「保険会社」には絶対に入りたいと思わなかった。それは、会社説明会に出ても、企業のパンフレットを読んでも、業界についての本を見ても、面白さが全然理解できないということもあったし、毎日スーツを着て、満員電車にすし詰めにされたくないという思いもあった。だけど、一番の理由は、周りと同じ道に進んで埋もれたく無かったから。内定をもらって、「広告代理店に内定とったの!? マジで!? すげぇ!!」と言われたかったから。誰かの権威を借利ないと、自分が所詮周りと同じ「普通」だと気づいてしまうから。コピーライターになりたいと、志望動機では豪語していたくせに、コピーライターになりたいと思ってから、面接を受けるまで、いったい自分は何をしていたのだろうか。自己分析して、志望動機を練って、コピーライターになるために努力は一切していない。1日に取ろうと思えば30分は取れるはずなのに、なんだかんだ逃げる言い訳をして。彼女と同じように、「世の中にインパクトを与える」という思いに嘘や偽りはなかった。

だけどー

周りの人の中の自分のイメージを絶対に崩すわけにはいかなかった。
虚栄で作られた上着を脱ぐことはできなかった。

いつからか、周りと比べて、優位に立っている自分しか評価できなくなっていた。周りとの比較でしか自分を保つことができない。相手のイメージの中で自分がどう思われているのかばかり気にしてしまう。他人と比較してしまう癖は、就職活動の頃に始まった話では無かった。自分に自信がないことを周りに悟られないように、高校の時からとにかくテストでいい点数をとって、上位ランカーになって、同級生の中で自分はすごいというイメージを作って、そのイメージを保ちたいから、浪人して、有名大学に入って。

始まりは、テストでいい点数を取りたいからという理由だった。でも、それは頭が良くなりたいとか、将来に役立つからとかではなく、登り始めた虚栄の階段を登り続けるためだった。一度上がった階段は、上がれば上がるほど降りることが難しくなる。せっかく努力してきたのに、元の位置に戻っていくことは、かなり精神的な圧力がかかる。登りつめた位置と、次のステージの落差が大きいほど、飛び降りるのが怖くなる。

自分と同じように、虚栄の階段を登る人は、ずっと自分に自信を持つことができないからだと思っていた。虚栄は承認欲求が作り上げたものだと思っていた。自信がなかったり、怯えていたりするから、自分を大きく見せようと頑張る。本当の自分より大きな自分にすがりつくから、階段を降りづらくなる。

だけど、気づいてしまった。本当は違ったんだ。
自分自身が、誰かのことを、他の誰かや何かと比べて、上か下かを判断していたのだと。

あの人は東大出身だからすごいとか、あの人は自分より頑張ってないから、自分より低いとか。自分が見下していた人が、例えば、就職活動の時に普通に内定をもらっていたりすると、後輩のように急に自分が惨めな気分になる。それは、誰かが自分のことを惨めだとリアルでけなしているのではなく、勝手に自分がそう思い込んでいるだけなのに。虚栄の上着を脱ぎ捨ててしまうと、むき出しの自分と周りを比べて、見たくない現実を見ることになってしまう。でも、わかってる。そんなこと、虚偽の上着を着ている人には、普通はできない。僕が憧れていた人たちのように、自分の中で判断軸を持っていて、人が自分をどう判断するかを気にしないような人生を送りたいと思っていても、すぐには階段は降りれない。

憧れは、理解から最も遠い感情だと、子供の頃読んだ漫画に書いてあった。
憧れているだけなら、楽だと。でも、憧れの場所に行くためにはたくさんの困難があって、たくさん傷つかないといけないことを、勘がいい人はわかってしまう。だから、見て見ぬふりをして、「あいつは自分と違う」と、遠目から眺めるだけで終わる。

出版社でヒット企画を出したかった彼女も、コピーライターに憧れていた僕も、実際のところ、それを達成するためにはめちゃくちゃ泥臭くて、めんどくさくて、憧れている姿ほど、キラキラしてなくてカッコよくないものだとわかっていた。わかっていたから、目をそらした。

虚栄の階段を登ることは、憧れの場所からもどんどん離れて行くことにつながる。
まだ、虚栄の階段の途中で止まっていた彼女は、僕に言われた言葉を受けて、「そうかも、しれません」と歯切れ悪く答えた。そして、「怖いんです」と。
「もし、頑張ってもこれ以上報われなくて、結局内定が決まったところに就職して、ずっと後悔して生き続けるかもしれないって思うと、怖いんです。先輩は、その、大変失礼な言い方もしれないですけど、結構就職活動に苦労されたって聞いて。怖く、なかったんですか? 周りの中のいい友達がどんどん社会に出て行く中で、取り残されるような感覚はなかったんですか?」

「もちろん、怖かったよ」

まるで、昔の自分に話しかけるように、ゆっくりと後輩話し始めた。

「怖かったし、君と同じように、すごい自分ことが惨めに思えた。知り合いだって多かった、周りの友達違うこともやってきた。でも、どうして内定が出ないの? 周りの人はなんで内定が出るの? 自分は周りよりすごいのに。どうして、なんでってすごい苦しんだ。でも、それは本当にただの勘違いだって、社会に出てから気づいたんだ。僕は、何も持たないで社会に出た。信頼も実績も何もない。なんとか先輩のツテを使ってバイトで食いつないでいたけど、周りの人を納得させるだけの何かなんて、何も持ってはいなかった。ある意味極限状態だったから、自分の雇用形態なんて気にしてる暇なかった。でも、逆に言えば、自分の好きなことでお金を稼げる可能性があることでもあるって、ある日思ったんだ。だから、文章を書く力、コンテンツを作る力で食っていこうって決めた。自分で決めたことだし、自分の中の目標があったから、インターンだろうがアルバイトだろうが、関係なかった。もちろん、書くことだけではお金は入らないから、営業の手伝いだったり、翻訳の手伝いだったり、頼まれたことはなんでもした。そしたら、いつのまにか信頼と実績が溜まって、コンテンツも評価されるようになって、勝手に周りが認めるようになってきた。今の状況は、もし普通に就活して、一般的に成功していたら手に入らなかったと思う。今まで積み上げたものを崩したり、そこから降りるのは本当に難しいし、怖いし、辛いのは僕は身をもって経験してるから、よくわかる。僕も、そこから降りるまで、自分の道を信じて進んだ人を見て、憧れたけど、そっち側に行くことはなかなかできなかった。幸か不幸か、突き落とされるみたいな形で、僕は憧れていた人たちの方にいるけど、なかなか自分で決断するのは難しいと思う。飛び降りるのか、一歩づつ降りるのか、決めるのは君自身だ。でも、もし降りてきたらなら、そこには僕もいるし、きっと君の周りにも似たような人がいる。一緒にもがいて、泳ぐ仲間はいる。僕が言えるのは、納得する決断をするんだってことだけで、本当に申し訳ないんだけど。でも、こっち側で待ってるから」

説教臭かっただろうか、上から目線になっていなかっただろうか。そんな心配をしていたが、彼女はじっと、僕の話を聞いていた。そして、「ありがとうございます。ちょっと、もう少しだけ頑張ってみようと思います」と、会った時よりも、少し決意に満ちた顔で答えた。

僕の言ったことが正解かはわからない。虚栄の階段を降りることは難しい。よく、死なないから大丈夫というけれど、そういう状況にいたことのない人には、この言葉は伝わりにくいと思う。昔の自分や、後輩のように虚栄で苦しむ人と同じ立場に立って、一緒に階段を降りられるように、伝わる言葉の力で相手に寄り添いたい、そう思わせてくれた、華金の夜だった。

彼女からその後連絡はない。
でも、きっと階段を降りて、自分の道を進んでいる。
あの日最後に見た顔を僕は信じようと思うんだ。

***
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