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プロフェッショナル・ゼミ

息をしたまま死んでいた私を救ってくれた小さな怪獣《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:紗那(プロフェッショナル・ゼミ)

自分という人間の限界値を知ってしまった高校生の私は、息をしているけれど、死んでいるみたいだった。

まどろみの中で気配を感じる。
ぱっと目を開け、頭を上げると今まさに私の頭めがけて振り下ろされようとしている教科書があった。
「あっ!」
教師は私が目を覚ましたことに驚いて固まっている。
「お!」
クラス中が私を見て、笑う声が聞こえた。

ん?

寝惚けて状況がよくわからない私は数秒考えてから、今が数学の授業中だということに気づいた。どうやら、教師の持っていた教科書で叩き起こされるまさにその瞬間に、目が覚めたようだった。

「あ、すいません」
私がぺこりと適当なお辞儀をすると、数学の教師は、何とも言えない苦い表情をしていたが、すぐにクルリと方向転換をして黒板に戻って行った。

これが高校時代の私の日常だった。

高校生の私は、授業のほとんどを寝て過ごしていた。今、振り返っても本当に最悪な生徒だったと思う。授業が始まると教科書を盾にし、ブランケットを枕にして机に突っ伏せる。ある挫折をしてしまった私は、どうせ思い通りにいかない人生において何のために頑張るのか、わからなかったのだ。

私がした挫折とは、高校受験に失敗したことだ。

そんなことよくある話だと思う。みんながみんな行きたい高校に行けるほど世の中は甘くない。だけど思春期真っ盛り、かつプライドだらけの当時の私は、このたった一度の失敗を引きずり続けていた。私にはどうしても行きたい高校があって、そこに入学すれば大学まで問題なくストレートで行けるはずだった。そして、そうすれば間違いなく人生はバラ色になると信じていた。

だけど、呆気なく私は受験に失敗した。
夢を持っても、叶わないことがあるということを初めて知った日だった。

「井の中の蛙大海を知らず」とは正に私のことだ。小さな下町でちょっと頭がいいだけで、くだらないプライドがつき、高校受験に失敗した自分が許せなかった。今よりも100倍はプライドが高かった15歳の私は、滑り止めで受けた高校に進学することが死ぬほど屈辱的で、こんな高校では学生生活なんて楽しめないと思っていた。

そして、その大きく膨らんでしまったくだらないプライドという悪魔が囁いてくるのだ。
「どうせ、お前なんか努力したって無駄! 人間の運命は決まってるんだから、どう頑張ったって頭のいい人には勝てないんだよ!」
「努力なんて無駄! 勉強することも無駄! 夢を持つことも無駄! 全部、無駄無駄無駄! お前は所詮何にもなれないつまらない人間なんだ!」

やりたいことも、なりたいものも、行きたい大学も全て見失った。なんとなく入った部活はめんどくさくて、すぐに辞めた。部活とか、文化祭とか体育祭とかそういうものを猛烈に頑張る同級生のことさえ、冷めた目で見ているかなり嫌な奴だった。
「ばかじゃないの。世の中なんて頑張ったって無駄なのに……」
40人がひしめく教室の中で、夢に向かって頑張る同級生を見て、冷ややかな視線を注ぎ、この後の人生でこの中のどれほどの人が夢をなくして絶望するのだろうかなんてことを冷静に考えていた。

人生は期待するだけ無駄なのだ。
だから、期待しない。頑張らない。ただ淡々と毎日を生きる。
それが当時の私のポリシーだった。

そんなひねくれた私は、ひとつの運命の出会いをする。

初めてその人を見た時、小さい怪獣を見ているようだと思った。
小さい身体から出る大きながなり声。ブンブン身体を振り回す姿。筆圧が強すぎて何度もポキリと折れるチョーク。時折、吐かれる炎のような激励。あきらかに体系に合っていない白いダボダボなシャツ。そのシャツは運動なんてしてないのに、2時間もすると汗でビチャビチャになる。

彼は、私が無理やり通わされた予備校の国語の先生だった。

私は初めて彼の授業を受けた時、人の魂って目に見えるのだということを知った。
この人ちょっと狂ってるのじゃないだろうか、というくらい強烈な迫力の授業。
息をするタイミングがどこにあるのかもわからないくらい、ものすごい勢いで彼は講義をする。全身から魂というカタマリが3Dになって出てきて、私たち生徒に猛烈に語りかけてくるのだ。

この人は命を削って教えている。
そんな風に感じる授業だった。

初めての授業が終わり、その衝撃に呆然としていると小さな怪獣は、なぜか私の席に向かってどかどかと進んできた。そして小さな目を大きく見開きながらこう話しかけてきたのだ。
「ねぇ、ねぇ、君って○○高校の生徒なんだよね?」
その前のめりの迫力に二歩くらい引き下がった私はかろうじて返事をする。
「は……はい」
そもそも、私は高校にコンプレックスがあったので、そんなに大きい声で学校名を言ってほしくなかった。教室にいる周りのお嬢様高校や有名進学校に通う品のいい賢そうな生徒達がじろじろとこっちを見てくる。
なんだよ! 見るなよ! と、私のプライドが痛む。
「いやー、俺はね、君みたいな子をずっとずっと待ってたんだよ! 俺が絶対に君を大学に合格させるから! 必ずついてきて!」
捲くし立てるような早口でそう言うと先生はニンマリと笑った。話の内容が全然理解できない私はしばらく何も言えなかった。
「あ、ごめんごめん。びっくりさせたな」
ガラガラ声で先生はガハハと笑いながら説明をしてくれた。
聞くと、先生の奥さんは、私の高校の先輩であるらしい。そのため、ずっと奥さんの後輩達を大学に合格させてあげたいという強い想いがあったのだが、後輩達はみんな途中で授業をリタイヤしていき、大学合格まで導いてあげられたことがないのだという。
「いやー、しかし今はそういう制服なんだねー! ブレザーかぁ。いや、妻に話してあげなくちゃ」
先生はニヤニヤしながら、その後もアレコレと話していたが私は終始その勢いに呆気に取られていて内容をあまり覚えていない。
「とにかく、俺は天才だから、大丈夫。俺が言うことだけやれば大学なんて楽勝だよ! だから、必ずしがみついてきてくれ!」
先生は最後に決め台詞のようにそう言うと飛び切りの決め顔をしてから颯爽と私の元を去っていった。

自分至上、最大にキャラの濃い人に出会ってしまった。
私は半信半疑ながらこの小さな怪獣の言うことをしばらくは信じてみることにした。なぜなら、有名高校の生徒達の中で、目の端にも止めて貰えないだろうと思っていた私を先生が見つけてくれたくれたことが、とても嬉しかったからだ。

驚くべきことに、怪獣の言うことを聞いていたら少しずつ私の成績は上がっていった。先生は驚くほどわかりやすい授業をする。自分自身も某有名大学を三浪でやっと合格するという経歴の持ち主で、頭のよくない私にも非常にわかりやすい説明をしてくれるのだ。
少しずつ、もしかしたら、私も頑張ればなんとかなるのではないかという気持ちが湧いてくる。しかし、そんな思いとは裏腹に私の成績はある一定の場所で伸び悩んでしまった。

スランプだった。
言われた通りのことをこなしても、私の成績は一向に上がらなくなった。
みるみるうちにまたあの悪魔が現れる。
「ほら、やっぱり無理なんだよ。どうせ頭良くないんだから、無理!」
悪魔の気持ちにじわりじわりと蝕まれるように私の足はごくごく自然に予備校から遠ざかった。何度目かの無断欠席の後、私は呼び出しをくらい先生と面談をすることになった。

講師室の中に重苦しい雰囲気が漂う。
「どうして、授業さぼった?」
いつもより落ち着いた口調で話す先生は普段とは別人みたいだった。
「すみません……勉強も受験もしたくなくなりました」
成績が伸び悩んだ私は受験をする理由がわからなくなった。母は猛反対していたが、いっそ手に職でもつけてすぐに働いた方が片親で育ててくれた母のためにもなると思っていた。
「大学に行く気がなくなったのか?」
「……先生、私は特に夢がありません。行きたい大学も将来のこともよくわかりません。だから、どうして大学に行かなくちゃいけないのかわからないです。いい大学に行くことがいい人生なんですか?」
自分でもよくわからないが、私は先生に自分の中に溜まった思いの丈をぶつけていた。思春期の私の将来への漠然とした不安と、理由も告げず勉強しろと騒ぐ大人への恨みだったのかもしれない。
先生は少し黙ったままで私を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「あのな、わかるよ。その気持ちはよくわかる。だけど、別に夢なんかなくていいんだよ。夢がないからこそ、大学に行け。むしろ、夢が明確なら大学なんて行く必要ない。やりたいことを目指せばいいだけだからな。だけど、今のところ夢がわからないんだろ? それならまだ間に合うから、絶対受験しろ。いい大学を出ることに価値があるわけじゃない。だけど、その方が、可能性は広がる。夢なんてものは大学でゆっくり考えればいいんだ」
いつもより静かな声で先生はそう言いきった。
言っていることはなんとなくわかる。可能性を広げるために大学に行くという方法もある。確かにそうかもしれない。だけど……。
「だけど……私は自信がありません。きっと、また……」
怖かった。また同じ思いはしたくない。
不合格という文字が私を奈落の底に突き落とす、あの深い深いブラックホールに落とされるような感覚。
高校受験の合格発表の帰り道、私は誇らしげな顔をしている合格者が羨ましくて、恨めしくて仕方なかった。私がもう二度とつかめないモノを手にした栄光者達とは対照的に暗闇に落とされた私。あの感覚をもう一度乗り越えられる自信がない。
先生はじっと私の顔を見ると、これまで見たことのないほど冷たい目をした。
「それは……お前が逃げているだけだ」
ズバリ的確なことを言われてしまい、私は先生の目を見られなくなる。
「逃げるな。今逃げたらお前はこの先色々なことから一生逃げ続ける人になる。俺は逃げる自分と向き合えるようになるために馬鹿みたいに三浪もした。もう俺みたいな人を増やしたくない。お前は俺ほどだめな人間じゃないはずだ。だからやるべきことをやってみろ」
さっきより少し大きな声で先生はそう言うと、それきり黙ってしまった。
「……少し考えます」
私は先生に全てを見透かされたようでとても居心地が悪くなり、ペコリとお辞儀をして逃げるように講師室を出た。

帰り道、先生の言葉を頭の中で噛み砕きながら、私は自分が逃げているのだと納得した。
なんだかんだそれっぽい理由をつけて自分と向き合うことから逃げていた。もう一度失敗することが怖くて怖くて堪られなかった。がんばって、がんばったその先にもう一度不合格というものがあったら、自分に絶望してもう二度と立ち直れそうにない。だから、がんばらないことを選ぶことで自分を納得させようとしていたのだ。
そんな自分がかっこ悪すぎて笑えた。

結局私はその次の日から、また勉強を始めた。
大学に行きたいという気持ちよりも逃げたくなかったのかもしれない。自分がどこまでできるのかやってみたいと思った。また落ちたらどうしようという恐怖は相変わらず心のどこかに居座っていたけど、どうせ一回失敗しているのだし、一回も二回も同じようなものかという気持ちも湧いてきた。
その日から入試当日までは、無心に勉強をした。

そして、入試当日。
冷たい木枯らしが吹く中、駅から大学までの道を歩いた。
やるべきことはやったと思っていたがやはり、周囲を見回すと不安が襲ってくる。
前を歩く何人もの賢そうな学生達が「バカなお前には無理だよ」と私を嘲笑っているような気がした。
大学の門の直前に、応援に駆け付けた先生の姿が見えた。
私はパニックなる気持ちを抑えきれず、先生の元に走り込む。
「先生どうしよう。なんか、みんな頭良さそうに見えます!」
先生は不安げな私を見て、ふんっと鼻で笑う。
「大丈夫! お前のことも他の人から見たら、賢そうに見えてるんだから、盛大に賢そうなフリでもして、気にするな」
「賢そうなフリですか!」
「そうそう。いいか、いつも通り、ただ淡々と問題に向き合え。お前に教えるべき事は全て教えた。だから、なにも心配するな。俺も一切、心配はしてない。最後にひとつだけ、とっておきの方法を教えてやる。もし、わからない問題に当たったら……」
先生はそこで、一旦言葉を止めた。後に続く言葉が気になって仕方ない。
「その時は……鉛筆を転がして答えを選べ!」
「はぁ? え・ん・ぴ・つ?」
「そうだ! えんぴつだ」!」
よくわからないが先生は、誇らしげにほほ笑んでいる。
「え? 私の人生を鉛筆にかけるんですか?」
最後に教えてもらうことがこんな陳腐なことだとは思わず気が抜ける。
「そうだ。最後に頼るべきは、鉛筆だ。問題なんて、たったの四択だろ、人生の選択肢に比べたら、圧倒的に少ない。それに俺はこれをやって本当に合格したことがある!」
「え? 本当ですか?」
「風邪薬を飲み過ぎて頭がパンクした試験で、俺はひたすらえんぴつを転がしてマークを埋めた。不思議なことにそれで合格したことがある!」
予想外すぎるアドバイスと、どや顔で人生を鉛筆にかけろと力説する先生がおかしくて、風船みたいに膨らんだ不安が一気にしぼんでいくのがわかった。
「わかりました! がんばってきます!」
私は最後に先生と握手をした。
先生の手の温かい感触が、かじかんだ私の手にじんわりと伝わってくる。
弱虫で逃げ腰な自分のことなんて信じられそうにない私は、この手を信じてみようと思った。
「行ってこい!」
先生の言葉に力強く頷くと、大学の門へ向かう道を歩き出す。

目の前にはいくつもの受験生の背中があった。
不思議とあんなに賢そうに見えていた彼らの姿が気にならなくなった。
そもそも私が戦うべきは、彼らではないのだ。
私が戦うべきは、自分に失望していた過去の私でしかなかった。

それから後のことはあまり覚えていない。
ただ、自分の出せるものを出し切れた私は、鉛筆に人生を委ねる必要はなかった。
これまで、勉強も部活も何かをやり遂げたことのない私にとって人生で初めて自分と向き合えたと思った日だった。

結局、私は第一志望の大学の合格は勝ち取れず、第二希望の大学に拾ってもらえた。
一番行きたい大学に行けなかったのだから、私の二度目の受験も失敗だったのかもしれない。だけど、不思議なくらいにすがすがしい気持ちの自分がいた。
結果なんてどうでもよかった。
あんなに人生に失望していた自分が私という人間をもう一度信じてみようと思えたことが嬉しかった。そして、自分であきらめていただけで、私にも他の人と平等に人生の可能性というものが与えられているのだということを知ることができた。

私は今でもたまに先生のことを思い出す。
もし、あの小さな怪獣に出会えていなかったら、私は今何処を彷徨っていただろうか。
それは、別に大学に受かるとか、頭が良くなったとかそういう話ではない。
先生に出会えていなければ私は今でも色々なことから目を背け、逃げ続けていたのではないだろうか。

結局私達の人生は、いつだってどこに行ったって弱い自分との闘いの連続だ。
正直、このライティング・ゼミに通い出してからも、たまにあの悪魔が顔を出すことがある。
「お前なんかに面白い文章が書けるのか? 本当にそんな文章で人に伝わると思うのか? 所詮、お前は何にもなれない人間なんだよ!」
だけど、今の私は高校生の頃のように生きてるか死んでるかわからないような人間ではない。例え、失敗しても平等に与えられている人生の可能性を少しだけ信じてみたい。

今日もまた小さな怪獣は魂の授業をして、私のような落ちこぼれを救っている。
そしてその生徒達がきっと、彼に貰ったその魂を違う形で世に送り出すのだろう。
私はいつか書くことで誰かにその魂を届けられたらいいなと思う。

***
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