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ふるさとグランプリ

名前を忘れられやすい県出身の私が思うこと。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・全国通信対応】《日曜コース》

記事:福居ゆかり(ライティング・ゼミ)

「えー、それでは皆さん、今から10分で仕上げてください」
小ぢんまりとした教室の中、20人ほどしかいない生徒を見渡して教授は言った。黒板には大きく「日本地図」と書いてある。
「何も見ずに、ですか」
一番前の列にいた男子が手を挙げて問うと、教授はうん、と頷いて
「何も見ない、相談しない、ただ今から10分で日本地図を書いてみてください。では、始め」
と言った。
その通り、私はただ真っ白なA4用紙に地図を書き始めた。まず北海道、青森、秋田、岩手……
書いてみると北海道の形があまりにおかしく、菱形にしか見えないので何度か書き直す。しかし、どうしても菱形から脱出できそうにないので、3度目で諦めることにした。雪印のバターのパッケージでいつも見てる筈なのにな、と思いながら書き進む。青森県は凹のようになったが、この際絵心のなさは気にしないことにした。
滑り出しは順調に進んだが、中国地方になるとやや怪しく、九州地方になると大分県と熊本県、宮崎県の配置がさっぱり分からなかった。「このあたり」くらいしかわからず、自分の記憶力は中学地理レベルか……とやや落ち込んだところで、タイムリミットとなった。
スライドで日本地図が映し出される。答え合わせ、ということで大体の場所と形、そして県が抜けていないかをチェックする事になった。私は抜けた県こそなかったものの、九州地方の地理が壊滅的だった。隣に座っていた、友人の花ちゃんと「意外に書けないもんだね」とボソボソ話す。
紙は回収され、教授がざっとその場で集計した。
「えーっと、みなさん、意外に書けなかったと思います。普段何気なく目にしているものでも、いざ書いてみると書けない、それはイメージの曖昧さによります。
というわけで、とりあえず集計した結果を発表します」
単位の関係で何気なく取った授業だったため、さほど地理について興味があったわけでもなかった私は、ふんふん、と適当に聞いていた。途中で意識が外れ、今日のバイトは何時からだったかな、などのんびり考えていた。
「抜けやすい県はこの辺りですね、福井県、島根県」
そう言った教授の声で、えっと顔を上げ、スライドを見る。なんと、福井県が地図から抜けた人が半数以上いたのだ。私はそこそこにショックを受けた。
花ちゃんも隣で「ごめん、ゆかりちゃん福井県だったよね。あたしもすっかり書くの忘れちゃって」と、エヘヘと笑った。
福井県の知名度が低いこと、名前を忘れられやすい県のナンバー3以内の常連であることは知っていたが、まさか大学まで来てそんな事があるとは思わなかったのだ。しかも私がいたのは教育学部だった。小学校、中学校の教員免許を取り、先生を志す人たちが都道府県全部を覚えていないことにも驚いたが、そこでまさか自分の故郷の県の名前が出るとは。私はなんだかえもしれぬ疲れを感じ、残りの講義の時間をただぼんやりと過ごした。

しかし、思い返してみれば今までにもそんな事は多々あった。出身は? と聞かれ、福井県です、と言うとああ、東北の方?と言われたり、隣は何県だっけ? と問われたりするのはザラだった。京都府に隣接しています、というと驚かれ、琵琶湖の北なんです、と答えることもよくあった。
私はバイトのレジに立ちながら、福井県の存在感の薄
さに、なんだか物悲しい思いになった。試しに、と思って隣のレジにいる高校生に聞いてみる。
「千堂、福井県の場所ってわかる?」
「福居さん、俺のことバカにしてますね。知ってますよ、九州でしょう」
……それは福岡だ、とツッコミを入れる気力もなく、私はただ「違う」と、呻くように言ったのだった。

福井県は存在感が薄い。忘れられやすい。最早それは否めない事実だった。
なので当然、ニュースにもあまり登場しなかった。大体登場する時は、容疑者が福井で潜伏していたとか、宗教団体が福井の山奥にいるとか、どちらかというと不名誉な内容が多かった。近年、鯖江市でJK課が発足した時はかなり話題になったが、方向性が謎に思え、心配になるばかりだった。

そんな折、教員をしている友人がふと言った。
「福井県ってすごいんだねえ」
急にそう言われたので、えっ、なんで? と驚いて私は尋ねた。すると、その理由は教員の間で全国学力テストと体力テストが話題になったから、ということだった。
福井県は、学力テストと体力テスト、ともに一位になった事があるのだ。福井県ってそんなに特殊なカリキュラムなの、と聞かれたが、特にそんなに変わったことをしていた覚えはなかった。
「……やたらと敷地は広いし、家の周りも自然いっぱいだし、どこに行くにも自転車しかないから、体力がつくからじゃないかな。遊びに行くところもそんなにないから、誘惑がなくて勉強するとか」
私はそんな風に、他の福井県民が聞いたら怒りそうなことを言っていた。
「なんか、朝に運動とか読書の時間があるの?」
「えっ、運動しないの? 朝」
小学校の時、朝の登校後、私たちは決まって運動していた。晴れていれば外周もしくは校庭を走り、雨であれば縄跳び。毎朝当たり前だったので、気にも留めた事がなかった。
しかし、言われてみれば教育実習先でそんな時間はなかった。あれ、と思っていると
「そんな時間ないよー。じゃあそういう風に、普段から勉強も運動も時間をとってるんだね」
と友人は言った。
私は、なんだか嬉しかった。福井県について褒められることは、県を出てから数える程しかなかったように思う。良いところだってあるんだ、と、ちょっとだけ鼻が高い思いだった。

自宅に帰り、夕飯の支度をする。そんな実家にも、しばらく私は帰っていない。冬のきんと冷たい空気の中、暗闇に白い雪がしんしんと降る様子を思い出すと、懐かしい気持ちになった。
大根を剥きながら、ふと思う。福井県は、大根のようではないか。常にメインだったり、なくてはならない野菜というわけではない。けれど、刺身のツマのように、味噌汁の具のように、目立たないけれど静かにそこにある。
しかし、おでんの中に入り、味がしみた大根は、具の中でも一番人気である。そんな風に、時には意外な顔を持つのだ。
なので私は、福井県について「どこにあるかわからない」「地味」などと言われると、食わず嫌いをせず、試しにかじってみてください、と勧めたくなるのだ。
きっと、思った以上にはいい味がすることは私が保証しますから、ぜひ一度行ってみてください、と。

***

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