メディアグランプリ

痛いお雑煮


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記事:浦上幸江(ライティング・ゼミ)

今年の年始は自宅で寝正月だった。
年末に体調を崩して実家に帰れなかった私と、それに付き合ってくれた夫と二人で年末年始を過ごした。
夫も私も実家が1時間圏内の近所のため、普段から「ちょっと帰る」みたいな距離感なので、お互い、「正月に帰省する」というほど大げさなものでもないのだが、夫を私に付き合わせてしまったような気がして、ありがたい反面、ちょっと申し訳ないような気分ではあった。

なので、少しでもお正月らしいムードや楽しい時間を過ごせればと思っていた。
とはいえ、おせちなんて、難しくて手のかかるものをとても作れない。
せめてもの正月らしさと思い、お雑煮を作ることにした。
夫も手伝ってくれるというので、一緒に作ろうということになった。

お雑煮なのでまずは餅、流しの下の戸棚にあったはずの去年のお正月の残りの餅を探していると、干し椎茸を見つけた。

私の実家のお雑煮は小松菜と鶏肉だけのシンプルなものだが、肉が嫌いな夫は鶏肉が食べられないので、小松菜しか具がない。しいたけなら良い出汁にもなるし、食べてもおいしいのではないかと思って干し椎茸を使ってみることにした。もちろんはじめての試みだ。
干し椎茸を電子レンジで戻しながら、醬油に味醂、酒を加えて煮汁を用意しはじめた矢先に夫が言った。

「えっ? その干し椎茸は醬油で煮るつもり?」
お雑煮の汁を作っていた夫が私に向かってそう言った。

「うん、そのつもりだけれど、だめかな?」
「今作っている、雑煮の汁で煮込めばいいじゃん」
「でもそれじゃ、味がつかないよ、きっと。醬油で似たほうがいいんじゃない?」
「大丈夫だよ」
「そうかな、じゃあ、まぁ、そうする? 味がつかないと思うけど大丈夫かな?」
「うるさいなぁ、自分の思い通りじゃないと気が済まないの? いつも自分の意見が通るまでいつまでも同じことを言うよね」
「えっ、そんなつもりじゃないんだけれど……」
そう言った後、私は何も喋れなくなってしまった。

出来上がったお雑煮は、干し椎茸もいい感じに味がついていて、とてもおいしかった。
でも、なんだか夫の顔をまともに見れない、言葉も出ない、喋れない。
食卓には、不穏なムードが流れた。
楽しいムードとは程遠い。

夫の言った「自分の思い通りじゃないと気がすまない」という言葉がどうにも引っかかっていた。
私のせいで帰省しそこなった夫に少しでも楽しいお正月が過ごせるよう、美味しいものを作ってあげたいと思っていたのに、その善意だけでなく、いままでのくらし全部が否定された気がした。
やりきれない気持ちとともに、じんわりと悲しみがこみ上げてきた。
お正月早々、これ以上険悪なムードになるのはよくない、泣いちゃダメだと思ったが、瞳にたまった涙が一粒こぼれてしまった。
すると、とめどなく涙が溢れた。

「どうしたの? 大丈夫?」
さすがにびっくりした夫が、怪訝な顔をして私に尋ねる。

「ごめん、なんでもない」
そう答えるのが精一杯だった。
食卓には、取り返しのつかない重たいムードが流れた。
こんな正月早々泣いている人間がいて、「なんでもない」といったところで、なんでもないはずはない。

「そうなんだ……」
しかし、夫はそこをやりすごした。
夫なりの気遣いだったのかもしれない。

「泣くほどのことじゃないのはわかっているんだけれど、『自分の思い通りじゃないと気がすまない』なんて思われていたことがなんか悲しくて。いままで良かれと思ってやってきたことは、私がやりたいから勝手に決めたと思っていたの? ワンマンなジャイアンみたいに思われていたの? そう思うと悲しくて」
心を少し落ち着かせてから、取り繕うように、私は説明した。

「えっ? そんなことで泣いているの? さっきの言葉はそんな深い意味ないよ」
夫はキョトンとした顔をした、悪気など全くなさそうだ。
それはわかったというか、そう言うだろうと思っていた。

「そうなんだ、ごめんね、泣いたりして、空気悪くして。もう大丈夫だから」
本当は大丈夫じゃないが、そういった。
勘ぐり過ぎかもしれないが、夫はやはり心のどこかでそう思っているのだと思う、ひょっとすると無自覚かもしれないけれど、ふとした拍子に口から出た本音なのだろう。

そんな夫の言葉は、喉に引っかかった魚の小骨のようだ。
この骨は抜けない、喉がチクチクと痛み続けるのだろう。
ただ、その痛みにいつかは慣れて、その存在を感じなくなる日が来るのかもしれない。

男脳と女脳、コミュニケーションにおけるボタンの掛け違い、ひとと暮らしているといろいろな誤解やトラブル、不理解が発生する。
口をついて出た言葉は、「そういうつもりじゃない」といわれたとて、完全に取り消されることはないし、お互い、どんなに言い繕っても、本当のことはわからない。

正月早々、ものすごく些細なことから始まったケンカ? だが、二人の間には溝ができた気がした。
小さな小骨は、二人の間に溝があることを、その存在を認識させた気がする。
そして、この溝はきっと埋まらない溝だ、でもきっと時間や慣れによって、お互いが溝を見ないようになっていくのかもしれない。
人と人がうまくやっていくためには、「気づかないでやり過ごす」という鈍感さも時に必要なのだと思った。

正月早々、なんともチクリと痛いお雑煮だった。
***

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2017-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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