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ふるさとグランプリ

お風呂に入ることは、旅へと通じる扉だった《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《平日コース》

記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)

「もう何時間お風呂に入っているの!」
学生の頃はよく、風呂のことで母親に怒られた。

私は子供の頃から大の風呂好きだ。
基本的に今でも1時間くらい風呂に入ってしまう。

風呂場で何をしているのかって?

ただ、ぼ〜としているのだ。

瞑想するかのように風呂場の浴槽に入って、ぼ〜とするのが最高に大好きなのだ。
夏場の時などは、水道代の削減のためシャワーだけを浴びることが多いが、
風呂場でずっと、ぼ〜としている。

風呂場に長時間いると、頭を空っぽにして、自分自身と距離を置くことができるのだ。

最近は、去年の10月から天狼院のライティング・ゼミに通うようになって、
毎週月曜日の締め切りに向けて、記事のネタを探す毎日だった。

あれこれ考えてもいいネタはなかなか浮かんでこない。

これまでの経験上、いい記事が書けたなと思うネタは全て風呂場の中で思いついていた。

風呂でボケ〜としながら浴槽に体を入れていると、空っぽになった頭の中から、いいアイデアが次から次へと浮かんでくる。
私にとって風呂場は、ライティングをする際の大切な場所となった。

頭を空っぽにするといいネタが浮かんでくるのだ。

今日もいつものように風呂に入って、いいネタはないかと物思いにふけっていると、ふとカンボジアを旅していた時のことを思い出した。

カンボジアの激しいスコールの中を走り回って、びしょびしょのままシャワー室に飛び込んだあの出来事を。

「あの〜日本人ですか?」

日本人の女性らしき人に話しかけられた。

また来たよ。またぼったくられる……

私はその時カンボジアに来ていた。バンコクから早朝6時の始発に乗って
8時間ほどかかって、アンコール・ワットを起点とする観光地シェムリアップにたどり着いた。

カンボジアは比較的治安がいいとされているが、タイと国境沿いの町はマフィアが密集していて、見る限り治安がとても悪い町だった。

歩いていても「へい! ジャパニーズ。俺のタクシーに乗っていけ!」
と強引に勧められ、無理やりタクシーに乗せられそうになった。

これは急いで逃げたほうがいい。

そう直感し、私は急いで乗り合いバスに乗り込んだ。
他のバックパッカーもたくさん乗っていたので安心して、シェムリアップまでたどり着くことができた。

街について乗り合いバスを降りる。

毎度のこと、ここはどこなのか全くわからない……

東南アジアは基本的にバス停などない。
運転手の気分とノリで降りる場所がだいたい決まる。

「地球の歩き方」を見ても、ここが一体どこなのかわからないのだ。
いつも、新しい街に着くと、道に迷っていた。
今回もいつものように、街に着いたはいいが、現在地がわからなかったのだ。

周りのバックパッカーによると、どうやらこの町はシェムリアップで
間違いないようだ。

ひとまず、人通りが多い場所に向かうか……
そう思って私は、泥まみれの道路を歩いくことにした。

カンボジアの道路はどこもガタガタだ。

土も赤っぽくて、泥だらけだ。
毎日のようにスコールという土砂降りの雨が降るため、道路がぐちゃぐちゃなのだ。

私は泥道の中を、方角も全くわからないまま歩き続けた。

するとその時に、後ろから日本の女性の声で
「日本人ですか?」
と話しかけられた。

海外に行くとよく、日本語で話しかけてくる外国人に遭遇する。
穏やかで金持ちというイメージが強い日本人は絶好のカモなのだ。

今回もまたカモにされたかと思って、私はシカトしていた。
すると、
「あれ? 日本人ですよね。もしもし〜」
としつこく話しかけてきた。

なんだ? しつこいなと思って振り返ると
そこには秋田美人並みの綺麗な日本人女性がいた。

「あ、やっぱり日本人ですよね。こんにちは〜」

どうやらその女性はカンボジアで一人ゲストハウスのオーナーをしている方で、
「近くにゲストハウスがあるから寄っていかないか?」
と私に声をかけてきたのだ。

これもなんかの縁かな……

そう思って私は、その綺麗な女性の後についていった。

彼女が経営しているゲストハウスを見て驚いた。

広い! 綺麗! それに安すぎる!

ディズニーランドのホテル並みに豪華な内装なのにドミトリーで一泊3ドルである。
日本円にして300円だ。
なんという破格の安さだ。

「掃除だけはしっかりとしているんです」
そういう彼女は箒を持って、階段をこまめに掃除していた。

即決でこのゲストハウスに泊まることにし、私はアンコール・ワットまで通じる道を調べることにした。

どうやらアンコール・ワットまで8キロほど離れているらしく、
レンタルショップでマウンテンバイクを借りるのが主流のようだ。

広大なアンコール遺跡内をマウンテンバイクで走り抜けるなんて最高だ!

そう思って私は次の日に備えて眠ることにした。

翌日、早く起きて私はマウンテンバイクを借りて、アンコール・ワットを目指した。
遺跡まで1時間ほどかかった。

広大なアンコール遺跡群だ。

私は感動してしまった。
まるでインディー・ジョーンズの世界に飛び込んでいるような景色だったのだ。

古代クメール人が築き上げたアンコール遺跡。
カンボジアの人々は先祖が残した遺産を心の底で大切にしている。

遺跡と人々の生活が密着しているのだ。
アンコール遺跡の中で、座って休んでいると……
人々の声がどこかしらか聞こえてくる。

みんな揃って遺跡の中でランチをしているのだ。

まるで日本のスターバックスで休憩するサラリーマンのようだった。

なんて居心地がいい場所なんだろう。

私は8時間近くかけて全てのアンコール遺跡群をマウンテンバイクで周り、
ヘロヘロになってゲストハウスに戻った。

疲れた体のまま、ゲストハウスに帰ってくるとあの綺麗な女性が出迎えてくれた。
「お帰りなさい!」

ドミトリーなのに私一人で独占状態の3人部屋で、シャワーを浴び、
夕食を食べるために、一階のたまり場へ降りていった。

子供を抱きかかえながらフライパンを持ってウロウロしているゲストハウスの専属コックさんにメニューを見せてもらい、クメール料理を頼んだ。

椅子に座り、疲れた体をほぐしていると、突然パッと明かりが消えた。

なんだ?

外を見てみると他のホテルも停電していた。
どうやら街全体が停電しているみたいだ。

さっき料理を頼んだけど大丈夫なのかな。

不安に思った私は厨房を覗いてみることにした。
すると、ろうそくをつけて、真っ暗闇の中、家族全員で料理をしているのだ。

真っ暗の中、料理してる!

私はびっくりしてしまった。

「注文したけど大丈夫?」
と聞いてみると、何事もなかったかのように笑顔で
「ノープロブレム!」
という返答が帰ってきた。

どうやらカンボジアはよく停電が起きるらしく、みんな真っ暗闇の中、料理をすることに慣れているようだ。

だから、厨房にろうそくが置いてあるのかと思った。
いつ停電が起こっても対処できるようにしているのだ。

そういえばオーナーの綺麗な日本人女性も、何事もなかったかのように
部屋にこもりっぱなしだった。

同じゲストハウスにいた欧米人は慣れない停電にびっくりしていたみたいだが、カンボジアの人々はいたって平然としているのだ。

私は美味しいクメール料理を食べ終え、部屋に戻ろうと階段まできたら、
あのオーナーの女性がいた。

「こんばんは」と話しかけてくる。

私はしばらくの間、その女性とこれまでの旅のことや、これからの行き先のことを話した。

どうやら彼女は数年前に自分と同じように東南アジアを一周したらしい。

社会人になってから暇さえあれば旅に出たという。
世界中のいろんな場所を回っているうちに、成り行きで、カンボジアで暮らすようになったのだとか。

「カンボジアは日本に比べて生活に不便じゃないか?」と聞いてみると

「そんなことないですよ。日本と同じくらい住みやすいです。ただ、虫が多くて大変ですけど」

彼女はカンボジアに初めて来た時、大量に出された芋虫のディナーに驚愕したという。だけど食べてみたら、案外美味しかったらしい。

芋虫を食べられるようにならないとカンボジアには住めないのですね……

そう心の中で思いながら、その秋田美人の女性と話をしていた。
(どうやらその方は本当に秋田出身で本物の秋田美人だった)

「日本に帰るつもりはないですか?」と聞いてみると、

「こっちでゲストハウスを始めたばかりだから、お盆も帰れそうにないです」

とニコッと笑いながら、力強く答えてくれた。

なんて強い人なんだろうと思った。

異国のカンボジアに一人で飛び込み、ゲストハウスのオーナーを務めるのは
並みの精神力では無理だと思う。

ゲストハウスに来る旅人を通じて、いろんな旅人と出会い、別れを重ねる中で
彼女は強くなっていったのだろうか。

それに比べて私はどうか?

日本から逃げたい一心でカンボジアまでやって来た。
仕事も何もかもすべて捨てて、東南アジアの旅に出たのだ。

所詮、私は逃げていただけなんだな……

彼女の力強い眼差しを見ているとそう感じた。

疲れる人間関係、就活で失敗して嫌々入った会社、毎日のように通勤ラッシュの電車に飲み込まれながらも、ここが自分の居場所じゃないと思って、カンボジアまで逃げてきたのだ。

逃げて、逃げて、逃げていただけなのだ。

そんな自分が情けなくなってしまった。
必死に力強く生きている女性が目の前にいるのだ。

どこまで逃げてきても、自分の居場所は自分で作るしかない。
そう思った。

ふと、湯気で覆われた風呂場の鏡に映った自分の姿を覗いてみる。

私はあの日から力強くなれたのか?

風呂場にこもっていると、よく私はあの旅のことを思い出す。
東南アジアの旅に出た時に出会った人々のことを。

あの日、あの出会いがなかったら私はどうなっていたのか……

風呂に入ることは、旅に似ているのかもしれない。
ボケ〜と浴槽に浸かっていると、自分の体と距離を置くことができる。
旅に出るように社会の軋轢から一旦距離を置き、自分を再確認できるのだ。

だから私は風呂に入ることが好きなのかもしれない。

きっと旅をした時と同様に、空白の時間を作って一旦自分と距離を置いているのだ。

その時間は私にとって、とても大切な時間なんだと思う。

風呂場の浴槽に浸かりながら、旅に思いを馳せているうちに、
私はあの日の自分よりも強くなりたい! と思って、
天狼院のライティング・ゼミに通い始めたことを思い出した。

これからも毎週書き続けるつもりだ。
きっといつの日か、あの秋田美人と面と向かって会うためにも。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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