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ふるさとグランプリ

生きていくために本音で話すことを覚えた《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:城裕介(ライティング・ゼミ)

僕は呆然とした。ベトナムでのことだ。
タイ、ラオスも旅してきたが、この国は異質だった。ほぼ確実にぼったくろうとしてくる。タイでもラオスでもぼったくりに狙われたことはあるけど、頻度が桁違いだった。

僕は当時まだ大学生で、人見知り、かつ世間知らずで自信がなかった。そして自分自身に危機感を持っていた。その自分を打開しようとして、今回考えたのがタイ・ラオス・ベトナムを1人で、バックパックで旅しようという計画だった。

1人でいれば自分でなんとかするしかないし、当然自分の身は自分で守らなきゃいけない。危険なところには行かないつもりだけど、最低限の知識はないと、本当に生きて帰って来ることすらできないかもしれない。僕は楽しみ半分、危機感半分で準備をしていた。

そこで、タイ・ラオスと旅をしてそれなりに色々あったけれど、なんとか3国目のベトナムに到着した。

首都のハノイでバイクタクシーに乗ろうとして、若い男に声をかけた。
「1ドルでいける?」そう僕は声をかけた。日本のタクシーみたいにメーターはないので、値段の交渉をする。ちなみに距離からすると相場としては2〜4ドルくらいだろうか。1ドルははっきり言って安い。当然反発されるだろうと思って身構えていた。

「いいよ、乗っていきな」と若い男は言った。おお、言ってみるもんだなくらいに思っていた。

地図を見せてここだと見せると、「いいから乗れ」と指示する。

あんなちらっとみたくらいでわかるのか? そのとき嫌な予感がした。

乗り出したら最初の信号を男は左に曲がった。地図が正しければ右に行くはずだ。どんどんおかしな方向に進んで行く。嫌な予感がする。

「お前はどこに向かっているんだ!」

バイクで風を切る音が響く中僕は怒鳴るように言う。

「お前が地図で指示したところだ」

彼は淡々と答えた。そうだと思っているなら僕はこんなこと聞かない。

「じゃあ、目的地を言ってみろ!」

「お前が地図で指示したところだ」

「もういいから降ろしてくれ!」

話が進まないまま、どんどん訳のわからない方に進んで行く。だめだ。早くなんとかしないと。

僕はイライラしながら無理やりバイクから降りる。目的地に着かないが、一応乗った身だ。ムシャクシャしながら1ドルを渡そうとすると、男は首を横に振る。

今度はなんなんだ。言いたいことをぐっと飲み込んだ。イライラしていた。

しばらく問答した後、僕は混乱しながら紙に1の字を書いて、指を指した。ほら間違いないだろうと言おうとすると、男はペンを取り1の横に0を書き足した。

イライラ具合が跳ね上がる。

目的地に着かないだけじゃなく、この男は言い値の10倍取ろうと言うのか。もう今度は我慢しなかった。僕は1ドルを相手に押し付けくるっと立ち去った。

僕は争いごとが得意じゃないし、基本的に臆病だ。あの後1ドルを渡した男が追いかけて来るんじゃないかと内心ビクビクするぐらいには。男は結局そのままバイクに乗って立ち去って行ったけど。

ベトナムでは自分の主張をしない限り、観光すらまともに出来ないらしい。そう僕は痛感した。

街中ではバイクタクシーが安くて便利な手段だった。ただ今度はぼったくられないように、そこからは警戒することを覚えた。とはまず相手が自分の言っていることを正しく理解しているか確認する。あからさまに良い顔をしようとする奴は無視した。

成果は出て来たのか、値段で揉めることはほぼ毎回だったけど、移動はほぼ相場な金額で、目的地にちゃんとつけるようになった。言いたいことも我慢しないで言えるようになってきた。我ながら大した成長具合だ。

だけどそれから4日ほどたった頃問題が起きる。

大事な地図をなくしてしまったのだ。もっとまずいのはそれに気付いたのが、バスでホーチミンに今ついたばっかりだということだ。自分がどこにいるかすらわからない。これはまずい。

普段は相手の信用度合を地図で会話しながら決めていた。おかしな道に進もうとしたらすぐ判断できた。なんて間抜けな失敗なんだと思ってもしょうがない。なくしてしまったら信じられるかもわからない相手の言葉を信用するしかない。

正直心細かったけど、誰も知っている人もいなければなんとかしてくれる人もいない。それはこの旅で骨身に染みている。ここまで乗り切ってきた自分を信じてやってみるしかない!勇気を出せ、自分!

ここで信用できそうな男に声をかけて乗せてもらう。特に根拠はないので勘だ。

どこに泊まるかは決めてあった。そこは日本人が集まるゲストハウスのはずなので、必要な情報が集まるはずだと思った。そこのホテルの名前を伝えると男は知らないと言った。

まぁこんなことはよくある。作戦変更。この近くでネットを使えるところはないか尋ねると、そこまで連れて行ってくれた。ネットで地図を出し場所を伝えてみる。げげ。思ったより遠い。どうやら自分は街中からかなり外れたところにいるらしかった。印刷も出来ないし、細かい道までは覚えられそうにない。

「場所はわかったよ!」

と男は言ってくれた。心強い。でも一方でこの男を信じるべきか迷った自分もいた。騙されて変なところに連れてかれたら正直おわりだ。少し考えた。

「行こう!」結局僕は少し迷った後で言った。もちろん根拠はない。ただ最初に僕を騙そうとした男よりまっすぐな目をしていると思っただけだ。

そこから30分もかけて、ようやく目的地付近に着いた。不安から解放されてホッとしていた。この男を信じて良かった。そんな気持ちでいっぱいだった。

僕は彼に感謝して財布からお金を出そうとした。

バシッ!! 音がした。手に衝撃があった。

一瞬何が起きたかわからなかった。彼が僕の手から出そうとした1ドルを彼がぶんどったのだ。そのまま彼はバイクで立ち去っていく。あくまで取られたのは財布ではなくお金だけだし、彼からすると確実に割に合わないはずだ。

いや、そんなことはどうでもいい。

凄く感謝してたんだけどな。ほんのさっきまでは。彼は騙しもせず、きちんと目的地付近に連れていってくれた。バイクタクシーにしてはかなりありえない距離を送ってくれた。騙されるかどうかわからない状況の中油断すると涙が出そうなくらい有り難かったんだ。ほんのさっきまではだけどね!!

ベトナムで会った同じく旅人の日本人は、こう言った。

「ベトナム人は良くも悪くも本音で生きている人たちだよ。彼らは本当にしたいように動く。騙しもする。でも自分の気持ちは一切騙さない。だからこっちも気持ちを隠す必要はないし、だからこそ打ち解けて話せるのもベトナム人なんだよ」と教えてくれた。

そう思うと彼らは僕に本音を出す手伝いをしてくれていたのかもしれない。日本では場の雰囲気を読むことを少なからず求められるけど、ベトナムでは逆に禁忌である。それをすれば彼らの要求に飲み込まれるだけだ。

散々騙されたし喧嘩もしたが、どこよりも楽しんだし、本音でいられた国もベトナムだった。

本音でものを言えないことに嫌気がさしたら、ベトナムに行ってみるといいかもしれない。言いたいことを言いたいように、言うことができたのもこの国だからこそだったからだと思うから。

***

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