プロフェッショナル・ゼミ

25歳の僕が、大人になんてなりたくないと思うわけ《プロフェッショナル・ゼミ》


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稲生雅裕(プロフェッショナルゼミ)

「おい、まだ学生ノリが抜けてないぞ」

12月の寒空の下、会社のクリスマスパーティの二次会終わり、店の前で先輩にそう言われた。普段は温厚で、若い人たちにはとても優しい先輩だが、度重なるワインのおかわりのおかげか大分酔っ払っていらっしゃった。だから、酔った勢いで言ってきているのかもしれないとも思ったけど、その言葉は僕の心にグサりと突き刺さった。先輩の奢りだからと調子に乗って、飲んでいたお酒も吹き抜ける風とともに、一瞬でどこかに消え去った。酔っ払ってたし、そんな気にするまでもないと思ったけれど、何日か経ってもやっぱり、喉に引っかかった魚の骨みたいにその言葉は僕の心をチクチクと刺激した。

最初は、クリスマスパーティでもしかしてハメを外しすぎたのかと思った。確かに、二次会では「ワイン頼みましょう!」と入ったばっかりの社員にしては調子に乗った発言をしたかもしれない。でも、前後不覚になる程酔ったわけではなかったし、なんなら一次会で顔面ケーキしていた先輩の方が学生ノリだと思った。次に思い浮かんだのは見た目だ。その辺の真面目な社会人に比べたらちょっとだけ髪は長いかもしれないけれど、染めてるわけでもないしパーマをかけてるわけでもない。服装は、まぁ、カジュアルすぎるかもしれないけど、自分のウエストより何インチも大きな太いズボンとか、ドクロがプリントされたYシャツとか、そういうものは会社には着ていっていない。

就職活動の失敗のせいか、まだ自分が一人でいきなり生きていけるだけの自信が無いせいか、僕は会社から追い出されることをひどく恐れていた。というより、もっと厳密に言えば、会社からの期待が無くなってしまうことが怖かった。

こんなビクビクした気持ちでは身が入らないと思い、次の出社日、自分の上司にあたる人に思い切って相談をした。

「あの、この前のクリスマスパーティの後、Mさんに、お前はまだ学生ノリが抜けていないって言われたんですけど、それってどういうことなんでしょうか」
「きっと、それは、Mさんが期待しているだけのパフォーマンスをまだ出し切れていないってことじゃ無いかな。稲生くんは、少し繊細すぎるところがあるからね。どんどん失敗して、もっとスピード感を持ってやらないといけないかもしれない。やっぱり、学生と社会人では求められるものが違うから。もっと大人にならないと」

もっと、大人になる。

その言葉が少し引っかかったけれど、とにかく成果を出さないと話にならないことだけは十分にわかった。成果を出す上での僕の一番のネックは”考えすぎる”ことだった。物事一つ頼むだけでも、「今、頼んで大丈夫かな」「そもそも、こんな質問していいのかな」といった具合なのだ。元々、人に頼むくらいなら、自分で全部やってしまおうという性分だったことも相まって、無駄に自分一人の力で解決しようとする癖があった。でも、しっかりと社会人として組織に入ったのは初めてだったし、このままでは何も期待されなくなってしまう恐怖感から、徐々に人を頼ること、人に聞くことを恐れなくなってきた。初めのうちは割とビクビクしながら聞いていたのだが、だんだんと臆病な自分が消えていくのがわかった。

人に頼む回数が増えてくると、新しい問題が起こった。それは、なぜ知りたいのか、何を知りたいのかを明確に聞けていないということだった。僕の会社は社員の半数以上がエンジニアなのだが、エンジニアの特徴なのかわからないけど、問題の本質を知りたがり、問題に対して最もベストな回答をしたがる傾向がある。だから、要領を得ない質問をするとだいたいの場合「何で?」と聞き返される。これは、別に彼らが冷たいわけではなく、普段プログラミングのエラーを解決することと同じように、何が問題かを見極めたいという性分のためだ。だから、自分の出した回答が質問に対してちゃんとした解決策になっていないと、気持ちが悪くなるらしい。同じように、彼らが質問した答えに対して、的確な答えを返さないと、「自分が聞きたいのは〜とうことだ」とズバッと指摘が入る。まわりくどい言い方は歓迎されないのが、エンジニアとのコミュニケーションのようだ。そんな環境にいるもんだから、気取った言い方をすると、常に本当に求められているものが何なのかを考える癖がついてきた。すると、自分が知りたい情報をまるでGoogleで検索するかのように引き出すことができるようになった。

恐れや、怯えなどの不必要な感情が起きにくくなり、社員の脳内ストックから、うまく情報を引き出せるようになると、流石に前よりも少しは成果が出るようになってきた。
「最近、顔つきが社会人ぽくなってきたじゃん」
と冗談交じりに言われることもあった。その言葉は僕にとってはとても嬉しかったし、自分がまだまだ会社に期待されていると自身にも繋がった。成果を上げるために、マーケティング、セールス、行動経済学、コンピュータサイエンス、コピーライティングなど、自分のスキルを伸ばせそうな本に費やす時間も増えていった。無駄なく、効率よくを常に意識するようになった。社会で成果を出せる、そんな立派な大人になった気がした。

そんなある日のこと。
終電を逃してしまい、仕方なくタクシーで家まで帰り、いざマンションに入ろうとすると、財布を無くしていることに気づいた。後日、銀行から電話があり、幸いなことに、財布が警察署に届けられていることを知った。財布を取り戻そうと、警察署に行くと、「遺失物届は書きましたか?」と尋ねられた。どうやら、それを書かないと財布を取り戻すことはできないらしい。面倒だと思いつつも、遺失物届を書き終えると、「財布は二つ折りですか?」「ポイントカードは何のポイントカードですか?」「保険証は個人のものですか? 会社のものですか?」等、細かく書かなければならない部分を一つ一つ質問された。僕はなんて効率が悪いんだと思い、「あの、追加で書く必要があること、まとめて教えてもらっていいですか」とつっけんどんに言ってしまった。そして次の瞬間、僕はしまったと思った。警察署の人は落とした財布が僕の財布なのかを確認するために、丁寧に教えてくれているのに、僕の方は要領の悪さが目につき、とりあえず必要な情報を教えてくれよ、という態度で接していた。その日は休日。シフト制なのかもしれないが、休日に働くのは気が進まないだろう。にもかかわらず、僕はまるでコンピュータと向き合っているかのような姿勢であった。会社の中のように、既に関係性が気付けていて、お互いシンプルかつ本質的なコミュニケーションを理解していればまだいいのかも知れない。だが、僕は警察署の人をちゃんと人として見ていなかった。もしかしたら、会社の人ですら、自分が成果を上げるための道具として見ていた部分があるのかも知れない。そう考えると、思わず背筋がゾッとした。

思い返せば、ここ一年ほど、自分がとにかく周りより上に行くため、自分の有益になる時間ばかり追求していた。この人は自分にとって得だ、この人とは接してもあまり意味がないと、知らず知らずのうちに選択していたかも知れないことに気づかされた。確かに、社会で成果を上げるためには、無駄な時間は極力減らしたほうがいい。そうやって、社会の中で評価される自分が出来上がり、僕たちは大人になっていくのかもしれない。大学生の時のように、本当に中身のない、くだらない馬鹿話だけをするだけの付き合いに、時間を割くべきでないのかもしれない。それが、学生ノリから抜け出し、社会の中で大人になることなのだろう。効率よく生きてるためには、感情なんてないほうが良い。「悪いヤツほど出世する」なんて本が出ている世の中だ。

しかし、ビジネスだろうとプライベートであろうと、僕たちが接しているのは人だ。いくらテクノロジーが進化して、いろいろなことが効率化され、システム化されたとしても、その根底には人がいる。スーパーのレジ打ちの人や、マックの店員、銀行の受付の人など、例えたった一回のコミュニケーションだとしても、僕たちは人と接している。

大人になったら、何を選んで、何を捨てるか決めなければいけなくなると、学生の頃から聞かされていた。社会に出るということは、自分で稼いで、自分で生計を立てること。そのために、犠牲にしなければいけないことは沢山あるだろう。あれもやりたいし、これもやりたいはなかなか上手くいかないし、そうやって生きるだけの覚悟がある人も少ないだろう。だけど、社会に認められるために、感情を捨てて、間違った”嫌われる勇気”を手にしてしまうくらいなら、僕はずっと自律した子供のままでいいと思う。

「何かを捨てて進むのが成長だとは、認めたくない」

警察署の帰りにふと立ち寄った本屋で買った小説に、こんなセリフが書いてあった。
恐れも、怯えも、全部受け入れて、人の痛みを忘れない。
そういう意味での本当の”大人”に、自分が納得できる”大人”に、これから僕は、なっていきたい。

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