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【あの日、泣いていた友人へ】やっぱり私たちは、愛を知って強くなるんだと思う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉兼千陽(ライティング・ゼミ)

 

 

「愛を知って人は強くなる、なんて言うけど、そんなの絶対に嘘だよ」

 

高校時代、クラスメイトのアズサが言っていたことを、この頃よく思い出す。

 

当時、アズサは恋をしていた。田舎の女子高生だった私たちから見たら、それはそれは熱く激しい恋だった。なんでも出会いは学校の近くのマクドナルドで、彼女は一目見た瞬間に彼のことが好きになってしまったんだそうだ。

「どうしよう! あたし一目惚れしちゃったかも!」と騒ぐアズサを、私たちは散々茶化した。

「一目惚れ? ありえない! なんで一目見ただけで好きになれるのよ!」

「そんなにイケメンだったの? ちょっと写真見せて」

アズサは照れて過剰にモジモジしながらケータイの待ち受け画面を見せてきた。けれどそれを見た私たちはみんな、どんな反応をすればいいかわからずに困ってしまった。だって彼はあんまりイケメンではなかったのだ。背はそんなに高くなくて、身長160センチ弱のアズサといい勝負かむしろちょっと小さい。白いシャツの襟元からは白い丸首シャツがのぞいていて、正直、ダサかった。

 

一方のアズサはというと、校内で「ああ、2年のあのクールビューティーね」で通じてしまうくらいにはきれいな女の子だった。ただし性格は全然クールじゃなくて、むしろうるさいくらいだったのだけど。

しかも、アズサのタイプは長身で彫りが深い男のはずだった。低身長で幼い顔立ちの彼はまさに真逆のタイプといえる。だから私たちは戸惑った。好きなタイプとは真逆の男に一目惚れとは……

 

「この人のどこにそんなに惚れちゃったの?」

 

友人のひとりが決死の覚悟で発した質問に、アズサは待ってましたとばかりに彼との出会いを語りはじめた。なんでも友達と数学のテスト勉強をしていて、どうしても問題が解けずにうんうん唸っていたときに、隣から助け舟を出してくれたのが彼だったそうで。彼は生物学科の学生で将来は理科の先生を目指していて……

 

「ちょっと、ちょっと待ってアズサ。彼は大学生なの?」

「そうだよ。みっつ年上!」

 

一同驚愕。写真を見る限り、絶対に同い年かひとつ下、もしかしたらまだ中学生かも……と思っていたのだから。

ますますどこがよかったのかわからない。アズサいわく、真剣な顔で解法を語るその横顔に惚れてしまったというのだが。

ていうかそれって一目惚れなのか? という疑問はさておき、でも、恋なんてそんなものなのかもしれないなあと、嬉しそうに語るアズサを見ながらぼんやり思った。きっと本当に恋に落ちるってことは不可抗力みたいなもので、好きなタイプとか共通の趣味とか、関係なくなっちゃうんだろうなあ。

 

当時、私はまだ、恋をしたことがなかった。

 

 

 

恋をしたアズサは、もともとうるさかったのがさらにうるさくなった。

アズサの猛アタックが実って、出会いから3週間後には無事付き合いはじめたらしかった。

写真を見せてはのろけたりデートやプレゼントの自慢話をしていたかと思えば、次の日には喧嘩したと言ってギャン泣き。しかしその日の昼休みにはもう「さっき電話で仲直りしたの。ゴメンみんな」などと言ってデレデレ笑っている。まあ忙しい女だことと私たちは半ば呆れていた。

 

彼は電車で2時間ほど離れたところにある大学に通っていて、その近所で一人暮らしをしているらしかった。アズサと出会ったときはちょうど実家に帰省中だったそうで、だからふたりは遠距離恋愛だった。会えるのはせいぜい月に1回か2回、しかも彼は貧乏学生だったから、たいていアズサが彼のところへ会いに行っていたようだった。

 

 

付き合いはじめて半年近くが経ったある日、アズサがいつになく暗い顔で、頬杖をついて窓の外をぼおっと見つめていた。あまりにも静かで彼女らしくないので、みんな気味悪がって遠巻きに様子をうかがっていたが、誰も声をかけることができなかった。「もしかして彼氏と別れたのでは」と思うと、とても爆弾を踏む気にはなれなかったのだ。

 

放課後になっても席を立つ様子がない彼女を見てさすがに心配になった私は、近寄って行ってそっと声をかけた。

 

「アズサ、まだ帰らないの? 今日元気ないけど、大丈夫? 具合悪い?」

 

アズサはちらりと振り返って私の顔を確認すると、ふっと笑った。

 

「なんかさあ、あたしってこんなに弱っちい人間だったかなと思って」

 

私がその言葉の意味をはかりかねて黙っていると、アズサは真剣な顔になって言った。

 

「最初は2週間会えないくらい、なんでもなかったんだよ。電話で話せるだけでも幸せだったんだ。でも最近、つらくて。電話じゃ満足できなくて。寂しくて。電話してるときはすごく楽しいんだけど、切った瞬間がもう、耐えられないんだ。切れる音とか、その後の静かな感じとか、もう無理。すごい寂しくて、会って、手つなぎたくて、たまんない」

 

私はなんて返したらいいかわからずに、ただ黙って突っ立っていた。

 

「どんどん好きになるんだ。付き合いはじめたときも、これ以上好きになるはずないってくらい好きだった。けど、今はもっと好き。大好き。風船が膨らんでいくみたいに、好きな気持ちがどんどん大きくなって、なんか、もう溢れそう。泣きそうなんだ、ずっと。あたしこんなセンチメンタルな人間じゃなかったはずなのに」

 

アズサは寂しそうに笑って、ため息をついた。

 

「『好き』と『愛してる』の違いってよくわかんないけどさ、あたし彼のことすごく愛してるのかもしれないって思う。こんな風にすごく恋しくて寂しくてずっと一緒にいたくて声が聞きたくて、ちゃんとご飯食べてるかなって心配でしょうがなくて、こういうのを愛してるって言うなら」

 

彼女はいったん大きく息を吸って、そして吐いた。

 

「愛を知って人は強くなる、なんて言うけど、そんなの絶対に嘘だよ」

 

私はただ想いを吐き出す彼女を見つめることしかできなかった。

 

「だってあたし絶対に弱くなったもん。愛を知ったはずなのに。それとも、弱くなるってことは愛してないってことなのかな? どういう状態になったら愛してるって言えるのかな?」

 

 

誰かを好きになったことも愛したこともない私は、目にいっぱい涙をためた彼女に、なにも応えてあげられなかった。

 

 

 

 

あれから8年もの月日が流れた。

アズサはその後も例の彼とのお付き合いをつづけ、彼と同じ大学に見事合格した。私は地元から遠く離れた大学に進学して、アズサとは連絡をとることもなくなってしまった。大学3年になって、ふたりが別れたことを風の便りに聞いた。噂では、アズサが彼にふられたということだった。

 

私はというと、大学生になってもなかなか彼氏ができなかった。というより、作らなかった。彼氏なんていらないと思っていた。だって、私にはやりたいことがいっぱいある。彼氏なんて作っても邪魔なだけだ。

 

けれどそれは突然やってきた。ノックもなしに私の心の中に入ってきて、勝手にぷうぷうと風船を膨らませた。そうなってみて、はじめてあのときアズサが言っていたことを理解できた。好きな気持ちがどんどん膨らんでは、溢れる。会えない日々の寂しさ。ちゃんとご飯、食べてるかな。夜はしっかり眠れてるかな。つらくて泣いてないかな。笑って過ごしているかな。会いたいな。手を、つなぎたいな。

 

恋をするということは、感情が津波のように押し寄せてくることなのだと知った。

 

 

あのとき、高校生の私はアズサに、なにも言ってあげられなかった。

けれど、誰かを好きになって、そして愛することを知った今。

あのときのアズサの言葉を、横顔を、よく思い出す。

 

愛の定義なんて、20代なかばに差し掛かった今でもよくわからないし、たぶん一生よくわからないままなのだろう。でも、私は彼のことを愛していると思ったその瞬間、私は愛することを知ったのだと思う。

 

恋をすると感情が津波のように押し寄せてくるけれど、愛するということは、感情が津波のように流れ出すことなのだと思う。だからきっと自分ではわからないのだ。これを愛と言っていいのかと、迷ってしまうのだ。

 

そして、だからこそ、自分が弱くなってしまったのではないかと感じるものなのだ。

私たちは感情を抑え込むのがうまいことを強いことと勘違いしている。でも、そうじゃない。

 

誰かにひたすら与え続けることで、人はきっと強くなっていくのだ。

木々を養う大地のように。

そして、与えた分だけ新しいものを吸い取って、豊かになっていくのだ。

地面の水を上へ上へと送り続けて広がる木の根のように。

 

そうやって地上に伸びた木は、きっととても涼しい木陰になって人々を癒し、たくさんの動物たちのすみかとなるだろう。

本気で誰かを愛することができたら、きっとそんな豊かな世界をひらくことができるのだと信じたい。

 

 

 

あのときのアズサの恋はもう失われてしまったみたいだけど、あの日の彼女に、今なら応えてあげられそうな気がする。

 

「アズサは、強いよ。ちゃんと彼のこと、愛していると思うよ」

 

「ちゃんと愛してるから、寂しさとか弱さを感じるんだよ。アズサはすべてを賭けて愛してるんだね、彼のこと。すごいな。私もそんな風に、誰かを愛してみたいな」

 

 

 

アズサのあの激しい恋はもう終わってしまったけれど、私の心に確実に何かを残していった。

そして、アズサが愛した彼にも、きっと何かを残していったことだろう。

彼女が注いだ愛は腐葉土のように積もって、彼の心を養っているはずだ。

 

アズサが今どこでどうしているかは知らない。けれど彼女はきっと、すてきな、心の豊かな美しい大人の女性になっていることだろう。

彼女はもうあのときの問いに対する私の答えなんて必要としていないだろうと思う。

けれど今、私は彼女に会いたい。

ふたりの大人の女として語り合いたい。高校生の頃に語り合えなかったあれこれを。

 

 

スマートフォンを手に取って、LINEでつながっている数少ない高校の同級生を探す。あの頃一緒になってアズサの恋に驚き呆れ、そして応援していた仲間だ。トーク画面を開いて、一気に打ち込む。

 

「久しぶり! ねえ、2年のときのクラス会、やらない? 私、幹事するからさ。みんなの連絡先、知ってる?」

 

 

 

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2017-02-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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