プロフェッショナル・ゼミ

パティシエになれなかった私が手にしたもの《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田裕子(プロフェッショナル・ゼミ、小説)

「本日は、博人さんとわたくしの結婚披露宴にお越しいただき、ありがとうございます。おかげさまで、つつがなく披露宴もお開きを迎えようとしております。

このあたりで新婦からの手紙、というのが、披露宴の常かと存じますが、残念ながら、わたくしの両親はすでに他界しておりまして……。このたびは、わたくしから皆さまに向けて、ご挨拶をさせていただければと存じます。

皆様のお手もとに配膳されておりますウェディング・ケーキは、先ほど、司会の方がご紹介くださったように、今朝わたくしが作ったものです。どうでしょう。お口にあいましたでしょうか。

わたくしは10歳のころ、母を亡くしまして、幼いころから料理をする機会が多くありました。「大変だね」とよく言われましたが、幸い、料理は好きでした。そこで中学卒業後、家政科のある高校に進学し、調理師免許を取得したのです。

さらに1年間、製菓・製パンの専門学校に行きました。今日、同級生たちも来てくれています。みんな、大きなホテルや有名なスイーツブランドに就職していきましたが、わたくしはどうも、華やかな世界には馴染めなくて……。お客さん一人ひとりの顔が見えるお店で働きたいと思い、知人のつてで、今の「ベーカリーたけうち」に就職いたしました。

小学校・中学校の同級生には「都ちゃん、パティシエなの!?」などと言われることもあるのですが、そんな、おしゃれなものではありません。田舎町のしがない、パン屋 兼 ケーキ屋ですからね。あ、竹内さん! すみません! お気を悪くなさらないでくださいね。わたくしは今、この仕事に誇りを持って、楽しく働いております。

ただ最初は、自分自身が選んだ道とはいえ、悩むこともありました。華々しい活躍をする同級生の話を聞くと、心がざわつくこともありました。そんなわたくしに、ここで働く誇りを強く感じさせてくれた、一人のお客さんがいました。

その方は、50代後半のかわいらしい女性でした。

野菜農家だそうで、よく日焼けをしていらっしゃいました。時には、麦わら帽子をかぶって、首にはタオル、という出で立ちでいらっしゃいましたが、そのような格好でもチャーミングだと感じさせる人でした。

そのお客さまは、いつもイートインなんです。お持ち帰りになることはなくて、店内に数席だけあるイートインスペースで、ケーキを一つだけ食べて帰るんです。

一度その訳をお尋ねしたことがあるんです。そしたら、「お父さんには内緒やからね」と。いたずらっぽい笑顔でおっしゃったんですね。もちろん人生の大先輩ですから、失礼な言い方かもしれないんですが、かわいらしいなぁ、と思っておりました。何だかまるで、恐妻家のお父さんがこっそりパチンコに寄って帰るような、そんな感じで、うちの店に寄って、帰られるのです。

だいたい、お一人で出荷作業をなさった日の帰り道とか、お夕飯の買い出しのついでとかですかね。月に数回、顔を出してくださるんです。ケーキをお召し上がりのその手は、日々ひたむきに働く人のそれでした。一生懸命頑張っていらっしゃる方が、うちのケーキを楽しみにしてくださっているのだと誇らしく思いました。自分のケーキが、そのお客さまの癒しになっているという事実は嬉しいものでした。

小さい店ですから、うちでお出ししているのはだいたい定番のケーキです。ショートケーキとか、チョコレートケーキとか、モンブランとか……。ただ、それ以外に、月替わりのオリジナルケーキもあるんです。それは、竹内店長がわたくしに任せてくださっているんですね。季節の果物を使ったり、トレンドを採り入れたり、ちょっと工夫しているんです。そのお客さまは、それを毎月チェックしてくださるんですね。毎回食べて、感想を言ってくださるから、本当に、励みになって。

今回、結婚披露宴のウェデイング・ケーキを自分自身で作ってみようと思い立ったのも、その方が、わたくしに自信をくださったからだと思っています。

その方もお忙しいですから、パッと食べて、5分とか10分でお帰りになるんですけど、店内に他のお客さんがいない日には、ちょっとおしゃべりさせていただくこともあるんです。

そのときに、お客さまがお話しされるのが、だいたい息子さんのことでした。

「もう30も過ぎたんだけど、全然、彼女を連れてこないのよ。本人は『仕事が忙しくて、恋愛・結婚どころじゃない』って言うんだけどねぇ」
なんて、愚痴られることもしばしば。

ただ、1番お聞きしたのは、
「息子はね、お父さんにも私にも似なくて。本当、賢くてしっかりした子なのよ」
という言葉でした。

自慢のひとり息子のようでした。普通ひとりっ子って、甘えんぼさんになりそうなものですよね。でも、息子さんは、小さいころから、週末や長期休暇には、よく農作業のお手伝いをしてくれたんだそうです。

「優しい子でもあってね。自分はひとり息子だから、跡を継いだほうが良いんじゃないかということを早くから気にしていたの。私はそんなのどうだっていいのよ? でも、『農業高校に行った方が良いか』とか、『大学にも農学部農学科ってあるらしいよ』とか、言うのよ。お父さんはね、それで良いんじゃないか、って言ってたけど、私は、それはもったいないと思ってるわけ。私は、学校を出てすぐにうちに嫁いできて、当たり前のように農家になったけど……。あの子は賢いんだし、もっと力を活かして、好きなことを何でもやったらええ、と思ったのよね」

こうした後押しの結果、息子さんは、国立大学の医学部に現役合格されたそうです。すごいですよね? そのまま、お医者さんになったのだといいます。

……あ、もう、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、もう少しだけ、お話しさせてくださいね(笑)

その自慢の息子さんは今、近くの市民病院に勤めていらっしゃるそうです。お忙しいはずですけど、今も、繁忙期には、ご両親の農作業をお手伝いされているそうです。そもそも、後になって尋ねてみれば、医学部進学を選んだのも、ゆくゆくは地元で診療所を開業し、兼業農家をやることを見据えての選択だったんだそうです。どこまでも、おうちやご両親のことを思いやる、優しい息子さんなのだと思います。ただ、お母さまからすれば、その親孝行は、有難い一方で、申し訳ない気持ちにもなるのだといいます。

わたくしは、こうしたお話をお聞きしていて、また、お客さまがお話しされるときの嬉しそうな笑顔を見て、
「きっと、本当に優しい息子さんなのだろうなぁ」
「仲の良い、すてきな親子なんだろうなぁ」
と、想像をふくらませておりました。ですから、息子さんの実物とお会いしたときには、一人で盛り上がってしまいました。

……それが、今、わたくしの横にいる、博人さんです。

普段そのお客さまは、「うちの息子は」とおっしゃるのですが、ある日ふいに「うちの博人はね」とおっしゃったんですね。そのときは特に気にも留めなかったんですけど。

それからしばらくして、博人さんが店に来られたんです。実は、博人さんは、前からときどき来てくださっていたのですが、ケーキ屋の一人のお客さんですよ? 名前までは、知らなかったんです。ただ、その日は、パーティーで使うケーキの予約ということで、予約票に名前をお書きになったんです。「あ、ヒロトだ」って思いましたけど、それだけなら、よくある名前ですからね。そのあと、「領収書の宛名は市民病院で」とリクエストされたときに、気付いて、「あーーーーっ!」と思わず声を上げてしまいました。

でも、店員にいきなり「あーーーーっ!」って言われたら、びっくりしちゃいますよね? 博人さんも戸惑っていました。

わたくしも何からお話ししたら良いか分からなくて、
「お客さまって、もしかしてご実家は農家でいらっしゃいますか?」
なんて、とんちんかんな訊き方をしてしまいました。変な人ですよね。

それから、お互いに、事情を答え合わせしていくときの、楽しかったことと言ったら!

博人さんが、少しはにかみながら話してくださった様子は、今でもよく覚えています。

自分は顔に似合わず甘党で、「家族へのおみやげ」という大義名分を使って、うちのケーキを買いに来るのが好きだった、ということ。

そのケーキをひときわ楽しみにしていたのが、お母さまだった、ということ。

月替わりのケーキを買って帰った日には、お母さまが、
「今月のケーキはこれなのね~。お母さん、先月のよりも好きだわぁー」
と、妙に詳しいことを言うので、不思議に思っていた、ということ。

お父さまが、お母さまは昔と比べて太った、とからかうので、ずいぶんと気にしていらっしゃる様子である、ということ。

それでも、うちのケーキは嬉しそうに召し上がる、ということ。

それらを微笑みながらお話しされる様子は、お母さまが博人さんの話をされるときとそっくりだったんです。きっと、あたたかいご家庭なのだろう、と思いましたね。この頃にはわたくしは父も亡くしておりましたので、うらやましく思いました。

……ですから本日、わたくしがこの家族の一員に入れていただけることになった、ということを、心から嬉しく思っております。本当に。

でも、すごいことですよね。

わたくしのケーキを博人さんが買って帰ったことで、お母さまとうちの店がつながって……。

お母さまがわたくしのケーキを食べながら、お話をしてくださったことで、博人さんとわたくしがつながって……。

そうしてつながったわたくしたち二人が、わたくしのウェディング・ケーキで、夫婦生活をスタートしたわけです。

お義父さま。

お義母さま。

ふつつかものではありますが、これからどうぞ、よろしくお願いいたします。

そして、わたくしは、この新しい家族と、自分の作るケーキとを、これまで以上に誇りに思い、いっそう精進してまいりたいと存じます。ご列席の皆さま、どうぞ、末長く見守っていただけたら幸いです。

***

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