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メディアグランプリ

飾らないままでいいと教えてくれた、大事なパートナー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:城裕介(ライティング・ゼミ)

鍋にココアと砂糖と少しだけ水を入れる。最初は弱火で、焦がさないように。沸騰する前に一度火を止める。軽く粉が溶けたら、5分くらい寝かせて、牛乳を少しずつ入れながら沸騰直前に火を止める。ブランデーを最後に少し加えて完成だ。大学生のときに研究したココアの作り方だ。

それまで、自分は外に出るのが得意じゃなかった。高校は進学校に入ったものの、それまで仲の良かった人はほとんど離れてしまい、コミュニケーションもうまく取れず、交友関係はうまくいっていなかった。人見知りは激しくなり、誰かとしゃべるのが億劫になっていた。クラスの中で目立たないように過ごし、ただ時間が過ぎるのを待っていた。その不満は本を読むことやゲームをすることに向かった。高校生の終わりまでの青春の大部分をそれに費やした。そんな自分に限界があるのはわかっていた。誰とも関わるのが怖い自分もいたけれど、そんな自分でいるのもすごく嫌だった。

だから大学に入ってからは人となるべく積極的にかかわるようにしようと動き出した。ボランティアとダンスのサークルに入り、クラスの集まりや何らかの集まりがあるときにはなるべく積極的に参加した。しゃべるのはうまくなかったし、人見知りもしていたけれど、しんどいなと思うこともあった。けれどそれ以上に「自分の居場所がない」という恐怖に追い立てられていた。

そんな中だったから、ココアを出してみようと思ったのは自然の流れだったのかもしれない。ココアが好きな人なら絶対に気に入ってくれると思えるくらい自信があった。それでも最初に出した時には飲んだ時の反応が怖くてドキドキしていた。自分で誰かに何かをふるまうということが不安だったけれど、評判は上々だった。「ココアといえば城」というくらい大学の自分の周りには影響力があった。

そのことは僕の中では革命的な出来事だった。自分の居場所を自分で作り出せたという実感があったからだ。別に料理が好きなわけじゃなかったけれど、その感覚は僕に新しい世界を教えてくれた。そこから僕の研究はさらに拍車がかかった。

あるとき大阪に日本で有名なココアの専門店があるらしいということをインターネットで知った。そこは繁華街である心斎橋の大通りから少し外れたところにあり、僕はそこに立ち寄った。

40年続いているという少し薄暗い店内は、古めかしいけれど、昔のココアのポスターや缶がおいてあった。レトロな雰囲気のお店だった。

ジンジャーがはいったココア、マシュマロが入ったもの。砕いたピーナッツと混ぜてあるもの。さらにはウイスキーやラム酒とココアを混ぜたカクテルまであった。メニューはコーヒーすらなく、ぎっしりココアで埋め尽くされていた。

窓際の席に座ると、小柄なおばあちゃんが注文を取ってくれた。従業員らしい人は見かけなかったからこの人が一人でやっているんだろう。大阪の雰囲気には少し似合わない柔らかい雰囲気は不思議と心を落ち着かせてくれた。

そうして出てきたココアを一口飲んでみる。美味い。濃厚だけれどくどさも甘ったるさもない。後味も尾を引かない。自分の作るものも結構自身があった。スタバにもそんじょそこらの喫茶店のココアにも負けないと本気で思っていた。でもこのココアは次元が違う。アマチュアとプロの違いだといわれればそうなんだけれど、それだけで引き下がりたくなかった。

「おいしいココアってどうやって作るんですか?」

帰り際、お会計を済ませておばあちゃんにたずねた。無謀すぎる質問だと思ったけど、聞かずにいられなかった。そんなぶしつけな質問にもおばあちゃんは笑顔で答えてくれた。

「愛情をこめればココアは誰でもおいしく作れますよ」

愛情をこめる? さっぱりわからない。ただおばあちゃんの笑顔は適当に答えているとは思えなかった。なんなんだろう。それから、自分の家のココアにも新たに試行錯誤を加えた。砂糖をはちみつに変えてみたり、シナモンを加えてみたり、マシュマロを加えてみたり、試行錯誤をしてみたけれど、おばあちゃんのココアに追いつくことはできそうになかった。

社会人になってからは慌ただしくなり、ココアを作ることもぐっと少なくなった。誰かを家に呼ぶこともほとんどなくなり、自分のアイデンティティの象徴だったココアは自分にとってそこまで重要な存在じゃなくなっていた。手間をかけて作るほどじゃないなと思った。

文系卒の僕には慣れない建築という仕事に追われ、喜怒哀楽の激しい職人さんたちとのやり取りに四苦八苦し、日付が変わるギリギリまで仕事をすることもあったし、やるべきことに自分の心を埋め尽くされていた。うまく相談もできず、人より仕事を処理するのもうまくなかった。そんな日常に心を奪われ、身体も心も疲れ果てていた。

ココアは、最初は好きだから作っていたものだったはずだった。けれどいつの間にか誰かに喜ばれるためだけに作るものに変わっていたのかもしれない。作るのに面倒臭さを感じるになっていたし、そこまでして作るものだとも思えなかった。

それからちゃんと作ろうと思ったのは3年以上ぶりだった。久しぶりに作ってみようと思ったのは自分のつくるココアの味が恋しくなったからだった。ずっと誰かに作っていたけれど、自分のためだけに作ってみようとしたのはもうずっと前のことだったような気がする。

鍋に火をかけ材料を温めスプーンで混ぜてさっと溶かす。ざっと溶けたなと思ったら、いつもだったらここで置いておく。いつもはそこで止める手を今回は止めずにスプーンを回し続けた。社会人になって時間が無くなった。でも、それだからこそいつもより手間をかけてみようという気持ちがわいてきた。

1分くらい混ぜていたら少し変化があった。いつもだったらマグマみたいにぽこっと浮かんでいる泡がほとんどいなくなっている。それに艶っぽい。完成したものを口にしてみると、これまでと全然違う。おばあちゃんのいう「愛情をこめる」ということがこのときようやく理解できた気がした。

ココアなんて別にこだわらなければコンビニで買えるし、手作りにしたってレンジで手軽に作れる。なのにココアをわざわざ作る必要なんてあるのかと思うときもあった。

でも、わざわざ手間をかけて作るココアはなんだか大切にしたくなるのだ。実際においしくできているけれど、時間をかけている分ゆっくり味わうようになった。そして作るときにもなんだか楽しくなってくるのだ。お店のおばあちゃんが教えてくれた愛情はそういうことなんじゃないかと思った。

ブランデーを入れる。ラム酒を入れる。マシュマロを入れる。これでも確かにおいしい。でも本当においしいココアのために必要なものは違うものだ。いろいろなおいしい組み合わせのものを混ぜることじゃない。

昔のココアの作り方は自分を象徴しているみたいだなと思った。中身にこだわらずに、身に着けるものをよくしようとしたり、喋る内容をうまくしようとしたり、周りの目を気にしていた。

「自分にも手間をかけていいんじゃない?」

もくもくと練っているとココアが語りかけている気がするのだ。

自分という素材を僕はちゃんと引き出そうとしているのだろうか。ブランデーや何かを混ぜる前に自分を磨くことをちゃんとしているのだろうか。自分はもっとちゃんと手間をかけていい存在だと思わせてくれる気がするのだ。

もしかしたら書くこともそれに似ているかもしれない。僕は誰かに何かを伝えようとするのが怖かった。ココアを飲んでもらったときにドキドキしていたのと同じように。その気持ちはあって当然のものだけれど、それが行き過ぎると誰かによく見せようと言葉を作ってしまう。そうなってしまうと疲れるし、楽しくない。

そういう気持ちを捨てて、自分の伝えたい気持ちをきちんと練っていくと、なぜだか楽しくかけるのだ。そうしておいしくできたものは自然に誰かに勧めたくなるし、読んでほしいと思える。

とはいえ、自分の気持ちを素直に書くことは難しくて、ついついカッコつけようとする気持ちが湧いてきてしまう。そう思うとココアは着飾らない自分を戒めるパートナーなのかもしれない。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-02-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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