メディアグランプリ

拝啓 カレー店店長様


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:うらん(ライティング・ゼミ)

突然お手紙を差し上げる失礼をお許しください。
私は、以前そちらのお店にたびたび伺っていた者です。いつも、お店のクッションをお借りしてカウンター席に座っていた、と申し上げれば思い出していただけるでしょうか。

急に足が遠のいてしまい、申し訳ありません。
とはいっても、飲食店においてはよくあることかもしれませんね。
ただ、段々と行かなくなったのではなく、頻繁に通っていたのがパタッと顔を出さなくなったわけですから、あまり良い気分ではなかったかと思います。どうか、お許しください。

さて、昨晩のTV番組で、美味しいカレー屋さんとしてそちらのお店を紹介しているのを、偶然拝見しました。
観ているうちにお店に通っていた頃が思い出され、いてもたってもいられず、ペンを執った次第です。
すごいですね。とうとうTVで紹介されるまでになったのですね。そのうえ、いくつかの料理雑誌にも取り上げられているとか。
やはり、ちゃんと美味しいものを作り続けていれば世に認められるのだなあと、深く感じいりました。

私が初めてお店に伺ったのは、二年前の秋のことでした。
近所の商店街を歩いていると、脇道の少し奥まったところに新しくお店ができているのが見えたのです。センスのよい店構えだったので、つい覗きに行ったのがきっかけです。
お店はまだ開店して数日しか経っていないようでした。外から覗くと、人の好さそうな男性が一人で切り盛りしているのが見えました。
おもての黒板に書かれたメニューを見て、「ここは美味しいに違いない」と確信しました。
私はジャケ買いならぬジャケ食いが得意。レコードやCDなどを、中味を知らずにジャケットの印象で判断して買うように、店構えやメニューから、美味しいお店を嗅ぎ分けます。

案の定、大当たりでした。
お店で出されているのは、ナンで食べる、とろっと濃厚な北インドカレーではなくて、小麦粉やバターを使わないサラッとしたルーを、ご飯と一緒にいただく南インドカレーでした。さっぱりしていて胃にもたれないので、私は南インドカレーが大好き。
どんぴしゃりで、私のツボにはまりました。

初めて伺った日は、一人だったのでカウンター席に座りました。
私は背が低く、飲食店のカウンターやテーブルが自分の胸の位置にくることがよくあります。それは、大人の女性として決して優雅な姿ではありません。いつも、そのことを恥ずかしく思っておりました。
その日もそうでした。座った瞬間、(ああ、やっぱり……)。
いつものように自分のかっこ悪さに暗然としていると、「これを敷いてください」と店長さんがクッションを差し出してくれました。お店の棚にあったものです。
やっぱり傍目から見てもかっこ悪かったか、と恥じ入りました。
すると、「ウチのカウンターが高く作りすぎているんです」と、店長さんはさり気なく言葉を添えて、私に恥をかかせないよう気遣ってくださいました。

そちらのお店には、そうした心遣いが、常に感じられていたものです。

肝心なカレーも、どれもこれもスパイスがバランスよく組み合わされた、深い味わいのあるものばかりでした。えもいえぬ美味しさです。カレーなのに、毎日食べたくなるような、まるで薬膳のような、そんなカレーです。

私はたちまち虜になり、週に一度の頻度で通うようになりました。
ある日、お皿に盛りつけられたご飯の中に、カルダモンの粒がひとつ入っていたのです。ご飯を炊くときに一緒に入れたスパイスを、取り除ききれなかったのでしょう。
(ラッキー!)。私は、カルダモンの香りがとても好き。スパイスの除き忘れをかえって嬉しく思いました。
「でしたら、これからは毎回カルダモンを入れておきますよ」
私がカルダモンを好きだと知ると、店長さんはそうおっしゃって、本当にその日以降は、私のお皿のご飯に必ずカルダモンを一粒のせてくださいましたね。
他にも、冷たい水が飲めない私には、いつも氷抜きの水を出してくださったりと、いくつかイレギュラーに応対してくださいました。
私は、自分だけ特別扱いしてもらっているようで、何だか得意な気分でおりました。

いつの間にか、お店に入ると自分から「これ、お借りしまーす」と棚からクッションを取って、席に座るようになっていました。まるでお得意さん気取りです。

やがて、お店が開店一周年を迎えることになりました。
お祝いに何か贈り物をしよう。ありきたりでないものがいい。そう思い立ち、あれこれ考えめぐらせました。
結局、知り合いの絵本作家さんに頼んで、その方のオリジナルカレンダーにお店の名前とイラストを描いてもらったものを贈りました。覚えていらっしゃるでしょうか。

記念日当日は、とてもお忙しそうでしたね。私は早々に退散し、あらためて後日ゆっくりお話しすることにしました。その贈り物にまつわるエピソード等、お話したいことが沢山あったのです。

数日後、お店にうかがうと、ちょうど私以外にお客さんがいません。店長さんとカレンダーの話ができそうです。
贈り物を見て驚いてくれただろうか。喜んでくれただろうか。感想が聞きたくて、その数日間はうずうずして過ごしていたのです。
私はいつものようにクッションを持ってカウンターに座り、いつものようにカレーを注文し、店長さんは、いつものように調理に取りかかりました。

何か言うかな。贈り物のことを、何か言うかな。

ところが……。
店長さんは、黙々と調理を続けるばかりです。

どうして? どうして? どうして贈り物のことを何も言わないの。
私は、秘かに思い描いていた想定問答がひっくり返って、動揺しました。

何か悪いことをしてしまったのだろうか。店長さんの機嫌を損ねてしまったのだろうか。
いえ。店長さんに特に機嫌が悪い様子はありません。いつものように、にこやかに応対してくださいます。
それにしては、贈り物のことには一切ふれない。ひょっとして、私は差し出がましいことをしたのだろうか。

たまに昼に食べにくるくらいで、常連ぶってるんじゃない。分をわきまえろ。
もしかしたら、そう思われているのかもしれない。いや、多分そうだ。

自分のことを、お得意様だなんて勘違いするんじゃないぞ。出過ぎたマネするな。
鍋に向かう背中で、そう語っているような気がしました。

手作りチョコを渡したら、相手にドン引きされた感じ、とでもいいましょうか。
もちろん、店長さんに恋をしたわけではないので、どうぞご安心ください。

私は、自分のしたことが急に恥ずかしくなり、顔がカーッと熱くなったのを覚えています。緊張のあまり口の中がカラカラに渇き、もうカレーどころではありません。
どうやら、私は思いあがっていたようです。
自分だけ特別扱いしてもらっているような気になり、いい気になっていました。天狗になっていました。
心配りの行き届いた店長さんのことですから、どのお客さんに対しても、心尽くしのサービスをしていたはずです。
それなのに、私ときたら、自分が厚遇されていると勘違いし、調子にのっていたようです。
それまで私は、カレーがとても美味しいから、そちらのお店に足が向いてしまうのだと思っておりました。
でも、もしかしたら、特別待遇が(特別待遇と勝手に思い込んでいただけですが)嬉しくて、そうしてもらうことが心地よいから、だから、足しげく通っていたのかもしれません。
世の中の「常連さん」を気取っている人の中には、そんな人もいるのではないでしょうか。

人は誰でも、自分を大切に扱ってほしいものです。
いやいや。人一般に普遍的な気持ちかどうか分かりませんでした。少なくとも、私にはそういう気持ちがあります。
ですから、お店に伺っている間は、自分が認めてもらえているような、価値のある人間であるような、そんな気持ちになれ、自分に自信がもてたのです。
そうなんです。私は、常日頃から自分のことをダメだダメだと思っているものですから、認められているという手応えを得たときの喜びは、何事にも替えがたいものでした。

でも、ようやく気付きました。
他人から認められなければ自分に自信が持てないなんて、おかしな話です。
自分の価値は自分で決めるもの。他人からどう扱われるかで自分の価値が決まるわけではありません。そうしたものに一喜一憂していては、いつまでたっても自分という人間が定まらないことになります。

そして、もうひとつ気付いたことがあります。
あの日、店長さんが贈り物のことに触れなかったのには、何の他意もなかったということです。
真面目な店長さんですから、ただ真剣に調理に取り組んでいただけだ、と思うに至りました。
自分に自信がないと――他人からの扱いにばかり関心がいっていると――、他人の態度を偏って捉えがちなのですね。

お店に顔を出さなくなって、もう一年以上が経ちます。
ああ。私は何て勿体ない日々を過ごしてしまったのでしょう。

無性にカレーが食べたくなってきました。
明日、カレーを食べに行きます。
お得意様ヅラせずに行きます。
カレーが食べたいから、行きます。
ですから、お願い。ご飯にカルダモンを一粒のせてください。

敬具

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2017-03-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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