メディアグランプリ

この春こそエアマックスを履く。カラオケデビューしたあの夜のように。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:unai makotoki(ライティング・ゼミ)

「ミスチルが聞きたーい。誰か歌ってよ」
大学の友人5人との二次会、カラオケボックス。友里は、いつもより少し酔って見えた。

「一番新しい曲。イノセントワールドがいい!」

僕は友里のことが好きだった。そして、彼女には2年にもなる彼氏がいた。
彼氏持ちへの片想い、という状況が、すでに1年。そろそろ、気持ちケリをつけたくて、
別に好きな子ができることを本気で願いはじめた矢先。

「私、彼氏と別れることになった」

理由は定かではないが、修復できるようなものではないらしい。
以来、あきらかに友里は落ち込んでいた。今日の会の目的は、
友里を元気づけることだった。
僕は、せつなさと言葉にしてはいけない期待感が混ざった不思議な気持ちを感じていた。
とにかく、友里のリクエストに応えたいという気持ちが高まっていった。

一方で、大学3年生にもなって、生まれて一度もカラオケを歌ったことがなかった。

単純に人前で歌うことが恥ずかしい。そして、自分の声が本当に嫌いだった。
何よりも、気持ち良く歌う姿を友人がイジってこないか、不安だった。

周囲はだいたい中学時代にデビューしているらしい。
実力差は約10年。90点台を出す友人もザラ、というレベルの高い会だった。
ミスチルはクロスロードでレコ大を獲得。翌年発表のイノセントワールドが
発売早々にミリオンを獲得。日本にはミスチルブームが起きていた。
桜井さんは本当に歌がうまい。特にイノセントワールドはキーが高く
90点台をマークする友人たちでさえ歌うのを躊躇しているようだった

それでも、歌いたかった。

「とにかく思いきって歌ってやる!」
誰に宣言するでもなく、自分に対して、鼓舞するように、つぶやいた。
ジョッキに半分くらい残っていたビールを一気に流し込んだ。曲の番号を打ち込む。
画面の隅に、次の曲目が表示された。「Mr.Children イノセントワールド」
友里がすぐに反応した。

「ミスチル、誰?」

その問には答えず、僕は、マイクをつかんだ。イントロの間、
恥ずかしさと後悔がこみ上げてきた。でも、もう後戻りはできない。

歌い始めたあたりからの記憶が一切残っていない。
ただ、友人が言った一言を除いて。

「お前の声、でか過ぎる!」
荷物らしきもので、ぐいぐい押される感覚で我に返った。
エアマックスに手を伸ばした若者が、邪魔だと言わんばかりに
リュックを押しつけてきていた。

「すいません」

少しイラ立ちを覚えながらも状況がうまく飲み込めず、とりあえずその場を離れた。
若者は1足を手に取り、彼女らしき女の子の元へ小走りで戻っていった。
ぼくは、表参道のNike Harajukuにいた。
なぜ、急にあの夜のことを思い出していたのだろう……。

あらためてお目当ての靴を探す。フライニット エアマックスIDだ。
おなじみのエアソールに靴底前面に敷かれたクッション材とそれを覆う透明のカバー。
表面には、鮮やかな赤のフライニットに真っ白なスオッシュマーク。
素足のような履き心地と耐久性を完全に両立している。
エアマックスは最高のスニーカーだ。
エアマックスに夢中になったのは、高校時代にまでさかのぼる。
当時、エアマックス95が大流行していた。エアマックスを履いている人が襲撃されて、
靴だけ盗まれる、そんな事件が起こるほどの人気だった。

それから20年以上。ずっと、エアマックスに憧れている。
でも、未だに、エアマックスを履いたことが無い。いや、履くことできない。
エアマックスでは、そっと目立つことができないのだ。

街でエアマックスを履いている人を見たら注目してほしい。
ハイセンスな人とダサい人にはっきり分かれることが分かるだろう。
ぼくは、そのどちらに所属するのも嫌なのだ。

例えば、髪型。ハイセンスな人は長めのツーブロックで残した髪を1:9で決めている。
ダサい人は、運動部の刈り上げという雰囲気で残した髪も「狙って」というより、
無精で伸びた感じ。

パンツのシルエットに注目すると、ハイセンスな人はタイトで、くるぶし上まで細くロールアップしている。ダサい人は、パンツがダボダボで、裾は余り、せっかくのエアマックスが隠れてしまっている。ロールアップしている人の場合、ロールが分厚い。

ハイセンスと思われれば、何だか調子に乗っているヤツと思われそうで困る。一方、ダサいと思われるのは、ぜったいに避けたい。

ほどほどに目立ちたい。

そんな中途半端な承認欲求がエアマックスを20年以上遠ざけていた。
「ぜったい似合うからだいじょうぶだって。決めちゃいなよ」
リュックの若者と女の子の会話が聞こえてきた。

「いや。なんか目立ち過ぎない?スニーカーの色がこんなに目立つと
合わせるパンツが限られるのも、今イチじゃない……?」

「彼女の私が言ってるんだから、間違い無いって」。

ここにもエアマックスを選びきれない人がいる。身近な存在が保証してくれるならだいじょうぶだろうに、それでも踏み出せない気持ちも我がことのように理解できた。
「だいじょうぶだよ。思い切って履けばぜったい似合う。第一みんなすぐに見慣れるよ」

そうなのだ。見慣れてくるのだ。

あのレディガガだって、はじめて見た時は衝撃的だったが、今では、物足りなくない
スタイルだってある。

身も蓋も無い話かもしれないけれど、他人なんて、自分が思うほど、ぼくのことを
見ているはずがない。「見慣れる」とはまさにそのとおりなのだ。

カラオケデビューしたあの夜以来歌うことに抵抗は無い。

人生初カラオケは、音痴という事実を周知する結果になった。一方で、一生懸命歌う姿と音程とのギャップがなんだか好意的に受け入れられもした。友里とも距離を縮めることができた。結局、付き合うことはできなかったけど、今でも友人関係が続いている。

エアマックスを履いてほどほどに目立ちたい、この「中途半端な承認欲求」問題を
解決しようと思う。暖かい日が来たら、しっかりロールアップしてエアマックスを履こう。

春だからエアマックスを履く。それくらいの軽さでコンプレックスなんて
簡単に乗り越えられるはずだ。きっと。

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2017-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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