プロフェッショナル・ゼミ

【就活生に告ぐ】「出してからおいで」と私は言った。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講申込みページ/東京・福岡・京都・全国通信】人生を変える!「天狼院ライティング・ゼミ」《日曜コース》〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:石村 英美子(プロフェッショナル・ゼミ)

「おはようございまーす」

珍しく早めに会社に行った。やることが満載なのに、ちっとも仕事が片付かないのが分かっているからだ。朝イチに会社のパソコンを起動すると、Outlookの受信フォルダを確認する。

32件。……おぉ、結構来ている。

人事総務課に勤める私は、新卒採用の担当だ。この時期、某大手採用関連サイト経由で会社説明会のエントリーが多数入ってくる。おそらく夜間に申し込むのだろう、朝になると申し込み受付メールがごっそりと溜まっているのだ。

このサイトからの申し込み時、自動送信で「受け付けました」旨が、入力された内容の写しと共に送信される。しかし、返信用のメールアドレスの入力間違いや、ドメイン指定拒否で自動返信が送れない事がある。その場合、「相手先に届蹴ようとしたんだけど返って来ちゃったごめんね」的な事が英語で書かれたメールが届く。そのメールが本日は3件。まぁ、ましな方だ。まずこいつから片付けなくちゃ。

学生さんの携帯に電話をかける。
「……はい? もしもし?」
「あ、○○さんでしょうか? わたくし、株式会社▲▲人事グループの石村と申します」
「あ、はい」
「会社説明会のお申し込みありがとうございます。今朝ほど確認致しました」
「あぁ、はい」
「で、ですね○○さん、ご記載頂いたメールアドレスに返信差し上げたのですが、届かなかったようなのでご連絡差し上げました」
「あ、そうなんですか」
「そうなんですよ」
「じゃぁ、もう一回申し込んだらいいんですか」
「いいえ、違います。お申し込みは受け付けておりますので、お申し込みの日時にお越し頂けたらいいんですが、これからもメールでご連絡することになるので、メールアドレスを確認させて頂けないでしょうか。今、口頭で読み上げてみてよろしいでしょうか?」
「あ、今ちょっとわからないんで」
「わからない?」
「アドレスとか覚えてないんで」
「そうですか。調べたらわかりますか?」
「わかりますけど、携帯見ないとわからないんで」
「……そうですか。では、確認して折り返しご連絡いただく事は可能でしょうか。着信の番号へ」
「あー、でもこの携帯しか電話がないんで」
「えっと……あ、通話中は画面が見られない、という意味でしょうか?」
「はい」
「……」
「どうしたらいいですかね」

……書け! 紙に書け!!

人事裁量権は持たない私だが、もうこの時点で不採用にしたい気分だ。しかし、連絡が取れて話が出来ただけこの子はましな方だ。知らない着信番号に出ない子も多いのだから。

「何か、お手元に書くものはありますか? ありますね。そしたらアドレスを書き出して、それからご連絡頂けますか? 担当、石村です。宜しくお願いします。失礼しまーす」

ふーーー。申し込みのあった学生さんの情報をExcel出力してリストにしながら連絡を待つ。待つ……。待つ……。しかし20分経ってもかかって来ない。着信の番号にそのままかけるのがそんなに大変なのだろうか。

「石村さーん、3番に学生さんから」
「はーい」

やっとかかって来た。

「はい、お電話代わりました石村です」
「あぁ、○○大学経済学部経済学科の」
「○○さんですよね、お待ちしてました」
「あぁ、はい」
「早速ですが、読み上げて下さいますか?」
「あ、はい、ちょっと待って下さい。手帳出すので」
「……手帳。はい」
「えっと、あれ? ちょっと待って下さい」
「はい」
「手帳に書いたんですけど、あれ? ……(ごそごそ)」
「……」

出してからかけろよ! 手帳をよ!!

やっとの思いで確認したアドレス間違っていなかった。ドメイン指定の問題だったようだ。設定変更をお願いした。「え? どうしたらいいんですか?」と問う学生さんに努めて明るく「ご使用のキャリアのカスタマーサービスに聞いてみては?」と答え、早めに電話を切った。切りぎわ電話の向こうで「キャリアってなん……」と聞こえたような気がするが、気のせいだ。他の着信不能の学生さんは電話に出なかった。もういい、この子達は後回しにして、今日の午前中の説明会の準備をしなくちゃ。

この時期、会議室は通しで確保しているが、人事グループが使用しない時間帯は、他の課が勝手に使ったりしている。使うのは構わない。構わないが、ほぼ確実に現状復帰していない。2Fの会議室Aに行くと案の定、長机と椅子が移動されている。心の中で舌打ちしながら、一人で机を並べ直した。イラついているので足で机を蹴って並べたりしてしまう。我ながら大人気ない。すると開け放ったドアの方から声がした。

「あのー」

学生さんだった。

「はい! あ、今日説明会にご参加の方ですか?」
「はい。早く着いちゃったんですけど」
「そうですか。えっと、どうしようかな」
「手伝いましょうか? 同じ向きにしたらいいんですよね」
「え? あぁ、ありがとうございます」

感じのいい学生さんだった。しかし、開始一時間前に来るのは早すぎないか。机を蹴ってるのも見られたし。机と椅子を並べ終わった後、そのままそこに座って待っていてもらう事にした。午前の部の参加者リストを取りに行こうとする私に、学生さんはもう一度「あのー」と言った。

「はい?」
「あ、すみません、これ終了予定は……」
「えっと、メールでもお知らせした通り90分ですけど、最後はアンケート記入に20分くらい時間取っているので、予定がおありでしたら早めに退出できますよ」
「アンケート急いで書くので、書き終わったらすぐ出ていいですか?」
「はい、大丈夫だと思いますけど……人事次長に伝えておきますね」

この時期、どの企業も会社説明会をやっている。学生さんはスケジュールをきちきちに詰めて説明会巡りをするのだ。きっと午後に参加を申し込んでいる、別の企業があるのだろう。と、思ったらそうではなかった。

「午後イチの講義にどうしても出ないといけなくて、遅刻も三回貯まると一回欠席扱いになるんですよ。間に合わないとまずいので。すみません」
「ん? この時期講義あるんですか?」
「教授の都合で休講が多かったので」
「あらま。大変ですね」
「すみません」
「いえいえ。なんか、就活で遅れる場合は遅刻免除とかあればいいのに。届けとか出してね」
「ありますけどね」
「はい?」
「ありますけどね、就職活動証明書」
「あ、あるの?」
「教務課に行って申請出せば、必須の会社説明会なら認めてもらえます。たぶん」
「そうなんだ」

思わずタメ口になったが、あるのかそういうの。そりゃそうだ。じゃあ、なぜそれを提出しない。

「今回はその証明書は……」
「出してないです。なんか面倒くさくて」
「……そうですか」
「だから、すみません、終わったらダッシュで講義に行かせて下さい」
「……わかりました」

出してから来ればいいんじゃないの!? そのなんちゃら証明書を!
会場に一時間前に来るくらいだったら教務課に行けばいいのに。学生さんは宣言通り、全速でアンケートまで書き上げ「ありがとうございました!」と走り去った。

このようにして、十数コマの説明会が行われる。採用試験までの道のりは遠い。学生さんにとっても、私にとっても。

あくまで「会社説明会」の申し込みなので、これにより審査が行われることはない。しかし人事次長の指示で、連絡なしの欠席をした学生がいた場合、記録して報告を上げるように言われている。集団面接リストの備考欄に★(黒星)が入るのだ。なので、実際に応募して来た際には何らか影響があるのかも知れない。

だいたい、申し込み数の5%は連絡なしで来ない。多いときは20%位来ない事もある。いい大人の社会人だって飲食店や歯科医の予約を連絡なしですっぽかしたりするのだから、学生さんばかりが認識が甘いわけじゃない、と、私は思う。

やって来る学生さんのほとんどは礼儀正しく、きちんと挨拶もできて感じもいいのだが、たまぁに様子がおかしい子もいる。先にも挙げた、メールが受信できない学生、なぜか証明書を提出せず会場には早く来る学生なんてのはまだいい方で、

・定形外郵便に80円切手しか貼ってない。
・封筒の住所は合っているが、会社名が競合他社になっている。
・彼氏と一緒に来て、ショールームでいちゃいちゃしている。等々。

本当にいろんな事をしてくれる。どうしてそうなっちゃうのか理解に苦しむが、何しろまだ社会経験がないのだから、しょうがないのかもしれない。

ある期間、このように会社説明会が行われた後は、いよいよ募集・採用試験となる。

さて応募締め切り当日。
続々とエントリーシートが届く。必着とはお知らせしたものの、郵便だって事故がある。1日くらい遅れたって受け入れてあげるのだが、応募する側からすれば、そう楽観的にはならないのだろう。だから朝から何度も郵便屋さんが「速達」を持って来る。申し訳ないくらい何度も来る。夕方18時を過ぎてもまだ来る。郵便屋さんも苦笑いだ。

届いた封筒は片っ端から開封し、一旦50音順に並べ、面接官の人数分コピーをとる。丁寧に一筆箋に「採用ご担当者様、ご査収のほどよろしく云々」と書いてゼムクリップで止めてあるものもあるが、はっきり言って作業の邪魔だ。お気を使って下さるなら工程を増やさないで頂きたい。

この会社では全員を一次面接することになっているので、グループ面接の開始時間をそれぞれにメールで送信する。単純に頭から50音順に組分けしたいところだが、朝イチの時間帯はなるべく家が遠くない学生さんにしたり、グループが全員同じ学校にならないよう調整したり、時間帯変更の申し出に対応したり。なかなか手間と根気が要る作業だ。

そうして迎えた一次面接。
グループ面接も二日目の後半。押し寄せる学生をさばき、面接官のお茶を取り替え、だいぶ疲弊した頃、問題が起きた。

その学生さんは水嶌さんという名前だった。その名前が、リストに無い。どこにも無い。

「えっと……水嶌さん……」
「はい、水嶌です」
「えー、少しお待ちくださいね」

この名前には覚えがある。嶌の字なんて滅多にない。しかし昨日分にも今日の他の時間帯にも「水嶌」の名前は無い。やばい、なぜだ。

「あの、ちょっと手違いがありまして」
「はい」
「大変申し訳ないんですが、水嶌さん次の組に入ってもらえますか?」
「わかりました」
「お時間大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」
「すいません、おかけになってお待ちください」

デスクに戻って、エントリーシートの原本も確認した。メールの送信履歴も確認した。しかし「水嶌」の名前は無い。どこにも見当たらない。うわ。でもこの名前知ってるし。念のため説明会の参加履歴を確認した。そこには名前がある。会社説明会で書いてもらったアンケートもある。

なんだろう? 私が失くしたのか? いや、失くしようが無い。きっと郵便事故で届かなかったのだ。それか、他の部署の郵便に紛れて見つからなかったのかも。私にとっては百何十人のうちの一人だが、学生さんにとっては人生の岐路だ。見つかりませんじゃ済まない。脇が汗で冷たくなっている。

人事次長に事情を説明し、学生さんには正直に謝罪しよう。そしてせっかく来てもらったんだから、一次面接を受けてもらおう。あぁ胃が痛い。

「あ、水嶌さんすみません、お待たせしてます」
「あ、いいえ」
「大変申し訳ないんですが、水嶌さんのエントリーシートがどこにも無いんですよ」
「エントリーシートですか?」
「はい。どの時点で紛失したのかは分からないんですが、今日はこのアンケートで面接を受けて下さい。で、後日また送ってもらえますか? コピーとってますよね」
「とってないです」
「あ、とってないですか。あいたた」
「書いてないので」
「……はい?」
「エントリーシート書いてないので」
「え? 書いてないとは……」
「え? 書かなきゃいけなかったんですかね」
「書かないと、出せませんよね」
「あぁ、はい」
「ということは、エントリーシート出してらっしゃらないんですか?」
「はい。あれ? 出さないといけなかったんですか?」
「出さなきゃいけなかったんですよ」
「あぁ、なんだ。じゃぁいいです」
「ちょっと待ってください。この面接の日時は何で……」
「あ、一緒に説明会受けた友達から聞いて」
「友達に聞いて、ですか。うーん」

困った。この子、ウエブ上でエントリーしただけで応募したつもりだったのだ。確かに一次まではそれでやる企業もあるらしいが……君は説明会で一体何を聞いていたんだ! そしてなぜ友達と同じ日時だと思った! 必死で探して損した! 胃が痛くなったの返せ! 困ったままの私に、水嶌さんはのんびりと尋ねた。

「やっぱダメですかね」
「はい?」
「エントリーシート出してないと、受けられませんかね」
「そうですね。受けられ……ませんね」
「そうですか。分かりました」

水嶌さんはコートを手に取り、カバンを持って立ち上がった。

「失礼します」
「お疲れ様でした」

何だったんだ。今日はもう負けた気分だ。完敗だ。何に? それもよく分からない。
水嶌さんの後ろ姿を疲労感たっぷりで見送りながら、私は小さい声で呟いた。

「出してからおいで……」

***

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