メディアグランプリ

見た目の履歴書


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ノリ(ライティング・ゼミ)

「今日はお勤め、お休みなんですか?」

手ぐしで髪の状態を確かめながら、鏡越しに美容師は聞いてきた。
よくある美容室での、よくある一場面。
だた一つ、私が中学二年生だということを除けば。

はい、確かに、学校の制服でもない、学校の運動着でもない、中学生にしては大人っぽいジャージを着て行きました。
確かに、水泳部で、プールの塩素のせいか、髪は黒くはありませんでした。
まあ、それなりに背が高い方で、大人と変わらない体の大きさではありました。
でも、でも、「お勤め」って……。

ショックを受けながら、中二であることを伝えると、美容師は息を飲んだ。
「えっ!? えっ中二!! 大人っぽいんだねえ〜!」
こっちが「えっ!!」だっ!
そう思ったが、「大人っぽい」という言葉は子供心に素敵に響いた。
しかし、ここから私の「老け顔」人生が始まることを、中二の私はまだ知らない。

14歳で「お勤め」に出た私は、20歳には結婚して「主婦」になるのだ。

「ピンポーン」
大学の近くで一人暮らしをする私のアパートのインターホンが鳴った。
ドアを開けると、猛烈な勢いで洗剤を渡してくる男。
「はい! 洗剤、これあげる!」
「はあ? いらないんですけど」
「旦那さん、新聞読まない?」
「え! 私、学生なんですけれど……」
「な〜んだ〜!!」
男は私の腕から洗剤を奪い取るとそそくさと帰って行った。
「えっ!? えっ! なに今の?」
私はしばらく玄関に立ち尽くした。

確かに、真っ昼間、家にいましたよ。玄関先でもテレビのワイドショー、大音量で聞こえていたでしょうよ。
ええ、ええ、確かに、6畳が2部屋と4畳半が1部屋あるここは、学生が一人で住むには広いアパートですよ。
でも、でも、私、そんなに所帯じみてるの!?

学校で友人たちに打ち明ける。
「うちにもよく来るよ! ヤダね〜」
「ほんとしつこいよね〜、新聞の勧誘!!」
同情はしてくれたが、そこではない。私以外、誰も主婦に間違えられた人はいないのだ。
「アパートがデカイからだよ〜!」
友人は肩をたたいて笑ってくれるが、私は自分が「老け顔」であることを、しっかり自覚しつつあった。

「老け顔なんで、よく年上に見られるんですよ〜」
そして歳をとるにつれて、私は自己紹介がてら、そんな軽口をたたけるようになっていった。
もちろん、初めて行く美容院でも。

ところが、そんな私の人生に転機が訪れたのは、30歳を過ぎたころ。
それは不意にやってきた。

「ノリさんって、若いよねー」
「えっ! 20代だと思った〜!」
「学生じゃないの?」
仕事の同僚に、仕事のお客様に、通っていたパン教室のクラスで。
これには驚いた。
もちろん、初めはただのお世辞だと思って流していた。
しかし、日々確実に、年齢より若く見られることが増えてきたのだ。
私はついに、自分の年齢が、自分の「老け顔」を追い越したのだと喜んだ。

私は14歳で「お勤め」に出て、20歳には結婚して「主婦」になったのに、30歳過ぎに「学生」になった。

おもしろい、実におもしろい人生だ。

のっぴきならない家庭の事情で働きながら、なんとか中学を卒業。一生懸命働くうちに、同じ職場の年上男性に見初められ、20歳にして結婚。子育てがひと段落したところで、幼いころあきらめた勉強をするために、独学で猛勉強をして、高卒資格を取得し、見事大学に合格。30歳で夢だった学生生活を満喫している。
そんな人生を、「見た目」の私は送っている。
これが私の「見た目の履歴書」だ。
実際の「私の履歴書」とは、まったくかけ離れている。
しかし、実際の年齢と、見た目の年齢。
実際の職業と、見た目の職業。
2つの人生を生きていると思えば、悪くないかもしれない。

他人からどう見られるかは、自分では予想ができない。そしていつも不意に知らされる。
サプライズだ。
それは、実際の世界では味わえない驚きを私に見せてくれる。
「見た目の履歴書」は、まさに私の驚きの履歴書でもあった。

つい先日、いつもは行かないレンタルビデオ店の前で、どうしても映画が観たくなった私は、また、驚きに遭遇した。

「職業は……主婦でよろしいですね?」
ちらりと横目で私の顔を見て、店員は言った。
「あっ……はい……」
会員登録をした私は、思わず答えてしまった。
申込書の職業欄には、いくつか選択肢があったが、フリーランスで働く私はピッタリくるものがなかったので、空欄のまま出したのだ。
私は独身だ。でもその店員の決め付けには、なぜか言い返せなかった。

午後4時半。郊外のショッピングモール近くのレンタルビデオ店。
そうか、まだ、会社帰りにしては早すぎる。
40歳手前の女性は、そうか、だいたい主婦なのか。
私の今日の服装は、主婦らしいのか。
勉強になった。

「見た目の履歴書」にはまた、40歳手前で「主婦」が書き加えられた。
私のもう一つの人生は、一体どこへ向かっていくのだろう。

ただ気になっているのは、申込書にあった、配偶者の有無を問う項目だ。
独身の私はもちろん「なし」に「◯」してある。
配偶者がいない「主婦」はいるのだろうか。
気の小さい私は心の中で願うしかない。

バレませんように!!

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2017-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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