メディアグランプリ

ほんとうの自分をさがすウドの大木


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:塩 こーじ(ライティング・ゼミ)

「ウドの大木かぁ、お前はぁ!?」
 商品をひとつだけ袋に入れ忘れた僕に、サラリーマン風の客は暴言をぶつけて去っていった。
“コンビニの店員にしか、えばれないのかよ”
 僕は心の中でつぶやいて、カウンターに散らばった小銭をレジスターのトレイにしまう。
終電も過ぎたというのに店にはひっきりなしに客が入ってくる。すぐに目の間に、どすんと新たな買い物かごが置かれる。考えているひまはない。
僕はペットボトルの水やカップ麺やコミック雑誌のバーコードを休みなくスキャンし続ける。レジがそのたびにピ、ピ、ピと小刻みに電子音をたてる。

 8時間の夜勤を終えるころには自分に暴言を吐いたサラリーマン客の顔すらおぼえていなかった。
 というより勤務中に起きたほとんどの出来事は、その場が過ぎてしまうとあまり印象に残っていない。
2年も同じバイトをしてると、たいていの業務は条件反射的に処理できるようになって何も感じなくなる。よけいなことも考えなくなる。
感情は抜けてしまい、からっぽの体が機械のようにただ作業を進めるだけ。「コンビニ人間」という芥川賞を受賞した小説があったけど、いまの自分はほとんどコンビニ・ロボットだ。

 それまでトラックドライバーとか旅行会社の添乗員とか、外をとびまわる職ばかりついていた。1ヶ所にじっとしている店員のような仕事は正直にがてだ。
 それが2年も続いたとは。もうすっかりこの店に根を生やしてしまったようだ。
 だからってこの仕事が気に入ってるわけじゃない。たんに時間を金に替えているだけ。ここで働いてる自分はあくまで仮の姿、ほんとうの自分じゃない。
でも「ほんとうの自分」ってなんだろう? このごろはそれすら分からなくなり始めている。

「ほんとうの自分」さがしを続けている人は多いだろう。それまで働いていた会社をやめたり新しい習い事を始めたり、とくにあてもなく都会へ出てきたり逆に田舎暮らしを始めたり。
本当の自分はこんなもんじゃない……ひそかにそう思いながら不本意な毎日をやり過ごしている人たちもいる。「自分の実力が発揮されないのは〇〇のせいだ」と不満を抱きながら。
この〇〇にはさまざまな理由があてはまる。生まれ落ちた環境のせい、両親の育て方が悪かったせい、学歴や容姿のせい……。

 そんな人たちに向かって「それは全部いいわけに過ぎない。いまのあんたがほんとうの自分なんだよ」と冷ややかに揶揄する声もいっぽうでは存在する。
 たしかにご意見はごもっとも。「自分探し」を嗤う側からすれば、現在の僕の姿は時給1000円足らずで客にへいこらしているコンビニの店員でしかないのだろう。「これはほんとうの自分じゃない!」そんな僕の叫びは心の奥底にしまい込まれる。

現実の社会で「素」をだせない僕は、唯一、書くことでほんとうの自分を表現しようとする。

さいわい、バイトの合い間に原稿を書いて多少のお金をもらえるようになった。だけどほんとうに自分が書きたいものを書くのではない、他人が読みたいものを書くのがお金をもらうプロなのだ。
 そう思いながら商売用の文章を書いているうちに、書いたものすらほんとうの自分自身からかけ離れ始めていた。

ほんとうの自分が書きたいものと、他人がお金や時間を費やして読みたいものと、両者をすり合わせて一致点を見つけるために、僕はたぶんライティング・ゼミに来ている。
 多くの人に理解されなくても、わかる人にだけ分かればいいというアーティスト指向の強い人たちも否定する気はない。でもそういう芸術家肌タイプは、まわりからの共感は得られにくいだろう。
きっと「ほんとうの自分」もそういうものだ。簡単に他人に受け入れてもらえるものじゃない。だから人は「素」を隠して分かりやすいキャラを演じるのだ。
 必死に演技を続けてるうちに、やがて中心にあったはずのほんとうの自分はなくなってしまい表面上の役割だけが残る。まるで枯死する寸前の巨大な老木が、表側の幹を残して中は空洞となってしまっているように。

ウドという木も、見た目はでかいけど中はからっぽらしい。なるほど、頭が鈍いヤツを「ウドの大木」って呼ぶのはそこからきてるのか。
 一ヵ所に根を生やして動けずにいるウドの大木から、もういちど根無し草に戻って人生をさまよってみようか。立ち枯れてしまう前に。

 いつものようにコンビニの夜勤に入る。
 長い夜が過ぎ、やっと空が薄明るくなるころ、現場へ向かう途中らしい肉体労働者風の人たちが次々と店に入ってくる。ペンキや油のしみだらけの作業着姿で、熱い缶コーヒーだの手巻きおにぎりだの、朝食がわりのわずかな食料を買っていく。
 この人たちもきっと、いまの自分の姿はほんとうの自分じゃないと思ってるんだろうなーと、レジを打ちながら僕はぼんやり考える。
 暴言を吐いたあのサラリーマンも、会社では上司にヘコヘコしながら「これはほんとうの俺じゃない」と必死にこらえているにちがいない。

 ほんの少し彼らに同情したいような気分になってきた。
久しぶりにわいた人間的な感情。でも表向きはあくまでも無表情を装う。彼らだってそこらのウドの大木みたいなコンビニ店員に同情されたくはないだろう。
商品を詰めた袋を渡しながら「ありがとうございました」というときに、かすかに気持ちみたいなものを言葉に含ませた。

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2017-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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