メディアグランプリ

楽しかったって言わなくてもいいよ


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記事:中村 美香(ライティング特講)

 

「自分の手をじっと見て『これがいつか焼かれてしまう』とか思うとみんな遊んでても動けなくなるような子どもだった」

 

偶然、深夜につけたテレビから聞こえてきたセリフに、ドキッとした。

 

昨年の9月に、NHKの“SWITCHインタビュー達人達(たち)”に出ていた、小説家で詩人の川上未映子さんがそう言っていたのだ。昨年、話題となったアニメーション映画“君の名は”の監督の新海誠さんとの対談だった。

 

***

 

8歳の息子と、時々、思い出話をする。

ある時、

「幼稚園は楽しいことが、ひとつもなかった」

と、息子がつぶやいた。

「え? ひとつくらいあるでしょう、何か」

と、私は、驚いて聞いた。すると、

「例えば、何?」

と、逆に聞かれてしまい、戸惑った。

何か、言わなくちゃ! と、幼稚園児の頃の息子の姿を思い出してみると、泣き顔しか浮かんでこなかった。そのことに、さらにショックを受けた。

あ、あれは、泣いていなかったと、ようやく思い出し

「組体操は?」

と、聞いたら

「楽しいはずないでしょ。つらかっただけだよ」

と、少し怒ったように、息子は言った。

友だちと仲の良かった時期もあると思ったけれど、あぁ、確か、その友だちが、息子が苦手な遊びに夢中になってしまい、自然に遊ばなくなったっけ……と、残念な結末まで思い出した。

そして、とうとう、私は、息子の幼稚園での楽しい思い出探しを、断念した。

「小学校はどう?」

と、話を変えてみた。

「うーん。幼稚園よりはまし」

「そっか」

その日は、それで終わった。

 

親というものは、我が子に、いつでも「楽しかった」と言ってほしいのだと思う。

それは、なぜだろう? と考えてみると、我が子には「幸せである」と感じてもらいたいからだと思った。

しかし、実は、それ以上に、自分が安心したいのかもしれない! とも感じた。

我が子が「楽しかった」と言っているこの瞬間においては、自分は、親として、ある一定の職務を遂行している安堵感がある。

だから、逆に、「つまらなかった」「つらかった」「寂しかった」など、ネガティブな感情を告げられると、親として、責められている気がして、つらくなり、イライラする。

「なぜ、楽しくないのか?」

と思ってしまう。

私は、人並みに、ちゃんと子育てをやっているはずだ! それなのに、なぜ、そんなことを言うのだ! という怒りがこみ上げてくる。

 

でも、きっと、違うのだ。

 

「自分の手をじっと見て『これがいつか焼かれてしまう』とか思うとみんな遊んでても動けなくなるような子どもだった」と言う、川上未映子さんのように、感情というのは、自然に湧いてくるものなのだから、親を責めているわけではないのだ。

そんな風に、親が思ってしまったら、子どもの方が、つらくなってしまうだろうな……。

 

川上未映子さんは、何でもいいから自分の思いを作文に書くという課題の時に、

「みんな、いつか、死んでしまうのが怖い」

という、気になっていることを書いたらしかった。

いつも親からは、そんなことを言うと叱られていたのに、その時の担任の先生は、

「先生もようわからへん、でもよう書いた」

と、拍手をしてくれて、それが嬉しくてトイレで泣いた、と言っていた。

 

それを聞いて、子どもが不満に思っていることや、つまらないと思うこと、悲しいと思うことや、つらいと思うことを受け止め、そして、それらを伝えてくれたことに感謝することが、大切なんだと感じた。

 

この番組に出ていた、川上未映子さんも、新海誠さんも「普通」じゃないし、実際に、世の中を動かしている人々は、個性的な人が多い。

「普通」の感覚と違うからこそ、人に感動を与え、見えない世界を見せてくれているのだ。

そして、それに憧れている自分もいる。

 

ところが、私は、どうしても、息子には、「普通」を求めてしまう。

「普通」の意味もよくわからないまま、多くの子が平気でできることを、平気でやってほしいと思ってしまっている。

 

普通、これを楽しむよね?

普通、これで笑うよね?

どうして、そんなこと言うの?

 

そんな風に思ってしまう……。

 

元気で明るい、誰とでも仲良くできる子どもがよしとされ、私は、そうありたいと思い、子ども時代を過ごしてきた。

 

それが、正解なのだ! とは、言い切れない。

けれど、多少の不満や後悔はあっても、自分の人生が、そんなに悪くないと思うからこそ、我が子にもできることなら同じようにやってほしいと、無意識に思っているのかもしれない。

 

だけど、今、文章を書くようになって、個性的で、「普通」じゃない人とたくさん知り合った。

ひとりひとりが、本当に、輝いていて、彼ら彼女らの中から生み出される物語や発想に、いつも惹きつけられている。

 

その中のひとりが、「両親は、私が、怖がりなことを想像力が豊かだと肯定し続けてくれたので、臆病はほめ言葉と思うようになった」と話してくれた。

本当に、素敵なご両親だなと感動した。

 

親ができることは、我が子を肯定し続け、我が子の人生を応援することなんだと改めて思った。

 

息子は、やはり、変わっている。

子どもっぽくない。理屈っぽい。滑り台を滑らない。ブランコにも乗らない。おにごっこやかくれんぼも、あんまり好きじゃない。

 

でも、その代わりに、レゴブロックが好きだ。ジオラマが好きだ。空想が好きだ。昭和が好きだ。

 

「ないもの」を憂うのではなく、「あるもの」を認めようじゃないか!

 

これからも、愛とエゴを行ったり来たりしながら、悩むとは思うけれど、もしも、楽しいことがなかった日には

「楽しかったって言わなくてもいいよ」

って、言える親に、私はなりたいと思う。

 

 

  ***

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2017-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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