メディアグランプリ

「そこそこ」な私の逆襲


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:手塚 恵(ライティング・ゼミ)

「君、営業だっけ? まぁ、そこそこ、だろうね。売れるとは思うけど、トップにはなれないな」
大学4年生の終わり。4年間バイトした塾の慰労会でのことだ。
あと数週間後に社会人になる私に向かって、ツルピカな頭をした塾長はニヤっと笑いながらそう言った。
はぁ? 何それ! どうゆうこと!? しかも、それ、今言う?

***

最初は、他のバイトと比べて時給が500~600円高いという、ただそれだけの理由で始めたバイトだった。
家の近くに新しくできた個別指導の学習塾。
「時給1,500円」、「オープニングスタッフ」というチラシの文字に惹かれ、バイト先に決めた。
子ども相手でしょ、楽ちんだわ、と生意気にも高をくくっていた。
しかし、始めてみるとなかなか手ごわい。
思っていたのと全然違う。
小学生や中学生を相手にするのは、日本語を話せる「宇宙人」と話しているようなものだったのだ。
会話はできるけれど、まるでその意味を分かってくれない。
何度も言葉を変えて丁寧に説明する。
「Be動詞と一般動詞は一緒に使えないよ。I am studyはダメだよ」
「うん、分かった! 簡単!」
と目を輝かせた30秒後には、I am studyって書いている……。全然分かっていない。
ねぇ、わざとなの? 私に対する挑戦なの?
攻略できそうでできないゲームのように、全く思った通りにならない。
塾長は、そんな私に声をかけては、親身に相談に乗ってくれた。
そのおかげで、時が経つにつれてだんだんと成績が上がる子が増え、楽しそうに勉強する子も増えた。
嬉しそうに学校のテストを見せてくれる子どもたち。
生徒のお母さんにも感謝される。
次第に、人に喜んでもらえることに、自分自身が喜びを感じるようになっていった。
こんな風に思えるようになったのは、こまめに相談に乗ってくれる塾長がいたからこそ、だった。

そんな塾生活も、最後の日。
慰労会も終盤に差しかかり、今までの塾での思い出に浸り一人しんみりしていた。
塾長や同僚たちとも、もうお別れなのかぁ。
この塾長のもとで働けてよかったなぁ。
そう、思っていたところだった。
なのに。なのに! このツルピカ塾長……。
これから新生活に向けて、意気揚々としているこの大学4年生に向かって、そこそこ? トップにはなれない?
たしかに、私は優等生ではない。それは認める。
けれども、やってみなきゃ、分からないじゃないか!
このやろーーーーー。
無性に腹が立った。
許せない……。
今に見てろよ、ツルピカ。見返してやる。
この時、そう小さく決意した。

それから数週間後、私は入社式を迎えた。
自然と気持ちが引き締まる。
ただこの時点で、私には誇れるものは何もない。
営業として配属されたのにもかかわらず、人前に出ると緊張して話せない。
説明をするのも下手。
人見知りで先輩に話しかけることができない。
先輩に気遣いをすることもできない。
とにかく、他の同期と比べても、私にはできないことが多かった。
誰が見ても明らかに劣等生だった。
私は同期Aくんと同じ課に配属された。
同期というだけなのに、いつも私たちは比較された。
「Aは順調に売上をあげているのに、あいつは全然ダメだな」
私の知らないところでこう言われていることを、人伝えに聞いた。
ひどい……、私だって頑張ってるのに、と思ったけれど、事実そうだったからしょうがない。
「そこそこ」どころから、ダメダメだ。
いや、でも絶対そうはさせない。

とにかく毎日できることを少しずつやっていった。
訪問後は、お客様に御礼のお手紙を書く。
メールを送ったら、電話をしてフォローの説明をする。
お客様先に同行してもらった先輩に、「どうしたら分かりやすかったですか?」とアドバイスをもらう。
訪問履歴をメモして、次の訪問の作戦を練る。
今日できなかったことは、明日少しでもできるように。
少しずつ、少しずつ、確実にこなしていく。

そんな時、ひっそりと温かく見守ってくれる先輩がいた。
彼は営業部のエース。
その業績に驕ることなく、誰よりも謙虚で、そして誰からも好かれる人だった。
教育係というわけでもないのに、何かと気にかけてくれる優しい先輩。
私が壁にぶつかっていると、何も言っていないのにそれに気づいて「こうしたら?」「俺のお客様のところ一緒に行ってみない?」と声をかけてくれる。
先輩のおかげで、私はどんどん仕事をすることが楽しくなっていった。
できることが増えていき、劣等感が少しずつ薄まっていく。
そのうち、私にもお客様が少しずつ増えていった。
商品知識はないし、見積のミスは多い、どう考えても頼りない営業だったけれど、お客様は優しくいろいろと教えてくださった。
仕事このことだけでなく社会人の先輩として、とても親身に。
先輩やお客様のおかげで、じきに大きな仕事を任せてもらえるようになっていった。
憧れの先輩の足元には及ばないけれど、いつの間にか「そこそこ」とは言わせないくらい売上を伸ばすことができ、運よく社内で表彰をしていただけることができた。

大学4年生の終わり、人のストレートな物言いにショックを受け、悔しい気持ちを堪えられなかった。
けれど、今思えばそれが私の原動力になっていたように思う。
辛くて投げやりになりそうになったとき、辞めてしまいたいと思ったとき、いつもあのツルピカの言葉が頭で聞こえる。
おかげで、挫けそうな時に立ち上がれた。
負けてたまるか、と思わせてくれた。
そして、新たに出逢った人たちの温かさにも支えられ、一人前として認めてもらえることができた。
人との出会いが自分を成長させてくれるとはよく言うが、本当にその通りなのだということを学んだ。

「そこそこ」と言われて悔しかった私だったけれど、私は今、心地よい達成感で晴れやかな気持ちになっている。

***

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2017-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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