プロフェッショナル・ゼミ

出会い系サイトでサクラをしていた日々にゴメンナサイ《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:高橋和之(プロフェッショナル・ゼミ)<フィクション>

大学生活というものは、時間はあるがお金がない。
効率の良いバイトはないものか、そう思って探していたところ、
「メールの送受信作業、時給1,400円! 経験不問!」
という、バイトが見つかった。
勤務先も大学の近く、ダメもとでいいから申し込みをしてみようと思い、電話で応募をしたところ、3日後に面接をしたいとのことだった。
喜びながら履歴書を書く。
学生のバイトだと、家庭教師でもない限り時給は1,000円程度。そのことを考えるとなかなかの高時給。

面接の日。
メールの送受信とはどういうバイトなのだろうか。
緊張しながら会社のあるビルに入る。
ビルは歴史を感じさせる古い建物であり、殺風景な印象を持った。

ビルに入り、会社へ向かう。
ノックをしてドアを開けると、30人くらいの同年代の男女が、パソコンに向かって作業をしていた。
どうやら全員バイトのようだ。

「面接に来たの?」
スーツを着ている男性が話しかけてきた。
社員だろうか。
「はい、そうです」
「じゃあ、こちらの部屋で」
奥の部屋に案内され、椅子に座るよう促される。
履歴書を渡すと、男性は少しだけ見て、すぐにこちらを見た。
「近くの大学の学生さんだね。早速仕事してみようか?」
「ありがとうございます、具体的にどういうことをするのでしょう? メールの送受信と書いてますが」
「見てもらった方が早いかな」
社員がパソコン画面の前に来るよう手招きをしていた。
画面を見ると、

「おい、お金振り込んだのにポイント反映されてねーぞ。いい加減にしないと訴えるぞ!」

怖い文面のメールが映っていた。
「何ですか、この脅迫まがいのメールは」
「よくあることだよ。ポイントが反映されるのに時間がかかることを待ちきれない、短気な人間からのメールだよ」
「ポイントって何ですか?」
「ああ、その様子だと知らないようだね」
そう言って、Webサイトを立ち上げた。
トップページには、

「素敵な恋人を見つけよう!!」

と、でかでかと書いてあった。
「出会い系サイト、使ったことない?」
社員がぶっきらぼうに質問をしてくる。
「ありません。まだお金もありませんし」
「なるほど。じゃあ、仕事の説明をしよう。簡単に言うと、男性の会員とメールでやり取りをするだけだ」
「つまりは、女性のふりをしろということですか?」
「そうそう、俺たちの仕事は夢を売ることだ。後は男性のコミュニケーション能力の改善」
「はぁ」
「女性会員は無料だけど、男は一回のメール送信に2ポイント、20円かかるからそこで利益を得るわけ。メールのやり取りを長引かせればそれだけ儲かるから頑張って会話を引き延ばして」
「そうですか……」
少し戸惑いながら聞いていると、気持ちが顔に出ていらしい。
「悩むならやらなくてもいいけど、せっかくだから2時間だけやってみたら? 給料は日払いで渡すから」
「分かりました」
あまり気のりはしないけど、日払いにつられてやってみることにした。
「よし! じゃあ、あちらの席でやってみようか」
「はい」

そう言って、空いているパソコンの前に座らされた。
社員が隣の席の女性に向かって、
「新人が来たからいろいろ教えてやって」
「あいよ」
威勢のいい返事をする女性だった。
見た目もサバサバした感じで、おそらく年上だろう。
姐御と勝手にあだ名をつけることにした。
「じゃあ、プロフィールを作成しようか」
「プロフィールですか」
「そうそう、お前の分身の女性のプロフィールを作るんだよ」
姐御が教えてくれた。

名前、血液型、住んでいるところ、年齢、仕事、趣味、自己紹介……。
項目は多岐にわたる。
入力するだけで、1時間はかかりそうだ。
「時間かかりそうですね」
「ああ、だから自己紹介はテンプレート使えよ。早く前線に立たねーとな」
姐御はタバコを口にくわえたまま教えてくれた。
ここは、室内のタバコが大丈夫な職場だった。
「あと、自分の写真はこのフォルダにあるフリー素材を使えばいい。まず顔写真で大体スクリーニングされるから、美形しかいないぞ」
フォルダを見ると姐御の言うとおりだった。
可愛いタイプ、金髪のギャルタイプ、お嬢様タイプ……、色々なタイプの女性の画像がたくさん入っていた。
全員モデルと言ってもおかしくないくらい美形だった。
そして、その笑顔は画面の中だがとても輝いていた。

「サクラだよなぁ、これ」
少し罪の意識が感じられ、女性の画像を使うことをためらった。
よくよく見ると、フォルダの中に猫がいた。
これを使おう。

自分の画像を猫にして、テンプレートを参照にしつつプロフィールを埋め始めた。
「おっ、猫を選ぶとはやるじゃねーか。今日の一言は、素敵な出会いがあるといいにゃん、で決まりだ。あと、年齢は20台前半にしておけよ」
姐御が画面を見て、勝手にキャラ付けをしてくれた。
だが、言うとおりにやってみるか。

30分後、分身のプロフィールが完成した。
自画像は口を開け、少しあくびをしている白猫。きょーこちゃん24歳、AB型のみずがめ座。
今日の一言は
「素敵な出会いがあるといいにゃん」

いいのかこれで。
こんなんで男から連絡が来るのか。
やっぱりこの仕事辞めようか。
そう思いながら、「恋愛を始める」、と書かれたボタンを押した。
プロフィールがネットに上がったらしい。

一区切りついたので、お手洗いに行く。
先ほどの社員とすれ違ったので、プロフィールが完成したことを告げるとアドバイスをくれた。
「この仕事を例えるなら、センターを守っているのにセカンドまでボールを取りに行くようなものだ。会話はキャッチボールだからな。拾い辛い発言も拾って、ボールを相手に返さないと。守備範囲は広いぞ」
サクラをしている会社なのに、とてもいいことを言っているような気がした。

席に戻ると10分くらい経っていた。
だが、メッセージが20通来ていた。
「なんで!?」
独り言になってしまったが、姐御がフォローしてくれた。
「猫は人気あるんだよ、女が使う場合に限るが」

未開封のメッセージを読みはじめた。

「はじめまして、きょーこさん。猫好きなんですね。僕も猫が好きです」
会話はこれで終わっていた。

社員の言っていたことは本当だった。
質問の一つくらいしてきてほしいな、と思いながら他のメッセージを見てみたが、半分くらいが、このメッセージのように、質問も何もなかった。
これはこちらから会話のボールを投げないといけない。

他にもこんなメッセージがあった。

「こんなところに、素敵な出会いはないと思うよ」

意味不明だ。
わざわざ20円払ってお説教か。
そういうお前は何がしたいんだ!
こんな内容を返されては、本当の女性どころかサクラでも返事ができない。
こいつはスルーしよう。

他にも、
「きょーこちゃん、僕も猫好きだにゃーん。仲良くしてくれにゃーん」

という、28歳男性Cさん(外資系金融:年収600万円)からのメッセージがあった。
写真は結構イケメンだった。
だが、初対面の男性が、にゃーん、を使うのはかなりきついのではないだろうか。
イケメンに限らず。
別の意味で興味を持ったので、この男性とは猫語で会話をしてみることにした。

そして、一つだけ目を惹くメッセージが届いた。
36歳男性Jさん(会社役員:年収900万円)からのメッセージだ。
きょーこちゃんからも、自分から見ても大人である。
「ビルの上から見下ろす光り輝く都市の夜景、目の前で魚をさばいてもらい新鮮なまま食す楽しみ、旅先の旅館で海を眺めながら入る貸し切りの露店風呂……。世の中にはいろいろな楽しみ方があると思います。一緒に面白い世界を覗いてみませんか?」

少しキザっぽい。
でも、プロフィールはとてもしっかりしているし、大人の余裕が感じられる。
この人とは会話をしてみたいと思った。
押しに弱い女性なら、ドキッとするのかもしれない。

結局この日は、3時間滞在して30人とやり取りをして終わった。
続けようか悩んだが、もう少しだけ続けることにした。
実は、コミュニケーションについて考えさせられることが多かった。
それに、出会い系サイトを使う男の気持ちが見てみたかった。

次の勤務日は2日後、そこからは週3回定期的に入ることにした。
隣には、いつも姐御が座っている。
姐御に休みの日はないのだろうか。
今日はどれくらいメッセージが来ているのだろうか、そう思いながらパソコンをつけた。
300通を軽く超えていた。
今日一日で終わるかな、出会い系サイトに向ける男性の情熱を侮っていたようだった。

一人で15通連続でメッセージを送る男、質問もなく会話が続かない男、自分の好きなことについて延々と話し続ける男……。
会話のキャッチボールって難しいなぁ、本当にこれだと男性のコミュニケーションの練習だ、
と思っていると、にゃーん男のCさんのメッセージが届いていた。

相変わらず語尾が、
「にゃーん」
だったが、会話自体は面白いものであった。
自分のアピールもするが、相手に話させようとするスタイル。
会話のキャッチボールはとても楽であった。
さりげなく、自分がどれだけ猫が好きなのかも話してきた。

両親が猫好きであり、子供のころから猫は2匹以上飼っていたこと。
今は一人暮らしだが、黒猫1匹と暮らしていること。
猫なしの人生は考えられないし、将来結婚をするとしても猫好きな人でないと無理だということ。
話を続けていると、自宅の猫の遊び場の写真も送ってきてくれた。

Cさんは無類の猫好きだった。
語尾がにゃーん、であることに、今となっては違和感がなかった。

意地悪をして、一つだけ質問をしてみた。
「猫と女性、どちらか一つしか選べないとしたらどちらを選びます?」

Cさんからの返事は、
「とても選べないかな。どちらも人生に必要だから。男だったら、猫って答えるのだけど(笑)。難しすぎるよ、その質問は」
はじめて、語尾がにゃーん、ではなかった。
猫なしの人生も、女性なしの人生も考えられないとのことだった。

この会話以降、語尾ににゃーんがつくことがなくなり、仕事の話や将来の話などまじめな話が増えていった。
最初の印象と違って、Cさんは配慮のできるユーモアのある男だった。
そして、
「きょーこさんも猫好きみたいだし、今度猫カフェに行きませんか?」

という、メッセージが届いた。
さすがに会うわけにはいかない。
こういう時ははぐらかすのがいいと姐御が言っていた。
だが、Cさんはかなりの好青年と思われたので、姐御に変わった提案をしてみた。
「猫大好きな、外資系イケメンサラリーマン、28歳がいるんですけど、会ってみませんか?」
「どうした? 唐突な話だな。会話履歴見せてみな」
姐御が画面を覗く。
「あはは、猫語で会話してるじゃん。面白すぎ」
「あはは、最初は変な人かと思ったのですが、ただの猫好きな好青年と思ったので、このままはぐらかすのも勿体ないなと。幸い、きょーこちゃんの写真も猫ですし、会おうと思えば会えますよ」
「お、Cさんなかなか顔が好みだ。でも、タバコ吸わないのか。悩むな」
姐御は真剣に考えていた。
「よし! 後で、私の写真をメールするから、こんな外見でタバコ吸うけどいいですか、って送っておいて。OKだったら引き継ぐ」
「分かりました。あれ? 自分の写真もあるのですか?」
「そうだよ、一つだけの私本人の写真を使っているプロフがあるから。綺麗だろ、な!」
肩をたたきながら質問をしてきた。
強制に近かったが、口にタバコをくわえている姐御は、実際に綺麗な人だった。
何歳なのだろうこの人は。
ええ、美しいです、と偽ることなく答えていた。
答えを聞き、姐御は上機嫌そうに、口から煙を吐いていた。
初めて姐御の笑顔を見たような気がした。

Cさんからの返事がOKだったので、ここからは姐御に任せることにした。個別のメールでやり取りをするらしい。
Cさんのことは忘れて、他の人とのやり取りをはじめた。

しばらくすると、興味深いメールを送ってくれたJさんからのメッセージが届いていた。
Jさんには、ちょうど夜景が好きなので、
「夜景ってどういう所ですか?」
と、聞いてみた。
「一緒にご飯を食べるなら、浜松町や六本木、横浜が一番いいですよ。夜景を見るなら函館か長崎ですね」
そう言いながら、写真が一枚送られてきた。
Jさんによると、稲佐山という長崎県の夜景の名所とのことだった。
カップルで行くと別れるらしい、という小話も教えてくれた。
Jさんとの会話は多岐に渡った。
食べ物や旅行、映画、本、日本文化、経済……。
さすがは36歳役員、博識であるし、その話もとても面白い。
友人関係で悩んでいたので、そのことを相談したところ、親身になって話を聞いてくれた。
そして、掲示してくれた解決策で、あっさりと関係が修復された。

もし、女性だったら、間違いなく会いたいと思っただろう。
しかし、俺は男である。
急にJさんに対する罪悪感に襲われた。

Jさんは何者だろうか。
ここまでレベルの高い方だ、男の俺がうらやましいと思うくらい外見もいい方だと思う。
こんな36歳になってみたい。
だが、なぜ出会い系サイトを使っているのだろうか。
使わずとも、引く手数多なのではないか。
意地悪かもしれないが、聞いてみたくなった。

「Jさんは外見もかっこいいし、話もとても面白いです。悩みも聞いてくれてとても優しいですし。正直なところこういうサイトを使わなくてもモテるような気がしたのですが、なぜこのサイトを使っているのですか?」
Jさんからの返事はなかなか来なかった。
返事が来たのは数日後。

「なかなか、痛いところを突きますね、きょーこさん。正直なところ、自分で言うのも変ですが、それなりにモテると思います。でも、友人の紹介ですと、この年齢だと結婚というものがセットになります。僕は人生をずっと一緒に過ごせる女性を見つけたいのであって、結婚相手を見つけることではないのです」
メッセージは続く。
「なので、結婚というものを気にしない人と恋愛関係になって、ずっと恋人同士でいられたらと思うのです。その人生を一緒に過ごす過程での結婚、というのなら喜んでしますが」
「そうなんですね、自由な恋愛をしたいのですか?」
「いいえ、結婚ありきの恋愛でなく、恋愛ありきの結婚をしたいのです」

なんとなくだが分かった気がする。
「Jさん自身を見てほしいのですか?」
「そうです」

Jさんは、お金もたくさん稼いでいるし、仕事もしっかりしている。
だからこそ、ステータスではなく自分自身を見てほしいのだなと。

「ところで、きょーこさん。いろいろお話を聞いてくれたお礼に、ぜひ夜景の見えるレストランでのディナーをお誘いしたいのですが、良かったらいかがですか? もちろん、僕のおごりです。年齢の割に、お話を聞くのが上手なので、ぜひ実際にお会いしたいのです」

さて、困った。
コミュニケーション能力を誉められた気がするが、仲良くなりすぎてしまった。
今回ははぐらかすか。

「ごめんなさい、とっても嬉しいのですが、もう少し話してからにしませんか? Jさん大人だし緊張します」
ごまかすのもいつか限界がくる。
彼氏ができたことにして会話を打ち切ろうか。
そんなことを悩みながら、一つのことを決めた。

次の勤務日になった。
今日でサクラをやめることにした。
Cさんや、Jさんの話を聞いているうちに、男の気持ちを知るよりも、真摯に恋愛をしようとしている彼らに申し訳ない気持ちでいっぱいになったからだ。
お金のためとはいえ、俺にはサクラは向いていなかった。
これからは、地道に時給900円で接客でもすることにしよう。

隣の席はピンク色の少しフリフリした可愛らしい服を着た女性が座っていた。
姐御ではなかったので、残念だった。
挨拶くらいはしたかった。

「おはようございます、ありがとうね色々」
可愛らしい女性が声をかけてきたが、なぜかいきなりお礼を言われた。
顔を見たら、姐御だった。
「えっ!! 雰囲気違いませんか。可愛らしい格好ですね」
「そうでしょう、今日はこれからデートなの。あの猫好きの彼と」
「彼? えっと……。Cさん?」
「そうそう、彼と付き合うことになったの」
「すみません、何があったのですか?」
「いやね、あの後すごい会話が盛り上がって、猫カフェでデートした後そのままご飯を食べて、結局ベッドインまでしちゃった。とてもいい人だったし、付き合うことになったの」

サバサバしたところに変わりはないのだが、心なしか口調が柔らかくなった気がする。
「彼好みの格好を考えたらこうなってね。タバコもやめることにしたの」
「サクラをしてて本物の彼氏を見つけるって不思議ですね」
「うーん、そんなことはないと思うよ。結局、会話をしていて相手に響けばいいのだし。このバイト、女性が半分いるけど、意外とみんな実際に会っているみたいだよ。サクラとはいえ女の子だから、男性との会話が楽しかったら心も動くよ」
「そういうものなのですね」
「そう、結局は人に何ができるかだよ。明るかったり、楽しい人と一緒にいたいじゃない。後は、自分のことをわかってくれる人と」
「確かにそうですね」

きっとこれが出会い系サイトだけでなく、人を惹きつける秘訣なのだろう。

自分は相手に何ができるのか。

「おめでとうございます。ちなみに、俺は今日で辞めるつもりです」
「そっかぁ、別の仕事も彼女も見つかるといいね。人の彼氏を見つけてくれたのだから、きっと見つかるよ」
姐御の笑顔はとてもまぶしかった。
Cさんいいなぁ。

さて、最後にもう一つ終わらせないといけない。
Jさんにはお別れを言わないと。
そう思いながら、今日もパソコンを開く。

Jさんからメッセージが届いていた。
タイトルは、
「ごめんなさい」
だった。
何事だろうと思ったが、
「きょーこさんと話していて、色々と考え直しました。恋愛ありきの結婚とは言ったものの、結婚から逃げていただけかもしれない。それに、自分も相手を見ていなかったかもしれない。そう思い、友人の知り合いと何人か会うことにしました。そして、そのうちの一人の女性と付き合うことになりました。会いたい、と言っておきながら誠に申し訳ないです。だけど、現実に目を向けるいい機会を頂けたことに感謝します。ありがとう」
よかったね、Jさん。
そして、Jさんからは、まだコメントが続いていた。
「正直なところ、君がサクラだから会えないのではと思ったこともあるけれど、今となってはどちらでもいいです。君が誰であれ、素敵な恋愛をすることを願っています」

あらら、ばれてたのか。
いずれにせよ、少しはお役に立てたようで罪悪感が薄れた気がする。
ぜひとも、Jさんには幸せになってもらいたい。

Jさんとの会話を終え、俺の分身である、きょーこちゃんともお別れすることになった。

サクラを始めて3週間、この3週間はあっという間だった。

そんな日々から10年、今は普通に社会人として働き、結婚を約束した同棲中の彼女もいる。
彼女とは、出会い系サイトで知り合って意気投合した。

自分は相手に何ができるのか。

そんなことを考えながら、真摯に向き合いながら女性と会話したところ、彼女と出会うことができた。
出会ってまだ半年だが、既にお互いの両親に挨拶も済ませている。
出会って一年目に籍を入れる予定だ。

だが、困ったことに彼女はいまだに出会い系サイトを使っている。
「あのさぁ、同棲中の未来の夫の目の前で、出会い系サイト使うのやめてくれないかなぁ」
「いいじゃない、彼女がモテるのは彼氏にとっても自慢になるでしょ。常に男に見られる女性でありたいしね。それに、実際に会うわけではないし」
「そう言って、会いたくなるんじゃないの」
「ちょびっとだけあるけど、絶対に会わないわよ! どれだけ惚れてるのかぐらいは分かってほしいなぁ。でも、こういうセリフはちょっといいなって思う」
そう言って見せてくる。
「どんな感じ?」
俺に足りない要素があるのだろうか。
画面を覗いてみた。
「ビルの上から見下ろす光り輝く都市の夜景、目の前で魚をさばいてもらい新鮮なまま食す楽しみ、旅先の旅館で海を眺めながら入る貸し切りの露店風呂……。世の中にはいろいろな楽しみ方があると思います。一緒に面白い世界を覗いてみませんか?」
「Jさん、10年間同じセリフかよ!」
心の中で全力で突っ込む。

このセリフの印象が良かったんだろうな、横にも一人つられそうな女性がいるし。
「どこに惹かれたのか聞いていい?」
「露店風呂」
「今度、箱根にでも行こうか、海沿いの旅館に」
「わーい、貸し切りか、お部屋に露店風呂があるタイプでね」
彼女は嬉しそうにはしゃいでいる。

Jさんは、あの時付き合った女性とはうまくいかなかったのだろうか。
それとも、俺の彼女みたいに男を磨きたいだけなのだろうか。

「ねぇねぇ、川沿いがきれいだよ」
彼女が窓を開けて、部屋から見える神田川を覗いている。
神田川沿いは、ピンク色に少し染まっていた。

サクラだった、わずかだったが密度の濃い時間を思い出しながら、Jさんに春が来ることを願った。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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