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博多ラブホテル街感電死事件〜男からの卒業、博多からの卒業〜《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

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記事:小堺 ラム(プロフェッショナル・ゼミ)

 

「失礼ですけど、あなた、亡くなられた方とのご関係は……」
「……友人です……」
遺体安置室の前の廊下で、私は目の前の20代後半と思しき刑事につま先から頭のてっぺんまで舐られるように見つめられた。
それは冷ややかに値踏みされているような視線だった。
「どれくらい前から関係していたんですか」
紳士服量販店のセール品のようなヨタヨタのスーツの袖口をまくりあげた刑事の腕元には、使い込まれたことをうかがわせる傷だらけのGショックがはめられていた。
Gショック、傷だらけのGショック……
そういえば、以前一度だけ自称刑事と一夜を過ごしたことがあるけど、その時も
その男はGショックをしていたっけ。
なんでも、刑事は夜の屋外での勤務が多く、暗い現場ですぐに時間を確かめないといけないらしい。
それで、時刻表示が光って夜道で瞬時にわかる必要があるのでGショックは重宝するそうだ。
また、事件ごとに様々な状態の人の死体を調べる、つまり直接死体と触れ合うことも多いからバンドに肉片が食い込む可能性の少ないゴム製の時計の方が便利だ、というような「刑事Gショック必然論」を男は枕元で語ってくれた。
華やかさのかけらも、雰囲気も感じられない。
だけど仕事柄必然な理由から刑事たちはGショックを身につけざるを得なかったというわけだ。
仕事一筋なんだろうなあ。
質問に答える私の言い分を、要所要所で大学ノートにメモしている刑事は、深夜2時という時刻なのに呼び出されたのか、ジェルで固める暇もなかったのだろう。洗い立ての頭髪を、体育会系の男子大学生のようにふわふわとさせていた。
だけどそのクセ、腕を動かした時に隆起する胸の筋肉が女の私には存在しない色気を感じさせた。
そうね、例えるならターザンってとこかなあ。
心身ともに健全そのもの。
目の前のこの刑事ともし関係を持ったとしても彼は、私を悩ませることはないだろう。
そう、アノ男のように私を傷つけたりしないだろう。
私は、目の前の遺体安置室の入り口を見つめた。

 

 

私がアノ男と出会ったのは、2年前の秋だった。
百貨店で広報の仕事をしている私は、クリスマス商戦のことで頭がいっぱいで、連日連夜深夜帰宅をしていた。
当然ステディな彼氏なんて何年もいない状態で、たまに元彼から連絡があり、寂しさとほんの少しの期待も手伝ってホイホイと呼び出しに応じると、なし崩しのセックスをして、一夜を終えるという、さもしい行為を繰り返していた。
「もう、こんな状態やめなきゃ!!」
と思い立って、相談に行った先のおかまバーのママからは、「あんたさあ、情に厚すぎるのもタマにキズよ〜。故郷の母親が迎えてくれるような感じだから男が甘えちゃうのよっ。一度出て行ったものは、入れちゃダメなのよっ。男って本能的に出して入れてしたがるから、一度出て行った女にふと戻りたがることもあるだろうし、仕方ないんだろうけど。でもさあ、腹くくって断らなきゃ。まあ、アタシはとっくにタマがないから、オトコの気持ち、あんまりわかんないんだけどさあ。あははははは」と軽やかに言われた。
おかまバーのママは、私の何もかもを見透かしていた。
私だけではない。
そのほか相談に来る大勢の女の子のことを見透かしていた。
心は女なのに男の体で生まれ、男の子に恋しているのに素直に気持ちを打ち明けるのも許されない。そんな人生を歩みながら、親からもらった体を大改造し、女として生きることを決意し、一軒の店をもち、堂々と社会と渡り合っているのだ。
私とは、乗り越えてきた苦労の量も質も違うだろう。
この店に来ると、私は生きる力をもらえた。
何度も何度も悪い男に引っかかり、涙でマスカラがドロドロになっても、御構い無しにママは私のことを叱ってくれた。
傷ついた時、悲しい時、元気をもらいたい時、私が寄ってしまうのはママの店だった。

 

 

それでも人恋しい時、ふと、一人になりたい時私が寄ることにしているのは、夜景が綺麗な、適度にバーテンダーがひとり客を相手してくれるホテルのバーだった。
2年前の秋。
彼氏に振られた直後おかまバーで生きる力を取り戻した翌週、今度は一人で夜の雰囲気を味わいたくて、一人、バーに寄った。
木曜日、時計は21:30を指していた。
木曜日のこの時間帯は魔の時間だ。
私が生まれ育ち生活しているこの博多という都市は、多くの会社組織が大きな支店を配置していて、出張や転勤で仮住まいをしているサラリーマンがゴマンといる。
その多くが、単身赴任者や一時出張を含む既婚者であることはいうまでもない。
単身赴任は出張者の多くは、金曜の夜になると妻子が待つ自宅に帰ることが多い。
だから、彼らの多くは、「木曜の夜」が、他の一般サラリーマンでいうところの、「週末前の夜」に値するのだ。
グループで居酒屋や屋台に繰り出して、相席した博多女子に気安く話しかけ、あわよくば、合コンの約束をしようとする人たち。
しっとりと一人でバーに出かけ、手慣れた手順で女を優しく丁寧に持ち帰るおじさまたち。
東京から一時出張で来ているスペックの高い男たちばかりだろうと期待して合コンに行っても、4人のうち3人が既婚者だってわかったことなんて何回でもある。
バーで、あちらのお客様からと、ギムレットをご馳走してくれたその紳士を見ると、体に艶かしくフィットしたイタリア素材の仕立てスーツを纏ってウブロをはめている左手を見ると、当然のように薬指に光るものがはまっている、というシュチュエーションなんて、ザラである。
「今回は絶対引っかかるか!」と何度思っても、やっぱり地元の男と比べたら
東京や大阪と言った大都市で揉まれている男たちは圧倒的に面白かった。
そっちに行ったらいかんよ!って心の中の天使が私を引き止めた。
でも結局、私の子宮は迷うことなく、男たちをあけっぴろげに受け入れてしまうのであった。
私はどうしようもない女だった。
百貨店で広報の仕事をしている。
周りから、私はお洒落な女だと思われていた。
だけど、洋服を脱げば、私なんてただの雌だった。
淋しい時には全身が盛ろうとして、これっぽっちの脳みその理性じゃ、そんな勢いを制御できなかった。
だから、いつも同じような過ちを繰り返していた。
私が無限に犯してしまう過ちとは、既婚の男と関係を持ってしまうということだった。
その日、魔の木曜日だったことを、うっかり忘れて、私はバーに行ってしまった。
いや、木曜日だということを忘れていたことについて、あたかも「過失」のように言い放ったけれど、実は潜在的には、それはもう確信犯のようにわざわざ木曜日に出向いて行ったのではないかと、今では思うこともある。
店に入ると、予想外でカウンターには誰も座っていなかった。
私の中の天使はホッとしていた。
今日は、ゆっくりと一人で向き合って帰宅する、健全な夜になるだろう。
落ち着いて席に座り、洋ナシのカクテルを注文した。
カクテルがまだ来ないうちに、先ほどまで私の他には誰も座っていなかったカウンターに、一人の男がやって来た。
それが、アノ男であった。

 

 

男は、私が座っている席から二つ右隣の席に座った。
この男、慣れているなととっさに思った。
女の顔の右側は左側に比べて官能的な表情をするって、以前付き合っていた大学教授が言っていた。
なんでも、芸術的な分野を司る左脳が顔の右側とつながっているらしい
だから、この男は女の右顔が見える位置に座ったんだろうと思ったのだ。
明らかにインポートブランドで買ったと思うような紺色のスーツ。
タイは外していたけど、だらしなさは全くなく、仕事終わりのくつろぎを感じさせて、人生の楽しみを知っている男の遊びココロが垣間見られた。
そして、肝心の時計は、はめてなかった。
最近、ソフトウエア関連の仕事をしている男は、スマートフォンに表示される時刻を確認するから時計をする必要がないと言って、しない人も多い。
そんな関係の仕事なんだろうか?
そんなことはどうだっていい。
時計はなかったけど、指輪はしっかりとはめられていた。
やっぱり既婚者だよね、当たり前か。
今日はカクテル一杯飲む間に自分を見つめ直して帰ろう。
私はそう誓って、飲み物を待った。
女の中指のような優しい形をしたシャンパングラスに、細やかな気泡が静かに立っているシャンパンがそっと置かれた。
「あちらのお客様からです」
バーテンダーが二つ右隣の男の方を見つつ言った。
私は条件反射的に目を潤ませて男に会釈をした。
ダメダメ、受け入れちゃダメよ。
こんな男を受け入れたらダメよ。
私の中の天使は言ったけど、手遅れだった。
瞳孔がいつもより開いているのがわかった。
自然と目は緩み、そして潤んでいた。
そして緩んで潤んでいたのは私の目だけじゃなかった。
何かのスイッチが入ったかのように、私の子宮も緩んでトロトロに潤んでいくのがよくわかった。
下腹部が疼く。
男を受け入れる準備が整う排卵日の体調のようだった。
私、またおんなじ間違いを犯そうとしている。
ダメだダメだ。
どうせまた、傷ついて終わってしまうのに。
こんなことはやめて、ときめかなくていいから。
地元の地味な、なんかこう、真面目な独身の男と妥協かもしれないけど周りからは幸せそうねと言われるような結婚をして、地元で子供を産んで……。
それが幸せのはず、そうよ、それが幸せなはずよ。
頭は、世間の常識を並べ立てた。
そして私の子宮の暴走をなんとか制御しようとしていた。
だけど、それは無理だった。
なんてったって、子宮は子供を産む臓器だ。
脳よりもはるかに命に近い、生命に近い位置付けにあるのだ。
高等ではないかもしれないけど、それだけパワーを持った臓器なのだった。
私は、頭で考えるのをやめにした。
そして、自分に言った。
今日だけ。
今晩だけ。
この木曜日だけ。
一夜限りだから。
その後、私達はシャンパンで乾杯をして、洋ナシのどろりとしたカクテルを舐めるようにして飲んだ。
一口カクテルをすする度に、私たちは見つめあった。
服は着ていたけど、既にお互いに目で犯しあっていた。
その後、当然のように私たちは、バーが入っているホテルのスイートルームで
一夜を過ごした。
ドアを開けると、ガラス張りの窓に一面のキラメキが広がっていた。
「うわあ、キレイ」
私はため息を漏らした。
お洒落にきらめく夜景の美しさに。
こんな高層階のスイート、自分では泊まらないし、これまでの男達はここまでの贅沢を私に与えてくれはしなかった。
美しさにため息を漏らしながら、この夜景をしっかりと目に焼き付けておこうと思った。
でも、いつのまにか、夜景の美しさに漏らしていたため息は、男との行為があまりに素晴らしすぎて、素晴らしすぎて、男に突かれる度に漏らすため息に変わっていた。

 

 

一夜だけの関係が、結局2年あまり続いた。
最初の方は恋人のような優美な雰囲気で昼間のデートをしたこともあった。
だけど、すぐに男の都合のいい時によびだされてセックスをする間柄になってしまった。
それがいいことだとも悪いことだとも思わない。
自分が納得しさえすれば、私は割り切った関係だってありだと思っていた。
あの男は、日本人なら誰もが知っているようなメーカーの福岡支店長をしていた。
福岡が気に入っていて、希望して東京に妻子を置いて、こちらに来ているということだった。
年齢は42歳。
働き盛りであり、男の色気が今まさに花咲いている。
男なのに、だらしなく開いている花弁の雰囲気を漂わせている男だった。
この男と一緒にいると、私の自尊心は満たされるような気がした。
ハイスペックで色気のある都会の男。
話も面白く、一緒にいるだけで、私の世界も広がるような気がした。
私一人では行くことができない、素晴らしい食事処。
そして、素敵なホテル。
たまに、日本国内や香港を旅行した。
だけど、結局、この男は、金曜日の夜は東京に帰るのだった。
クリスマスも、年末も。
私が誰かといたい時、淋しい時、この男は私の側にはいない。
私の子宮を埋めるわけではないのだ。

 

一度、不満を漏らしたことがある。
週末、私は寂しくて仕方がない、と。
そんな時、あの男は私にバイブレーターを渡してきた。
初めて見るバイブレーターは、海外製品でよくあるコードレスの電池式ではなく、コードをつないで使用するものだった。
俺がいない時はこれを使って寂しさを埋めろという意味だったんだと思う。
誰もいない自宅で試しに電源を入れてみたその時、バイブレーターはうねうねと、ダブルベッドの上をミミズのようにひくひくと体を動かして進んで行った。
粘膜に覆われつるりとしてヌメヌメと湿っているミミズが、全身のひだを使って愚直に進んでいくように、バイブレーターの動きも一心不乱だった。
生々しいその動きに、私は、あの男のペニスも私の子宮の中でこんな動きをしているのかと妙に感心した。
なるほど、だからあんなに心地いいのか。
関係をやめられないはずだ。
偽造ペニスともいうべきバイブレーターでさえ、こんな愛しい動きを私の子宮のなかで繰り広げる。
生のモノだとどんなにイイのかって、意識なんて飛んでしまうくらイイことだってあるわけよね。
男との空虚な関係を割り切ってしまえば、この感覚をしばらくは味わうことができるのだ。
これでも、イイんじゃない?
次の男が見つかるまでは。
だけど、この時私の心が叫んだ。
もう、終わりにしようよ!
私の空っぽの子宮にはあの男のペニスか、男の不在時にはバイブレーターが突き刺さって埋まる。
空虚じゃなくなった子宮。満たされた子宮。
だけど、物理的には満たされた子宮と反対に、私の心はズタボロだった。

 

私は、何をやってるんだろう。
男からもらったバイブレーションを片手に、私はハッとした。
自分の人生を、生きなければ。
このままでは私はダメになってしまう。
何かが降りてきたように私は、パソコンに向かった。
男との待ち合わせが2時間後に迫っていた。
私のために渡されたバイブレーションを今日は男との密会に持参することにした。

 

最初の頃は、シティーホテルで会っていた私たちだが、回を重ねるごとに男が予約するホテルのランクは下がっていった。
今日は都心のラブホテルを指定された。
ラブホテル前のコンビニエンスストアで待ち合わせだった。
時間前にコンビニエンスストアに入り、女性誌を見ていると彼がやってきた。
言葉も交わさず、私は男を一瞥しただけだった。
連れ立ってコンビニを出る。
並んでラブホテルまで歩く間、男はこう言った。
「あまり時間がないから。さっさと済ませよう」
ラブホテルの無機質な自動ドアを通り、部屋は男が適当に選んだ。
二人でもやっとの狭いエレベーターに乗って、3階のローマという部屋に入る。
ドアを開けると、古きイタリアの大理石造りの宮殿を思わせる雰囲気で安っぽい飾り付けがしてあった。

 

男はさっさと服を脱ぎ始めていた。
いつもの手順でいうと私も一緒にシャワーを浴びるという流れだった。
無言で服を脱ぎ、男の後について浴室に向かう。
いつもの流れでキスをされ、シャワーのお湯を背後から浴びながら男に前面から抱きしめられ、いつものタイミングでおしりを両手で強く鷲掴みにされた。
今更何も感じなかった。
肩こり解消のため回数券で通っている一時間2980円の全身マッサージのマニュアル化されている手技よりたちが悪かった。
キスされた後、右の耳元で「もう行こうか」と囁かれた。
決め台詞のつもりなんだろうけど、今の私にとってはただの手順に過ぎなかった。
大相撲の一手でいうと、「押し出し」な感じで、一気にバスルームからベッドへ押し出される私。
全く、ここは九州場所かよ!!
心の中で悪態をつきながらもスプリングコイルがギシギシと音を立てるダブルベットに「バフッ」と背中からなぎ倒される。
びしょ濡れのままの背中が洗濯ノリを張りたてのシーツに張り付く。
スレンダーな男の70キロ分の重みが私にのしかかった。
この男の重みを底はかとない「安心感」だと思い込んでいた時期が懐かしい。
今では文鎮のような単なる物理的な「重し」としか感じなかった。
天井を仰ぎ見る。
安ホテルの天井に大きく広がる茶色いシミが、私の心のすさみをそのまま反映しているようだった。
乳房をちろちろと舐められている間、私はチャンスを待った。
男は私の両乳房を舐め回して満足したのか、私から体を離し私の右腕を引っ張って私を起こそうとした。
「ねえ……、これ使って……」
かつて男が私によこしたバイブレーターを私は男に託した。
男の目が隠微に見開く。
予期もせず新しい世界に足を踏み入れるパスポートを手にいれた、濡れ手でアワな表情を浮かべていた。

 

私は枕元のコンセントにバイブレーターのコネクトを繋いだ。
そのトキ、、、
「ギャッ!!」
男はのけぞって背面からベッドに崩れ落ちた。
男が右手で持っていたバイブレーターから白い煙がわずかに立ち上り、焼肉屋で薄いタン肉を焼きすぎて焦がしたようなこもる臭い匂いがラブホテルの安っぽい部屋に充満した。
「ウイ〜ン、うい〜ん、ういん」
男の右手から離れてバイブレーターがベッドの白いシーツの上で蠢いていた。
愚直に一心不乱に蠢いていた。
本当ならこれから私の子宮に収まるはずだったバイブレーターが、元気に蠢いていた。
うねる模造ペニスを横目に見ながら、私は背中からベッドに崩れ落ちた男の顔を見た。
白目を剥いている。
左胸には、八百屋で叩き売りされているような地味なマスクメロンの柄のような電紋がわずかに走っている。
インターネットで散々検索した感電死の所見の一つである電紋の出現。
あえて男に呼びかけることはしなかった。
電紋の出現が男の死を意味していた。

 

それから私は、冷静に199番通報をした。
救急隊に事情を話せば、同時に警察に通報が行くことは調査済みだった。
救急隊や警察がここに来るまでに、20分を要した。
「死後硬直」っていう言葉は調べて知っていたから、私はあの男のペニスが死後、どれだけ硬くなるんだろうかと密かに愉しみにしていた。
まさしく今を生きている生命ほとばしる蠢くペニスと違った味わいがあるはずだ。
魂を失って天を仰ぎ見るように硬直しているペニス。
その頂に触れれば、自分のくぐもっている人生も打開されるんじゃないか、そんな気がしてきた。
だから隙あらば、死後硬直して硬くなったモノに跨ろうかなと思っていたほどだ。
だけど、いつまでたっても男のペニスは、ぐにゃりとうなだれたままだった。
それはまるで、生前の男の生き様を現すかのようだった。
世間に対してまるで誠実でない、筋の通っていない生き様を表すような、哀れなまでにしなだれまくったペニスだった。

 

警察の死体検視の結果、男の死因区分は「犯罪に起因しない死体」とされた。
「不倫関係にある男女が、安ラブホテル内での情事の際にバイブレーターを使い、事を早く進めたかった男が時間短縮のため、風呂上がりの濡れた体のままアナログ電子機器(バイブレーター)を使ったことによる感電死を遂げた」として男は事故死扱いとなった。
後日私は、当日深夜2時に事情聴取をしたGショック刑事に警察署に呼び出されて、告げられた。
死体解剖や現場見分、事情聴取、死亡保険などの調査の結果から、男は犯罪に起因しない「バイブ感電死」として片付けられたと。

 

次の週の木曜日、私は男とデートをしていた。
煙がもくもくと燻し出される鶏皮が1本30円の焼き鳥屋でのデート。
リーズナブルなのが売りの焼き鳥屋だったが、意外なことに目の前は中洲のネオンが綺麗に見える一等地だった。
一杯260円のハイボールをジョッキで飲みながら私は、右隣座っている男に時刻を聞いた。
男は「まだ二十三時だよ。終電無くなっても心配するな。送ってくから。俺の職業知ってるくせに。安心しろよ」と、右手にはめた傷だらけのGショックで時刻を確認しながら朗らかな笑みを浮かべて言った。
私がこれまで交わったことのない種類の男。
傷だらけのGショック。
犯罪に起因しないバイブ感電死のいきさつを知ってなお、私を受け入れてくれた男。
今度の男は優しくて誠実な男に違いない。
だけど私はそんなこと、どうでもよくなっていた。
硬直した男のペニスに突かれたい。
私の心を支配しているのはただそれだけだった。
バイブレーターに感電した後の「故・元彼」の天をつんざくように反り立ったペニスを思い出しながら、私はほくそ笑んだ。
男を一人一人抹殺することで男という種族に復讐したかったわけじゃない。
今はもう、ただの快楽の虜だった。
鳥肌がイボイボに立った鶏皮の焼き鳥を貪り食いながら、目の前の中洲のネオンを眺める。
私は思った。
いつまで、博多で事足りるだろうか。
博多に存在する全ての男を食い尽くした後、私、どこに行こうかなあ。
ねえ、これを読んでいる貴殿。
貴殿の街に行ってもいい?
そしたら、相手してくれる?
私、九州博多の女だから、男性を一生懸命立てるわよ。
それが、博多に生まれ育った私のサガだから。
木曜日の夜、貴殿の街で私を見かけたらよろしくね。

 

 

 

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「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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