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ふるさとグランプリ

「町おこしは金のため?」《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:塩 こーじ(ライティング・ゼミ)

 

 

01.

「町おこしって、結局は金儲けでしょ」

 

大好きなビートルズについてさんざん熱く語ったあと、Tさんはふと何げなくそういった。

 

僕は即座に「ちがうよ」と否定できなかった。

 

公民館のロビーでの取材、というか音楽談義もそろそろ終えようというときだ。

 

「今度、地域活性を目的にミニコミ誌づくりを始めたので、ぜひビートルズについて語ってほしい」そう電話で頼むとTさんは快く応じて、この最近できた真新しい公民館に来てくれた。

 

かなり本格的なミニコミ活動を想像しているようだ。

 

でもじっさいのところ、編集スタッフは僕一人。製作費は100パー自腹。

 

趣味の延長みたいなものだ。これはとてもおおやけにできない内部事情。

 

地元の人たちの協力を得るために、雑誌を始めた動機は地域の活性化ということにしてある。

 

だけどほんとうは音楽や映画、小説などを多く取り上げてサブカルチャー色の強い誌面づくりを狙っていた。

 

ビートルズナンバー専門のアマチュアバンドでギターを弾いているTさんのインタビュー記事を企画したのもそのためだ。

 

――取材を終えて別れてからもTさんの言葉がしばらく頭から消えなかった。

 

きっと彼は、僕が金のためにこんなミニコミ活動を始めたと思っているのにちがいない。

 

金なんか儲かるわけはない。今回のミニコミ誌、値段をつけたら誰も手に取らないと思ったので思いきってフリーペーパーにしてしまったのだ。

 

「ご自由におとりください」みたいな感じで、地元のあちこちの公民館や役所の施設に置かせてもらっている。地域活性を目的にうたっているのもそのためだ。

 

ほんとのところは製作費ぐらい、回収したいんだけど。

 

いずれ固定読者がついたら有料化に踏み切ろう。雑誌を見て「一緒にやりたい」という人が現われたら製作にかかる費用を分担してもらうこともできる。

 

などと夢はいろいろと思い描いていた。

 

何もない退屈なこの田舎町に、文化を根づかせるのだ。

 

 

02.

町おこしときいて、誰もがまず金儲けを連想するのだろうか。

 

僕の住んでいる地域でも、市や商工会が主催する「〇〇まつり」や「××フェスタ」などのイベントが盛んに行われている。

 

でも、いったい何を目的としたイベントなのか、いまいちはっきりしないようなものも多い。

 

イベント会場では地元のお店が屋台を出して、集まった人たちに軽食や飲み物を販売する。

 

もしかしたらこの売り上げを目的にイベントを開いているのではとかんぐってしまうこともある。

 

ま、そういうのも悪いとは言わないけど。

 

以前はそうした町で行われるイベントなどにまったく関心はなかった。

 

しかし、ひょんなことから地域の話題を取り上げて記事を書かせてもらうようになり、公共のイベントやサークル・ボランティア活動などを取材するようになった。

 

そういう仕事がらみでもなければ、いまでもきっと関心がないままだったにちがいない。

 

 

03.

僕だけではない。地域に住んでいる人のほとんどが、そういう身近で行われる公共の催しには興味がないのではないだろうか。

 

勤め先はおもに東京都内や近隣の市街地。電車や車で朝早く出かけ、長時間の仕事をこなして夜は疲れ果てて帰ってくるだけ。休日だって自宅近くのイベントよりは観光や買い物で遠くへ出かけることを選ぶだろう。

 

埼玉に住んでいても生活や仕事の中心が東京方面にある人々は「埼玉都民」などと呼ばれている。埼玉県の人は全国でも郷土愛がいちばん低いなどと言われている。

 

そんな中でも例外的に地元を愛し、なんとか地元を盛り上げようとする人たちがいる。

 

彼らは仕事を定年退職した元埼玉都民たち。時間に余裕ができたので、それまで無関心だった自分たちの地元にようやく目を向ける気になったのだ。

 

近所の公民館などに出かけてさまざまなサークルやボランティア活動に関わるようになる。

 

当然そこにもリーダー格の人がいる。みなの上に立っているのは、たいてい、長年地域の活動に携わってきた人、地元の商店主や自営業みたいな方々だ。

 

この人たちは、地域が活性化して人でにぎわえば、それだけ自分たちの店の売り上げや収入に結びつきやすい。当然、町おこしには一生懸命だ。

 

対して、定年退職した元サラリーマンのような方々は、町おこしを手伝っても直接自分の収入につながることはない。むしろ、ああいう活動は半分以上ボランティアなので自腹を切ることも多い。

 

埼玉都民の人たちがいまいち地域活性に関心が低いのもそういう理由だろう。金銭的なメリットはそれほど得られないのだ。

 

町おこしに一生懸命なのは、地元で商売してる人たちばかりという図式ができあがる。

 

Tさんの「町おこしって金儲けでしょ」的な見方はそのあたりから来るものだろう。

 

 

04.

最近ではテレビや新聞でも地域活性化に関する話題が多い。

 

その中味はだいたい「名物●●が大ヒット」みたいな話ばかりだ。

 

もちろん何をやるにもある程度のお金が必要。儲かることはいいことにちがいないんだが。

 

僕が始めたミニコミ活動も金儲けが目的だと思われているらしい。

 

だけどけしてそうじゃない。自分は何か面白いことがしたいだけなのだ。

 

いままでは友達と遊ぶにも、買物やコンサート、演劇鑑賞などもわざわざ都内まで出かけていた。

 

だけど最近「東京にも飽きたなー」と感じることがある。若かったころにくらべ、それほど面白味も感じなくなってしまった。

 

年齢のせいだろうか。それとも東京という街じたい、新しいものが生まれる場所ではなくなってしまったのか。

 

80年代頃の東京は新しいカルチャーが次々と生まれ、刺激に満ちていた。それに較べ地元は退屈なところという思いが長いことあった。楽しいことがあふれている場所まで出かけていかなければと思っていた。

 

以前ほど面白みがない東京の街まで、わざわざ電車を乗り継いで長時間かけて出ていくのってどうなんだろ。

 

自分の力で地元を面白い場所にすることもできるのではないだろうか。そんなふうに発想を転換した。

 

僕のミニコミが微力ながら地元のさまざまな文化活動のきっかけになってくれればいい。けしてお金が目的じゃないのだ。

 

05.

ミニコミ誌の反響はほぼ皆無だった。誌面に自分のメールアドレスを載せたりしてみたが反応はなし。一緒にミニコミに参加しようという同志も現われなかった。

 

このへんに住んでる人たちって、自分の地元にあんまり関心ないんだな。きっと地元が楽しい場所になってほしいなんて誰も願っていないんだ……。僕は思った。

 

5号まで出して雑誌はいったん休刊することにした。

 

まあ自分の力不足がいちばんの原因だろう。けして地元の人たちが地域に無関心なせいじゃない。

 

いつかミニコミを再開しよう……ひそかにそう願いつつ、具体的には何も動かずに1年あまりたったころ、かつて取材したバンドのTさんから連絡が来た。「塩 こーじさん、ドラム叩けたよね」

 

「ええ、20代のころに少しやったことがあります」

 

「実はドラマーがバンドを抜けちゃったんだ。かわりに参加してくれないかなあ」

 

それから毎月Tさんたちとスタジオに入り、ビートルズ・ナンバーを演奏するようになった。

 

お金にもならず地域活性の役にも立たなかったミニコミ誌だが、地元がほんの少し楽しくなるきっかけにはなった。

 

やっぱりAll You Need is Moneyじゃないね。All You Need is Loveだよね。

 

***

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