ふるさとグランプリ

「どうしたと?」が言えなくて。《ふるさとグランプリ》


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記事:森中あみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

一匹狼。わたしがはじめて恋した男の子。小学二年生のときの転校生だった。ちょっとつり目の彼に先生が用意した席は、わたしの左ななめ前だった。短髪、やせ型、背は高め。はじめの頃、口数が少なくて心配だった。けれど、一ヶ月もたたないうちに、やんちゃグループの仲間たちと朝早くから校庭でサッカーボールを蹴っている姿を見たときはホッとした。

 

彼の名字は、転校する前はちがっていたとウワサで聞いた。わたしは授業中も家に帰ってからも彼のことが気になってばかりいた。長女気質で、何をするにもスローテンポなわたしは、バスケの授業でボールが回ってくるとすぐに地団駄を踏んで、トラベリングファールを取られるほどの運動音痴。「ほんと、どんくさいねぇ、あんたは」といつも親から言われていた。だけど、走るのだけは得意だった。リレーの一位二位を争うデッドヒートに参加すれば、その集団を追う彼の目がわたしに向けられているような気がして、そのときだけは輝いている(はずの)自分を好きになれた。

 

途中、離れてしまったけれど、五・六年生でまた同じクラスになれた。彼への恋心は打ち明けられないまま。胸のふくらみや体に変化が出てきた女の子たちは、心もオープンで他のクラスの子までもが彼のことを好きだと聞こえてきた。わたしは信頼していた友だちだけに恋の話をした。彼女は「実はわたしも好きな人がおるっちゃんね……」と寿司屋の一人息子への思いを告白してくれた。

 

音楽がすきなわたしは、三年間おなじクラブ活動を続けた。弦楽器はなく、トランペットなどの金管楽器のみだから金管バンドクラブ。学校一、厳しいクラブだった。当時、同じクラブを三年間続けることはめずらしかったので、六年生のときリーダーになった。部活ではないけれど、部長と呼ばれていた気がする。

 

じぶんを奮い立たせて努力することはできても、同級生や後輩に指示したり、まとめたりするのは苦手だと気づいた。はり切って続けていた朝練も急に憂鬱になった。一度、思い切って先生に「わたし、こういうの苦手なんです」と伝えたのに、先生は苦笑いをしただけで流されてしまった。

 

卒業式も近いある朝、職員室に教室のカギを取りに行ったとき、そこにカギはなかった。昨日の日直が閉め忘れたのか、それとも……。はやる気持ちのまま階段をかけ上がり、教室のドアを開けた。

 

誰もいな……いた。ドアから一番遠い教室の右端。机の上に彼が顔を伏せていた。起きてる。直感的にそう感じた。広い教室の中、彼と二人。わたしの席は教室の左端。どんくさいねぇ。母の声が聞こえた。その声を掻き消すように、わざと大きな音を立ててランドセルを置いた。彼がむくっと顔を上げて、こっちを見た。びっくりしたわたしは気づかなかったフリをして、教科書とノートをゆっくり引き出しにしまった。

 

もう行かなきゃ、朝練に間に合わない。けれど、動きたくない。何か言いたい。何か……! 結局、勇気のないわたしはそのまま教室を出た。その日は背中にずっと彼の視線を感じていた。「どうしたと?」そこから続く少女マンガにあったシチュエーションをお風呂の中で何度も想像した。けれど、卒業の日まで次はやってこなかった。

 

中学二年生のとき、わたしは転校することになり、彼や友だちとは、すれ違うこともない場所に住むことになった。お互いの小さな片思いを告白しあった友だちとだけ、今も連絡を取り合っていて、彼が結婚して子どもがいること、同級生がオトナになっていく話を聞くたび、あの教室を思い出す。

 

窓から差し込んだ朝日が、濃い茶色の床を照らしていた。電気も付けていなかったのに、机の並びも、引かれたままのイスも、誰かが持ち帰り忘れた体操服も、やけにキレイな黒板も、黒く光っていたピアノも、ぜんぶ思い出せる。だけど、彼の表情だけは思い出せない。きっと、わたしの大好きなあの目で、さみしそうにこっちを見ていた。

 

「行かんでよ、すきっちゃけん」とろけそうな甘い言葉は、これからもずっと聞けないのだけど、あのとき声をかけなかったから、好きだと言えなかったから、今もわたしの心の奥で小さく光り続ける思い出。

 

ふるさとには、何があってもゼッタイに壊れない思い出を残してある。だからわたしは今日も振り返らずに、未来に向かって歩いていけるのだと思う。わたしの大好きなふるさと、福岡の思い出。

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