ふるさとグランプリ

島へ来るんじゃなかったと満開の桜を眺めながら思った。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:田中 洋輔(ライティング・ゼミ)

 

 

「来なければ良かったな……」

 

僕は、ここへ来たことを後悔していた。

日本にただ1つだけの島。

ずっと気になっていて、やっと来られた。

 

でも、僕の心はどんよりと曇っていた。

島が好きで、長期休みが取れると、いろんな島や田舎のまちへ行くことにしている。

 

中でも、瀬戸内海は最高。

芸術の島、かぼちゃで有名な直島はもちろん、僕が特に好きなのは豊島(てしま)だ。

 

豊島にある“豊島美術館”は、展示しているものがない。美術館自体が展示物で、それ以外に飾っている絵も作品もなにもない。

 

屋根がない部分があり、風や雨が入ってくる。

雲の動きが見える。

 

まさに自然と一体になった美術館。

 

島から眺める瀬戸内海の景色は、美しすぎて、日々の忙しさや疲れを吹き飛ばしてくれる。

 

島の人とのコミュニケーションも良い。

通り過ぎるときに交わす挨拶。

 

「こんにちは〜」

「いい天気ですね〜」

最近は、挨拶すらしなくなった現代において、こうやって知らない人と交わすコミュニケーションは、人と人が繋がっている感じがして、とても心が満たされる。

 

そんなふうに、島がとても好きな自分が、ずっと気になっていた場所。

そこへ来たにも関わらず、船を下りてすぐにイヤな予感がした。

 

「来たのは間違いだったかも知れない」

 

そう思いながらも、島を散策する。

 

この島には、1台も車がない。

島の住民は、350人。住んでいる小学生は、たったの2人。

1156年、源平合戦のときに落ち武者が住み始めたのがはじまりらしい。

 

島を歩いていると、たくさんの三輪車を見かけた。

この島には、車がないため、多くの人たちは三輪車や自転車で移動するという。

 

しかし、僕が気になったのは、違う点だ。

 

「どうしてなんだろう……?」と、疑問に思った。

どの三輪車や自転車も全て錆びているのだ。

 

これまで、まちや駐輪場でたくさんの自転車を見てきたけれど、こんなに錆びている自転車を見たことがない。

放置されている自転車でもここまで錆びてはいない。

それくらいに錆びている。

 

そして、もう1つ。気になることがあった。

 

自転車のサドルに缶が乗せられているのだ。

ジュースの缶ではなく、おかきが入っている缶。

サドルを蓋するかのように、置かれていた。

(そして、その缶もびっくりするくらいに錆びていた)

疑問に思い、島の世話役の人に尋ねてみた。

 

「どうして、あんなに錆びているのですか?」

 

「島の人は、モノを大事に使うのです。自転車もずっとずっと使っているんですよ。ジップロックなども干して、何回も使うんです」

 

大事に使う人たちなのかと思っていたら、島特有の理由があった。

 

「ゴミは、船で運ばないといけないんです。だから、できるだけゴミを出さないように島の人たちはずっと工夫して生きてきました。なので、モノを大事に大事にするのです。どれだけ錆びたとしても、同じ自転車に乗り続けているのですよ」

 

島の不便さ、人の工夫や智恵。

普段、まちで暮らしているとわからないことをたくさん島で学ぶことができる。

缶を置いているのは、雨よけらしい。

サドルが濡れないように、置いているのだという。

 

島で勤務する小学校の先生が、島の人についても教えてくれた。

 

「島の人は一見、無愛想に見えます。でもね、違うんですよ。みんないい人たちですよ。ただ、シャイなのです。島民以外の人たちと話すのがあまり得意ではないのです」

 

そんなぼくとつとした人たちも、島の魅力だ。

 

そして、島と言えば、魚。

この島でも、漁業が盛んで、港の前には売店があった。

 

なにを売っているのかと覗いてみると、佃煮が販売されていた。

 

お昼になって、ちょうどお腹もすいた頃だったので、その売店で販売されていたお弁当を購入して、食べる。

 

食事をしていると、売店のおかあさんが話しかけてきてくれた。

 

「この裏に、桜の名所があるのですよ。今、すごく見頃なので、あとで行ってみてください」

 

島を訪れたのは、まさに桜が見頃の時期。

 

前日まで降っていた雨もあがり、この日は晴天に恵まれていた。広場では、キャンプグッズを持ってきている人たちがバーベキューをしている。

 

周りをみると、バズーカ砲みたいな長い一眼レフカメラを持った年配の人たちが、ぞろぞろと桜のほうへ向かって歩いていた。

 

島の細い道に並ぶ桜は、見事だった。

 

空は晴れていて、桜は満開。

最高の時期に、最高のタイミングでこの島へ来ることができた。

 

でも、僕はずっと後悔していた。

 

「来なければよかった……」と思った。

 

どうして、来てしまったんだろう。

なぜこの時期に、僕はここへ来ているのか。

 

大げさかもしれないが、運命を呪った。

 

ツイていない自分が情けなかった。

 

この島は、日本で唯一の淡水湖に浮かぶ有人島だ。

『沖島』と名付けられたこの小さな島は、琵琶湖に浮かんでおり、滋賀県の近江八幡市から定期船に乗って行くことができる。

 

滋賀へ引っ越して来たときから、この島の存在は聞いていた。

観光客が増えていることも噂で知っていた。

 

だから、ずっと来たいと思っていた。

 

なのに……。

 

なんでなんだろう。

 

こんな晴れた日に。

こんな美しい桜を前にして。

僕が大好物な「島」へ来たのに。

 

ああ、大失敗だ。

 

最高のシーズンに、最高のシチュエーション。

絶好のレジャー日和。

 

なのに、全然楽しめない。

心から喜ぶことができない。

 

仕事ではなく、プライベートだったら、最高だったのに……。

仕事で島なんて来るんじゃなかった。

 

***

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