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夢の持ち方を知ってますか? 「やりたい仕事」を見つける技術論。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:unai makotoki (ライティング・ゼミ平日コース)

「あー、エントリーシートに書くことが無い。
自分のやりたいことって何だろう? 
みんな、どうやって見つけてるんだろう?」

就職活動の解禁をまであと2ヶ月。
私はエントリーシートが書けずに戸惑っていた。

私には、明確な「やりたいこと」が無い。
ましてや、夢と呼べるような壮大なものなんて
想像もつかない。

そんな自分をどうアピールできるのか。
企業の人事担当者に対して、他の学生よりも魅力的に
映ることなんてできるのだろうか。

まずもって、自分で自分のことを
ちゃんと理解できていない気がする。

まずは、自己分析をしっかりやるべきだろう。
自分の性格は、明るくて積極的で、でも繊細でシャイで……、
あれ? なんか、積極的なのにシャイ? 
なんか辻褄が合わなくないか? 
いや、積極的でシャイな人もいるか。
じゃぁ、明るくて繊細は? これはいいか。

ちょっと待って、そもそも自己分析ってゴールがあるのかな?
分析するにしても、どこまで深めれば良いんだろ?

こんな感じで、やりたいことや夢を考える前に
思考力が息切れしてしまう。

マラソン大会に出場したのに、折り返し地点にさえ
たどり着かず、立ち止まり、棄権する。そんな感覚だ。

これは、絶対にやりたくない、ということは
たくさん書ける気がする。
でも、これは絶対にやりたい、譲れない、となると
途端に出てこなくなるのは不思議だ。

気晴らしにリクナビを見ることにした。
各企業ともにPRに力をいれている。

別に興味が無い業界でも、眺めている分には
楽しかった。その会社で働く自分を妄想することが
好きなのだ。

思いつくままにキーワードを打ち込んで
検索しているうちに、気になる言葉を見つけた。

「夢が見つからないあなたへ。夢を見つけるには
テクニックが必要です。方法を知りたくありませんか?」

夢を見つけるテクニック?
私の中では、夢とは偶然出会うものだ。
テクニックという言葉に、なんだか、
うさん臭さのような感覚を覚えた。

もし、技術が無いから夢が見つからないとすれば、
私は、ただその方法を知らないだけではないか。

以前から夢が無い自分に対して、
どことなくコンプレックスを抱いていた。

私が憧れる人たちは、みな夢を持っている。
それをキラキラした目で語ってくれた。

一方、夢を持てない自分は
何か欠陥でもあるのだろうか……。

これまで、勉強もスポーツも人並みに
やってきたつもりだ。

大学は国立には行けなかったけれど、
第二志望だった慶應義塾大学の総合政策学部へ
入ることができた。

でも、夢は無い。

もう一度、その起業の情報を見た。

その会社で働いている現役の社員が、
その「夢の見つけ方」とやらを
説明してくれるという。

そして、選考の一貫ではないことが
しっかりと書かれていた。

無料で話を聞くだけなら、行っても損はなさそうだ。
つまらなければ、すぐに帰ればいい。
さっそく申し込んでみることにした。

その会社は、東京駅に隣接する高層ビルの
大手ネット企業に間借りするカタチで入っていた。

到着して受付から内線を呼び出すと
男性が迎えにきてくれた。
20代後半。もしかすると30代に
入ったくらいだろうか? 

ジャケットこそ羽織っているが
中はTシャツ。ジーンズに
足元はスニーカーというラフなスタイルだ。

「ようこそ。お越しいただきました。
本日、担当させていただく
田中 亮平と申します。

リクナビには、夢を見つけるテクニック、
なんて、大げさなことを書いてますが、
気軽に将来のことを意見交換できればと
思ってます。緊張は無しでいきましょう」

こういった初対面でのやりとりに
とても慣れているのだろう。

大人が発する独特の余裕に、
自分のペースがつかめず、
ぎこちない感覚なのが分かった。

「はじめまして。本日お世話になる
大島 郁美と申します。
田中さん、よろしくお願いします」

挨拶をするのが精一杯だったが、
さっそく名前を呼ぶことで、少しでも距離が
縮まることを期待した。

オフィスの脇に並んだ、会議室らしき
部屋に案内される。

ただ、部屋の内装は、絨毯に北欧風のデスクと
ソファ。天井からつるされた照明も明らかに
アンティーク調の小ぶりなシャンデリアだった。

一瞬、おしゃれなカフェにでも入った
感覚になった。

「何か飲みかすか? コーヒー、カフェラテ、
紅茶だったら、フレーバーティーもできますよ」

「じゃぁ、ホットのカフェラテをお願いします」

どんな場所で話すのか、あまり想像していなかったけれど
ちゃんと考えていたとしても、きっと想像できなかった雰囲気だ。

スタバのようになんだか
落ち着いた雰囲気で話せそうだ。

田中が戻ってきた。
片手にホットのカフェラテ、反対の手には
アイスコーヒーを持っている。

「ありがとうございます」
ホットのカフェラテを受け取る。

「最初にうちの会社のことを
少し紹介しておきますね」

田中が説明しはじめた。

なんでも、スマホで簡単に健康診断ができるサービスを
展開しており、創業2年目のベンチャー企業らしい。

間借りさせている、大手ネット企業は、
新規事業開発に力をいれており、毎年、
コンテストを開催していた。
2016年の大会で最終選考に残り、
事業化したらしい。

社員数は、すでに300名くらい。
出向者と中途採用が半々といった感じだ。

一通り会社の説明を終え、本題に入る。
田中はスマホを取り出すと、
何やらアプリを立ち上げた。

「さて、大島さんのことを少し伺いましょうか。
先日送っていただいた、申込み時のアンケートを
拝見しています。

これから就職活動ですよね? エントリーシートを
書くのが大変ということで、うんうん、自己分析と
自分の夢、やりたいこと、そうそう、これ難所ですよね?」

ぶつぶつと、私のアンケートを読み上げながら、
ところどころ、共感しているというような
相槌を挟んでいる。

「大島さん、まずお伺いするのですが、
自分で自分のことが好きですか?」

何の脈絡もない、突然の質問に戸惑った。
恐らく字面どおりの質問ではなく、何か意図があるのだろう。
でも、全く想像ができなかった。
沈黙が続くのが嫌だったので、ひとまずストレートに回答する。

「好き……だと思います。いや、嫌いなところも
たくさんあるんです。でも、全体的には好きなほうだと」

「では、ここでは、大島さんはご自身が好きだします。
いつも好きですか? たとえば、ここ1年間、ずっと好きでした?」

田中の質問の意図が
いよいよ分からなくなった。

「だいたい、好きだったと思います。
すいません。これ何の質問ですか?」

初対面の人に自分が好きかと聞かれ、
それもここ1年好きか、なんて質問されれば
意図を聞かないわけにはいかない。

「ごめんなさい。
意図が分からないですよね。説明します。
夢を持つための最初の技術なんです。
自分で自分のことを好きになること。

夢を叶えるために、努力というか
好きでがんばっているだけ、なのかもしれないけれど
時間をかけて夢に近づいていくという
プロセスが必ず発生しますよね。

その過程で自分を支えてあげられるのは
自分だけです。もちろん家族や友人、大切な人が
応援してくれるでしょう。でも、最終的には自分です。

自分のことが好き、なんて、当たり前のことと
思いますか? 社会に出るとよく分かるんですが、
自分のことが嫌い、って人が本当に多いんです」

田中の話を聞いて、質問の意図を理解した。
でも、自分のことが好きという思いと
夢が実現するという現象の因果関係は
さっぱり謎だ。

「そうそう、ちょっと横道にそれますが、
大島さんにとって大人とは、どんな人のことを
指しますか?」

「えぇっと、自分の力でお金を稼ぎ、生活して、家族を養って
精神的にも強くて自立していて……」

私は、大人、という言葉から連想される
イメージを適当に並べた。

「ぼくもだいたい同感です。経済的にも精神的にも
それ以外にもいろいろな力を持っていて
結果、自立している人、っていう印象ですよね。
そんな、いろいろな点を包含する概念として、
少し抽象度を上げて、定義できると思っています。

大人とは、自分で自分を癒せる人、というのは
いかがでしょうか? 癒せるから、努力できるし
つらくても、回復できる。それは、自分自身だけでなく
周囲に対しても。結果、いろいろな意味で自立している」

なるほど。自分で自分を癒せる人か。
確かに。納得できる気がした。

「では、本題に戻りますね。
自分で自分を好きになる。
大島さんの場合、今は好きだけど、嫌いな時もある。
では、いつも自分のことを好きになるには、
どうすればいいのでしょうか?」

私はどんな時に自分を嫌いになるのだろう。

大学受験で第一志望の国立に落ちた時、
自分の学力の無さに絶望し、自分を嫌いになった。
その時は、第二志望の慶応に受かって安心したのと、
友達に話を聞いてもらって復活した。
それ以外では? あまり思い浮かばない。
自分を嫌いにならずに済む方法を答えれば
いいのだろうか? よく分からず黙っていた。

答えが見つからない私を見て、田中が話だした。

「いつも自分のことを好きになる方法。
これは、自分を嫌いにならない、ということでは
ないんです。ぼくだって、自分のことを嫌いになることは
あります。でも、基本的にはいつも自分が好きです。

なぜなのか? 
ぼくは、どういった時に自分のことを
嫌いになるのか分かっています。
自分が嫌いなこと、嫌なことを予め把握している。
だから、実際にそういったことが起きた時に
あぁ、例のやつだ、という心の準備ができている。
ただショックを受け、落ちていくことが無いんです」

田中の話を聞きながら、自分のことを考えていた。
私は、どんなことが嫌なのだろうか?
嫌いなのだろうか? 

田中は続ける。

「逆に、自分が好きなこと、心地良いことも知っています。
ネガティブな心境になった時、どうすれば良いか
これもあらかじめ分かっているから、即実行すればいい。

例えば、ちょっとくらいの嫌なことは、
起きたこととその時の心境を紙に書きまくります。
汚い思いだったとしてもまっすぐ言葉にして、書きなぐります。
気持ちが前を向くまで、何分でも何十分でも続けます。
たいがいのことは、これだけで乗り切れます。
そんな解決策もたくさん持っています」

田中の話が少し腹落ちする気がした。
私はそれを友達相手にやっているのだろう。
親友に何でも話をして、最後にはすっきりして
別れている。私も親友の話には、
どんなときでも付き合っている。

「今、嫌なことと心地良いことの話をしました。
感情には、4種類ありますよね、喜怒哀楽。
だから、それぞれの感情を、どんなことをきっかけに
抱くのか? それを把握できれば、感情のコントロールが
できていくということなんです。
つまり、自分の取扱説明書ができる、ということです」

その答えにハッとした。
長い間解けなかった問題の答えを
急に聞かされた気持ちだった。
自分で自分を理解していない。
だから、エントリーシートが書けない。
自己分析に躓いてしまう理由だと悟った。
では、自分の取扱説明書の作り方とは?

「田中さん、でもその説明書って
どうやって作るんですか? そもそも私は私のことを
分かっていません。だとすれば、自分では作れない、
ということですか?」

「いや。自分の取扱説明書を書けるのは、自分だけなんです。
もちろん、家族や友人など自分の身近にいる人は、
アドバイスをくれますし、かなり重要です。
でも、24時間365日、いつもすぐそばにいる存在ではないし、
大島さんの心の様子を観察してもらうのも限界がありますよね?
第一に感情を人間の外から覗くことはできないし。
自分で記録を残していくんです。起きたこととその時の心理をセットで。
言うならば、心のライフログ。ただ、すべての事象と心理を残すのは
難しいので、最初は、強く心を動かされたことだけでいい」

そう言いながら、田中は自分のスマホを
差し出した。evernoteに、喜怒哀楽というフォルダが
作成されており、中には、様々なノートが保存されている。
日記のようにテキストだけのものもあれば
Webの画面キャプチャに、一言だけコメントされているものもある。
書式は自由といった感じだ。

田中はスマホをしまいながら
話を続けた。

「自分の取扱説明書ができると、もっと良いことが起こります。
喜怒哀楽のうち、喜楽の時間ができるだけ増えて、哀楽の時間が
できるだけ少なければいい。そう、喜楽がやりたいことの原点です。
ところで、大島さん、あなたが就職したとして、一番長い時間を
過ごすのはどんなことだと思いますか?」

話に聞き入っていたところに急に質問される。
授業中にうとうとしていたら、急に指された感覚だ。

「そ、それは、仕事じゃないですか。
朝から夜まで働くことになります」

「そのとおり。正解です。では、大島さん、
喜楽の時間を増やすためには、
どんな仕事に就けばいいんのでしょうか?
そうやって選んだ仕事が夢の第一歩です」

あれだけ悩んだエントリーシートの
書き方は、こういうことなのか!

普段から自分を観察していることの重要性が分かった。
どうりで書けないはずだ。私は毎日何の準備もしていないのだから。

そして、思う。
受験までは、問題を解くだけで良かった。
でも、今は何が問題なのか、そこから自分で考えなくてはいけない。
さしあたって、エントリーシートに書くべきことは
自分自身の問題意識だ。そしてそれは、自分と向き合うことで
はじめてたどり着く思考のゴールなのだ。
そういえば、私の周囲にいる夢ややりたいことを持っている人たちは
強い問題意識を持っている。

「さて、大島さん。ここまでが、夢を見つけるテクニックの
前半です。このまま後半へ進んでもだいじょうぶですか?」

「お願いします」

ここまでで、すでに参加して良かったと
満足した。でも、この先の話は私の将来を
左右する可能性を予感させた。

「では続けますね。ここまでは自分の取扱説明書と
そこから夢の原石が生まれることをお話しました。
では、今度は、その夢の原石をどうやって
磨いていくのか、というお話になります。

大島さんは、この後、就職活動をしますよね。
就職活動は厳しいですよね。何十社も受けて、
何十社も落とされる、そんな話は普通ですよね?
ぼくも本当に嫌でした。

本当の意味で大人の社会に足を踏み入れて、
大人のルールすらよく分からない上に
そもそも自分のことだってよく分からない。
そんな中で、内定が出た、出ないという
現実だけがすごいスピードで流れていく。
周りを見れば、うらやましくて仕方が無い
そんな心境に陥ることもあるでしょう。

でも、安心してください。
夢は逃げません。どんな会社に就職することになっても
夢が無くなってしまう、ということはありません。
北極星のようにあなたからいつも見えているはずです。

そうです。夢はひとつですが、その叶え方、というか
プロセスはその夢を見る人の数だけ存在します」

就職活動の厳しさは、先輩から嫌というほど
聞いていた。だからこそ、自分の夢に向かって
最短距離で進める会社を選びたいのではないか?

「田中さん、今のお話を聞いていると、
極端な話、就職先の起業はどこでも良い、と
おっしゃっているように聞こえました。
その理解で合っていますか?」

「半分は正解で、半分は間違っています。
半分は正解というのは、みんな自分の思い通りにならないことを
乗り越えながら夢へ向かっているので、夢への最短距離を
思い描いても、なるようにならないことがあるということ。

でも、だから、何でも良い、というのは言い過ぎです。
たとえば、サッカー選手になりたいのに
なれなかった時に備えて弁護士を目指す。
それは、遠回りし過ぎというものでしょう。
そういうことです」

なるほど。では、どうすればいいのだろうか?

「少し話を進めますね。
夢を叶えるために本当に必要な力って何でしょう?
たった、一つしか身につけられないとして、
それはどんなスキルでしょうか?
まずは、その一つが身につけられる環境を選択します。

たとえば、うちにはおもしろい奴がいましたよ。
将来は美術品の鑑定を目指したいって入社してきました。

ちなみに美術品の鑑定をやるにあたって、鑑定士としての
目利き以上に必要なのが、社会のエグゼクティブとの
コミュニケーション能力です。
いくら鑑定士として優れていても、そもそも話を聞いてもらえない、
そんなことでは、ビジネスは成立しません。

だから、そいつは、エグゼクティブ向けのマンションの営業を
やっていました。グループにディベロッパーがありますので。
そいつにとっての夢を叶えるために必要な唯一の力が
エグゼクティブとのコミュニケーション能力だったんです。

そんな見方をして会社を選ぶと、何も同業種の同職種に
つかなければいけない、という制約はなくなりますよね」

「田中さん、でも、そんな風に考えても、そのスキルが
間違っている可能性だってあるんじゃないですか?」

この話は、納得できない気がして
食い下がった。

「いや。たぶん間違っているということはありませんよ。
そもそも、大島さんは自分の取扱説明書を持っている。
そこに書かれた喜楽が最大限になる会社です。
少なくとも、やりがいが無いということはありません。
間違うとしたら、スキルを得たいがために怒哀な会社を
選んでしまった場合でしょう。ドMな選択です。

でも、本当はそれも間違いではないんですけどね。
長い職業人生において、選んではいけない会社や
仕事を身をもって知ることができる。
これはこれで、遠回りしたようで、大切な経験です。
たぶん、人は、自分自身が体験することでしか、
分かりえないことがあると思うからです」

私はできれば、そんな選択をしたくない。
でも、最悪、何とかなるという風に思えなくもない。
救いはあると信じ、この話に納得した。

「話を戻しますね。
さっき紹介した鑑定士志望なんですが、
いよいよ、鑑定業界に転職しました。
鑑定士の経験は0です。でも、エグゼクティブと
話せる奴は貴重です。
なにせ、鑑定士を志望する人は、みな美術品や
工芸品には興味があるけど、人には強くありません。
強烈な差別化ポイントを持っているわけで
かなり重宝されています。

でも、鑑定業界も鑑定士も素人です。
どうしたのか? 先輩の鑑定士たちを捕まえて
クライアントであるエグゼクティブとは
自分がコミュニケーションするから、
その変わりに、鑑定士としての目利きを
教えてくれと、Give and Takeの関係を
築きました。

鑑定士の世界は昔の徒弟制度のような
ところもあって、目利きとして一人前になりたければ
先輩の背中を見ろ、と。
でも、それでは時間がかかり過ぎるんです。
結果、そいつは、同年代よりも
早く鑑定士として一人前になりました」

これは、あまりにサクセスストーリー過ぎやしないか。
私には信じられなかった。レアケースではないか。

「私はそんなに上手くいく気がしません。
たまたまなケースではないですか?」

「この話から学ぶでき点は、鑑定士になれた、
という結果ではありません。
彼はコミュニケーション能力を磨いて、
そこから、鑑定士としてのスキルを獲得した。

夢というゴールはブレていません。
でも、その過程には小さなゴールが設定されていた。
コミュニケーション能力というゴールにたどり着いたら
そこから、鑑定能力を身につけにいった。
これはいわば、夢を育てているということです。
それも、自分の取扱説明書に従って
喜楽の時間を過ごしながら。
彼は自分らしく鑑定士になったと思いますよ。
ストレートに鑑定士を目指すよりもきっと。
私から見ても徒弟制度になんて
耐えられない奴でしたから。

ちなみに大島さんは、1万時間の法則って
知っていますか」

私は首を横に振った。

「グランズウェルというイギリス人のライターが
唱えた説で、簡単に紹介すると、どんなことでも
1万時間もやれば、一人前になれるという理論です。

1日12時間がんばって、3年くらいでしょうか。
12時間は働き過ぎだけど、まぁ5年もあれば、
ということです。

個人的には、1日8時間働いて、3年くらいで
一人前になれると思っているんですが。
どちらにせよ、人間の慣れってすごくて、
たいがいのスキルは身につくということです。

そして、この話には続きがあります。
仮に5年間で一人前になれるとすれば、
もう5年がんばれば、別のスキルも身につく
ということです。

鑑定士の彼の場合は、
エグゼクティブとのコミュニケーション能力と
鑑定能力のコラボレーションなんです。

それは、単純にコミュニケーション能力のある人と
鑑定能力のある人の2つの能力だけでなく
1人格として備わっているからこその発想が
生まれてくるということです。
その道だけ極めている奴には
かなわないかもしれませんね」

私は、マトリックスのキアヌ・リーブスを
イメージした。映画の中で、さまざまなスキルを
身につけている。アプリをインストールするように。

なるほど、自分が経験したスキルを
組み合わせることで、ライバルと差別化する。
そんな力が夢を叶える源泉になる。

「大島さん、ちょっと時間軸が長くなりましたので
今の大島さん自身のことに話を戻したいと思います。

これから、5年、10年って長いでしょう。
ところで、大島さんだって、20年は生きていますよね。
だから、すでに身につけている能力って
たくさんあることに気づいてますか?

そんな大げさなものじゃなくてもかまわないんです。
人に気がつかえるとか、挨拶の声が大きいとか
そんなことでも、他人より優れていれば、
立派なアピールポイントです。

今の大島さんの強みって何でしょうね?
自分のことをもっと知りたくありませんか?
そんな時こそ、取扱説明書です。
まずはそこから」

なるほど。自分を好きになるということの
本当の意味が分かるような気がした。
今まで夢ややりたいことを
考えることすらできなかった。
でも、今、夢のことを考えると
不思議とパワーがわいてくるような気がする。
たぶん、今と夢をつなぐ方法が
ぼんやりながら見えたからだろう。

「あ、ごめんなさい。長く話過ぎましたね。
お約束の時間を回っていました。
今日のところは、これくらいでだいじょうぶですか?」

「田中さん、ありがとうございます。
とても参考になりました。
さっそく作ってみます。自分の取扱説明書」

田中は満足そうに笑っていた。

「じゃぁ、このあたりでお見送りします」

田中はエレベーターホールまで
送ってくれた。
おしゃれなカフェを出ると
ビジネス色の強いオフィスビルだ。
急に現実に引き戻された。

エレベーターが来るまでの間、
田中は、また話はじめた。

「自分のことなんて、分からないものでしょう?
就活って本当に大変だと思います。
孤独ですよね。
ぼくたち就活の先輩たちも、その気持ちは
痛いくらい分かります。だから、厳しい先輩も多いけど
自分の気持ちに気がついてくれる先輩も
必ずいます。
だから、一人じゃないことを忘れないでください。

大島さんは、もう大人だけど、
社会人としては0歳です。
赤ちゃんだったら、ただ泣いているだけですよね。
周囲が一生懸命、自分を察してくれる。

ぼくは、就活している学生だって、
先輩たちに、泣いて、甘えて良いと
思っているんです。
それができるのは、今だけだから。

そして、そうやって先輩たちの世話になった
記憶って忘れないと思うんです。
大切にしてもらったら、今度は
後輩たちにその思いを返せると思います。
少なくともぼくは、そう思って、
未来の後輩たちに接しています」

田中の話は、私の心に響いた。
私は就活を始めて、大人の嫌なところを
たくさん見てしまうのではないかと
怖かった。自分が何も考えられない分、
騙されるような気もしていた。
でも、味方もいると思えて
少し安心した。

就活に対して不安が無くなったというと
嘘になってしまうだろう。
ただ、少なくとも前向きになれた。

まずは、自分を好きになることからはじめよう。
それが夢を見つける第一歩だから。

***

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2017-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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