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新入社員 色男ジゴロくん


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記事:ありのり(ライティング・ゼミ)

 

確かに彼は、研修会場にいる30名ほどの新入社員の中で少々ハンサムな方だった。
ラグビーでもしていたかのような体格の良さと、今どきの若い男性らしく少し眉を整えており、はっきりした目鼻立ちをしていた。
高卒・大卒が混じった新入社員研修で、その彼は高卒だったが、隣の席の大卒男子より大人びたムードを持っていた。

 

 

「では、本年度の新入社員研修を始めます。研修では休み時間ごとに挨拶を入れます。その号令の担当、だれか立候補で手を挙げて」と私は会場に声をかけた。

「はいっ!」
「はいっ!」
入社したてで張り切っている大卒男子の新人たちは、まっすぐ私を見て手を挙げた。

また、そうでないものは、学生時代の授業態度の癖なのか、反射的に講師からすっと目をそらす。高卒女子同士で座っているグループなどは、近くの受講生同士で顔を見合わせ目線だけで「どうする? どうする?」と交信して戸惑うそぶりを見せている。

と思えば、この問いかけだけで全身に緊張が走り、テキストを凝視したままフリーズし、当てられないよう気配を消そうとするシャイな男子もいた。

新人研修の冒頭では、私は必ず少々厳しめな態度でこの問いかけをすることにしている。なぜなら、研修中の個別トレーニングの参考になるのだ。

たとえば、積極性あるものは、周りとの協調性も持てているかを確認し、目につくようなら指摘しよう。フリーズ君はグループワークで役割を与えてみよう、などという調子で。

そう。
はりきるか、戸惑うか、フリーズするか。反応はだいたいこの3種に分かれる。
しかし、彼だけは違っていた。

彼は手を挙げるでもなく、戸惑うわけでもなく、私の問いかけに応える気がないくせに、まっすぐと私と目を合わせ、18歳の新人らしからぬ余裕あるゆっくりとした視線を向けていた。
私は小さな違和感を覚えた。

研修は順調に進んでいった。
冒頭に違和感を持った彼だが、その後は他の受講生のトレーニングに気を取られ、彼のことは目に入らなかった。

ランチタイムが終わり、講師による身だしなみチェックタイムになった。隣の席どうして互いに髪の乱れや服のしわ、爪などを確認しあい、講師の席まで来て、ひとりひとりチェックを受けにくるのだ。

相互チェックを終え、長すぎる爪を備品の爪切りで切りそろえたり、髪を洗面室に直しに行ったりしてから、順に私の前に受講生が並び始めた。

みんなかなり緊張した顔で私の全身検問を受ける。そして、私からOKをもらうと、ほっとした顔をして嬉しそうに「ありがとうございました!」とお辞儀をし、仲間が待っている席へ小走りで帰っていった。

彼の番になった。
髪、ネクタイ、靴の汚れなどをひとつひとつ乱れがないか確認をした。

身だしなみは社会人の基本であり、新人研修で一度指摘されたら印象深く心に残って習慣になりやすい。私は念入りに細かく厳しくチェックを行う。
よって、見られている受講生は、どうしても緊張してがちがちになってしまう。

しかし、ここでも私は妙な違和感を覚えた。
こちらが見ているのに、なにか彼にじっくりと見られている感じがしてきた。彼はなにも緊張せず、どっしりと落ち着いているのだ。
「もしかして、この子……」

最後の爪のチェックで、私の違和感は確信に変わった。他のだれも、講師に爪を見せるときは指摘を怖がり、手を引き気味に差し出す。しかし、彼の手の出し方は自然かつ厚かましかった。身体をさりげなく近づけて手を差し出し、警戒と安心の境目のようなひとのパーソナルスペースの絶妙な位置にすいっと入ってきて、こちらに親近感を持たせてきたのだ。
「間違いない、この子、ジゴロ体質だな」

 

 

ジゴロとは、正確には女性に頼って生活をする「ヒモ」のようなものを言うが、ここで言う「ジゴロ体質」とは、別に女性の収入で生活をしているかは関係なく、無意識に相手に惚れられるような態度をとる、天然色おとこみたいな性質の男性を指す。

その後、彼の動きをそれとなく観察していると、面白いようにジゴロ体質男子の生態観察ができた。しかも、彼はなかなか筋がいいジゴロだった。

まず、基本的に単独行動をとっていた。新入社員は初めての研修体験の心細さとはしゃぐ気持ちで、わりと群れたがる。しかし、彼は他の新人男子らと群れず、休み時間もたいてい一人で過ごしていた。

研修中のグループワークでも発言は控えめで寡黙な雰囲気を通していた。ポイントでぽつり、ぽつりとなかなか的を得た意見を言うが、リーダーシップを取ることもなく、そつなく役割をこなしていた。

 

しかし、ペアワークで女子と組むと、とても優しく聞き上手に話を盛り上げる。研修で「かなりおとなしいタイプ。暗いかも?」と私が手元にメモをした女の子が、彼の前では安心した表情でイキイキとおしゃべりをし始めるのだ。
「女性をリラックスさせるのが上手なのだな」と私は思った。

その後、彼は休み時間にワークを一緒にやった女子や、その女子のそばに来た友達の女の子とは会話を交わすようになっていた。さらりと言う冗談も上手なようで、女の子たちは彼の周りでよく笑っていた。

研修も後半になると、目に見えて彼はモテ始めた。
彼はどの女性にも平等に接するらしく、活発な明るい女子も、地味な感じのおとなしい女子も、休み時間になるとわらわらと彼の席の周りに集ってきた。

彼は大勢の女子に囲まれながら、ゆったりとその輪の真ん中に腰かけていた。彼女らはちょっとときめくような表情で彼に話しかけたり、そうでなければ女の子同士でおしゃべりをしていたりと、居心地よさそうに彼の空間の中でくつろいでいた。そのとき、タイプの違う女の子同士も互いに警戒心なくおしゃべりをするのを見て、彼の安心の場づくりの才覚を感じた。

他の男子はそのときどうしていたかというと、室内にそんなぷちハーレムができていることに全く気が付かず、相変わらず男子同士でふざけっこをしていたり、研修のテキストの見直しをしていたりした。
それくらい、彼の出している空気感は自然だった。

「やっぱり、天然ジゴロ体質だ。しかも部族の酋長系だな」
と、私は思った。
個別にひとりを口説き落として喜ぶプレイボーイ系ではなく、みなを平等に愛する酋長系の色男だ。それが彼のジゴロ体質の傾向だと思った。

研修報告書に、彼のことを書こうか、少々迷った。彼は、みだしなみ、ビジネスコミュニケーションなど研修で育成する社会人スキルとしては何も問題がない。

が、しかし……。

 

「この手の男性は、若いうちは職場で色恋沙汰を起こしやすいので要注意……なあんて、研修報告書に書くわけにはいかないか」
わたしは自分の直観を報告しなかった。

いろんな企業を回って研修を行うフリーランスの講師である私は、翌日以降また別の企業の新人研修へと移っていった。

 

 

あれから3年。
風のうわさで、彼はもうその職場にはいないと聞いた。退職の理由は知らない。単に仕事が合わなかっただけなのかもしれない。
しかし、私はなんとなく、あの性質のせいではないかと思った。

彼は自分のジゴロ体質にまだ完全に自覚的ではないし、それによる恩恵を味わっているだろうが、痛みはまだ少ない。よって、かなり無防備だった。

新人研修の場で、講師や他の男子の目線があるにも関わらず、彼は自分の才能を無防備にひけらかすことをしてしまっていた。あの時は私以外に気づかれないで済んだが、日常の職場となればどうだろう。
他の男性の嫉妬を買うなど裏目に出たのではないか。もしくは若気の至りで私が懸念した色恋沙汰を職場で起こしたか。

私は願った。
彼がその才能に自覚的になり、それを活かして、いつか良い仕事をしてくれていたらと。

仕事や恋で、失敗も含めた豊かな経験を積み、40代くらいになって自分のジゴロ性をちゃんと扱えるほど精神的に成熟を遂げたら、彼はきっと女性部下の扱いがうまい、よい男性リーダーになるだろう。

女性部下を扱うのがうまい上司は、若手も男性部下も上手に扱う。落ち着きをもってよく部下の話を聴き、相手のよいところを見つけるのがうまく、それを照れずに誉めることができ、ユーモアがあり、誰にでも公平だ。

力強く部下を引っ張るわけではないが、皆が安心して自分の特性を発揮する場を作ることができるリーダーは「サーバントリーダー」と呼ばれ、求められる21世紀型のリーダー像だ。
彼の大人びた博愛のジゴロ体質には、その可能性がある。
色に溺れることなく、いや時に溺れる経験も経て、いつかあの才能が花開き、そうなってくれればいいな。

新入社員の若者が街にあふれる今日この頃。
散り始めた桜の下をくぐりながら、あの新入社員 色男ジゴロくんの行く末に思いを馳せる。

 

 

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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