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メディアグランプリ

農業小学校という癒しの空間 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森田裕子 (ライティング・ゼミ日曜コース)

車を降り、柔らかい草を踏む。
湿った緑の匂い、ザワザワと風が木々を抜ける音、目の前には緑に囲まれた畑が広がる。
あーっ、気持ちいい。今日は、何が収穫出来るかなあ。
長靴に履き替え、農具置き場へ向かう。

今から10年近く前、私たち家族は、草の根農業小学校という農業体験をするクラスに参加していた。そこは、滋賀県のJRA栗東トレーニングセンターの近くにあり、我が家からは車で30分という通いやすい場所にあった。

我が家には、庭がない。子供たちは、生まれた時からマンション住まいだ。
生き物といえば、ベランダに植えたプランターの花だけ。

私は、農業とは無縁のサラリーマンの娘として育ったが、実家には小さいながらも庭があった。植物は、種をから芽が出て、茎が伸び、大きくなり花が咲く。その間に虫がついたり、病気になって枯れることだってある。
植物を育てる為にかける時間や手間は、小さい頃から、毎日庭に出る父を見て感じていた。父の趣味で作られた庭は、主に松を中心に木が植えられていたが、一時は、イチゴやトマトといった野菜を作っていて、朝、収穫して食べることを楽しみにしたものだ。
また、土の入れ替えをしたり、冬になると手製の温室に大きな鉢を移したりして、丹精込めて育てたバラは、毎年、母と私の眼と鼻を楽しませてくれた。

うちの子たちはどうだ? 育てるということを知っているか?
自分が育てた花が咲いた時や実がなった時の嬉しさを知っているか?
いやいや、彼らは土を触らず、虫を知らず、暴風にあおられザワザワいう木々の音も、春を知らせる花の香も知らない。

ちょうど、中学校一年生を筆頭に、小学校四年生と三年生だった子供たち。
そろそろ、親のいうことなんて聞かない年頃に突入する。これが、最後のチャンス!
休日、家で漫画を読んだり、テレビを見てゴロゴロしているより、ずっといい。
そう思い、一年のつもりで申し込んだ。

三月始め、初めて訪れたそこは、小高い丘と林に囲まれた広い平地。
車を停め、入口らしき所から入ると、すぐ両側に小さい小屋が建っており、中には丸め込まれた布団が無造作に置かれている。泊まれるようだ。

大きなテントの下には、丸太を倒したような木の机。鶏小屋には鶏が数羽。
おっと、あっちには木に吊るされたブランコに、ハンモックもある。楽しそうだ。

畑は、家族で造る四畳半ほどの畑の他に、その日の昼食のおかずの為の野菜を作る、みんなの畑があった。

まずは、土を起こし、畝を造る。固まった土を鍬で耕し、柔らかくなった土を連なった小さい山にしていく。ずっと腰を曲げていなくてはならず、腰が痛い。
でも、土を触ることは、何て気持ちがいいのだろう。土から、人を元気にするエネルギー
が上がってくるようだ。

ふと顔を上げると、先程まで、土の中からぐにゃぐにゃと身をよじらせて出てくるミミズにキャーキャーと言っていた下ふたりの子供たちは、緑の中、同じ年格好の子供たちと走り回っている。素晴らしい遊び場だ。

昼食は、持参したおにぎりと、採れたて野菜で作ったおかずでいただく。
いつも、水道の蛇口のところに置いてある大きなたらいに水を張り、野菜を洗う。
外に出しっぱなしのたらいだから、清潔とは言えない。
食器にしても、外に置かれたステンレス物置の中に片づけられているだけだ。
清潔とは言い難い。でも、全く大丈夫。
そこまで清潔ではなくても、人は病気にはならないものだ。

手作りされたかまどの火が勢いよく燃え出すと、オーナーの料理が始まる。

殆ど畑の収穫がない三月のメインディッシュは、辺りに生えた菜の花の天ぷらとお味噌汁。つくしの炒め物。これが、本当に美味しい。
デザートには、ドリップコーヒー。
夏は、ここに、オーナーが自宅からもってきた氷で、子供たちがかき氷をつくる。
全て、屋外での作業、全て自分たちで作るのだ。

午後からは、家族の畑の世話の時間だが、時には裏山へ木イチゴ狩りに行ったり、大人と子供が一緒にキックベースなどをして遊ぶ。

そして15時頃、その日の収穫物を新聞紙に包み、心地よい疲れを感じながら帰途につく。
これが、一日の流れだ。

農業小学校には、年間行事がいくつかあるのだが、そのひとつ秋の収穫祭では、なかなか体験出来ないことが体験できる。
子供達が世話し、育ててきた鶏を一匹つぶして、焼き鳥にするのだ。
それは、オーナーの指導のもと子供たちが実行する。
我が家の長男は、子供の中で一番年長の男子だった為、「やってみろ」と言われたのだが、どうしても鶏の首を折ることが出来なかった。可哀想という気持ちが先に立ち、中途半端にしか力を入れられない。
結局、何度か体験したことがある女子高校生が、普通に折った。凄い。逞しい。
鳥をさばき、串に刺すところまで、作業のほとんどを子供が行ったが、その様子は生々しすぎて、大人の女性たちは、遠巻きに見るしかなかった。

このことは、動物の命をいただいて、私たちが生きていることを教えられた貴重な体験で、一生の内に何度も経験出来ることではないと思う。

他にも、田植え、レンコン堀り、花火大会、どんと祭り・・。
楽しいイベントは、季節ごとに散りばめられていた。

ここへ来ると、日常を忘れ、農作業に没頭できた。
家族全員が、畑仕事の面白さを知り、次の一年は一回り大きな畑を借りた。

器械を使わず、化学肥料を使わないオーガニックな野菜たち。
大きくは育たないが、ひと昔前の農業はこんな感じだったのだろうと思う。

大空の下、大自然の中で植物を育て、収穫することは、心に満足感を与えた。
農業小学校へ通った二年間は、身体を鍛え、心を癒すことが出来た。

そして、子供たちのこれからの人生に、役立つ経験の多い二年間だったと思う。

あの時の充実感と満足感を思うと、子供たちの手が離れつつある今、また近所に畑を借りて、家庭農園でもしようかと思う今日この頃なのだ。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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