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プロフェッショナル・ゼミ

セックス依存症の男のちんぽと、本屋さんで「エロ」を積む女の話《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:市岡弥恵(プロフェッショナル・ゼミ)

デリヘルの相場は、原則1万6千円。
これは全国どこに行っても同じらしい。地方だと、ご新規1万3千円とかもあるらしいが、原則1万6千円。
ついでに言うと、60分でこの値段らしい。あっ、それから福岡のデリヘル嬢はかなりレベルが高いらしい。テクニックのお話ではなく、容姿が、ということ。

なぜ、女の私がこんなことを知っているか?
それは、ある男性に会ってしまったからだ。

最近の私の積読には、もっぱらAV業界の本がラインナップされている。
この男性が、私の為に貸してくれたのだ。
AV男優が書いた本なんか、激しいのなんの。生ナマしいAV撮影現場のことが書かれている。どんな体位で10分、次の体位で20分などと、監督に求められる時間内で射精まできっちり尺に収める男優の姿が書かれている。
だいたい、AV女優とAV男優の比率が、98:2だなんて、そんなことまで知っている女がどれぐらいいるんだろうか。ほんとに、そんな女性がいたら、ぜひともお友達になりたいと思う。しかし、男優2って!
あんたら、何人AV女優を抱いてきたんだ……。

全く、ほとほと自分に呆れている。
しかし同時に、なんて得な女なんだ、とも思っている。
自分の積読リストにAVの本がラインナップされているのに、それを少しも嫌だとは思っていない。
むしろ、「しめしめ」と思っているぐらいだ。

『僕のこと書いてくれませんか?』

お金は発生しないが、こうして声をかけられるようになった。それもこれも、私が数々のエロいシーンや、オカマバーや、チェリーボーイについて、この天狼院書店で書いてきたからだと思う。
天狼院書店に通い始めて、6月で丸1年。
どうやら私は、天狼院書店で「エロ」という徳を積んできたようだ。

本屋さんで「エロ」を積む女。
どうせ積むなら、金を積まれる女になりたいんだが……。

そんな私が、今回会いに行ったのは、これまたイケメンだ。
ほんとに、イケメンに限って、こういう面白いネタを持ってくる。それにしても、今回は特上だ。もう、特上ネタすぎて、断りきれなかった。どうかこれが、私の性格のせいではなく、ライター魂であって欲しいと願う。

『セックス依存症の僕のことを記事にしてください』

正直これだけなら、断っていたかもしれない。
しかし、立て続けに送られてくる次のメッセージを読んで、私は飛びついた。

『自慰行為をしすぎて、皮がやぶけました』

えぇぇぇぇぇ!?
ガチだ! これ、ガチでやばいヤツだ!
面白すぎるだろ!! おかしいだろ、それ!! どんだけよ!?

私は、完全に甘く見ていたのだ。正直、セックス依存症と言われても、女性の恋愛依存のような感覚値でしか捉えていなかったのだ。
それが、なんだ!? 皮がやぶけた!? 聞くしかないでしょ!!

「えーっと、聞きたいことはいっぱいあります」

月曜の夜から、私はこのイケメンに会いに行った。目の前に座る彼は、やはりイケメンだ。私より、少しお兄さんで、もう大人の男の色気がプンプン出ている。

「はい、どうぞどうぞ」

それでいて、紳士だ。これからセックス依存について語ろうとしているのに、全くもって紳士だ。仕事帰りのスーツの男って、なんてカッコイイんだ。

「あっ、その前にこれ」

そう言って、彼はおもむろに手帳を取り出した。
システム手帳のポケットから、取り出されたのは、一枚の写真だった。
チェキだ。懐かしい。
写っているのは、若かりし頃の彼と、めちゃくちゃ美人な女性。

「誰ですか?」
「伝説のAV女優、及川奈央です」
「で、伝説……」
「もう、僕はこれを、お守りのように未だに持ち歩いています」

聞くところによると、彼にとってAV女優とアイドルは同義語。彼は20代の頃、AV女優の追っかけをしていたらしい。そして、これを持ち歩いていることを、ぜひ書いて欲しいと言われた。なんでも、及川奈央さんの名前を聞くと、驚く男性が世の中にはたくさんいるらしいのだ。

「ちなみに、AVは現役で観てますからね」
「でも、結婚されてますよね? いつ見るんです?」
「嫁がお風呂に入っている10分で」
「ふむふむ」

正直、AVを現役で観ていると言われても、私はそれが、彼の趣味だと思ったのだ。AV女優の追っかけをするぐらい、彼は業界の事を熟知している。AVを観ると言われても、彼にとっては研究か何かだと思ったのだ。
ほら、小説家を目指す私が、小説を読むように。

「はい、僕レベルになると、射精のタイミングを選べますから」
「へっ!?」
「これ、結構スリルあるんですよ、あはははは」

えっ、そっち!?
つーか、嫁が風呂入ってる間に抜くんかい! 研究じゃなくて、ガチで抜くんかい!
やばい、のっけからヤバイ。
もう、場を温めるなんて必要ない。

「あのぉ、それで、そのセックス依存についてなんですけどね?」

もう、ためらいなく、聞こう。
気持ちよく聞こう。

「その、皮がむけるってぇのは」
「いや、ほんとに。自慰行為をしすぎて、皮がやぶけちゃって、かさぶたになるんですよ。それでも、やめられないんです。ちなみに、自慰行為のことは業界用語でG行為と書きます」
「ひっ! あの……基本的な質問なんですが……」
「どうぞどうぞ」
「どんな頻度でやれば、そんなことに……?」

だって、そうでしょう!?
こんな質問する私を馬鹿だなんて、思わないでください……。だって、そんな話初めて聞いたんだもん! 

「1日2回、ほぼ毎日」

……。
私男じゃないから、これが多いのかどうかが分からん!
質問を変えよう……。

「その、異常な性欲って、具体的には?」
「30秒に1回はセックスの事考えるんですよ」
「30秒に1回!?」
「そうです。例えば、車を運転している時に聞こえてきたラジオのパーソナリティの声で」
「えっ!?」

ラジオでしょ!? そんなエロい声ではないでしょ!?

「な、何を妄想するんですか!?」
「だから、昨日観たAVのキメシーンとか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、キメシーンとは!?」
「いや、男にはあるんです。そのAVの中で決まるシーンが」

なるほど……。
女性の皆さん、ご存知でした? 男には、そのAVの中で決まるシーンがあるらしいです。
なんだ、決まるシーンって……。結局よう分からん……。

「んで、そんなん妄想しちゃってどうするんですか?」
「いやもう営業車で運転しているのに、そのまま家に帰ってG行為です」

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
仕事中に、家に帰ってG行為……。完全に生活に支障が出ている……。

「それに、デリヘル」
「はい……」
「借金してまで、デリヘルを呼びました」
「え!?」
「1週間に2回とか呼んじゃうんですよ」
「あの、デリヘルって、おいくらですか?」
「1万6千円です。これは10年前から変わらない。どこに行っても原則1万6千円です」

1万6千円……。
1週間に2回呼んで、3万2千円……。
1ヶ月で、12万8千円……。

そもそも、彼がこのように性に走るようになったのは、23歳の社会人1年目から。慣れない生活のストレスから、性に依存するようになった。新卒の給料なんて、たかが知れている。その給料で、これだけの金をデリヘルに突っ込む……。
完全に、生活が破綻している。

「デリヘルは常連すぎて、面白い呼ばれ方をしました」
「ほうほう、どのように?」
「あんまり電話するものだから僕の電話番号、デリヘルに登録されてるんですよ」
「ふむふむ」
「だから電話をすると、○○寿司さん、いつもありがとうございます! って言われるんです。僕のマンションの下に、そのお寿司屋さんが入ってたんで」

どんなだよ、それ……。

「あの、彼女じゃダメなんですか?」
「特定の彼女を作れないんでよ」
「それは、その……セックスしすぎちゃうから?」
「女性の体がもたないでしょう?」

確かに……。怖いわ……。考えただけで、恐怖やわ……。

「結婚するまでは、女性と半年も持たないんですよ。今思えば、10代の頃もっと遊んでいればこんな風にならなかったと思うんですけどね」
「ん? 初体験は?」
「21の時です」

29歳でイケメンのくせにチェリーの男にセックスしてくれと頼まれたことのある私は、21歳で初体験とか言われても、もはやあまり驚かない。
話す側もぶっ飛んでいるが、聞く側の私だって、若干ぶっ飛んでいる。

「だから、青春時代を取り戻したかったんですよ。僕自身が不特定多数を望んでいました」
「なるほど、しかしそれ彼女も辛いな……」

彼氏が不特定多数の女とやっていて、しかもそれは精神疾患……。うーん、怒りのぶつけどころがない。
事実、彼がセックス依存を疑ったのは、2009年にタイガー・ウッズの不倫報道がきっかけだったらしい。それまでは、日本で性依存症という言葉すら認知されていなかった。

「だから、出会い系を使い倒しました。当時の肌感覚だと、サクラは20%ですね」

まったく、本当に、彼の探究心たるや……。

「実際に会えることが、多かったんですよ」
「へぇーー、お互いやり目的だから?」
「いえいえ、違います。僕がメールだけで会えるテクニックを身につけたからです」

メールだけで、会えるテクニック!?
なんだ、この人。
掘れば掘るほど、出てくるじゃねーか!

もう完全に私は、芋掘りをする幼稚園児の無邪気さを取り戻した。

「と、言いますと!?」
「とにかく、マメにメールをするんですよ」
「ほうっ!」

私は、これまでの男を思い出してみる。
マメな男は経験済みだ。
そういう男に限って、平気で浮気をしているのも知っている。

「あっ、ちなみに僕は、占いの勉強もしています」

占い!?

「なぜ!?」
「いや、人がなぜ占いにはまるのかを知りたかったんです」
「なぜ、人は占いにはまるんですか?」
「人は、背中を押して欲しいだけなんですよ」

……。
くっそ、この人、自分がセックス依存だとか言いながら、本当に人の闇をよく理解している。

「だから、マメに連絡をします。あっ出会い系はやりとりをするのに、お金がかかるので、しばらくすると直アド交換をしましたけどね」
「ふむふむ」
「夜中でも、連絡が来れば答えます」
「そうしていると、女性は安心して、あなたに会うわけですね?」
「そうです、そうです」

しかし、あれだな。
セックス依存っていうのは、本当に誰でもいいらしい。やれれば、いい。10代から、人妻、バツイチ、どんな人でもいいらしい。

「でもですね、これだけ色んな方と肌を合わせましたが、やはり自分の右手が一番です」

だから、私女だって!
みんな、分かってるかな!? 私、女なんだってば!!
自分の右手を、そのような形に整えながら目の前に掲げる男に、ツッコミたくなる。
しかし、聞こう。
こんな私だから、聞こうじゃないか、その続きを。

「やはり、自分の事は自分が一番分かっているということですね!?」
「そうです。もう長い付き合いになると、右手が自分の事を一番知っています。圧とかね」
「なるほど……。必ずしも肉体関係が必要な訳ではないのですね」
「そうです。射精です。射精至上主義です」

曰く、対女性であれば、女性を気持ちよくさせないといけないので、やはりG行為らしい……。

「でも、結婚できたんですよね? 今はセックス依存ではないんですか?」
「そうなんです……。これがオチがなくて、申し訳ないんですが……」
「はい」
「どうやってセックス依存が治ったかというと、明確な理由は分からないのですが」
「はいはい」
「真実の愛を見つけたからでしょうか」

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
なんだよ、それ!!
これだけ、G行為について熱く語ってきたのに、今度は「真実の愛」について語るのかよ!

「もうね、可愛いんですよ、嫁」
「はぁ……」
「なんか、こう、わしゃわしゃーって」

彼は目の前で、ここに居ないはずの女を抱きしめ、右手で頭を撫でている。

「よしよーしって! もう、可愛くてしょうがない!」

……。
そうか、愛しているのか、嫁の事を……。
私は若干嫉妬した。
これだけ、性にまみれた生活をしていた男が、一人の女を愛している。
愛されている女に、嫉妬した。

本屋さんで「エロ」を積む女。
どうせ積むなら、エロや金じゃなく、愛を積まれたい……。
月曜の夜から、切実にそう思った。

話を聞き終わり、店の外に出ると、春の嵐。
傘がさせないぐらいの風が吹いていた。

あれ以来、私は彼とほぼ毎日のように情報のやり取りをしている。
もっぱら、「エロ」についてだ。

様々な角度から繰り出される彼の「エロ」に、私は華麗に応戦している。涼しい顔をしながら、さらりと「エロ」を語っている。
そしてこうして、記事を書き、私はまた本屋さんで「エロ」を積む。

記事を書きながら、受信するのはこんなメッセージだ。

『今日は出張です』
『デリヘルを呼ぶんでしょう?』
『いやーさすがに、忙しくて呼べませんでした!』

セックス依存が治ったとはいえ、彼は出張先でデリヘルを未だに呼ぶらしい。

『悩んだ挙句、夜と翌朝の2回、大音量でG行為です!』
『えぇ!?』
『もちろん、朝食の後ですよ!』

いや、朝食の前か後かなんて、そんなもん知らねーよ!!
つーか、大音量って、何をだよ!!

まったく……。

セックス依存症の彼のちんぽは、今日も休みません。
そして私は、今日も本屋さんで「エロ」を積んでいます。

※この物語は事実に基づいておりますが(全部事実)、どうかこの男性を特定しようとしないでください。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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