メディアグランプリ

海の向こうの燕のつばさ


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記事:寺尾友理 (ライティング・ゼミ 日曜コース)

家の近くの軒下に、ツバメが巣を作り始めた。入れ替わり立ち替わり、飛びゆく二羽のツバメの影がそのことを教えてくれた。朝起きて窓を開けると、いつも鳴いている雀の声に交じって、ツバメの忙しそうな鳴き声が聞こえてくる。のんびりチュンチュン鳴く雀と対照的に、ツバメ達は明確な意思を持って鳴いているように聞こえた。巣作りに必要な材料を集める為に、お互い指示を出し合っているのだろうか。その声に励まされるようにして、私はいつもよりシャキッとした気持ちで朝の支度を始めた。時計を見ながら、鞄を持って急いで家を出るとバス停までの道を速足で向かおうとした。家の鍵を閉めて振り返ると、さぁっと黒い影が飛んでいった。あのツバメだ。日の光に当たって、きらきらと黒く光る翼はまっすぐ青い空に向かって駆けていった。私はその後ろ姿をしばらく見送っていて、はっと我に返ると慌ててバス停に走った。なんとか間に合ったバスに乗り込んで、揺られながらツバメのことを思っていた。
確か渡り鳥で、日本の暖かい季節にあわせて海を越えて渡ってくる。そして巣を作り、子どもを育てて、また次の土地に向かって海を越えていく。昔からツバメは人の暮らしに身近で、ツバメが巣を作った家やお店は縁起が良いと聞いたことがあった。私がツバメについて知っているのはこれぐらいだ。今日、あのツバメ達の巣作りが順調に進むことを願いながら、私はバスを降りた。職場はもう目の前だ。
今日の仕事を終えて、ビルを出ると辺りは夕暮れ時を迎えていた。冬の間は真っ暗だった景色がまだ微かに明るさを残している。見上げると、空が青のグラデーションになって光っていた。山の向こうの夕日が沈んでいった側から、だんだんと水色が濃い藍色に深まり、空の真ん中に大きく広がっていた。私は深く息を吸って、吐くと、帰り道のバス停に向かってゆっくりと歩き出した。
あのツバメ達はどうしているだろう。無事に巣作りが進んで、もう休んでいるのだろうか。私は家の方面に向かうバスに乗り込むと、椅子の背もたれに身を預けた。目を閉じてしばらくして、ふとスマートフォンを取り出すと、インターネットの検索画面に「ツバメ 巣作り 習性」と打ち込んでみた。すぐにツバメの豆知識というページが画面に上がってきた。それによると、ツバメは平均寿命が一年半の渡り鳥で、夏と冬を別の場所で過ごす。日本が冬の季節には暖かさを求めて、台湾やオーストラリアまで南下するらしい。寿命から渡りが出来るのは二~三回で、生涯をかけて旅を続ける鳥だと書かれていた。しかも天敵が多く、半年サイクルの渡りの季節を生き残れるのは、一割ほどしかいないそうだ。それなのに彼らは集団で渡りをせずに、個体の能力に合わせて単独で旅をする。私はあの小さな身体にそんなにもたくさんの物語がつまっていることを知らなかった。
スマートフォンの画面を閉じると、バスの窓の外に目を向けた。もうすっかり暗くなっている。間隔を空けて並ぶ街灯がぼんやりと光っていた。最寄りのバス停に着いて降りると
ふわり、と春の夜の空気に包まれた。一歩一歩足を踏みしめて、坂道を山の方に向かって登っていく。ぽつぽつと並ぶ家々の横を通り過ぎ、ずっと上がっていくと、見慣れた家の屋根が見えてきた。私は上着のポケットに入れた鍵を確かめると、少し足を早めた。そして、あの軒下の元にたどり着くと、そろりと上を見上げた。すると一羽のツバメが目をつぶるようにして羽をうずめてとまっていた。壁には作りかけの巣があった。集めてきた泥や草木の枝が綺麗に塗られてしっかりとした土台になっている。ここを守っているのは一羽だけだ。もう一羽は別の場所で休んでいるのだろうか……。私は色々な想いを抱えて、そっとその場を離れた。まだ巣は作りかけで卵も産まれていないけれど、今の段階から大切に巣を守ろうとするツバメの姿が瞼の裏に焼き付くようだった。私は家の中に入り、静かに扉を閉めた。
夜、一人の時間を過ごしながら、ぼんやりと子ども時代のことを思い出していた。確か小学生のときに、同じように渡ってきたツバメを見つけて、その巣がどこにあるのか知りたくて、ずっとずっと追いかけていったことがあった。そしてその姿を見失ってしまっても、足を緩めることなく走りながら探していて、その先の向こう側に何かがあるような気がしていた。
あの時のツバメは無事に子育てをしてヒナが巣立ち、また海の向こうへと渡って行けただろうか。暖かさを求めながら季節と共に生きていけただろうか。

私はゆっくりとテーブルから離れると、部屋の電気を消した。二階へと続く階段を上り、寝室のドアをあけると、布団の中に潜り込んだ。今日という一日が終わる。また、明日ツバメの鳴き声が聞けることを待ち遠しく感じながら、そっと目を閉じた。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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