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助けてないけど、いいですか?


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記事:鍋倉大輝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「もう、夜か」
自分の部屋に自分ひとりしかいないのにも関わらず、思わず言葉が漏れた。
あっという間に時間が経っており、さっきまで明るかった窓の外は、もう暗い。
「またやってしまった」
 
時間を巻き戻すこと数時間。
今日はこれといった予定のない休日で、リフレッシュも兼ねてぶらりと本屋に立ち寄った。
いつも通り、新刊のコーナー、ビジネス書のコーナー、小説のコーナーと、
特に目的もないまま、散策をする。
本屋は、見て歩くだけで楽しく、私はこの時間が好きだった。
 
小説のコーナーをさまよっている時に、目についた一つのタイトル。
それは以前から気になっていたものの、上中下の3冊構成というボリュームの大きさに、手を出さずにいたタイトルだった。
今まで何となく手を出していなかったが、ここで目に付いたのも何かの縁。
何となく手を出していなかった本に、何となく手を出してみた。
上中下のうち、とりあえず上巻を買い、帰路についた。
 
今まで気になっていた小説ということもあり、帰宅してすぐ本を開いた。
1ページ、2ページと読み進めていくにつれ、だんだんとその世界にハマっていく。
ある場面で登場人物が言ったあのセリフ、あの場面で眼前に広がる情景の描写。
ありとあらゆる、すべての文章の細部にいたるまで、そこには作者の想いが、図らいが込められており、
それを読んだ私は、まんまとその世界観に引きずり込まれていく。
一度引きずり込まれてしまったら最後。
もう、全て読み終えるまで戻ってくることは出来ない。
食事とることも、トイレに行くことすらも忘れるぐらい、その世界に取り込まれてしまう。
あの引き込まれ具合、小説には何かが潜んでいると言っても過言ではないと思う。
 
そう。
河で遊ぶ子どもたちを川底に引きずり込んでしまうカッパのごとく、
その世界に足を踏み入れた私を、容赦なくその底へと引きずり込むのだ。
 
今回は上巻の時点で、あっさり引きずり込まれ、
「よし、もう夜だけど、まだギリギリ間に合うはず」
という具合に、まんまとその日の内に続きを買いに走らされてしまった。
そして、中巻、下巻を買い足した私は、再び川底へ引きずり込まれ、
気付いたころには、暗かったはずの窓の外は、もう明るくなり始めているのであった。
 
こうして、いつも川底に引きずり込まれ、
気付いたときにはあっという間に時間が経過しているのだが、それも悪くないなと思っている自分がいる。
確かに、本当にあっという間で、気付けば休日が1日なくなっていた、なんてこともざらにあるのだが、
なんだかんだで、それ以上に楽しい思いをさせてもらっているのだ。
 
うん、そう考えるとカッパという例えは少し違うのかもしれない。
カッパに川底に引きずり込まれて喜ぶ人なんていないだろう、流石に。
 
そう考えると、辿り着く答えはひとつ。
そう、奴らはカメだ。
 
その背中に乗ると、カッパと同じように海の底まで運ばれるのだが、その先には竜宮城が待っているという訳だ。
そりゃあ、戻ってくることが出来ないわけである。
浦島太郎が竜宮城に行った際には、竜宮城で楽しい時間を数日間過ごすだけで、現実世界ではかなり長い年月が経過していた。
小説を読むときも、読んでいる最中はそこまで時間が経っているように感じないが、
ふと我に返ると、あっという間に時間が経過している。
戻ってくると、体感していた以上に時間が経っている、それすらも竜宮城のようだ。
 
ただ、この小説という名の竜宮城では玉手箱は貰えず、現実世界に戻ると問答無用で時間が経過しているところには気を付けなければならない。
私たちが小説の世界から戻ってきたときには有無を言わさず、貴重な土曜日はもう過ぎ去ってしまっている。
時の流れは残酷である。
浦島太郎が竜宮城から戻ってきても、玉手箱を開かない限りはお爺さんにならなかったように、
小説に費やしたあの時間が、玉手箱に閉じ込められていれば、更に幸せだったのだが。
 
しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。
今まで幾度となく、竜宮城で楽しませてもらったが、果たして良いのだろうか。
というのも、ご存知の通り、浦島太郎が竜宮城に連れていってもらえたのは、
海岸で子供たちにいじめられていたカメを助けたからなのだが、私はもちろんカメを助けていない。
助けていないどころか、竜宮城に連れて行ってもらえるようなことは何もしていない気がする。
本当にこれで良いのだろうか。
 
いや、良くない。
これは流石にまずい。
何度も何度も竜宮城に連れて行ってもらいながら、私はカメには何もしていない。
これではカメがただのパシリである。
こんな罰当たりなことを続けていては竜宮城どころか、
それを突き抜けてその果ての奈落の底にまで連れて行かれるのではないだろうか。
というのは冗談だとしても、いつもこうして竜宮城に連れて行ってくれるのだから、
何らかの感謝の気持ちを伝える必要はあるだろう。
 
私に何が出来るのか、色々と考えを巡らせた結果、
小説に対しての最大限の感謝の意を込めて、毎回新品の本を買うことに決めた。
立ち読みよりも、古本屋で買うよりも、少しお金はかかるかもしれないが、
その小説に、そこに潜むカメに、感謝の気持ちを伝える最も良い方法はそれ以外ないだろう。
一人の読み手として、乗り手として、まっとうな対価を支払う。
それが最もあるべき姿なのではないだろうか。
 
私がカメのためにしてあげられることは、ただそれだけ。
たったそれだけなのだが、きっとその新品の本が、竜宮城へのチケットになるのだろう。
 
それでは、行こうか。
本の海へ。
 
 
***

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2017-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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