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わたしは、寸止めむすめ


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記事:はちみつ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「はいっ、好きなもの頼んで」
「いつもそうしてるけど」
「まあ、そうか。ちなみに、ここの”チキンの香草グリル”は美味しいらしいよ」
「これ?」
「うん、たぶんそれだと思う。俺それにする」
「わたしもそれにする」
「あ、じゃあ、俺これにする。ほかのメニューも食べてみたいでしょ?」
「いいよ。食べたいものそれぞれ食べれば」
「俺のも少し分けてあげようかなって」
「いいって」
 
目の前のキャンドルが、わたしをあやすように揺れている。ピアノベースのジャズミュージックが薄暗い店内を漂う。ビル最上階からの夜景は、店内を広くしていた。ジャケットなんか似合わないのに、と内心思いながら、すらすらと注文する彼を見る。Tシャツ短パンにサンダルでアイスを持っている姿を思い出す。格好なんかつけちゃってさ、こころの中で思う。目の前に運ばれた水を、行儀わるく一気に飲んでみせた。
 
「そんなワンピース持ってたっけ?」
「これはお母さんが貸してくれたの」
「へー。なんか良いとこのお嬢さんって感じ」
「リストランテ・メラヴィリョーゾってとこ行くって言ったら、このワンピース貸すよって」
「そうか」
「しかも、むかしお母さんが着てたやつ。お母さんの物もちの良さにはびっくりするよ」
「それはすごいね!」
「朝起きたら、アイロンがけされた状態でハンガーに掛かっててさ。世のお母さんって、どんな娘でも可愛いものなのかな。そこまでやってくれるの?っていつも思う」
「お母さんと正反対の性格だね」
「ちょっと」
「あ、悪気はないんだけど、なんて言うか品の良さを集合させたような人というか……」
「より悪気を感じたんですけど」
「ごめん、ごめん。俺はそういう子どもっぽいとことか、ちょっと強気なとことか好きだな」
「ふーん」
「ほんとにそう思ってるよ。つき合って1年も経ったなんて信じられないよ。まだ、一緒に居てくれてるなんてさ……」
 
わたしたちは、スパークリングワインで乾杯した。運ばれた料理の香ばしい香りに、食欲が湧いた。料理はすばらしく美味しかった。最上階で、高級イタリアンなんて食べたことない。ナイフとフォークは正しく使えているだろうか? お母さんが、ナイフやフォークは外側から使っていくと言っていたのを思い出した。ふと顔をあげると、彼がじっとこっちを見ていた。食べないの? と言おうしたとき、彼の口が動いた。
 
「ゆうちゃんって、ルーティンワーク苦手だっけ?」
 
わたしのお母さんは、携帯用ソーイングセットみたいな人だ。お父さんの半歩後ろを寄り添うように歩く。カバンの中には、ばんそうこ、ティッシュ、テレフォンカードなど、何かあったときの小さなものたちが入っている。どこでもお父さんについていくから、とてもコンパクトな人だと思った。お父さんが持ち歩いているようにも見えた。そんなお母さんも、ときどき小さな針を出す。わたしがゆうまと付き合い始めるかどうか、ふわふわしている時にそれはさし出された。
 
「ゆうこ、ゆうまくんの気持ちをちゃんと尊重しないと。なんだってそんな何回も!」
 
ゆうまはわたしに8回告白した。もっと多かったかもしれない。わたしはその勇気に正直あきれていた。背はわたしよりも低いし、離れた目の上にある、不格好な眉も気に入らなかった。海外留学してた訳でもないのに、さらっと”愛しているよ”が言える口もあまり好きになれなかった。
 
「この前みきちゃんにあったわ」
「そうなんだ。元気してた?」
「来月お子さんが生まれる予定なんだって。相変わらず、キリッとしてたわね」
「それはよかった。最近あえてなかったからな」
「ゆうこは結婚しないの?って」
「で?」
「で?って。ゆうこモテモテるから1人に決められないんですよって、にこにこしながら言ってた。あんたももういい歳なんだから、真面目で誠実な彼氏を紹介してちょうだいよ」
「真面目で誠実ね、旦那にはもってこいかもね。わたしには到底、結婚なんて考えられないけど」
 
幼なじみの彼女はおしとやかだったが、頑固で、善し悪しをはっきりさせるタイプだった。小学校の帰り道、クラスの男子が散らかした折り紙を拾い集め、次の日先生に報告していたこともあった。30代前半で結婚をすることを目標にしていた彼女は、わたしをよく合コンに誘ってくれた。ある日の合コンの帰り道、彼女はわたしに、みんなに気がある素振りをとるのはよくないと言った。ずるいとも言われた。みんなに気のある素振りをしたつもりなんてなかったから、彼女のことばに驚いた。わたしからしてみれば、毎回1番イケメン男子に集中攻撃をかける彼女の方が、みっともないように思っていた。
 
「好意があるなら、真っ正面からぶつかった方がいいと思う」
「好意というか……」
「そうやって、何人にも気がある素振りみせて、結局、はぶらかしたりするのよくないよ」
「そんなことないんだけどな。誘われたから、行ってるだけ」
「わたしが紹介したゆうきくんのことも、そうやって何回もデートして、結局振ったでしょ」
「それなりに考えてたよ」
「寸止めされたって言ってたよ」
 
身振り手振りで説明している彼女の髪型は、まったく崩れなかった。彼女はたいてい、はじめから回答が用意されているような行動をする。考えがブレる彼女は見たことがない。わたしのお母さんが好きなのは、彼女のこういう、考えに芯があるところなんだと思う。わたしみたいに進みながら考え、とつぜん回答をだすような性格ではない。
 
「はい? ルーティンワーク? 突然なに言い出すの?」
「俺けっこう、決まった時間に決まったことするの好きなんだけど、ゆきちゃんはそういうの苦手かなって思って」
「確かに好きじゃないけど……、実家を出たらなんだかんだやると思う。洗濯だって、料理だって、掃除だって。むかしからお母さんにしつけられてたから」
「そっか」
「うちのお母さん、わたしのこと大和撫子みたいにしたかったみたいでさ。意外と中身は家庭的な女の子だと思う」
「そっか、そっか。ちょっとは意識してくれてるんだね」
「え?」
「ん?」
「えっと……何?」
「俺、ゆうちゃんと結婚したい。家事全般が苦手でも、意外と家庭的な女の子だったとしても、一緒に暮らせればどっちでもいい。だから……、結婚してくれませんか?」
 
「ただいまー」
「おかえりなさい。遅かったね」
「というか、お母さんこんな時間なのに起きてたの?」
「そうね。なんか目が冴えちゃって。高級料理は美味しかった?」
「うん、すごく美味しかったよ。それに、ちゃんとナイフとフォーク、外側から使ったよ」
「そう。ゆうまくん、なんか言ってなかった?」
「うん。やめたよ」
「えっ、ちょっ、また……」
「結婚しないことをやめたよ」
 
こんなにも目がまんまるになった人を初めてみた。お母さんは、嬉しさと驚きの感情を交互に味わっていた。こういう寸止めはありなのか。
 
 
***

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2017-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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