メディアグランプリ

それは見知らぬ、おばあさんが教えてくれた


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記事:ちくわ(ライティングゼミ 日曜コース)

 
 
「ちょっと、昨日のみた?」
「うん、びっくりしたぁ。でも面白かったわぁ」
 
スーパーのレジ待ち中。私が列にぼーっと並んでいたら、目の前のおばあさん同士の会話が聞こえてきた。お二人とも70歳くらいだろうか。妙に盛り上がっている。
 
「まさか、あんな場所に、遺書と形見を隠していたなんてね」
「しかも、隠し子までいたでしょ、2人も」
「一人は70歳のときの子どもよ」
「信じられない! 男っていいわよね」
「でもね、私も相続考えないと、って思ったわ」
「そうねぇ。元気なうちにね」
 
レジは、夕方ということもあり、とても混んでいる。まだ進みそうにない。なんか聞いてはいけない会話のような気がしつつも、気になってきた。近所の人の話だろうか。でも、さすがにこんな場所では不謹慎ではないか。おばあさん達の話はとまらない。
 
「私、あのドラマだけは見ちゃうわ」
「お昼ごはん食べながら、ちょうどいいわよね」
 
あ、なんだ。ドラマの話か。私は少しがっかりする。
 
「でもやっぱり、石坂浩二かっこいいわよね」
「歳とったけどねぇ、かっこいいわよねぇ」
「女性陣だってそうじゃない。加賀まりことか」
「昔、本当キレイだったわよねぇ」
「八千草薫は変わらないわね」
 
どうやら、平日昼間に放送している、倉本聰脚本のドラマの話をしているようだ。
私も、存在だけは知っている。でも老人ホームに暮らす人たちの高齢者の話だから、わたしには関係ないと思っていた。ただ、それにしてもこの盛り上がりよう。まるで私が学生時代、月9のキムタク話で盛り上がっていたときを思い出す。あの頃は、毎回リアルタイムで観ていないと、翌日、友達との会話についていけなかったっけ。おばあさんたちは、レジで話が途切れた後も、袋に買ったものを詰めながら、横に並んで、楽しそうに話し続けている。
 
そうか。そんなに面白いのか。私は、そのドラマが気になってしまい、とりあえず1日録画してみることにした。
 
舞台は、プライバシーが厳重に守られた老人ホーム。選ばれし者しか入れない。
主演は、石坂浩二。テレビなどで一世を風靡した脚本家の役だ。
同じくその老人ホームにいる、浅丘ルリ子や加賀まりこ。石坂浩二と浅丘ルリ子は元夫婦、加賀まりことは元カップルだった。その二人が役とはいえ、石坂浩二に好意を寄せて迫る。なるほど。役を通り越して私生活まで垣間見えるような、そんな面白さもあるのかもしれない。他にも、五月みどり。ミッキー・カーチス。有馬稲子。藤竜也。野際陽子。そうそうたる豪華な俳優たちが、老人ホームの入居者として名を連ねる。20代は、ほぼ出てこない。私からすると、父母世代よりもっと上、祖父祖母世代にあたるので、やっぱり少し遠い存在。
 
出てくる話題も、財産・遺産の相続問題。ぎっくり腰をはじめとするケガや病気。介護疲れ。男も女もタバコをガンガン吸って、仕事はほとんどせず、のんびりゆったり暮らしている。
 
毎日フルタイムで働き、よく「あと何年働けばいいのか」「年金は出るのか」と、将来に不安しかない私からすれば、無縁すぎる世界。
 
でも、私はこのドラマにハマってしまった。
毎回録画し、帰宅したら、食事より先に観ないと落ち着かない。中島みゆきのテーマ曲が流れて、心が躍る。主な出演者の半分の年齢にも達していない私が、展開にドキドキしている。
 
実は、私がまず心をグッとつかまれたのは、入居者たちではなかった。
強い共感は、老人ホーム「やすらぎの郷」の運営サポート側で働く人々に対してだった。
 
次から次に、あちこちで問題が起きる。しかも入居者は、自分より全員年上。基本的に皆さんお元気で、自我が強く、その上パワフルときている。そして何より、大切なお客様だ。
 
運営側は、良かれと思い、必死に業務をこなしても、迷惑だと批判を受ける。容赦ないセクハラ、パワハラに感じても堪えて飲み込む。理不尽なことは、仕事をしていれば誰もが直面するが、運営側の苦労は想像に難くない。
 
このように、介護現場で働く方たちへどんどん感情移入していくと、私もこの老人ホームの職員になったような気分になる。そうすると、入居者たちへの慕情が自然とでてくる。普段、高齢者の方とあまり接する機会がない私は、遠い遠いと思っていたが、少し近い存在に変わりはじめた。
 
つまり、このドラマは、シルバー世代の取り扱い説明書(=トリセツ)として、疑似介護体験できるプログラムだった。様々な立場の入居者がいるため、多様なケースを学ぶことができる。この生々しいトリセツによって、介護未経験の私でも、シルバー世代の方々がどんなことに悩み、考えているか、本音を一部でも知ることができた。
 
あの日、スーパーでおばあさんたちの後ろに並んでいなければ。あんなに盛り上がっていなければ、私はこのドラマにハマることはなかった。おばあさんたちのおかげで、私の世界は少し広がった。今度このドラマの噂が聞こえたら、私も会話に混じりたい。そんなことさえ思いながら、今日も再生ボタンをわくわくしながら押す。
 
 
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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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