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4人に1人が認知症になりますが、あなたはどうしますか?


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記事:匿名(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「高齢者の4人に1人が認知症になります」
 
大学の授業で、その意味を迫るように先生が言った。先生の背後にはパワーポイントで日本の人口動態グラフが投影されていた。頭でっかちな逆三角形のグラフは、日本の少子高齢化を表すには十分だったし、そこから日本の医療危機も生々しく感じることができた。
4人に1人という患者の数は他人事ではなかったし、自分もいつか認知症になるのではないかという不安が胸の奥深くからこみあげてきて、私の頭をいっぱいにした。
先生は話を続けていた。
「認知症の治療法は確立されていません。治らない病気なのです。明確な予防法もありませんし、遺伝の場合もあります」
「記憶力が低下し、身の回りのことが出来なくなります。人によっては、徘徊やもの取られ妄想、暴言などの症状が現れます」
「認知症だからといって、何もかもが分からないわけではありません。相手を認め、許容し、優しく接することで、より豊かな人生を送ることが出来ます。認知症の方にもまごころ込めて対応してください」
そう、認知症は治らないのだ。たいていの病気は治すことができる現代なのに。
決定的な予防もないから、運次第という他はない。当選確率は25パーセントという圧倒的高さ。この確率が宝くじだったら、どれだけ良いことか。
そして、介護するのは厄介。なんせ介護される相手が記憶障害だから、会話が成り立たない。本当に自分のしている行為が正しいのか分からないし、時には暴言暴行を受けることもあるし、思い通りにいかないことのほうが多い。
だから、まごころを込めて対応なんて、仏か神様でない限り不可能だった。短気な私には、全く向いていない。
私は認知症の背後に潜む闇を考えると、鬱々とした気分になった。漆黒のブラックホール。一度足を踏み入れてしまうと認知症という穴から逃げ出すことは出来ないし、家族や医療者も介護という名目の元、その穴に引きずり込まれるのだ。
親の介護が理由で退職を余儀なくされたり、自由な時間が減ったりした例は少なくない。
認知症は、今や日本の問題なのだ。
軽快に認知症の現状や症状を語る先生とは対照的に、私は聞けば聞くほど認知症の怖さに怯え、どうすることも出来ない今を歯がゆく思った。ライオンに対峙したシマウマになった気分だった。目が合うと、どれだけ全力で逃げてもいつか喰われて死ぬ。少々の時間は伸ばせるのかもしれないが、絶対的な力関係に逆らうことは出来ないのだと悟った。
記憶のないまま、ひっそりと死を待つ。
それが、私が抱いた認知症へのイメージだった。
 
時が経ち、私は老人ホームで夜勤のアルバイトをすることになった。
仕事内容はいわゆる介護だ。夕食の介助に始まり、着替えや排せつ介助、おむつ交換、深夜の見回りなど。手際よく仕事をこなさないと、時間内に仕事を終わらすことができなかった。
患者さんは皆80歳以上で、認知症の方も多く、中には寝たきり状態の人もいた。患者さんに満足していただこうと、私は汗水垂らして必死に働いた。
しかし、どれだけ私が努力しようとも、認知症の方は私の意図を汲んではくれない。おむつ交換を拒否したり、徘徊したり、何度も同じことを聞いてきたりして、思い通りに業務をすることを赦してくれない。
学校の先生には、相手を許容して話を傾聴しなさいと言われていたので、私は一生懸命心を込めて介護した。
患者さんを尊重し、話を聞き、ひどいことを言われても症状だから仕方ないと受け止めた。
丁寧なケアをするうちに休憩時間は溶けていった。疲れは蓄積していった。
認知症の症状が薬で改善したらと願ったのは、一度だけではなかった。
 
教室から現場へと場所を移しても、私の考えは変わらなかった。
認知症の人は死を待っている。
家族とは別に暮らし、面会者も少ない。老人ホーム内で友人を作るのも難しい。他人に助けられないと生活できないので、趣味はもってのほかだ。部屋でぼんやりとテレビをみて、時折介護士と話す毎日だ。
介護と育児は似ていると言う人がいる。ひとりで生活できないからその世話をし、付きっきりになる。意思疎通は簡単なものしかできない。休みなく赤ん坊の世話をする母は、介護者と多いに重なる部分があるし、そこでの苦労は分かち合えるものだろう。
でも、認知症の場合は、対象者は成長ではなく退化する。
この揺るぎない事実は、私を苦しめた。
朽ちてゆく花を愛でるより、新芽に水を与えるほうが良いのではないか。
建前と本音の間を揺れ動いた。
私のこの考えを否定する人もたくさんいるだろう。しかし、考えてほしい。ひとりで食事も着替えも排せつもできない人に善意で24時間対応しても、感謝されず罵倒されても平常心でいられますか? ずっとずっと長生きしてほしいと心から願えますか?
これは、実はとても難しいことだと思う。
だからといって避けられるものでもない。例えば、両親どちらかが認知症になる確率は、半分なのだ。運命を受け入れるしかない。
 
だから、介護に疲れた人はその声を隠さないでほしい。それは当たり前のことなのだから。
辛いなら辛いと言ってほしい。
世間には介護を美化する言葉にあふれているが、死にゆく人の世話をするのは本当にしんどいことだ。その本音を心の奥底に沈めないでほしい。
そして、もし溜息のような声を聞いたなら、腰を据えてその話を聞いてあげてほしい。
人は、うっぷんを晴らすだけで随分と楽になるのだ。
それは、美徳ではないかもしれない。だけど、つぶれないために絶対に必要なのだ。
だから、非難するのではなく、理解してあげてほしい。
 
この輪が、認知症社会を突破する唯一の薬なのだと私は思う。
 
 
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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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