メディアグランプリ

朝の散歩で学んだ続けるこころ


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記事:寺尾友理 (ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
コツ、コツ、コツ。今朝もリズム良く音が聞こえてくる。
私はうっすらと瞼を開き、朝の光の眩しさに首を縮めた。今が何時なのか、まだ鳴らない目覚まし時計を見なくても分かっている。ちょうど6時半、ぴったりだ。向こう隣に住む、優しそうな雰囲気のおばあさんはこの時間になると、杖をついて朝の散歩に出かける。私がここにきて1年半、その音が途切れたことはなかった。よほど酷い天気でない限り、おばあさんは毎朝丁寧にコツコツという音を響かせる。
 
私は正直に言って、継続することが苦手だ。例えば、もっと身体引き締めたいと思って、朝起きてストレッチをしよう! と決めたとする。1日目はなんとかやり切る。けれど2日目、3日目……となると、もうダメだ。いつの間にか、以前と変わらない朝を過ごし、ストレッチのことを忘れてしまっている。3日坊主とよく言うけれど、私は2日坊主ぐらいのレベルかもしれない。その度に、自己嫌悪に陥るのだけれどなかなか難しい。私はあのおばあさんに聞いてみたかった。どうして、寒い日も暑い日もめげることなく、毎日散歩が出来るのですか、と。
 
ある晴れた日の朝、私は珍しく、おばあさんの杖の音が響く前に起き出していた。暑くも寒くもなく七分袖1枚で過ごせる気持ちのいい季節だった。私は慣れない手付きで、ひっくり返してしまったゴミを片付ける為、ホウキとちりとりを持つと家の前をせっせと掃き始めた。意外と他にもゴミが落ちていて、気が付くと夢中になっていた。
「綺麗にされているのですね」
ハッとして顔を上げると、あのおばあさんがにっこり笑っていた。
「あ! いえ、あの、ありがとうございます」
私は慌てて、自分でも何を言っているのか分からなくなった。何かきっかけを作って、おばあさんに話を聞いてみたいと思ってはいたが、いざとなるとどうしたらいいのか分からなかった。
「あの……毎朝、散歩されているのですか?」
私は分かりきっていることを聞いていた。
「えぇ、そうなんです。すっかり長年の習慣になってしまっていて」
おばあさんはそう言うと、もしよかったらあなたもいらっしゃいませんか? と言って歩き始めた。私は慌てて、ホウキとちりとりを閉まって、おばあさんの背中を追いかけていった。いったいどこに行くのだろう? 私は思いがけず散歩に同行することになって戸惑いながらも、少し楽しい気持ちになっていた。
「あそこに小さな花が咲いていてね、もうすぐ満開なの」
おばあさんは、そう言いながら他にもたくさんの小さな発見を教えてくれた。
おばあさんの隣を歩いていると、いつも自分で歩くペースよりもゆっくりで、普段見ているはずの景色が違って見えるようだった。
やがて近くの公園までやってきていた。だんだんと近づいてくる公園の側で、「おーい!」と手を振っている人がいる。
おばあさんが立ち止まって、ゆっくりと手を振り返した。「ちょっと休憩ね。こうして手を振ってから、少し休憩するのよ」おばあさんは小さく微笑んだ。「あそこの公園にいるのは、朝の散歩のお仲間なの。はじめはみんな一人で散歩していたのだけど、毎朝会うものだから、すっかり顔馴染みになったのよ」
おばあさんはそう言うとまた、ゆっくりと歩き始めた。
「おはようございます! 今日はまた若い方が来てくれて!」
公園にいた人影が近づいてきて、おじいさんがニコニコ出迎えてくれた。おはようございますと挨拶をすると、他にも人が集まってきた。みんなこの朝の散歩の仲間で、おばあさんと私を入れると5人だった。私は若いというだけでものすごく歓迎されて驚いた。こんなにも分け隔てなく、あっさりと話す機会は久しぶりのような気がした。会話の内容は、お天気やスポーツニュースのことがほとんどだったけれど、みんな楽しそうだった。それじゃあ、また明日。話がひと段落するとみんなはそれぞれに帰っていった。私はおばあさんと一緒に、再び元来た道へと戻っていった。
「みんな、高齢だけれど、すごく元気でしょう。私も頑張らないとって毎朝思うの」
おばあさんはそう言って、途中で何度も休憩しながら歩き続けた。
「毎日って、……本当にすごいですよね」
思わず私はしみじみと呟いていた。
「ほんとねぇ。色んな力を借りながら、休憩しながら少しずつね。焦らない、焦らないでね」
おばあさんは、にっこり笑うと杖を持ち上げて見せた。
 
時間をかけて、家の近くまで戻ってきた。
「今日は付き合ってくれて、どうもありがとう。あなたが隣で歩いてくれて、いつもより早くいけたわ」
おばあさんは本当に嬉しそうに心から笑った。私はこちらこそ楽しい時間でした、と会釈をして、おばあさんと別れた。
家に入ると、まだ始まったばかりの朝の気配がした。
「焦らない、焦らない」
私は小さく呟くと、今度こそ何かを続けようと決めていた。
 
 
***

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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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