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自転車と彼氏は古い方がいい


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記事:あやっぺ(ライティング・ゼミ平日コース/特講)

 
 
彼との付き合いは、1年半ほどになる。
気ままなフリーランスなのを良いことに、私は時間の許す限り、彼と過ごしている。
朝っぱらからでも、真昼間でも、夜遅くでも。
主導権を握るのは、いつも私。
彼に跨り、時に激しく、時に穏やかに。
様々なリズムを刻みながら、彼との愛の時間を全身で満喫するのだ。
 
離れることなんて絶対にできない。
会えない日が続くと、体が疼いて、気がおかしくなりそうだ。
私にとって、彼は無くてはならない、本当にとても大切な存在だ。
 
最近の私の悩みは、このところ彼がどことなく元気がないことだ。
気のせいか、どうも動きが鈍い。
疲れやすく、すぐに休憩したがる。
おかしい。どこか体の具合が悪いのだろうか?
それとも、私の目を盗んで、浮気をしまくっているんじゃないか?
 
いや、浮気をするのはお互い様だ。それは以前から公認し合っている。
今さら目くじらを立てて、とやかく言うつもりなどない。
私と一緒にいる時、私を一番大切に扱ってくれさえすれば、それで十分だ。
どこかで変な病気をもらってきたり、疲れて動けないような状態にさえならなければ、どこで何をしていようと、私は別に構わない。
 
ただ、今回ばかりは何だかちょっと嫌な予感がしていた。
気のせいだと思いたかったが、どうも気のせいではなさそうなのだ。
私は彼に直接尋ねる勇気がなくて、ただただ悶々としていた。
この得体の知れない不安な気持ちをどうにかしたくて、私は困った時の相談相手である元彼を久々に呼び出した。
 
長年慣れ親しんだ、勝手知ったる間柄とはいえ、さすがに肌を合わせた瞬間は少しぎこちなさを感じた。
何ヶ月ぶりだろう? 徐々に感覚が戻ってくるにつれて、ぎこちなさは懐かしさに変わってきた。
元彼は、以前と変わらず優しかった。
そして、「会いたい時は、いつでも遠慮なく連絡しておいで」と言ってくれた。
 
その後も続く「今彼」の異変に不安が増す日々に耐えられず、やっぱり病院に連れて行かねばと思った日の朝のことだった。
彼に強くしがみつき、激しく足を絡ませ合い、あともう少しで到達という、まさにその瞬間。
パーンという、大きな破裂音がした。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
3秒ほど経って、私は事の重大さに気づいた。
その破裂音の正体とは……。
 
自転車の後輪がパンクした音だったのだ。
もうお気づきだろう。
「今彼」も「元彼」も人間ではなく、私の愛車である自転車のことだ。
 
車の免許を持っていない私の交通手段は、基本的に自転車だ。
京都市内なら、よほど急な山道でない限り、たいていの所へは自転車で出かけている。
来る日も来る日も。
朝っぱらからでも、真昼間でも、夜遅くでも。
暑い日も、寒い日も、小雨が降る日でも。
私は「彼」に跨り、強くしがみつき、激しく足腰を動かしているのである。
 
「今彼」は、私が初めて買った「新車」だ。
2015年12月、たまたま通りがかった自転車店が、年内で完全閉店されるということで、半額セール開催中だった。
それまで、いつも「中古車」専門だった私だが、さわやかな水色をした27インチのファミリーサイクルに惹かれて、衝動買いしたのだった。
 
私が「中古車」専門だったのには、実は両親からの教えが強く影響している。
気が短い父は、結婚前に仕事で運転していた車で、あわや事故寸前の危険な目に遭ったらしい。それ以来、二度とハンドルは握らないと決め、ペーパードライバーになったのだと言っていた。
なので、我が家には昔からずっと車が無かった。
父も母も、自転車で行けるところには自転車で行くのが、我が家の日常風景だった。
 
自転車で出かける機会が多いと、盗難の被害に遭う確率も高くなる。
さらに、ほんのちょっと停めておいただけなのに、違法駐輪だとして撤去されたことも数知れない。
絶対に撤去されないためには、おとなしく駐輪場に停めるしかない。
盗難被害に遭わないためには、実はちょっとしたコツがあると確信したのだと、両親は私に教えてくれた。
それは、中古で地味な色の、がっしりとした自転車を選んで乗ること。
確かに、それを実践してから盗られなくなった。
「チャリンコ一家」の我が家の長年の経験上、これは断言できる。
 
そして、中古車には盗難防止以外に、もうひとつ良いことがある。
それは、丈夫で長持ちするということだ。
量販店など、格安で新車が買える店は決して珍しくはない。
価格だけで比較すると、中古車とさほど変わらないものも多く出回っている。
しかし、格安な新車は残念ながら傷むのが早い。
結果的に「安物買いの銭失い」になってしまうのだ。
 
自転車は「中古車」をとことんダメになるまで乗りつぶして、ダメになったらまた次も中古を買うのが、「盗られにくい」「簡単には壊れない」という2つの点から見て、得策なのである。
 
「畳と女房は新しい方がいい」
 
日本には、昔からこんな諺がある。
できるだけ取り換えて新しくした方が良いと誤解されているが、本来はそういう意味ではないらしい。
畳が薄汚れて古ぼけているほど貧乏くさいものはないから、どんなやりくりをしてでも畳を新鮮にしておく(小ぎれいに手入れしておく)ことが、女房の良い心がけのひとつだ。
そういうことなのだとか。
 
ちなみに、お国が変われば諺も変わる。
イランには、「女房と絨毯は古い方がいい」という諺があるらしい。
上質な羊毛は使うことで艶が出て、価値が高まるのだそうだ。
また、フランスでは「ワインと女房は古い方がいい」と言われている。
 
私が初めて自分で買った「新車」である「今彼」は、購入からわずか1年半で後輪がパンクしてしまった。
タイヤ交換して安心したのもつかの間。今度は、前輪が怪しくなってきた。
いつ何時パンクしてもおかしくない状態だと言われてしまった。
それに比べて、これまで10年以上、何度もタイヤやチューブの交換や点検をしてもらいながら、どうしても手放せずにいた「元彼」は、私がまた頻繁に指名するようになって、最近すこぶる元気だ。
 
そして、まるで自転車とシンクロするかのように、実は人間の「元彼」とも復活した。
このままだと、「今彼」と「元彼」の立場が逆転しそうな勢いだ。
決してイランやフランスの肩を持つわけではないが、
 
「自転車と彼氏は古い方がいい」
 
私は今、声を大にして言いたい。
 
 
***

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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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