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パパは人生の派遣講師


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記事:永野貴彦(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「パパー 元気でねー! バイバーイ!」
七歳の娘と、四歳の息子が車を降り、二人並んで小さな手を振ってくれる。
その姿をバックミラーに見ながら、手を振り返す。
子どもたちには見えているだろうか。
その時が一番切ない。
 
子どもたちと別れてから、もう三年目になる。
娘は「ママと仲直りして、中学校になるときにまた一緒に住もう」と言っていた。
しかし、その娘の希望はもう叶わない。
息子は「明日もお休みなら一緒に遊ぼう!」と誘ってくる。
しかし、それも叶わない。
幼い二人には本当に申し訳無いと思っている。
先月、二年半かかった協議にようやく終止符が付いた。
長い戦いだった。
今は静かな生活に戻り、ようやく我を取り戻しつつある。
 
最近、よく考えることがある。
子どもたちには辛い思いをさせるが、こうなって良かった、ということだ。
何故か。それにはいろいろとあって書き切れない。
時期をみてまた綴りたいと思う。
 
ただ、ひとつ良かったのは、「有り難い」を知れたことだろう。
子どもたちと別れて、心から二人の有り難さがわかった。
別れて半年間は、声すら聴くことも許されなかった。
子どもたちは辛かっただろう。自分も本当に苦しかった。
これまで毎日当たり前に隣にいた家族が、ある日突然いなくなる。
連絡も取れないまま半年が経つ。
死別して会えなくなるのは非情な辛さだろう。
しかし、生きているのに会えないのは、耐え難いもどかしさがあった。
 
夜中にうなされ汗だくで目が覚める。
食事がのどを通らない。
みるみる体重が減っていく。
 
絵に描いたようなストレスの日々が一ヶ月ほど続いたろうか。
自分がここまで追い詰められるとは、ある意味新鮮な体験だった。
子どもたちが自分にとってここまで大きな精神的支柱だったのかと気付いた。
同時に、自分は脆く弱い人間だったのだとも。
 
精神を落ち着かせるために毎日坐禅をした。
般若心経も読経できるようになった。
人生の艱難をどう乗り越えればいいのか、暗闇の中で出口を探すように哲学書や伝記、歴史書を読み漁った。戦乱の時代を生きた人たちに思いを馳せた。子どもと別れた友人を思い出したりした。
人は同じ痛みを体験しなければ、その痛みは理解できないのだ。
本当に人の気持ちを察するということが、ようやくこの歳になってできるようになった。
 
人が生きていくうえで一番重要な感覚、それが欠落していたことに気付いた。
「有り難い」と感じる感謝の心だ。
 
今置かれている環境の有り難さに気付かず、
かたじけないという思いも無しに、
このまま生き続けていたら、自分はいずれ破滅していただろうと思う。
子どもたちには本当に申し訳無いが、今になってみれば、これで良かったのだと思っている。
こうなった方が、父としての使命を全うできるような気がしている。
一緒にいるより、良き父でいられるような気がしている。
 
愛する子どもたちに伝えたい。
誰かのために生きるという目的は、とても強いエネルギー源になると思う。
例えば、将来あなたたちが親として、自分の子どものために、家族のために、大切な誰かのために生きようとすること自体は素晴らしく尊いことだ。
しかし、私は父として、あなたたちと会えなくなっていろんな事を考える機会を与えられた。
果たしてその生き方は本当に強いのだろうか。この問いもその一つだ。
確かに、誰かのために生きるとは大きな原動力になるだろう。
しかし、同時に脆さも内在している。
 
その「誰かのために」が崩れたとき、人は目の前から光を失い、
何処に向かって生きていけばいいのか闇の中に突き落とされるのだ。
誰かのために生きるという事を盾に、自分の思考を停止してはいないだろうか。
誰かのためにということを、生き方、命の使い方の逃げ道、言い訳として使ってはいないだろうか。
あなたたちが生きる目的は、それらを全て考え抜いた上での「誰かのだめに」であって欲しいと願うのだ。
 
結局人は、一人でこの世に生まれてきて、一人でこの世を去って行く。
子どものために、家族のために、誰かのために生きるのは美しい。
しかし、短絡的に生きる目的にしてしまっては、脆いのだ。
その「誰かのために」が消え去っても、人は生き続けなければならない。
子どものために生きるとは、その思考を経てから言えなくてはならないと思うのだ。
 
あなたたちは、これから幼少期を経て、青年になり、大人になり、様々な人生経験をしていくだろう。
私は父として常に近くに居て、暖かく支援してあげられるならば、それがベストだった。
しかし、後悔はしていない。
むしろこの環境になって良かったと思っている。
お陰で、あなたたちに会える貴重な時間の有り難さを、誰よりも感じられる父親になったと思う。
あなたたちの存在が、どれだけ有り難いものなのか、心の底から感じている。
感じるとは、頭でそうしようと思ってできるものではないのだ。
ある時、心がハタと気付くのだ。じわじわと押し寄せてくるのだ。
本当に有り難いと、感じずにはいられないのだ。
 
今、限られた時間の中で、あなたたちの記憶に、
父親の姿と幸せに生きるための教育を残してあげようと試みている。
父がどんな生き様をしたのか、何を考え、どう行動し、何を学び生きたのか。
それを伝え残そうと試みている。
おそらく、一緒に住んでいたら、こんなことはしなかっただろう。
 
あなたたちは、それぞれの人生を歩んでいく。
たまたま私が親として、あなたたちが子として巡り会ったが、
これから先、父以外のいろんな方々と巡り会い、そこでいろんな事を学び成長していくだろう。
私はあなたたちにとって、会える時間も限られている派遣講師のようなものだ。
限られた時間内で、あなたたちに愛を与え、教育を授け、これから先の人生を豊かに生きる術を身につけさせなければならない。
人生とは何かを考えたうえで、愛のある、誰かのために生きる強い人間にしなくてはならない。
 
結局は私もあなたたちも、一人でこの世を去って行くのだ。
去って行くまでに、この父親の元に生まれて良かったと思ってもらえればいい。
これが私に課せられた、人生の派遣講師としての使命だ。
 
 
***

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2017-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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