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ふるさとグランプリ

ワクワクして生きていいって言ったらどうする?《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森中あみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
いつものように起きぬけにフェイスブックを見ていた。有益な情報があってほしいような、あってもめんどくさいような気持ちだった。どちらかというと見つかって欲しくなかった。そんなときに限って。
 
「いつもと違う文体で書かれた本に出会いました」まっ白な表紙に銀色の文字。「ワクワクして生きていいって言ったらどうする?」起きぬけの頭だからか、意味はスッと入ってこなかった。そのままスクロールすると、「この本はもっと旅したほうがいいような気がします。フレーズにぴんと来た方、1ヶ月以内に京都市内で会える方、メッセージください」とあった。起きて夫のお弁当の準備をする時間。娘もそろそろ起きだすだろう。だけど今この画面を閉じたら、後悔するような気がした。
 
ただ、相手には一度しか会っていない。つながってはいるものの、覚えてくれているかどうかもわからない。さらに読むと、「メッセージを一番にくれた人にこの本をプレゼントします」とあった。もう頭ではなく指を動かした。「はい、はーい! 立候補します!」こういうのは、すばやさとノリの良さをアピールするのが正しい気がした。
 
夕方ごろ返事がきた。聞けば、おなじ沿線で3駅しか離れていないところに住んでいた。すごい偶然。相手のほうが繁華街に住んでいたので、そちらに行きますと返したら、会う場所の候補が3つきた。そのうちのひとつが半年前に東京から来た知人がこれからわざわざ行くのだと言っていて、ずっと気になっていたフルーツサンドのお店だった。またすごい偶然。
 
手渡された本はキレイだった。銀色の文字が蛍光灯にあたってキラっと光った。丁寧に扱わないといけないような気がしてそっと表紙をめくるとイラストがあった。著者が書いたというイラストを横書きの文字が詩のように見えた。あえて感想は聞かなかった。相手もそう思っているようだった。「ワクワク」だけでつながった本と人。これはきっと私の人生を変えてくれるに違いない。一度しか会ったことのない人にメッセージを送り、また会えたこと、指定されたところが行きたかったお店だったこと、これはもう出会うべくしてであった。
 
帰ってからさっそく読み始めた。2週間くらいのつもりが2日で読み終えた。満足だった。ワクワクだけを信じて生きる双子の姉妹の話。こんな話、本当にあるんだ。でも実際にやっている人がいる。さぁあなたも始めてみませんか? と閉じた瞬間から行動するしかないような本。読み終えたら、すぐにでも誰かに渡すつもりだった。それなのに。
 
次の日、大阪で人に会う予定があった。ワクワクというフレーズに興味を持ってくれそうだったから、何も言わずに本をかばんの中に忍ばせていった。話の流れがその方向にいけば、偶然をよそおってほら! と喜ばせるつもりだった。だけど、そうはならなかった。帰ってから、そっと元あったところに戻した。それから2週間ほどして、職場の後輩が家にきた。夢を形にとかいう話が大好きで気があった。流れで本の話になれば渡そうと思っていた。だけど、そうはならなかった。
 
いったん忘れよう。誰かに渡すと約束したわけではないんだし。ずっと留めておくつもりもないけれど、もらってからまだ1ヶ月も経っていない。もう少し、ここで静かにしておきたいのだ。だけど、何をしていても気になった。銀色の文字がキラっと光る。
 
また朝が来た。夫がNHKを見ながらつぶやいた。「楽しんだらあかんやろ」画面には小さな舟に乗ったリポーターが川の急流をくだる直前で「今からいってきます! 楽しんできます!」と叫んでいた。「なんで楽しんだらいかんの?」と聞いた。私に話しかけられると思っていなかったようで、え? と何か悪いことをしたような顔をした。質問の意味がわかったようで「だって仕事やん」と言った。答えはわかっていたからすぐに返した。「楽しんでいいんよ、仕事だって楽しんでいいんよ」そやね、と小さく返事をした彼はそそくさとイスから立ち上がった。
 
楽しんでいいんよ。
自分の言葉をもう一度確かめた。
 
ワクワクして生きていいんよ。
 
本は最初から最後までそう言っていた。読み終わってからもずっと私にそう言っていた。でも私はそうしない。なぜ? こわいから。楽しみ方がわからない。だってずっと今までガマンしてきた。楽しんだらいけないと思っていた。だから急にそんなこと言われても楽しみ方がわからない。
 
でも、いいんよ。それでもいいんよ。
ワクワクして生きていいんよ。
 
本はずっと私にそう言っている。手放すのが怖い。手放したら、もうその本から卒業したということ。もう私はワクワクすることがわかったことになる。だから手放せない。だけど、夫には言ったじゃないか。楽しんでいいんよ。仕事だってなんだって、楽しめばいいやん。ただそれだけよ。
 
もう手放さなければいけない。もう私はこの本をめくることはない。めくったら、また同じように読み返してうらやましがるだけの人生だ。もういい。充分だ。この本はやっぱり旅をしたいんだ。はやくわたしの手元からいなくなろうと、うずうずしている。それは私の本当の心の声だから。
 
 
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