プロフェッショナル・ゼミ

天狼院書店からもらった、魔界への招待状。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講申込みページ/東京・福岡・京都・全国通信】人生を変える!「天狼院ライティング・ゼミ」《平日コース》〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

【東京・福岡・京都・全国通信対応】《平日コース》

記事:松下広美(プロフェッショナル・ゼミ)

「チャンスは自分の手で、つかみなさい」

なんだ、それ。
自分の手で、って今さら言われても。

中学時代に所属していた合唱部は、2年の夏の大会後に廃部になった。
部員が少なくて、3年生が抜けたら合唱ができるレベルの人数が残らなかったからだ。
ただ、私が3年生になったとき、合唱の大会だけは出場をすることになり、3年生を中心にメンバーが集められた。
私はもちろん声がかかるものだと思っていた。
合唱部だったし、校内の合唱コンクールでもそれなりにクラスの中心メンバーだったし、先生とも仲がいいし……。
しかし、顧問だった先生から誘ってもらえることは、なかった。
なんで誘ってくれないんだろう? と、練習しているのを横目に見ていた。合唱のメンバーになっていた人の話も、聞こえてくることがあった。
合唱のことなんか、忘れたかった。
聴きたくなくても、窓を開けた音楽室からは合唱の歌声が聴こえてきた。

大会が終わり、しばらくして顧問だった先生と話すことがあった。
「なんで、参加しなかったの?」
「誘われなかったからです」
「そっか。でも、参加しようと思えばチャンスはあったよね」
「はい……」
「チャンスは自分の手で、つかみなさい」
「……」

正確なやりとりは覚えていないけれど、「チャンスは自分の手でつかめ」という言葉だけは、20年以上経った今でも忘れられない。道端に捨てられたガムのように、ベターっと頭にこびりついている。
でも、チャンスをつかめと言われても、中学生の私は、どうしたらいいかわからなかった。
「いい子」でいるためには、先生に言われたことをやればよかった。言われないことをやる、という選択肢はなかった。
だから、言われたら、やるつもりだったのに。
自分からやりたい、と言うことは、いい子の基準からは外れていると思った。
そもそも、やりたい、なんて言ってよかったの? そうすれば、参加することができたの? 後から、自分でチャンスをつかめだなんて、説教? なんなの? 先生は、私を参加させたくなかっただけじゃないの?
なんだか腑に落ちない気持ちを抱えたままだった。

ただ、貼りついてしまったその言葉は、いつまでたってもベタベタ貼り付いていた。
「チャンス」というキーワードが思い浮かぶと、自動的に再生ボタンが押されて、聞こえてくる。

10日ほど前、再生ボタンが押されることがあった。

「プロゼミの入試を受けられませんか?」というメッセージが送られてきた。

プロゼミって、あのプロゼミ?
いやいやいやいや、無理ですって!

半年ほど前から、天狼院書店というところで「ライティング・ゼミ」を受講している。読まれる文章の書き方のコツを教えてくれる講座だ。
プロゼミとは、そのライティング・ゼミの上級コースで「ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース」のこと。
ただの上級コースではない。
ライティング・ゼミの受講を始めたばかりの人が小学1年生だとすると、プロゼミでガンガン記事を書いている人たちは大学院生くらいのレベルである。
文字数にしたって、ライティング・ゼミでは2000字を目標にだが、プロゼミでは5000字らしい。入試だってある。合格しなければ、入ることも許されない、敷居の高いものだ。
ライティングを始めたばかりの人が柔道を習い始めたばかりの子なら、プロゼミの方々はオリンピック強化選手くらいのめちゃくちゃ強い人たち……。
プロのライターとして、本を出すことになった人だっているくらいだ。

私には、手の届かない場所だと思っていた。
ただ、ずっと憧れてはいた。
プロゼミの方々の記事は、本当にすごい。
毎週、天狼院書店のホームページにアップされるのを心待ちにしていた。
おもわず笑ってしまう話、すごいわかるわーと感情移入してしまうような話、読んだ後に背中がゾッとするようなホラー、涙なしには読めない話。
そのへんの本を読んでいるよりも、よっぽどおもしろい。
そんな素敵な文章と、私のギリギリ完成した文章は比べる余地もない。
勉強していたら、あんな素敵な文章が書けるようになるんじゃないかと、ちょっとした期待はあるものの、文章を仕上げるたびに「やっぱり、ダメだ……」と思う。
いつか、もう少し書けるようになったら、プロゼミに挑戦してみてもいいかな。とそのくらいの気持ちだった。

手が届かないと思っていたけれど、メッセージをもらった直後の、「無理ですよー」の気持ちは、裏返すと「チャンスだ」という気持ちだった。
誘ってもらえるのであれば、私にもそのプロの素質が少しくらいあるのかも。という針の先っぽほどの自惚れもあった。
「チャンスをつかめよ」と自動再生される声が、頭の中から聞こえてきた。

入試を決めた。
目の前に転がっているチャンスを、つかみたいと思った。
お誘いがあってからプロゼミの1回目までは3日くらいしかなかったので、1回目の講義のある日の午前中に入試を受けた。
試験はできた気がしなかったが、試験の直後には連絡が入り、合格、とのことだった。

「私にはまだ遠い世界のようです」とか「大丈夫なのか、不安でいっぱいなんですけどー」と大丈夫かと思った。その反面、表には出さなかったが、心の中では、「やったぜ」とニヤリとした。
針の先っぽほどの自惚れは、合格という空気をもらって少し膨らんだ。
私、イケんじゃね? と根拠のない自信を持ち始めていた。
実際、講義の中でも「目立って何が悪いんじゃ」と、発言していた。
自惚れは、もう少し膨らんだ。

私はバカだ。熱に浮かされていた。

講義後、天狼院書店から出て京都駅に向かう途中、東福寺の駅で電車を待ちホームに立っていた。初夏の夜風に吹かれ、熱は冷めていった。冷めていくとともに、膨らんだ自惚れは萎んでいった。

「あー、どうしよう……」
よく考えたら、考えなくてもわかることだけど、5000字なんて、書けない。
ライティング・ゼミでは課題は2000字を目標だが、プロゼミでは5000字が目標となる。
挑戦したことはあるが、無残な結果に終わっている。
しかも、毎週2000字を書くだけで大変な思いをしているのに、果たしてその倍以上の文章量を書くことができるのか……。

書けない。
どうしよう、書けない。

プロゼミは、私なんかが、足を踏み入れてはいけない場所だったんじゃないか。
講義の中で、多少おもしろいことが言えたからといって、文字にして、文章にして、おもしろいと思わせることができるのか。
入ってみたい憧れの場所だったが、わたしに本当に許された場所だったのか。
足を踏み入れた途端、目の前は崖っぷちだった。

後悔していた。
なんで、プロゼミに挑戦します、入ります、と言ってしまったのだろうか。
もう少し、ゆっくりと考えればよかったんじゃないか。
実力もないうちに入っても、打ちのめされて、たいした自信なんてあるわけじゃないが、ちっぽけな自信さえ、なくなってしまうんじゃないか。

京都駅から、混み合う快速電車に乗車した。交通費をケチらずに、名古屋まで新幹線にすればよかったか。余計な後悔まで増えてくる。
いくつかの停車駅を過ぎ、なんとか座席を確保した。
いろいろ考えるのも嫌になり、持っていた本を開く。
文字を追っていると、本の世界に入れ、少しだけ後悔したことを忘れた。

「言葉っていうのは、魔物だ」
え? なんて言った?

言葉っていうのは、魔物だ。人を傷つけたりもする。励ましたりもする。
魔物をどう変身させるかは、扱う人次第。

鳥肌が立った。
と同時に、身体の中心に、ストンと何かが落ちた。
吸い込まれるように、本の中のフレーズが染みてきた。

ああ、そうだったんだ。
プロゼミは、魔物を扱う人たちの集団なんだ。
自在に操り、魔物の魔力を今もなお、増大させている。

言葉の魔物に取り憑かれ、魔物と自分、どちらが殺るか殺られるか。
魔物の魔力にやられてしまって、大きなダメージを受けてしまう……なんてこともあるんじゃないか。
ダメージを受け負傷しても、それでもなお、立ち上がることができるのは、なぜだろう?
瀕死の重傷を負って、スーパーサイヤジンにでもなろうとしているのか。
魔力で世界征服でもしようとしているのだろうか。
魔物を自由自在に操ることができたときに、やっと答えがわかるんだろうか。

言葉をあやつる魔術師集団のトップに、天狼院書店の店主であり、講師の三浦さんがいる。
きっと、三浦さんは魔物を手のひらで転がして、戦わせて遊んでいるんだ。
そして、その手のひらで遊んでいる三浦さんを見ていて、知らない間に魔物に取り憑かれた人たちがたくさんいるだろう。

私は、戦いを想像するだけで逃げようとしているんじゃないか。
傷つきたくないと思っているだけじゃないか。
後悔してるなんて言っているけれど、何が嫌だって、できない自分を人に晒すのが嫌なだけなんじゃないか。
戦ってみなければ、傷ついてみなければ、きっと魔物を扱えるようにはならない。
適当な気持ちで向かっていたら、魔力にやられてしまうだろう……。

なんでプロゼミに入ってしまったんだ、とは思うが、書くことを辞めたいとは思わない。
ニヤニヤしながら、やってしまったぜ、と呟いている。

そう、私も、魔物に取り憑かれてしまった一人なのである。

何のために書いているのか、何が目的かなんて、決まってはいない。
けれど、拙い文章でも、綺麗にまとまった文章が、着地が決まった文章がかけた時には、また書きたいと思う。
書けば書くほど、次は何を書こうと考えている。

書けない。
書けないけど、書きたい。

取り憑かれてしまったのだから、もう引き返すことはできないだろう。

もう一度、よく考えてみる。

プロゼミに入り、チャンスをつかんだ。
そのつもりだった。
でも、自分でチャンスをつかみには、いっていない。
目の前に差し出されたお皿の上に、「チャンス」と書かれた紙が置いてあっただけ。
チャンスと書かれた紙っきれの中には「魔界はあっち」とだけ書かれていた。
そう、ただの魔界への招待状だった。
本当のチャンスをつかむためには、自分で引きちぎりにいく覚悟でいかなければならない。
やらずにいる後悔が、どれだけ悔しいか。幾つも経験してきたはずなのに、また繰り返そうとしていた。

目の前にチャンスが差し出されるのを待っていたら、本当のチャンスはいつまでたっても現れてくれない。
本当のチャンスが何かはまだわからない。
けれど、とりあえずは魔物になめられないように、しっかりと手綱をもっていよう。
今の目標は、魔物と肩を組んで遊べるようになること。

魔界へ一歩、足を踏み入れたら後戻りはできないのだから、前を向いて進んでいくしかない。

チャンスを手に入れるため、魔界への招待状を握りしめ、自分自身へ戦いを挑んでいこうと思う。

***

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