プロフェッショナル・ゼミ

お金を払ってくれないママ友を、取り立てていたはずが……《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:中村 美香(プロフェッショナル・ゼミ)

*この話はフィクションです。

「ねえ、今度のお楽しみ会、ミナミちゃんに声掛ける?」
かなえちゃんのママに、相談されて、私は戸惑った。
小学1年生の娘の、クラスの子どもたちに、声を掛けて、お楽しみ会をやろうということになって、その幹事に誘われたのは、つい先週のことだった。
その打ち合わせと称して、私とかなえちゃんのママ、そして、達也くんのママの3人でランチを食べていた。
「どこまで声を掛けるかだよね? クラス全員に掛けるとしたら、ひとりだけ掛けないのも、可哀そうだよね?」
達也くんのママが、からあげを頬張りながら言った。
「むしろ、誘って『欠席』って言ってもらえれば、スッキリするんじゃない?」
私は、そう言ってから、我ながら、名案だと思った。
「いや、そもそも、連絡が取れないみたいなんだよ」
かなえちゃんのママは、眉をひそめた。
かなえちゃんとミナミちゃんは、同じ幼稚園だったから、かなえちゃんのママが、私たち3人の中でいちばん、ミナミちゃんのママについての情報を持っていて、そして、警戒しているようだった。
「じゃあ、ミナミちゃんには申し訳ないけど、今回は、声掛けなくていいんじゃない?」
「そうだね」
私たちは、それぞれが知っている、同じクラスのママ友への連絡を引き受けて、別れた。

誤算だったのは、小学1年生の伝達力を見くびっていたことだった。
「ママ、ミナミちゃんも、お楽しみ会に来るって」
娘の陽菜に、そう言われて、息を呑んだ。
ああ、陽菜に、ひとこと言っておくべきだった。
勝手に、子どもたちが、ミナミちゃんをお楽しみ会に誘ってしまっていたのだった。

今回、ミナミちゃんだけをお楽しみ会に誘わないという、鬼のような結論を出したのには理由があった。

かなえちゃんのママの話によると、ミナミちゃんは、年長になってから、かなえちゃんの幼稚園に転園してきたらしい。
そして、幼稚園の保護者の会の集金係を引き受けた人が、必要なお金を全然払わなかったミナミちゃんのママに、相当、困らされたというのだ。
ミナミちゃんの家の電話番号は連絡網で知ってはいるものの、電話を掛けても出ず、保護者会にも一度も出てこなかったらしい。
登園もバスで、バス停に連れてくるのも、耳の遠いおばあちゃんで話は通じず、ママは朝早くから働きに出ていたようだった。
唯一の連絡方法は、幼稚園の先生との連絡ノートだけだったそうだ。
いくら任意といっても、ほとんどの親子が参加する行事に声を掛けないわけにもいかず、先生に頼んで、連絡ノートで、出欠を取ると、殴り書きで、毎回「出席、お金は今度払います」と書いてきたそうだ。
「出席」と言いながら、結局、ママ本人は来ず、子どもの相手は、やむなく先生が担当し、お金も払わず、1年を終えそうになったそうだ。
運動会にさえ、姿を現さなかったママが、さすがに、出席した卒園式で、何人かのママたちに、囲まれて、ようやく、その場で、お金を払ったそうだった。

「お金を持ってないわけじゃないのよ。そこが、イライラするのよ」
かなえちゃんのママがアイスコーヒーを飲みながら、ランチ会で言っていたのが思い出される。

事情があるとはいえ、卒園式で、複数のママたちが、ひとりのママを囲んで、お金を取り立てたなんて、想像しただけでゾッとする。
せっかくの我が子の大切な行事に、そんなことをしないといけなかったママたちも、気の毒だし、純粋に、その風景を、卒園式で見たくないと思った。

だけど、もしも、ミナミちゃんが、お金を持たずに、お楽しみ会に参加してしまったら、今度は、私たちが、ミナミちゃんのママにお金を取り立てなければいけないのだ。そう思ったら、気が重くなった。

幹事なんて引き受けなければよかった。

ミナミちゃんのママと連絡を取って、本当に参加するのか確認をしたかったけれど、やはり、どうしても連絡が取れなかった。
ダメ元で、陽菜に、ミナミちゃん経由で、ママ宛てのお手紙を、渡してもらうことにした。
お手紙には「ミナミちゃんは、お楽しみ会に参加しますか? もし参加するようなら、費用は1000円かかります。参加、不参加について連絡ください」と書き、私の携帯番号を添えた。

お菓子やゲームの準備をして、当日を迎えた。
結局、電話が来ることはなかった。

ミナミちゃんの分のお菓子やプレゼントを用意するか迷って、やはり、はっきりと連絡が取れなかったわけだから、用意しない方がいいということになった。

ミナミちゃんが、お楽しみ会に来ませんようにと、私は、残酷にも祈っていた。

集合時間の少し前から、徐々に、子どもたちが集まってきた。
その中に、残念ながら、ミナミちゃんの姿もあった。ワクワクが、全身から溢れ出ていた。

どうしよう……。

「こんにちは! ミナミちゃんが、今日、お楽しみ会に来ること、ママは知っているのかな?」
なんて声を掛けていいかわからなくて、私は、そう聞いた。
「わかんない」
さっきまでの笑顔が嘘のように、消えていた。
「お金持ってきた?」
ミナミちゃんは、首を横に振った。
「そっか。前に、おばちゃん、ミナミちゃんのママにお手紙書いたんだけど、渡してくれたかな?」
「わかんない」
「そっか……」
お金がないと、参加できないんだよ! と言っていいのかどうか迷った。
「今、おうちにママは居る?」
「いない」
「おばあちゃんは?」
「病院」
「具合悪いの?」
「……」
もう、みんなのところに行きたくて仕方がないといった感じで、ミナミちゃんは、ドアの中の、子どもたちをじっと見ていた。
「ちょっと、待ってて!」
ミナミちゃんにそう言って、私は、かなえちゃんのママを探した。
かなえちゃんのママは、子どもたちに配る風船づくりに夢中だった。
達也くんのママを探すと、子どもたちに配るケーキの用意をしていた。
私は、名簿とみんなから集めたお金を手に、いつの間にか、取りたてが、私の仕事に決まってしまっていたことに、愕然とした。

ハーッと息を吐くと、側に居るはずのミナミちゃんは、もうそこには居なくて、子どもたちの中に入って、美味しそうにケーキを食べ始めていた。

ああ、もう仕方ないか……。

少し、落ち着いてから、ふたりに、ミナミちゃんのことを相談した。
「もう、ケーキ食べちゃったしね……」
「どうにか説得して家に帰せればよかったけどね……」
ふたりの言葉が、胸に刺さった。
私のことを責めているはずはないと思いながらも、やはり、責められているように感じた。
モヤモヤしながらも、3人で話し合って、当日欠席した子どもの分を、ミナミちゃんに当てて、欠席した子のママからはお金はもらわないことにした。
その代わり、ミナミちゃんのママには、どうにかしてお金をもらうことになった。

取り立てか……。

まさか、そんな役割が、私に回ってくるとは思わなかった。
私が、お楽しみ会をやろうって、言い出したわけでもないのに……。

学校の先生に連絡を取ってもらうわけにもいかず、朝、昼、晩と、家に電話するしか方法はなかった。
1回の電話につき、10コール鳴らして、出ないと、とりあえず、切った。

“昨日も、朝、昼、晩、10コールずつしたけれど、電話に出なかったよ”
幹事のママ3人のLINEグループに、業務連絡のように報告した。
最初は
“お疲れさま。やっぱり、出ないか! 連絡ありがとうね”
と労いの言葉が書かれていたけれど、そのうち、スタンプだけになり、10日後には、既読スルーになった。
まあ、確かに、毎日同じような報告があっても、私が反対の立場でも、掛ける言葉はなくなる。
私は、どんな言葉を、かなえちゃんと達也くんのママに求めていたんだろう?
もしかすると“電話掛けるの、替わろうか?”とでも言って欲しかったのかもしれない。
しかしながら、その言葉は、言ってもらえなかった。
それは、そうだ、私が反対の立場でも、替わりたくはない。

朝、昼、晩、毎日、電話をして、20日間も過ぎると、どうせでないだろうという気持ちしかなかった。
“昨日も、朝、昼、晩、10コールずつしたけれど、電話に出なかったよ”
というグループへの報告も、どうせ、既読スルーされると思うと、面倒になった。

子どもたちを楽しませよう! という思いから始まったはずなのに、時間が経つにつれ、あんなことやらなきゃよかったという気持ちに変わっていった。
たった1000円のために、自分が、今、恐ろしい取り立てのおばさんになっていることが怖くなった。
ミナミちゃんの家族にとって、私自身が、穏やかな生活を脅かす嫌な女になっているという事実に、耐えられなくなった。

かなえちゃんのママと、達也くんのママに相談しよう。

取り立てを替わってもらうか、もし嫌だというなら、3人で分担して負担しようと提案してみよう。
それに賛同してもらえないならば、悔しいけれど、全額、私が、負担しよう。
それで、平穏な生活が取り戻せるのなら、1000円は安いとさえ思った。

LINEしようとした時、電話が掛かってきた。
達也くんのママからだった。
なんだろう?

「もしもし?」
「あ、陽菜ちゃんのママ、あのさ、ミナミちゃんのママから、まだ、1000円もらってない?」
なぜか、小声だ。
「うん、まだだけど……」
小声なのは気になったけれど、それでも、わざわざ電話を掛けてくるなんて、なんだか責められている気がした。
「そうだよね! 実はさ、今、学校の近くのコンビニの前でさ、かなえちゃんのママとバッタリ会ったんだけど、中に、ミナミちゃんのママが居るみたいなんだよ!」
「え? 本当に?」
意外な発言に、ドキドキした。
「今さ、レジでお金を払ってるよ。あ、1万円札で払ってる! おつり出るはずだから! 今がチャンスかも!」
「本当?」
心臓の音が聞こえる。
「私さ、ちょっと声掛けてみるよ。来れたら、陽菜ちゃんのママも来てくれない?」
「うん。わかった! とりあえず行く」

時計を見ると、19:15だった。
ああ、旦那が、早めに帰って来てくれていてよかった。
陽菜を、頼んで、私は、スマホを持って、急いでコンビニへ向かった。

コンビニの前に着くと、誰もいなかった。

ミナミちゃんのママのことを追って行ったのかな?

どうするべきか迷って、コンビニの中を覗いてみたら、達也くんのママが笑顔で手を振っているのが見えた。

笑顔ってことは? もしかして?

光に吸い込まれるように、コンビニに入ると、達也くんが食玩のコーナーの前に座り込んで、べそをかいていた。
「ごめんね。達也がさ、お菓子を買えって座り込んじゃってさ。はい。これ」
達也くんのママが渡してくれた1000円は、いつもより輝いて見えた。
「もらってくれたんだね! ありがとう! すんなりくれた?」
「うん、意外に。それがさ、お楽しみ会のこと、知らなかったとか言うのよ」
「え? 知らなかったって! 手紙も書いたしさ、あんなに電話も掛けたのに?」
「そうそう、電話なんて1回も架かって来なかったって、言ってたんだよね」
「え? どういうこと?」
せっかくスッキリするはずだったのに、一気に、モヤモヤし始めた。
じゃあ、私は、どこに電話をしていたというのだろう?
「不思議だね、まあ、でも、解決してよかったよね!」
達也くんのママは、もう電話のことはどうでもいいようだった。
「あ、そう言えば、かなえちゃんのママは?」
「ミナミちゃんのママの顔だけ確認してくれて、すぐに帰ったよ。かなえちゃんが、熱出しちゃったみたいで、小児科の帰りだったみたい」
「そっか」

“かなえちゃん、具合どうですか? 達也くんのママが、1000円回収してくれました! ミナミちゃんのママの顔を確認してくれてありがとうね!”
グループにLINEすると、すぐに、既読になった。
“かなえは大丈夫です! 達也くんママさすが! ありがとう!”
“どういたしまして”
達也くんママのメッセージと、誇らしげなうさぎのスタンプが、続けて、送られてきた。
しかし、そこには、一言も、電話を掛けつづけた私への労いの言葉はなくて、仕方がないと思いながらも、疲れが、どっと出た。

家に帰ってから、どうしても、電話のことが気になってしまった。
念のためと思い、連絡網と、もう一度、掛けつづけた番号を照らし合わせてみた。
すると、最後が、5ではなく6だった!
間違っていたの?
血の気が引いた。

あ。

幹事のLINEのグループを遡ると、“ちなみに、ミナミちゃんのママの連絡先は……”と
私が、散々、掛けつづけた番号が書かれていた!

どうやら、良かれと思って教えてくれた、かなえちゃんのママの間違いのようだった!

じゃあ、私は、いったい、誰の家に、何度も、電話を掛けつづけていたのだろう?
ああ、申し訳ないし、恥ずかしい……。

誰に謝ればいいのか、誰かのせいにしていいのかもわからず、私は、ため息をついた。

どうしようか?

問題が起こった時、極悪人の誰かがいて、その人が問題を起こしているということは、実は少ないのかもしれない。
それぞれの正義や、善意や、勘違いやうっかりが、複雑に絡み合って、傷ついたり傷つけたりしているのだろう。

私は、迷った挙句、LINEのグループを開いた。
“今日はお疲れさまでした! 本当に、お金回収できてよかったね! ところで、電話のことなんだけどね、実はね……”

***

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