育てるということ
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記事:秋田あおい(ライティング・ゼミ平日コース)
きっかけは何だっただろう。
そして、それはいつ始まったのか。
結婚する前からパン作りが好きだった。
自宅にパン作りの道具などは全く揃っていなかったけれど、ボウルの中で一生懸命小麦粉をこねていた、あの頃の自分を鮮明に覚えている。
何がきっかけでパン作りを知り、いつそれを始めたかという記憶はないけれど、夏のにおいと景色は記憶に残っている。
パン生地を手でこねるというのは、特に初心者にとっては骨の折れる作業なので、当時、手でパン生地をこね上げた時の、あの「やり遂げた感」はとても爽快で心地よかった。
あくまでも、その感覚に満足しただけで、パンの出来とは無関係なのだけれど。
あの頃の私は、よくパン屋さんごっこをして遊んでいた。
ひとりで5種類程度のパンを作り、友人相手に「いらっしゃいませ」とは言わないけれど、
私の作るパンを喜んでくれる友人を見て、私はとても満足していた。
ほどなくして私は結婚して生活環境が変わり、その後はパンを作ったり作らなかったり、そういう時期を繰り返していた。
あれから20年近く経った今、パン作りの熱が再びぐんぐんと上昇中。
こうなったきっかけも、人生で初めてパン作りを始めた時と同じように、よくわからない。
ただ、パンが好き。
パンを作るのが好き。
なぜ私はパンを作るのが好きなのか、ということについて考えた時、出てきた答えは「パンが愛おしいから」というものであった。
なぜパンが愛おしいのかといえば、パンというのは本来食べ物であるけれど、生地を仕込んで焼き上がるまでの工程においては、パンは「生き物」であるからだ。
パン生地は温度や湿度に非常に敏感で、それらによってパンの機嫌が左右する。
小さな重たい小麦粉の団子が、ご機嫌に大きくふっくらと育っていく様子を見ていると、まるで子供の成長を見ているようで、顔がほころんでしまうくらいだ。
一方で、パン生地がご機嫌ナナメの時もある。
それは作業環境も関係するのだけれど、育ての親である作り手の技量も大きく関わってくる。つまり、パン生地が育つ環境を整えるということをしなければ、パンはうまく育ってくれないのだ。
気温が低い時には、温度管理に細心の注意を払う。
さらに、適度な湿度を持たせるなどの環境管理をして初めて、パンはご機嫌に育っていく。
そう、パンは作るのではなく、育てるものなのだ。
パンは目をかけた分だけ応えてくれる。
ある種のコミュニケーションがそこに存在する。
パンは愛おしい。
この感覚は、私が結婚して子供を持ったことで生まれたものかもしれないと、最近思い始めた。
わが子を慈しむのは当然のことで、わが子のためを思い、あれこれと目をかけ手をかけ手塩にかけてわが子を育てていく。
こんな人になってほしい、という親としての願いも、当然ながら常に胸の中に置いている。
子供にどんな人になってほしいか。それは育てる側の人間によって違ってくるのだけれど、育てる側の誰しもが子供に対して、いわゆる理想を思い描き、そこへ導いていくだろう。
英才教育は私は好きではない。
子供の得手不得手を理解し、無茶を押し付けるようなことはしたくない。
できればのびのびと育ってほしいという思いがある。
優等生になることを必ずしも求めるつもりはないし、こうしろああしろ、と言い過ぎたくないと思っている。
子供の思いや意見は、できるだけ尊重したいと思っている。
まあ、理想と現実はだいぶ違うのだけれど、子供を「人」として育てあげることが重要で、親にはその責任がある、と私は考えている。
今のご時世、子供たちはみな、習い事で多忙な様子。習い事がない日はないのではないかというくらい、あれもこれも頑張っている子供が多い。
しかし我が家では、この先「人」として生きていくうえで本質的に必要であろうと判断したことを優先的に子供たちに課している。
親が子供に付す、親の優越感という後付けの価値よりも、「人」としての本質を養いたいと思うからだ。習い事を否定しているわけではないのだけれど。
結婚して子供を持った今、子供を育てながらのパン作りは昔とは違って、「パンが愛おしい」という妙な気持ちが入るようになった。パン作りの作業の都度、子供を見守るようにパン生地をも見守る自分がそこにいるのだ。
パン生地が発酵や焼成という工程において大きく育っていくさまがとても愛おしく、上手に大きくなれるようにと、より細かいところに目を配り、気を配り、手をかけるようになった。
というのは、先生のもとでパンを勉強しているからでもあるのだけれど、パンをきちんと勉強しようと私に決意させたのは、パンの愛おしさなのかもしれない。
私はシンプルなパンを作る。
何かを混ぜ込んだり乗せたりしてアレンジするということよりも、生地自体を育てることに興味があり、それを楽しんでいる。
酵母を変えてみる、粉を変えてみる、水分としての材料を変えてみるなど、そういう基礎部分に非常に興味があるのだ。
もっと言えば、後付けのトッピングには興味がない。何かを巻き込んだり混ぜ込んだりすることにもあまり興味がない。
パンはその生地が要であるからだ。
その要の部分を確かな状態に仕上げることが、良いものを作るためには最も大切なことであると確信している。
つまり、自分のパン作りにおいても、自分の子育てと同じように、後付けの付加価値より、その本質の揺るがない価値を確たるものに育て上げたいという思いが、私は強いのだ。
後付けのものなど、後からどうにでもなる、と言ってしまうのは少し乱暴だろうか。
いずれにせよ、私にとってパンも子供も愛おしく、自分がそこに関わりながらその成長を見守ることが楽しくもあり嬉しくもあり、頭を抱えることがあっても、そんな日々に私はささやかな幸せを感じているのである。
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