プロフェッショナル・ゼミ

出版不況を吹き飛ばせ! ミュージシャンにはライブがある、じゃあ作家はどうする?《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:bifumi(プロフェッショナル・ゼミ)

初めていく音読ライブ。通称ドクライブ。
作家と一緒にその小説を音読するという、新しい形のライブだ。
2000人のファンが、小説の中の台詞や描写を一斉に音読すると、会場全体が大きくぐわんと揺れ、腹の底の方からじんじんと響いてくる。

「なに、これっ!? 超気持ちいいー!」集まったファンが声を揃え台詞を読み、トークに笑い、作家との世界を楽しむ2時間。ステージの横には、大型スクリーンが設置され、これから読む文章が大きく写しだされる。
台詞を読むごとに感じる爽快感がもう、たまらない。ジムで体を動かすより、何十倍も楽しい!  
こんなにも、こんなにも自分が声に出して本を読むことを欲していたなんて!

思えば子供の頃、国語の時間にみんなで読んだ教科書は、物語の一部を抜粋しただけで、話しがつながらず、全く面白くなかった。好きでもない話を、ただひたすら読まされるのは苦痛以外のなにものでもない。私の読書嫌いは、国語の音読のおかげじゃないかとさえ思っていた。

けれど音読ライブは違った。好きな作家の文章を、誰にも気兼ねせず声を上げて読むことができる。最初は、音読なんて何が楽しいのさ? とかなりバカにしていた。まわりの友達が、1人また1人と音読ライブに参加するようになり「絶対一度は行っといた方がいい。参加する前と後では、見える世界が違ってくるから」と熱心に勧められ、経験者の友達に連れられ渋々参加したのだった。
直前まで、面白くなかったら時間と金返せって文句言ってやる! とブツブツ独りごちていたのに、ライブが始まりものの10分もしないうちに、疑う気持ちがキレイに吹っ飛び、読むことを心の底から楽しんでいる自分がいた。

こんなにスッキリしたのは、いつぶりだろう?
もう何年も言いたいことや、心にたまった思いを口にすることを忘れていた。
子供が泣くと、うっとうしいと嫌な顔をされる世の中。通勤電車ではイヤホンからの音漏れに注意し、スマホの画面へ無言で潜り込む。生活音で階下の人に怒られないよう、声を潜めてひっそり生きる日々。それが当たり前だと思っていた。でもこの音読ライブで「そんな毎日、つまんないだろっ!」と頭からバケツの水を浴びせられたような気分だった。自分の好きな言葉を思いっきり叫んでいいなんて、なんて楽しくて贅沢な時間なんだ!!
音読ライブが終わっても、みんなで読んだ言葉が頭の中をぐるぐると泳ぎ続ける。いつまでもこの余韻に浸っていたい。日常こそが非日常に思え、現実にもどる方がつらかった。

このライブ以降、あっという間に私は音読ライブにはまっていった。
本屋に行くと、「今すぐにでも音読したくなる小説-今話題のドクライブ-」というタイトルで特設コーナーができていた。様々な作家の小説が書店員さんのPOPとともに、並んでいる。
「失恋した時にこそ、声にだして読みたい本」
「青春時代を思い出したあなたに読んで欲しい物語」
「会社を辞めたくなった時、迷わず声に出したい小説」
夏になると聞きたくなるLOVEソングのようなノリで、行く本屋行く本屋「声に出す・音読」シリーズが、平積みされていた。

音読ライブがあちこちで行われるようになったのは、確か3年ほど前からだろうか。
そもそものきっかけは、出版不況に見舞われた、作家Kが始めた試みだった。
出版不況。そう、本が売れなくなったのだ。人口減、電子書籍、インターネット、タブレット・スマホによるゲームの普及等、様々な要因が絡みあい、人々の活字離れは加速していった。

ただ、音楽の世界でも同じような事が起きていた。
ネット動画で好きな音楽をいつでも無料で聴くことができるようになると、
CDがあっと言う間に売れなくなった。
縮小する市場の中、不思議なことにライブやコンサートの需要は年々増え続けている。
なぜなら、無料で気軽に聴ける音楽を、リアルに体験したいと、
人々はライブに参加するようになったからだ。
コピーされずに売れるモノ、それは体験と物。つまりライブとグッズだ。

ミュージシャンにはライブやコンサートがある。じゃあ作家にはなにがある? 
自問自答する日々。そして作家Kは気付いた。
なんだそうか、自分もライブをやればいいんじゃないか!

最初まわりはみんな笑ってバカにした。なんだそりゃ? 作家がライブってなんだよ? なめてんの? そんなことで本が売れるようになるんだったら誰も苦労しないさ。

でも、彼は諦めなかった。
誰にでも好きな小説があり、その中に心にぴったりと寄り添う台詞や表現があるはずだ。
自分とファンと一緒になってその文章を、音読するライブをやろう!
それが何になるといわれればそれまでだけど、このまま本が売れないと、ぐちぐち言い続けることだけは、もうしたくない。
自分が動かなければ誰がやる!! そんな思いに突き動かされ、手探りで音読ライブを始めたのだった。

最初に反応したのは、彼のファンだった。
好きな作家の好きな言葉や描写を、ただただ声を揃えて読むだけなのに、どうしてこんなに気持ちよくスッキリするんだろう? 一緒に音読しているとたまらなく泣けてくる。言葉を口にだすことの快感にファンはいち早く気付き、口コミでじわじわ広がっていった。

次に反応したのは、脳科学の世界だった。
超高齢化社会に突入し、60歳以上が人口の3割を占める時代。
若々しさを保つためには、しゃべるという行為で脳を活発にすると、老化を遅らせることができる。そのためにも音読は、効果的かつ、脳の活性化につながる最良の方法だ。
(脳科学の第一人者、枯木健二郎「脳は若返りの天才だ!」より)

次に作家Kは、本をあまり読まない世代向けに、小説を漫画にすることでファン層を広げていった。ブレイク寸前の漫画家をネットでみつけ、口説き落とし小説を漫画にしてもらった。小説1つ1つについて、ファンの好きな言葉や描写を投票でランキング、集計していたので、漫画でも、人気のある台詞や描写は文字として残した。音読ライブは若い世代にも好評で、みるみる広がりをみせていった。これも努力の賜物だろう。

ドラマ化や映画化された小説は、それを演じた俳優が、台詞を再度収録。音読ライブではその映像を大型スクリーンで流しながら、みんなで一緒に音読する。この試みも大ヒット! ドラマや映画のファンは、音読ライブ限定でしか見ることができない俳優の姿見たさに、ライブに参加するようになった。

ついに、昨年は音読ライブフェスまで開催された。
規模こそ小さいが、フジロックと同じ場所、苗場を使い、その名もフジドック(富士読)と名付けられた。山の中で開催されるため、マイナスイオンを存分に浴び、自然を満喫することができる。都会のオフィスと毎日の通勤で疲弊しきった人々には最高のご馳走だ。

親子連れも多い。
会場には絵本作家もたくさん参加しているので、子供たちは大喜び。親がお目当ての作家の音読ライブにでている時は、子供は好きな絵本作家の音読ライブやワークショップを楽しむ。フェスから帰るころには、親子それぞれに音読って楽しいね! 本って楽しいね! 自然って楽しいね! という共通の思い出が出来た。

フェス飯も非常に充実している。
一度は食べてみたい、本に登場する料理を忠実に再現したメニューには、
「ぐりとぐらのカステラ」「はらぺこ青虫のチェリーパイ」「しろくまちゃんのホットケーキ」「パンとスープと猫日和のサンドイッチランチ」「キャベツ炒めに捧ぐのコロッケ&キャベツ炒め」「かもめ食堂のおにぎり&シナモンロール」「あつあつを召し上がれのコーちゃんのお味噌汁」「本屋さんのダイアナのソース焼うどん」等が並ぶ。一見地味だが、本を読んだ時によだれがでそうになったことをじんわり思いだす、心が温かくなるものばかりだ。開催期間の3日間とも異なる料理が並ぶので、メニューを見ているだけでも楽しい。一度は食べてみたいと思った憧れの料理に胸が躍る。

グッズの販売も好調だ。
音読は、初心者ほどすぐに声を張り上げ喉を傷めてしまうので、喉ケアグッズは、とにかく売れ行きがいい。
プロポリス、はちみつ飲料、のど飴、のどスプレー、マヌカハニー、
シルクうるおいマスク、ネギの絵が描かれたフジドック限定ネックウォーマーなど。大手製薬会社も協賛企業として名を連ねるようになった。

フェスグッズのタオルやバッグ、Tシャツ、ステンレスマグには
「FUJI DO♡CK」の文字が大きくプリントされている。

本の売り上げも、もちろん絶好調!!
小説はもちろんだが、音読に関するハウツー本も売れに売れている。
小説は、作家の全国音読ライブツアーが決まると、ツアーマークが入ったものを新しく売り出す。音読する箇所が、赤く色分けされ、セットリストの役目をはたしている。
ハウツー本は、
「初心者向け音読手引き ドクライブを10倍楽しくする小説」
「音読ライブにいく前にこの小説を買え!」
「初めての音読ライブ―喉を傷めない発声法―」
「あいつ音読始めるってよ!」等
音読ライブに関するものは、店頭に並べる端から売れていく。
大人向け、子供向けと、出版不況とは一体なんだったのか? と思わせるような勢いだ。

***2月7日 AREMA3月号
創始者が語る、音読ライブの今! 作家K氏へのインタビュー

当時、やってみてどうなるのかなんて全くわかりませんでした。
だって、そうでしょ? 音読ですよ! 自分の小説をただただファンと一緒に読むだけなんて、正気の沙汰じゃないでしょ? でも、ミュージシャンにライブがあるのなら、作家にだってなにかやれるはずだと思い、無我夢中でここまでやってきたんです。

最初は、小さな小さなライブハウスから始まりました。
周りからも、何やってんだ、あいつ? って笑われました。
でもこのまま何もせず、不況だ、本が売れないって、ぷすぷす燻っているのだけはいやだったです。

記念すべき第一回目ですか?
そりゃあもう、散々ですよ(笑)。
こちらも勝手がわからない、ファンも勝手がわからない、進行もどうしていいのかわからない。非常にグダグダとした、脇から変な汗が流れ落ちる1時間でした。音読だけではとてももたないと思ったので、小説を書いた時の、状況とか気持ちを話しました。これが異様にうけたんです。そういう話が聞きたかったって、ファンの方が泣くんですよ。これは占めたと思いましたね(笑)。当時の状況や気持ちを話すトークと、音読を交互にやっていったら、ファンの方々もドンドン乗ってきてくれました。

音読ライブが終わると、ファンの皆さん、既にもっているはずなのに、2冊も3冊も同じ本を買ってくれるんです。「どうして? なんで?」と聞いたら、家での練習用に1冊、次回のドクライブに持参する用に一冊、周りにこの楽しさを知らせるために一冊、と目をキラキラさせて答えてくれるんです。こんなグダグダなライブなのに、次も来てくれるつもりだなんて・・・・・・ありがとうー! ってファンの手を握りしめて思わずハグしてしまいました。それ以上は何もしてませんよ、ええ当然です(笑)。

皆、自分の心の中のモヤモヤしたものや、鬱屈したものを吐きだす場所に飢えていたんでしょうね。僕の小説は歪んだ心理描写やひねくれた台詞が多いから、今を生きる人達には気持ちが入りこみやすかったのかもしれません。
今、大勢で思いっきり大声を出せる場所なんて、それこそミュージシャンのライブか、音読ライブくらいでしょう?
そりゃあカラオケも楽しいでしょうけど、会場との一体感や、価値観があう人達と触れ合う体験なんて、もうそれだけでエクスタシーを感じるんじゃないでしょうか。

あ、もしかしたら音読ってセックスと似ているのかもしれません。
心と体で感じる気持ちよさを、腹の底からぐわーって引っ張り出してきてそれを思いっきり声にだすのって、すごく動物的だけど、それこそ人が根源的に求めているものなんじゃないでしょうか。

言いたくてもいえなかったことを口にだすと、ストレスも解消されますしね。
抑圧されているからこそ、この音読ライブが、これだけ受け入れられたんだと思います。
閉塞感漂う世の中のおかげで、成功しているというのは、ちょっと複雑な気もしますけど、いろんな反響があって嬉しいです」

だが、喜んでばかりもいられなかった。
音読ライブが盛り上がるにつれ、作家達からの不満が1つまた1つと湧きあがってきた。
ミュージシャンのライブでも同じだが、リリースされたアルバムと同じ歌をただ歌っているだけでは、どんなによい曲でも、意外とライブはつまらないアーティストだと酷評される。
音読ライブでも、ミュージシャンのライブでも期待されるのは、ライブ中にファンをいかに楽しませるかというトーク力だ。
トークが面白い人ほど、ライブへの観客動員数も増え、グッズの売り上げも伸びている。
「上半期音読ライブおもしろトークランキング」などどいうものまで
発表されるようになった。

「面白いことをいうために作家になったわけじゃない!」と大御所の作家の中から
「断音読ライブ宣言」を出すものまで出てきた。
せっかく盛り上がりをみせ、出版不況も底をついたかのようにみえたのに、これでは音読ライブが文壇を二分してしまう・・・・・・

***8月7日 AREMA9月号 
「断音読ライブ宣言」について。
音読ライブ創始者、作家K氏へのインタビュー

「断音読ライブ宣言ですか・・・・・・
まあ、いろんな考え方があっていいと思います。
ただ、音読ライブが認知されたことで、世間の皆さんが小説や文章を読む楽しさに気づいてくれたのは確かです。僕の本だけでなく、いろんな作家さんや、様々なジャンルの本が売れるようになったと聞いています。出版界が息を吹き返したんじゃないでしょうか。
まだまだ課題はたくさんあると思いますが、本が売れない売れないと手をこまねいていた頃に僕は絶対に戻りたくはありません。

ライブでのトークが評価されているというのは知っています。
何か面白いことをいうために作家になったわけじゃない! といわれる気持ちもよくわかります。ただ、最初は私も何を話したらいいのかわからず、頭の中が真っ白でパニックになっていました。ライブが終わる度に緊張と吐き気から倒れていました。胃に穴もあきました。でも諦めませんでした。そして、やっと最近になってですが、ファンの方と楽しくライブを過ごせるトークができるようになったような気がしています。誰もトークのやり方なんて教えてくれる人はいませんでしたから、試行錯誤してきた結果です。

みなさん、いろいろ動いてみたからこそ、新たにでてきた課題だと思います。
新しいことを始めると、必ず痛みが生じます。
いくつになっても、未経験のことに挑戦し、そこでのたうちまわってみるのも、人間臭くていいんじゃないでしょうか。

そういえば今度、ちょっと変わった本屋の試みで、「音読ライブで笑いがとれる人、とれない人はここが違う! 作家のためのファンを退屈させないトークゼミ」というものが始まるそうです。こういうものが開かれるようになるなんて、音読ライブの広がりを感じ、とても嬉しいです。
ちなみに第一回目の講師は私が担当します(笑)。

ものすごく面白いことがいえなくても、ファンはこういうことが聞きたいんだというポイントを押さえてお話ししますので、興味があればぜひご参加ください。
通信受講もできるようなので、会場にどうしても参加できないという方は、webでの受講もおススメします。

どんな世界でも、売れる努力、人を楽しませる努力というものは必要です。売れない売れないと嘆いているだけでは何もかわりません。今こそ皆さんがそれぞれの方法で動き出す時なのではないでしょうか」作家K

※この話はフィクションです

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