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ふるさとグランプリ

三室戸寺の紫陽花は、私には合わない《ふるさとグランプリ》


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記事:かほり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「紫陽花見に行こうよ!」
 
大学時代の友達5人と三室戸寺で再会することになった。
京都の宇治にある紫陽花の名所である。
紫陽花に限らず、四季折々の花が咲く。
春はつつじで、夏は紫陽花に蓮、秋は紅葉、といったところ。
 
今は6月。6月といえば梅雨。梅雨といえば紫陽花。
 
「京都のお寺で、紫陽花のきれいな所あるの知ってる?」
友人の一人が三室戸寺を提案してきた。
調べてみると、なんと50種1万株もの紫陽花が咲く庭園があるという。
しかもその中には、ハート形に咲くものもあり、見つけられたら恋の願いが叶うという……。
これは行くしかない。行かない理由がない。
というわけで、女5人、紫陽花も恋も探し求めて、三室戸寺へ行くことになった。
 
私はすごく楽しみだった。
恋が叶えてくれるハートの紫陽花への期待はもちろん、一度にそんなにたくさんの紫陽花が見られるなんて……想像が追い付かない。
1万株もの紫陽花のある光景ってどんなものだろう。
 
待ちに待った当日。
天気は晴れ。梅雨の時期には珍しいほどの清々しさだった。
 
「よかったよかった!」
「せっかく休みの日に出かけるって言うのに、雨だったらテンション下がるもんね」
「私たちツイてる!!」
 
お寺に続く坂を上りきると、それはそれは多くの客で賑わっていた。
参拝するのも一苦労だった。
お賽銭の前で並び、鐘の前で並び、ご利益があるという石像の前でも並んだ。
午後3時の強い日差しに体力を奪われていった。
 
「なに疲れてんの!? これからが本番だよ!」
友人による一喝。
 
そうだ、今日は紫陽花を見に来たんだ。
お寺に拝んで帰るのはもちろんなんだけど、なにより紫陽花を拝まないわけにはいかない。
ここでくたばってはいけない。
暑さに負けてなんかいられないのだ。人の多さに気圧されてはいけないのだ。
 
いよいよ、紫陽花のある庭園へ。
やはり見事な数の紫陽花だった。
人が2人通れるか通れないかの狭い道が続いており、両側に紫陽花が咲いていた。
そんな窮屈な場所に、さっきの参拝客が流れて来ていた。
もはや人気アーティストのライブ会場並みだった。
みんなスマホやカメラを取り出し、一斉に紫陽花へと向けていた。
よく見る青や紫だけじゃなく、赤やピンク、白、黄色のものもあった。
 
「見て! ハート型!」
友人が例のハートの紫陽花を見つけたようだ。
「わあ……」
せっかく恋が叶うかもしれないというのに、私は生温い反応しかできなかった。
正直そんなに感動しなかった。
ただただある種の違和感が、私の中に充満していたのだった。
それは、
「あれ? 紫陽花ってこんなだっけ?」
というものだった。
 
私の知ってる紫陽花は、今、目の前にあるようなものじゃなかった。
赤やピンク、白、黄といった、色鮮やかな紫陽花ではなかった。
太陽でカンカン照りの紫陽花ではなかった。
人混みの中に咲く紫陽花ではなかった。
つまり、私にとって紫陽花とは、こんなに華やかなものじゃなかったのである。
 
私はこのとき、気付いてしまった。
紫陽花は、こんなにちやほやされる存在であってはいけない。
色が青か紫で、雨の中、1人で見ないといけないということに。
 
私にとって、紫陽花は雨の日に見るのが一番よかった。
雨の日はたいてい気分が沈むのだ。
淀んだ空と、視界を狭める傘のせいで、ふさぎ込んだ気持ちになる。
特に梅雨は、湿度のせいで生温い空気が身体にまとわりつくような気がして、なおさら不快だ。
こんな憂鬱と直に向き合わなきゃいけない時は、たいてい1人でいるときだ。
でも、紫陽花を見ると、「ああ、雨の日もなんか悪くないなあ」と思えるのだった。
さらに言えば、色は青や紫じゃないといけない。とにかく青みが混ざっていてほしいのだ。
というのも、自分の憂鬱のイメージカラーが青だから。赤や黄色や白だと、無理に元気を引っ張ってこられているようで落ち着かない。
憂鬱な時は、できるだけ心に寄り添っていてほしいのだ。
 
そうして、これらの青と雨が融合すればカンペキだ。
青や紫の透明感が、雨の雫を吸って、キラキラして見える。
暗い空の下、紫陽花のある所だけが、どこか光を放っているように見える。
 
なんだ、雨の日も悪くないじゃん。
紫陽花が私の憂鬱を全部吸い取って、輝いているのでは? という錯覚さえ起こった。
 
なのに……三室戸寺で、今目の前にあるのは、私だけの味方じゃない。
みんなのアイドルだった。
太陽の光を浴びて、
たくさんの人に囲まれて、
写真をパシャパシャとられて……。
正直、嫉妬した。
いつも親しくしてくれた友達が舞台の上に立って、遠い存在になってしまった気分だった。
 
アイドルのような紫陽花も、華やかで魅力的だ。
恋が叶うというハート形の紫陽花もキュートだ。
でもやっぱり私には、雨の紫陽花が合ってる。
 
じゃあ三室戸寺にわざわざ行かなくてもよかったんじゃないか?
家近くの住宅街の紫陽花でよかったんじゃないか?
 
いや、私はそうは思っていない。
もしも三室戸寺に行かなかったら、私の中の紫陽花の存在に気付くことができなかったかもしれないから。
雨の青の紫陽花が特別きれいだ、ということに一生気づかなかったかもしれないから。
きっと、ああ、また咲いてる、今年もきれいだな、くらいに終わっていただろう。
 
だからよかったのだ。
三室戸寺に行って、嫉妬して。
 
 
***

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