ふるさとグランプリ

茶色い食べ物はおいしい。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
料理において、いろどりは重要な要素である。
黄色いコーンクリームスープには、刻んだパセリを少しふるだけで、格段に美味しそうに見える。
夕飯のメインに、つややかな青黒い皮の塩サバを出すなら、小鉢で鮮やかな紅白ナマスを添えると、食卓が明るくなり、箸も進む。
 
うっかり気を抜いて、いろどりに失敗すると、白いごはん以外は、全て茶色という状況に陥る危険がある。
「さあ楽しみにしていたご飯だ!」というときに、テーブルが地味な茶色ばかりでは、げんなりしてしまう。食べる前のワクワクも、しぼんでしまう。
 
なぜ、茶色一色の食卓になってしまうのか。
答は簡単だ。
美味しい食べ物が茶色なのだ。
 
もちろん、茶色以外でも美味しい食べ物はある。真っ赤なミートソースや、やわらかいクリーム色のシチュー、エキゾチックなグリーンカレー、ふんわり明るいオムライス。
 
だが、茶色い食べ物で美味しくないものが、この世にあるだろうか。
鰻でも、ハンバーグでも、チョコレートでも、全て美味しい。
料理の腕がまずくて失敗してしまったパターンを除いて、世の中のありとあらゆる茶色い食べ物は総じて美味であるといっても過言ではないだろう。
 
茶色い食べ物は、その美味さに反して、見た目は地味である。素朴である。
メガ盛りとか、常識はずれなボリュームで耳目を驚かせることはあっても、通常の姿かたちで人々の眼をくぎ付けにすることは、まずない。
だから、他のいろどり鮮やかな食べ物に囲まれたときに、つい、ないがしろにされてしまうことがある。
 
「わあっ、これ、誰からのお菓子?」
昼休みに入り、バックヤードのドアをあけた私の眼に飛び込んできたのは、机に広げられたお菓子の箱だった。
一メートル四方もありそうな、その大きな箱には、色とりどりの包装を施された何種類ものお菓子が、みっちりと詰められていた。
その横に、二回りほど小さな箱に入った、茶色いお菓子も置いてあったが、そちらは一瞥しただけで、カラフルな箱のほうにくぎ付けにされてしまった。
「こんど入ってくる新人さんからだって。」
「えっ、私、ここに入るときに、お菓子なんか持ってこなかったよ」
「私もー」
「私も、持ってこなかったです」
そう言いながら、みんなキャーキャー言って、お菓子を漁る。
たくさん数があるとはいえ、1種類につき4~5個ずつの詰め合わせだから、早くしないとお目当ての種類がなくなってしまうかもしれない。
4本も5本もの腕が同時にお菓子を漁る中に割って入るほどがっついていると思われたくなくて、一通りみんながお菓子を選び終えるまで、待っていることにした。
 
その間、なんとなく周りを見渡していると、茶色い地味なお菓子が目に入った。
カラフルなお菓子詰め合わせが注目を集め、人気を博している横で、ぽつんと忘れ去られたかのように、じっとしている。
 
あっちのお菓子争奪戦が終わるまで、先にこっちのお菓子でも食べておこうかな。
そう思って、その地味な箱に手を伸ばす。
貼ってある付箋によると、常連の高齢のお客さんからの差し入れとのこと。なるほど、ご年配の方が好みそうな茶色だ。
箱一面に、なんの装飾もない棒状のお菓子が10本ほど並んでいる。個包装のビニールには、「かすまき」と書かれている。
 
へぇー、これ、かすまきなんだ。
私のイメージする「かすまき」とは、一見して違うお菓子に思えた。
 
私が知っている「かすまき」は、角材のような棒状で、外側に砂糖がまぶされている。甘いあんこを、甘いカステラの生地で巻いており、歯が溶けそうなほど甘ったるい。噛むとジャリジャリと音がする。外側についている砂糖のジャリジャリだろうが、まるであんこの中に砂糖の結晶があるのではと想像してしまう。それくらい、暴力的なほど、甘い。
 
それに対して、今、目の前で、肩身狭そうにしている「かすまき」は、ずいぶんと細い。砂糖も、まぶされていない。「かすまき」らしいのは、茶色い生地が黒いあんこをくるんでいる、ただそこだけ。
箱の横に置かれた紙袋には、大きく「壱岐」と書いてあった。
壱岐とは、長崎県の島である。割と大きな島で、長崎よりも福岡のほうが近い気もする。釣り人がよく行くところだ。
壱岐は外界からちょっと隔離されている。
だから、壱岐の「かすまき」は、もしかしたら、日本のガラケーのごとく、独自の進化を遂げたのかもしれない。
 
そんなことを適当に考えながら、1本手に取る。
ビニルのパッケージの端のギザギザに指をかけ、縦に袋を破いて取り出そうとしたが、3センチほどでちぎれて、最後まで開けられなかった。手もべとべとする。
地味だし、開けにくくて不便。素朴な、いかにも田舎のお菓子だなぁ。
 
なんとか一口分だけ袋から押し出し、かじる。
意外なことに、もっちりとした弾力が、歯に抵抗してきた。
あれ? カステラの生地でくるむから「かすまき」なんじゃないの? これじゃまるで、どら焼きの生地じゃん。
そう思ったのもつかの間、生地の甘味がどかんと脳を支配する。遅れて、あんこの甘味も。
甘いだけでなく、風味も良い。卵の力だろうか、鼻のほうへ、コクのある甘味が流れていくようだ。
いつもの「かすまき」のように、パサパサもしていないから、飲み込むときにも、喉にひっかからない。するっと流れて行ってしまう。早く、次の一口も食べたい。
 
気づくと、ボロボロになったパッケージだけが、手に残されていた。
甘いものを食べたあとによくある、口の中のすっぱさもなく、かすかな残り香だけが、夢から覚めてすぐのように、ぼんやり漂っていた。
 
周りの同僚は、おしゃれな箱からお菓子を選び終わって、もう思い思いの場所に座っている。
目の前には、カラフルなお菓子が、無防備に広げられていた。
つい数分前までは、私だって、その中からどれを選ぼうか、虎視眈々と狙っていたというのに。
もうすっかり、そんな気分ではなくなってしまった。
頭の中は、「かすまき」に支配されてしまっていた。
 
茶色い食べ物はおいしい。
見た目は地味で、料理を前にしたときのワクワク感は、カラフルないろどり豊かな食べ物には到底かなわない。
だが、ひとたび口にすると、その美味しさは、いろどりに欠けるという不利な状況を、一瞬でひっくり返してしまうほどに強力である。
 
そんなこと、重々承知していたはずなのに。
油断した。お腹もいっぱい。もう、あのいろどり豊かなお菓子を食べる隙間さえない。
だがもし可能なら、あのひたすら茶色くて地味で、でもとんでもなく美味しい「かすまき」を、もう一本食べたい。
 
 
***

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