メディアグランプリ

キントウンを乗りこなせるようになるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤井彩(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
まっすぐに伸びた道路。
早朝で車はほとんど走っていない。
一息吸い込んで、ワクワクしながら、ぐっとアクセルを踏む。
意気揚々と車が動き出す。

窓の外の景色がどんどん流れていく。
窓から入ってくる風が気持ちいい。
まるでキントウンに乗って空を飛んでいるかのような気持ちになる。

ドライバーテクニックは置いておいて、車でどこかへ出かけるのが好きだ。しかし、ほんの3年ほど前まで、私はペーパードライバーだった。
その頃は車に乗ることが恐怖と疲労でしかなかった。

そんなふうだったから、雨が降ろうが荷物が多かろうが、車で行けば3分で行ける駅まで20分かけて歩いて行っていた。
私の運転免許証は、きっと死ぬまで身分証明書としての役割しか果たさないのだろうと思っていた。

ところが、事件が起きた。母が長期で入院することになったのだ。
それだけなら、今まで通り徒歩と公共交通機関を駆使してなんとか乗り切ることができそうだったが、我が家には祖母がいた。

それまでは、日中はデイサービス、週末はショートステイを利用し、家にいる時の祖母の身の回りの世話は、すべて母がしていた。
情けない話だが、すべてを母に任せきりにしていた私には、どうやって祖母の世話をしていいかわからなかったし、私のキャパでは仕事との両立は無理だった。

そこで母が入院するにあたり、祖母にはグループホームに入ってもらうことになった。しかし、急だったため、母が入院するまでの間にグループホームの空きが出ず、細かい手続きや身の回りのものを運んだりといったことは私がしなければならなくなった。

グループホームは車で行けば15分ほどの距離だったが、歩いて行くのにはどう考えても無理があった。
何往復もしなければならないこと、布団などの大荷物を持って移動しなければいけないこともあり、否が応でも車を運転する必要性が出てきてしまった。

車で3分の距離を20分かけて歩くほど運転が嫌いだった私が、15分運転をするということは拷問に近かった。
しかし泣き言を言ってはいられない。
いつグループホームの空きが出てしまうかわからないのだ。

その日から私の真夜中の特訓が始まった。
転職したばかりで慣れない仕事に四苦八苦する毎日。
帰宅はほぼ毎日終電だった。

20分かけて駅から家まで歩いて、ボロボロになった頭と体を引きずるようにしてそのまま車に乗り込む。
エンジンをかけ、一息吸い込んで恐る恐るアクセルを踏む。
まるで私の心を反映しているかのように遠慮がちに車が動き出す。

初めのうちは近くの24時間営業のレストランの駐車場で駐車の練習。
少し慣れてきたところで家の近くの大通りに出てみることにした。
2車線の道路で脇道から左折で合流すればいいだけだった。
脇道には信号がないが、車の流れが切れるのを待って左折すればいいだけだ。

深夜なので、さほど車の量も多くない。後続車もいないので車が途切れるまで待ってゆっくり左折すれば済む話なのだが、なぜだか停まっていると、どんどん恐怖感が募ってくる。
「早く曲がらなければ!」という謎の心の声に耐えられなくなった私は、よく確認することもなく、ハンドルを切ってしまった。

曲がる直前に目の端にトラックが見えたが、焦っていたのと不慣れなのとで、てっきり右車線を走っていると思い込んでいた。
トラックは目の前に飛び出してきた私の車めがけてクラクションを浴びせてきた。

そして少し先にトラックが止まったかと思うと、眉毛のない兄ちゃんがトラックから降りてきたのだ。
今度は運転とは別の恐怖が一気に私に襲いかかる。

「テメェ何考えてんだ!」
眉毛がないだけでも怖いのに、目をキリキリと釣り上げて私を睨みつけてきた。

私といえば、もう半ば泣きそうになりながら、化粧もほとんどはげて、疲れでボロボロになった顔で「すいません、すいません」と言うしかなかった。
その姿があまりに哀れだったからか、兄ちゃんは「気をつけろ!」とだけ捨て台詞を残して去って行った。

「なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ! 私が一体何をしたんだ!」といるかどうかもわからない神様を心底恨んだ。

それまでの私だったらそこで諦めていただろう。
お金はかかってしまうがタクシーで通うという方法もないわけではない。
しかし、なぜかその時の私の中には諦めるという選択肢がなかった。

私はそれまで、自分が何もできない人間だと母に言われ続けて、自分でもそう思い込んで生きて来た。だから、ちょっとやってみてできないと「ほらやっぱり。私にできるわけないんだ」と言い訳をして、すぐに投げ出して逃げてきた。

そして母は、そんな私のために何から何まで準備して歩く道まで全部決めてくれた。だから投げ出しても困ることはなく今まで生きてこれたのだ。
だが、いつも横で指示を出してくれた母は今いない。

今回だけは自分だけの力でどうにかするしかないのだ。
そう腹をくくった時、私の中で何かが変わった。
その次の日からも深夜の練習を欠かすことはなく日々が過ぎていった。

その甲斐あって無事祖母をグループホームに入居させることができた。毎週祖母に会いに行くようになり、さらに運転に慣れていった。

今では行きたいところがあればナビで何処へでも出かけていくようになった。車があるおかげで行動範囲が広がり、たくさんの人と出会う事が出来るようになり、仕事の幅も広がった。

キントウンのようにひとっ飛びというわけにはいかないが、どこへ行くにも歩いていた頃と比べたら、私の人生経験のレベルは格段に上がった。
私のキントウンはきっとこれからもたくさんの経験を私にもたらしてくれるだろう。

まっすぐに伸びた道路の先にどんな未来が待っているのか、ワクワクしながら私は今日もアクセルを踏む。

 
 
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2017-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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