メディアグランプリ

2kgの梅を腐らせたお蔭で、こじゃれたジュースを手に入れた。


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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
ウキウキした気分で蓋を開けると、一面に広がっていたのは、白い垢のようなものだった。
「うわっ、何これ」
蓋を手に持ったまま、呆然とする。
本当なら、澄んだ液体と、そこに浸った丸々とした梅たちの姿が見えるはずだった。
しかし、今、目の前にあるのは、ぷかぷかと浮かぶ白い垢。その下には、味噌汁のように濁った液体。漂う匂いすら、吐き気を誘ってくる。

「どうしたの?」
さっきまで一緒に紫蘇をちぎっていた母が、様子を見に来た。
「なんだろう、これ。カビかなあ」
この梅を仕込んだ時のことを思い出す。
いくつか、ヘタのところに、白い綿のようなカビがついているものがあった。
避けるべきかと迷ったが、カビ以外はプリプリして立派な梅だったので、捨てたくなかった。
「まあ、よかろう」と楽観して、カビの部分だけこすり取って、他の梅と一緒に樽に並べたのだった。

全然よくなかった。
わずかに残ったカビが、どんどん増えたのだろう。
仕込みのときは、ほんの少しのカビだったが、今では樽全体に広がってしまっていた。
カビが付いていない梅も、腐ってしまっている。

「これ、煮沸したりして、なんとかならないの?」
「どうかなあ。でも、ここまでになっちゃったら、無理じゃない?」
何より、この異臭を放つ物体を、もう食品と認識できなかった。
可愛がっていたペットのカタツムリが死んだときのように、愛情と嫌悪感をないまぜにしながら、使い捨てのビニル手袋をはめて、もくもくと生ごみの袋に移していった。

おいしい梅干しになるはずだったのに。
2kgまるまる、私のせいでダメにしてしまった。
そんなショックに打ちひしがれながら、梅を入れ終わった袋の口を固く縛る。
続けて、空になった樽や重しを、遺品整理のような気分で洗っていく。

一通り洗い終えたと思い、台所を見回す。
「あっ、すっかり忘れてた」
ボウルが、まだひとつ、あった。
中には、塩もみとアク抜きまで済んだ、赤紫蘇の葉。たぶん、1kgはある。
本当なら今日、梅干しの樽に投入する予定だったもの。そのために先ほどまで鼻歌を歌いながら下処理をしていたものだった。

「肝心の梅がなくなっちゃったから、この大量のシソも無駄になっちゃうな……」
もともと暗くなっていた気持ちが、更にずーんと重みを増す。

「紫蘇だけでも、どうにかならないの?」
落ち込むのを見かねたのか、母が声をかける。
「どうにかなるかなあ?」
青紫蘇なら、大葉として薬味などでよく使われるけれど。
赤紫蘇を単体で何かに使うなんて、イメージすらできない。

けれど、このまま生ごみをもう1kg出すのも忍びない。
スマホを取り出し、「赤ジソ」と検索窓に入力する。

「へぇ、赤紫蘇でジュースができるんだ」
意外にも、赤紫蘇を使ったレシピは、ずらずらと出てきた。
そのトップに出てきたのが、ジュースにする方法。
添えられた画像の、透き通った赤い色のドリンクは、気高い印象すら受ける。
ちょっと興味を持ったが、「でも、手間が多くて、面倒くさいんでしょう?」なんて意地悪を思いながらスクロールすると、たったの4工程で完成していた。

その30分後には、我が家のキッチンでも、2リットルの紫蘇ジュースが完成していた。

期待なんて全然せずにレシピ通りに作ったが、意外にもこの紫蘇ジュースは、今年から夏の我が家必須ドリンクとなった。

紫蘇ジュースは、まず、色がいい。
紫がかった赤みのスケルトンな液体は、高級感を漂わせ、いつもの居間をこじゃれたカフェのように感じさせてくれる。
それに、爽やかな酸味と甘みが心地良い。じっとりとした暑い日でも、ひとくちでサッパリさせてくれる。麦茶や水よりも、飲んだ瞬間、ぐいぐいと体内に吸収される気がする。

今回の梅干しの失敗は痛かったが、意外な収穫を得ることができた。
まるで道に迷った結果、新たな抜け道を発見したときのようだ。

想定したルートを通って、想定した時間内で目的地に到着するという目標を、今回は達成できなかった。
しかし代わりに、新たな抜け道という収穫を得た。
今後、ずっと役に立つ知恵を得ることができたのだ。

梅干しの樽の蓋を開けたときは絶望して、もうどうしようもないとしか思えなかった。
だが、この大失敗がなければ、紫蘇ジュースには一生出会わなかったかもしれない。

腐らせた梅は非常に残念だったが、おかげでこれからの人生で毎年、この美味なジュースを楽しむことができる。
大収穫ではないか。

 
 
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2017-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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