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女に厳しい女を成長させた、媚び売る女の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ごとうみのり(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「××さんってばす〜ご〜い!」
 
なぜ語尾を伸ばす。
なぜ後半から声色が1トーン上がる。
なぜそのタイミングでボディタッチをする。
 
っていうかそもそも、それってすごいのか?
酔った勢いで褒めてない?
 
学校でも会社でも、大抵どこにでもいる女がいる。媚び売り系女、もしくは多分作っている天然女だ。
そしてこれもまた大抵いるのが、そんな女が嫌い、もしくは苦手な、女に厳しい女。
この2種類の女は同時に存在していることが多い。思考を反発させ合いながら共存している。
 
そして私は、媚び売り系女が嫌いな、女に厳しい女だった。
今は媚び売り系女、もしくは多分作っている天然女について特になんとも思わなくなった。いや、むしろ尊敬の念を抱くようになった。
 
それはある、媚び売り系女に出会ったことがきっかけだった。
 
大学生の頃に参加したサークルの飲み会での出来事だった。媚び売り系女とは、そこで初対面だった。始めましてーと明るい笑顔で挨拶されたが、あの独特のなぜか語尾を伸ばす口調に、私は彼女に対して疑いのフィルターを自分の目にかけた。
 
話も面白いし、明るい。オシャレでちょっと美人な彼女はみんなに優しかった。酔いが回った勢いに任せてか、イケメンが彼女の隣に座った。でも、彼女はみんなに優しく、話題をふる姿勢を崩さなかった。
 
意外と媚びうるタイプじゃないのかな、と思い始めた会の後半だった。酔いが回るにつれて、ついに化けの皮がはがれてきた。
話題をくるくる回すことはしなくなった。イケメンへのボディータッチ発動。そしてすごい、やばい、尊敬する、の上げ上げ攻め。
 
やっぱりかあ。
いい友達になれるんじゃないかと、抱いていた淡い期待は吹っ飛んだ。彼女を見る私の目は、もはや軽蔑に近かった。
 
お店から出て、二次会に行くメンバーは道の端に集まっていた。先ほどの彼女と似たような話し方を続けている、同じような媚び売る女の声が、夜の街には似合っている気がした。
私は二次会には参加せず、帰る方を選んだ。お手洗いに行っていたせいか、帰る組はもうほとんど散っていた。
 
帰り道を歩き始めたときだった。
後ろから、さっきまでずっと聞いていた声が私を呼んでいた。
 
「みーちゃん二次会行かない組? 私も行かないの! 駅まで一緒に行こうよ!」
 
返事も待たないマシンガントークは酔っぱらいの証拠だ。
酔っぱらった媚びうる女と駅まで一緒か、と思った瞬間に、違和感を感じた。てっきり彼女は二次会にいくものだと思っていた。いかないにしてもあのイケメンが駅まで送ってくれそうな感じだった。
 
なぜ、彼女はもう帰るのだろうか。というかイケメンどこ行った。
 
そんな私も冷静に思考を巡らせてはみるものの、酔っぱらいだ。
いーよ!
一緒に行こう!
と調子良く回答し、二人で駅まで歩くことになった。
 
歩き始めるものの、何を話していいか分からない。さっきまでちょっと軽蔑していた女であっても、当たり障りない会話をすればいいのだけれども、酔っぱらった頭がそこまで回らない。
 
回らない内に、彼女の口からとんでもない発言が飛び出した。
 
「ねえ、みーちゃんさ、私のこと、媚びうる女だなーって見てなかった?」
 
なんで分かったの?
あんたはエスパーか?
それともこれが女の勘ってやつ?
 
一瞬思考が止まったが、今夜は酔っている。私は酔うと素直になる口だった。
 
「ちょっと、っていうのは建前で、結構それ思っちゃった! なんで分かるの? 顔? 私、顔に出てた? それだったら超失礼なことしちゃってた! ごめん!」
 
とりあえず、失礼してしまったことは謝る。しかし、彼女が媚び売る女だと思ったことは否定しない。だってそう思っちゃったから。ここで否定したら、今度は私が媚び売る女になる。
 
「あーよかった! やっぱりみーちゃん面白いね。普通、媚び売る女って見てたでしょって聞かれて、そう思った! っていう人なかなかいないよ」
 
よかった?
どういうことだ?
 
「みーちゃん面白い人だなーって思ったからさ、ちゃんと友達になりたくて、もし誤解が生まれていたら解きたいし、みーちゃんなら理解してくれそうだと思って」
 
え?
まって?
媚びうる女と友達に?
私が面白い?
 
頭の中はハテナマークでいっぱいになった。酔っぱらった頭では、思考が追いつかない。いや、酔っぱらっていなくても追いつかないかも。
 
媚び売る女は、自分の媚び売り論について説明し始めた。
そもそも、彼女にとって媚びとは、自分の要望及び意思を通すための手法の一つだそうだ。
 
「例えば、今回だったら、あのイケメンは自分の話をとても聞いてほしいと思ってた。だから私は精一杯の相槌をうちまくって、イケメンに気持ちいいなーって思ってもらおうとしたの」
 
彼女は続ける。ちょっと酔っているけど、しっかり、でもペラペラと話す。
 
「そんで、前に座ってた席でボディタッチされまくってて、そういうノリも好きなタイプかなーと思って、ボディタッチも織り交ぜたの。嫌な顔したらやめよって思ったけど、ノリノリだったからそのまま多用したよ」
 
計算している。計算高い女だ。でもそれ、女の私にしていい話なの?
自分の、ここぞのお家芸として、心に秘めておかなくていいの?
 
「でもね、私、本当は自分がめっちゃしゃべりたい人なの」
 
めっちゃ、をとても強調して、彼女は言った。
 
「話を聞いてあげた分だけ、自分も聞いてもらいたい、だから、入りは媚でもなんでも、相手が望んでいるであろうことを、できる範囲でやってみるの」
 
あれ。なんだか想像していたのと違う気がする。
 
「なのにさ、あのイケメン、自分が話すだけ話して、聞きたいことだけ聞いて、連絡先交換しよーっだって。私、酔っぱらったときでも相手を考える余裕をもった人がタイプだからさ、トイレに逃げちゃったよ」
 
そこに、私が想像していた媚び売る女らしい像はなかった。
私の中の媚び売る女は、自分の利益にならない存在は蹴落とすし、自分の要望のために、相手のことなんて考えていない女、なはずだった。
 
でもここには、ただ、相手がどうしたら嬉しい気持ちになるか考えて行動する女が、そこにいた。
 
「で、終わりかけにふと思ったのよ。友達になれそうな気がした相手に誤解されてたらやだなーって。みーちゃん後半違うところで話してたし」
 
誤解。いや、私は軽蔑までしてた。オーラがきっと出てた。
あなたと私は人種が違う。生きる世界が違う。媚び売る女とは違うのよって。
私が謝りたいくらいだ。よく彼女のことも知らないのに、すごく勝手な判断をしようとしていた。
 
世の中に媚を売っている女はたくさんいる。やり過ぎはもちろんよくない。でもその媚びには、相手がどうしたら嬉しいか、という思考が挟まっていたのだ。
 
相手がどうしたら嬉しいか、一生懸命考えて行動に移すこと、それを私の辞書では、思いやりっていう言葉を使う。
 
「やっぱりみーちゃんすごいね! いい人だね! 媚び売る女だと思っていた私がぺらぺら話してんのを、こんなに真剣に聞いてくれるんだもん」
 
嫌みでなく本気で褒めてくれているのが伝わってきた。
そして私達は友達になって、私は媚び売る女を尊敬するようになった。
 
今では媚び売りを見ると、分析をするようになった。相手が嬉しいと思っている行動なのか、それとも自己満足の「媚び」なのか。
 
それでも、あの一夜を思い出して、なんとも言えない気持ちになる日もある私は、やっぱり女に厳しい女のままだ。
 
 
***

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2017-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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